暗く静かな村
北のティア山脈の麓にある小さな村“ヒマ村”は、本来ならもう少し穏やで明るい村のはずだった。
まるで光が、この場所を避けているかのようだった。
レイは周囲を見渡し、同行していた護衛の従者達へ視線を向け村の入口での待機を命じた。
「何者が来ても村の中へ通すな」
従者達が一斉に敬礼する。
レイ、ルシアン、アルヴェインはリアを囲むように、少数の騎士達は後ろから着いてくる形で村へ向かう。
リアは振り返り待機する従者達へ微笑む。
「では、行ってきますね。皆さんも…どうかご無事で」
その言葉に、従者達の表情が一瞬緩む。
「リア様達こそ、どうかご武運を」
リアは頷き、小さく手を振った。
その背を見送りながら誰かがぽつりと呟く。
「……リア様は癒しだ……」
別の従者が、思わず吹き出す。
「殿下とルシナス様とアルヴェイン様だけだったら、道中ずっと胃が痛かったな……」
「分かる」
「殺気がすごいんだよ」
レイが無言で振り返った。
従者達が一斉に背筋を伸ばす。
「…………」
ルシナスが肩を震わせる。
「怖っ」
アルヴェインは何も言わなかったが少しだけ、口元が緩んでいた。
四人と騎士たちの姿が見えなくなってから従者の一人が言う。
「殿下は地獄耳か…」
進むほどに、空気は淀んでいく。
根源へ近づいているのが分かる。
誰も口には出さない。
だが全員それを感じていた。
小さな木造の家々
古びた井戸
枯れ果てた畑に人の気配が全くない。
その時、一軒の家の窓から子どもがそっと外を覗いた。
だが次の瞬間、親らしき手が慌ててその子を引き戻しカーテンが閉められた。
空気がますま重くなる。
まだ夕刻には早い時間だったが、村は夜闇のように暗く異様だった。
レイが小さく何かを呟くと、周囲へ淡い光がいくつも浮かび上がった。
まるで蛍のように、宙へ漂う光の玉
リアは目を丸くし驚いた。
「魔法ってはじめて見た…綺麗……」
その声に、ルシナスが少し笑う。
この国で、魔力を扱えるのは王族と高位貴族のみ。
無闇に人前で使うことはない。
力は“正しきため”に使うもので、人に向けたり悪事に使うのは禁じられている。
アルヴェインは普段、風を使って周囲を探ることがある。
だがそれは目に見えない、リアが気づかなかったのも無理はなかった。
「リアの力も魔法みたいなもんだけどな」
ルシナスが言う。
リアはきょとんとした。
「……え?」
ルシナスは驚いたように
「気づいてなかったのか?」
レイは静かに
「気づいていないのか」
アルヴェインも続ける。
「気づいてませんでしたか?」
三人の声が綺麗に揃った。
一瞬の沈黙。
周りの騎士達が、必死に笑いを堪え肩が震えている。
リアは困ったように三人を見回した。
「無自覚かよ」
ルシナスが吹き出した。
重かった空気がほんの少しだけ緩む。
その間、暗闇の向こう側では何かが動めいていた。




