幕間 7
前回のあらすじ
→沈んでたライトが立ち直り、花火回終了。
幕間7
「………あ」
まぶた越しに感じた光。
ゆっくりと、確かめるように、目を開ける。
「……ふぅ……」
夜明けの風が、あたしの髪を撫でた。
「…………」
視線を水平線の下から顔を出した太陽に目をやる。
思わず目を細めるも、しっかりとその形を捉えることができた。
「……おはよう。 革命の朝陽さん」
あたしのつぶやきは、風にさらわれて消えていった。
*********
*********
「楽しかったねー! 花火!」
「そ、そうだね。 楽しかったよね」
アキラが心なしかげっそりしてるように見えるのは……きっと気のせいだ。うん。
「......アカリたち、昨日の夜からずっとあんな調子。 さすがのアキラもあれは……」
「……何も言ってやるな。 アカリから笑顔を奪ったら、俺たちはマジで悪人になる」
「......大袈裟な……」
俺は2人の様子を見たまま、手元のサンドイッチを齧った。
……うん、うまい。 たぶんこれはヒヨのお手製だろう。
「......わたしもいつかは……」
「……?」
おい、ヒカリ。 ヒヨが困ってるだろ……唸るの止めろよ……
「お、皆集まってるな。 ちょっと聞いてくれ」
そこへ、ケンが入ってきた。
「どうした? そんな改まって」
「ああ。 それが……」
ケンの視線の先に居たヒヨは頷くと、
「実は私とケンは、生徒会の緊急集会に出ないといけないから、先に戻ることになったの」
「……緊急集会?」
ローザが訝しげに問いかける。
「なんでも、最近各地で発生している精神崩壊病がうんたらで」
「精神崩壊病……?」
「ああ。 詳しいことはまだわかってないが、その名の通り、精神の異常がみられる病気……らしい。 でも聞いた話だと、病気……ってのは、表向きなんだろうな……」
「…………」
「……なにか、心当たりはあるか?」
「……いや、特には」
「そうか。 ……悪いな。 オレが言い出した合宿だってのに」
「気にしないよ。 短い間とは言え、十分充実した合宿だったと思うし」
「…………」
あれ? どうして目を逸らすんだよ、ローザ……
「……せ、せやな! バレーボールとか、面白かったやんか!」
「わたしも、また花火やりたい!」
「そうだね。 ボクも楽しかったし、またやりたいかな」
「......わたしは、もう少し兄さんと――」
「――まぁ、また来れば良いさ。 行く機会ぐらい、またあるだろ」
「......むぅ……」
そうむくれるなよ……
「……お前たちまで一緒に帰らなくても、良いんだぞ?」
ケンが困惑したように問いかける。
俺は間髪入れずに切り返した。
「そんなの愚問だ。 お前がいなかったら、帰るに帰れねぇだろうが」
「あ、そうれもそうか。 あっはっは……」
……こいつ……あとで海に沈めてやる……
「……そんなわけで、今日の昼過ぎには出るから、やり残したことあるならやっとけよ」
*********
言われた通り、必要最低限の荷物だけ持って、それ以外をカバンに詰めた。
……よし。 これであとは自由行動だな……
ケンとヒヨは管制室へ出発の準備のために行ってしまっていた。
ステラはたしか、アキラとアカリを連れて訓練場に行っていたはずだ。
……あれ? ヒカリはどうしてるんだ……?
トラシャイで揃っていないってことは……
「……少し、様子を見てくるか」
あいつが1人で外へ出ているとは考えにくい。
……徹底的に探してやる……あいつを放置してたら、ろくなことないし……
だが、予想に反してヒカリはすぐに見つかった。
訓練場の横。 地下倉庫への階段で座っていたのだ。
「…………」
……なにしてるんだ? あんなところ、何も無かったよな……
ちょうど窓からの光も部屋の灯りも届かないところにあるので、ヒカリの長い金色のポニーテールが見えなかったら、危うく見逃すところだった。
そんな場所に、なんの目的も無く座っているわけが無い。
そうは思っても、なぜか話しかけれる雰囲気ではなかった。
……もう少し、様子を見ていよう……
「…………」
ヒカリはあたりをきょろきょろすると、ポケットからなにかを取り出した。
……あれは……マッチと、線香花火……?
靴のかかとの部分でマッチを擦ると、そのまま花火に火を燈した。
「…………」
ヒカリは頬杖をついて、じっと線香花火を見つめている。
やがて、大きくなった火の玉は閃光を放ち、パチパチと煌きだした。
「…………」
……え……?
