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その声が聞こえた瞬間にリアは勢いよく家を飛び出す。
早く行かないと取り返しがつかなくなるような…そんな気がしたのだ。
「行かなくちゃ…」
「リア!?」
ルシナスの呼ぶ声がしたがリアは止まらなかった。
暗い村道を駆け抜け、そのまま山の方角へ走り出す。
闇が広がりまともに道など見えない。
それでも“進むべき方向”だけは分かった、まるで何かに導かれているかのように。
「あ……ああ……」
村長はリアが走って出て行くその姿を見つめながら怯え、困惑、そして長い年月、神により封印されていたはずの“何か”が動き出しているという恐怖に侵されていた。
レイは即座に追いかけた。
「リア!!」
騎士達も続く。
「危険だ!」
「一人で先に進むな!!」
リアには届かなかった。
リアの耳に響いているのは、ユースティアの切迫した声だけだった。
『こっちよ……』
リアは荒く息を吐きながら走る。
泥濘んだ地面に足を取られる。
湿った枝が頬を掠める。
草木が腕や足を打つ。
途中で、鋭い葉が肘を浅く切った。
じわりと血が滲む。
気にしている余裕はなかった。
とにかく急がなければならない。
そんな焦燥に駆られていた。
レイ達は周囲を警戒しながら、リアの後を追っていた。
レイの表情が険しくなる。
「視界が悪い……!」
周囲は濃い霧に包まれ木々の輪郭すら曖昧だった。
レイがまた呪文を呟くと、周囲に幾つもの淡い光が灯る。
青白い光球
それらが浮かび上がり、霧の中を照らした。
騎士達が目を見張る。
──先程村の入口で見たばかりの魔法
それでもなお目の前で再び放たれるそれは、何度見ても息を呑むほどだった。
ルシナスが前を睨みながら言う。
「速すぎるだろ……!」
「いや、違います」
アルヴェインが即座に否定する。
「霧が、彼女を誘導している」
「最短で進ませているように見えます」
ルシアンが顔をしかめた。
「それ、大丈夫なのか?」
アルヴェインは答えない。
ただ周囲の危険を探るように、静かに目を細めていた。
しばらく進むとリアの足が止まった。
レイたちも僅かに遅れて追いつく。
山の中腹の少し下まで登っただろうか、そこには開けた場所があった。
そこは村の中とは格段に違う重苦しく冷たい空気、肺の中まで凍るようだった。
中央に古びた石造りの祠があり、小さいが異様な存在感を放っている。
騎士の一人が顔を強張らせる。
「何だ……この圧は……」
祠を塞いでいるらしい岩の奥からは黒いドロリと滲むような“呪い”が漏れ出してた。
ぐねぐねと生き物のように蠢く。
騎士達が剣へ手をかける。
アルヴェインが低く呟く。
「……これは呪いの本体ではないですが、間違いなく“核”に近いでしょう」
その時だった。
白い霧が、リアの前へ集まり始める。
ゆっくりと人の形になって行く。
長い白銀の髪
透き通るような肌
どこか寂しさを感じる瞳
リアは小さく呟いた。
「……ユースティア?」
目の前に現れた白い女は、微かに微笑んだ。




