エピローグ
その後、聖女マユはディオン国王の治世の間、ジラール王国に留まった。
以降、様々な国や地域に出没しては騒動を巻き起こし、人の子の魔法についての疑問の種を蒔いた。
たまに数十年程度、休暇と称して魔獣狩りに明け暮れたり自然科学の入門書を著したりしたという。
召喚から約1000年、ようやく人の子が魔法に科学的なアプローチをとり始めた。
急速に発展した魔法科学によって覇権的な国家が出現し戦争が始まり人の子は絶滅寸前まで追い込まれた。
召喚から約1500年、なんとかバランスを取り戻し文化的に成熟していく人の子の世界。
長かった人生も残り100年を切ったころ、聖女の魔法はもう珍しいものではなくなったが、輝く白いローブを纏った黒髪黒目の15才の少女は人々に愛され、どこへ行っても敬意をもって迎えられた。
(もういいよね?)
マユは神の領域に移動した。
懐かしい小さな白い神殿でお父さまが待っていた。
「やあおかえり、マユ。ずいぶん頑張ったじゃないか。」
「なんとかなりましたね、お父さま。
もう世界でやれることは全部やったと思います。」
「そうかな?色恋方面はずいぶん足りてないと思うが。」
「何度も考えましたが…私、お父さまが好きみたい。」
「そうか。俺もマユが好きだ。じゃあ結婚するかい?」
「でも、私の寿命はもうすぐ尽きそうです。
最期に告白しておきたかったので。」
「俺は神さまだからそれは大丈夫。ほら、もう不死になった。
では、改めて永遠の愛を誓おう。愛しているよ、マユ。」
「私も愛してます。お父さま。」
「お父さまはちょっと具合が悪いな。ソウと呼んでくれ。」
「ソウ…もしかして創造し」
「おっと、なんでもいいじゃないか。ネーミングセンスとか言いっこなし。」
「フフフ、似たもの夫婦ってことね。ソウ」
「そりゃ俺がありったけの愛を注ぎ込んで造ったんだ。似るのは当然さ。マユ」
「嬉しい。愛してる。」
抜けるような青空にまばらに生えた緑の樹々、透明度の高い小川が流れる、幸せにあふれた神の領域。
かつて聖女マユがホイホイ捨てまくった盲腸やら水虫やらがどこかに大量に眠ってることは永遠の秘密だ。