ヒカリの目じりには……涙が浮かんでいた。
無表情で、目が気だるげに半分しか開けられていないが、それでも……
……なぜだ。 なぜ、泣く……?
「…………」
俺はこれ以上この場にいるのは悪い気がしてきたので、立ち去ることにした。
線香花火の音の様に、かすかな嗚咽が聞こえてきたが、なにも無かったことにした。
……この件は、また今度にしよう。 今行っても……何もしてやれないと思うし……
ステラに「考えすぎはようないですよ! そういうときは外で運動や!」って言われたのを思い出し、特に何ということも無く外へ出た。
「……はぁ。 でも、やっぱり気になる……」
正直、あの時声をかけなかったことを後悔し始めている。
「……うん?」
その時、視界の端に、何か光るものが通った気がした。
「…………」
気づけば、俺はその光の先を目指して足を動かしていた。
その先は……例の森の中。
クリストロンとかいうモンスターが住んでいる森だ。
「そういえば、あの時はばたばたしてて、あんまりこの辺は見れてないんだよな……」
ビームサーベルを取り出し、木々に傷跡を残しながら進んでいく。
……我ながら、ナイスアイデアだぜ……これなら迷うことはないはずだ……
そんな調子で調査をしていると、
「……ん?」
森の中に、不自然なものを発見した。
「地下通路……?」
それは、地下へと続く階段だった。
明らかに人工物であるそれはかなり老朽化が進んでいるらしく、不気味な感じだ。
……やり残したこと、まだあったぞ……
そこで、夏の間にやっておきたかったことを思い出す。
……この先の見えない真っ暗な地下通路……使える!!
俺は急いで拠点への道を駆けた。
*********
「こ、ここか……?」
ヒヨの目撃情報を元に、屋上へやってきた。
ここにいるということらしいが……
「〜〜♪」
歌が、聴こえる。
小さくも、力強い歌声が。
「……Hold your mind, and bring me to the future ……」
かろうじて聴き取れたのはその部分だけ。
「……なんの曲だ?」
ちょうどその後ろ姿が見えたので、問いかけてみた。
「……さぁ、なんでしょうね」
振り返ったのは……やはりローザ。
何処と無く機嫌が良さそうだ。
「そういえば、ローザはどっかのクオーターって言ってたよな? その国の歌だったりするのか?」
「うーん。 ハズレ。 あたしのおじいちゃんがドイツ人だったけど、この歌は教えてもらってないわ」
「そ、そうか」
「そんなことより……何か用事?」
ローザは首をかしげる。
「あ、ああ。 実は、お前と一緒に調査に行きたい場所があったんだ」
「ほ、本当に!?」
「お、おう。 あんまり時間もなさそうだし、せっかくだから行かないか?」
「行く行く! もちろん行くわ!」
上機嫌ゆえか、二つ返事のローザ。
……なんだ、このテンション……何かあったのか……?
「……本当に、ここなの?」
「ああ。 ここだ」
「…………」
あ、黙っちゃったよ……
「ほら、懐中電灯もあるし、大丈夫だって」
ローザを探している間に倉庫から拝借した、乾電池で動く懐中電灯。
古いものらしいが、まだ動くみたいだ。
「ほら、行くぞ」
「ま、ま、ま、待ってよっ!!」
「え?」
ローザが俺のシャツの裾を引っ張る。
「……あ、あたしは……」
少し意地悪したくなった俺は、
「……怖いのか?」
先回りしてそう聞いてやった。
「……ッ! そ、そんなわけ、ないわよっ!! 別に怖くなんて、全然、ないんだからっ!!」
思わずニヤけてしまったのは、言うまでもない。
「じゃあ大丈夫だよな? 行くぞ」
「う……うん……」
ローザは不安そうに頷き、俺の後からその階段を下った。
「…………」
「…………」
カツン、カツンと俺たちの靴音が反響する中、真っ暗で狭いジメジメした道を歩く。
目に見えるのは、本当に照らした数メートル先の通路だけだ。
壁はレンガ造りのようだが、足元は小さな水路が真ん中を走っているだけのただのコンクリート。
天井は土が落ちてこないようにか金網で覆われていた。
「……うぅ……どうしてこんなところに……」
これだけ静かだと、ローザのちょっとした独り言もよく聞こえてしまう。
ローザが俺の背中にぴったりくっつくようにして歩いているというのもあるんだろうけど。
「……なぁ、なにか聞こえないか?」
「え、え?」
「しっ! ほら……」
足を止めて、かすかに聞こえる足音に耳を澄ませる。
ガシャ……ガシャ……と、金属音にも似た音だ。
「…………」
やばい……ローザの顔色が、さすがに冗談抜きで悪くなってるぞ……
「……こっちの方から聞こえてくるな……」
先に進もうとする俺を、
「うぅ……ま、待って……」
今にも泣き出しそうなローザが掴んで止めた。
……これ以上はさすがにかわいそうだけど……
それでも、俺はビビるローザが可愛くて、
「良いの? こんなところにいたら、すぐに追いつかれちゃうよ?」
つい、そんな意地悪を言ってしまう。
「ひ、ひぃい……」
ガシャン、ガシャン……
足音は、明らかに近づいてきている。
本当にこっちに向かってきているような……?
