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23

レイは一人、執務室にいた。


机の上には、山のような報告書が積み重なっている。


濃霧による被害


物流の停止


各地で広がる混乱


だが、レイの視線は文字を追ってはいなかった。


静まり返った部屋に、時計の音だけが淡々と響いている。


――次期王は間違えた。


リアが聞いた言葉を、何度も頭の中で反芻する。


(間違っているのか?自分が、次代を継ぐ者として)


レイは目を閉じる。


幼い頃から、道は決まっていた。


王になり、国を守り、感情より責務を優先する。


その隣には、いつもレティシアがいた。


嫌いではない、むしろ信頼している。


共に育ち、王妃候補として扱われてきた。


王となり彼女を妃に迎え、決められた道を進む。


あの日まではそう思っていた。


だが、リアを初めて見た時に心を奪われた。


怯えながらも、誰かを助けようとしている少女。


関わるほど、惹かれていく。


どうにかならないかと、考えてしまうほどに。


そして今、それが間違いだと突きつけられた。


そんなことは、最初から分かっていた。


相手は平民だ、選ぶべき相手ではない。


「……くそ」


小さく漏れた言葉に自分自身が驚く。


普段なら、決して口にしないような荒い言葉だった。


それほど、追い詰められていた。


翌朝、王都は深い霧に包まれていた。


視界は何処までも白く、街道は機能を止め、鐘の音すら遠くに聴こえる。


しかも、濃霧は王都フォグだけではない。


各地方の都市


農村


国境周辺


王国全体で、異常発生が報告されていた。


神秘の国


霧に守られた王国


周辺国から、そう呼ばれてきた国が。


今、霧によって蝕まれている。


市場や街では、混乱が広がっていた。


「聖女様はまだ来ないのか!?」


「このままじゃ商売にならない!」


「子供が熱を出してるんだ!」


人々は、リアを求める。


あの少女が来れば霧は消える、ついでに怪我等の痛みすら癒やしてくれる。


いつしか、それが住民達の当たり前になっていた。


仕立て屋の窓から、リアの父は重たい霧を見つめながら思っていた。


(リアは苦しんでいるのではないか…)


「……酷くなってるな」


小さく呟く。


ルークも、落ち着かなさそうに外を見る。


「リア姉ちゃん、大丈夫かな……」


ミイナは不安そうに父の服を掴んだ。


その頃、王宮内は騒然としていた。


昨夜リアが聞き取った不穏な言葉と、急激に進行した霧の悪化。


その二つが重なり、王宮は明らかな混乱に包まれていた。


「本当に殿下が原因なのか?」


「こうなったら王位継承そのものの問題なのでは……」


「いや、ならば別の選択肢を…」


「ヴァルクレイン家の長男、レオニス様こそ次代に相応しい」


“もし現王太子が王の器ではないのなら、王位を継ぐ者を変えるべきではないか?”


その言葉は、まだ密やかな囁きに過ぎない。


しかし王宮の奥底では、静かに勢力が動き始めていた。


そして、それを聞かされた本人──


レオニスは、窓の外を覆う濃霧を眺めながら、静かに目を細めていた。


まるで、何かを見定めるように。



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