「も、もう戻りましょ……?」
「いや、まだ調査始めたばっかりだし……」
「もう、いいからそれを貸しなさいっ!」
「うわっ!? 何するんだよ?」
ローザが俺の持つ懐中電灯めがけてダイブしてきた。
「あたし1人で帰る! あんたは1人で調査すれば良いじゃないっ!」
「いや、灯これしかないから、これを持って行かれたら調査できないから!」
迫るローザの手をかわし、なんとか懐中電灯を死守するが、
「「あっ!!」」
バシッとお互いの手が当たってしまい、懐中電灯が床に転がってしまった。
そして水路に浸ってしまい、ジジッ……と音がして明かりが消えた。
「きゃっ!? ちょっと、何も見えないじゃない!?」
「痛い痛い! 手が当たってるって!!」
パニックになって手を振り回しているらしく、小さな手が俺のあちこちを叩く。
……くそ……これか……?
そんな攻撃を受けながらも、なんとか手探りで懐中電灯を見つけ出した。
そして、懐中電灯を弄ってスイッチを入れた。
奇跡的に生きていたらしく、強い光が辺りを照らす。
「…………」
同時に、そこに黒いなにかが映し出された。
「ぎゃあああああっ!?」「きゃあああああっ!?」
俺とローザが叫んだのは同時だった。
……黒い……ナイト!? 音の正体はこいつかっ!!
俺はビームサーベルを取り出し、刃を展開した。
じゃまな懐中電灯は、腰が抜けたらしく動けないでいるローザに押し付ける。
「このッ!!」
恐怖故か焦っていた俺は、サーチャーを出すことも忘れ、そのナイトに≪千剣の穿孔≫を放った。
すると、なんの抵抗もされぬまま、ガラガラとそのナイトは崩れてしまった。
まるで意思をもっていなかったように、あっさりと……
「……なんだよ、これ……」
ハッとして振り返る。
そこにはちゃんと懐中電灯を抱えたまま放心しているローザがいた。
「大丈夫か? ちびったりしてないよな?」
「そ、そんなわけ、ないでしょっ!?」
ローザはすでに涙声だ。
「……はぁ、立てるか?」
「う、うぅ……」
肩を貸してなんとかローザを立ち上がらせ、ナイトが出てきた通路へ進む。
ローザは完全に怯えきってしまって、これ以上はまともに歩けなさそうだった。
だが、その通路の奥に壊れた扉のようなものを発見し、「ここを調べたら戻るから」と言って慰めて、部屋へ侵入した。
「……明らかに、誰か住んでたよな……?」
「し、知らないわよ! さっさと調べてっ!」
「わかってるって……」
懐中電灯で照らしてみるも、特に気になるものは落ちていなさそうだ。
「ほら、もう帰るわよ!」
「あ、ああ……」
その時、視界の隅に光を反射した何かを捉えた。
ローザに悟られないようにそれを回収し、ポケットに入れた。
手触りからしてクリスタル……だろうけど、よくわからない。
「は、早くしなさいよっ!」
早く出たくてたまらない、と言った感じのローザを連れ、来た道を引き返した。
帰りは特に何事もなく、地上へ帰還できたのであった。
*********
それから拠点に戻り、荷物をまとめて船まで運んだ。
先に昼ご飯を食べたというケンが船を出す準備をしている間に、俺たちは昼食を済ませる。
ローザはさすがに怒っていたけど、謝ったら許してくれた。
ちなみに拠点に帰るが否や部屋に直行していたが……なにか忘れ物でもあったのだろうか。
「......兄さん?」
「な、なに?」
「......ううん。 やっぱりなんでも」
「そ、そうか……?」
なんだよ……気になるだろ……
「……あ、ケンくんから連絡きたよ! もう出れるって!」
ヒヨが報告してくれる。
「わかった。 じゃあ、行くぞ」
こうして、無人島での合宿は終了した。
ここで得たものは、予想以上に大きく、不可解なものばかりだった。
けれども……
……やっぱり、来てよかったよ。
俺はもう一度森の方を振り返り、船に乗り込んだ。




