チャプター 8-6
前回までのあらすじ
→イカ兼カニに襲われた
6
「……何してるんだ?」
モンスターの解体を終え、食べられそうなパーツを手分けして運んできたが……
「......暇だったから」
ヒカリはなぜか、魚と戯れていた。
……いや、どちらかというと、魚に纏わりつかれてる……のか?
「ごめんね……一応止めたんだけど……」
と、言ってヒヨがヒカリを見る。
俺たちもつられてヒカリに視線が集まる。
「......だって、大丈夫そうだったし」
ヒカリは少しむくれて、頭に乗っていた魚を振り落とした。
「……てか、どうやって獲ってきたんだよ?」
ナマズっぽいのに巻きつかれてるのを見るに、ただ釣りをしてたとは思えない。
「......そりゃあ、泳いで、潜っただけ」
「泳げたんだな……」
どうやらプールで猛特訓してきたらしい。 こんなことの為に練習したかはわからないけど。
それから水着を替えてきたアキラとアカリが合流すると、ヒカリが獲ってきた魚と俺たちが持ってきた食べられそうなパーツでバーベキューをすることになった。
……いや、この具材でバーベキューって呼べるのか……?
ヒヨにモンスターのパーツだって言ったら、卒倒しちゃったし……大丈夫か……?
*********
……なんて心配は何処へやら、カニの足を丸焼きにしたりしてたらテンションが上がって、なんだかんだでバーベキューらしくなった……気がする。うん。
串も野菜もなかったけど、雰囲気が大事だよな。 ケンがそう言うんだから間違いない。
食後は再びバレーボール対決を再開する事になった。
今度はアカリとアキラも参戦することになり……
「アキラちゃん!」
「まかせて!!」
ボールの耐久値が気になるほどのスパイクが炸裂する。
「……いや、勝てるわけ無いだろ?」
「……ウチを睨まんといてくださいよ……」
一緒じゃないと嫌だというアカリの主張が通り、ステラが代わりに入ったのはいいが……
……マジモノの怪物が相手とか、勝負にならねぇよ……
「うおぉお!! 人類をなめるんじゃねぇ!!」
ケンが何やら半分アウトな台詞を吐いてサーブ打っていらっしゃる……
「なによ! 人を人外みたいに!!」
ポーン
「......そーだそーだ」
ポーン
「あなた達が、あたしに追いついていないだけよっ!!」
バシュッ!!
「ぐはぁっ!?」
……なぜ俺なんだ……なぜ……
「隊長さんっ!? しっかりして!!」
「わわっ!? ライト君!?」
……もうバレーなんてしたくない……
*********
……結果は言うまでもなく、怪物チームが勝利を収めた。
それで終わればいいものを、悔しがったケンが、水泳大会をするなどと言い出し、
「この島一周するぞ!!」
と言いはじめたときは、さすがに宥めて止めた。
それでも水泳大会にやる気満々だったヒカリ達は、
「......じゃあ、あの岩まで泳いで、最初に戻ってきた人が優勝」
と勝手にルールを決め、海に飛び込んでいった。
「……みんな、元気だね……」
そんな中、俺とヒヨは砂浜にパラソルを差して休憩中。
「……そうだな。 あの中に交ざって泳ぐのはさすがにキツイ――」
「――なに時化た顔してますねん!! 隊長さん!!」
ヒヨの背後に隠れていたのか、ステラが俺を押し倒した。
「な……なんでお前がここにいるんだ!?」
「い、いや……そんな驚かんでも、ええやないですの……」
頬を膨らませ、遺憾そうなステラ。
「……せや、こんなもんを見つけたんですよ」
反転、ニヤリと笑ったステラが見せてきたのは……
「……サンオイル……」
所謂日焼け止めだ。
「夏の砂浜でパラソルの下といえば、これですよ!」
ケンが移ったんじゃないか? いかにもあいつが言いそうな台詞だな……
「ささ、ヒヨさんも一緒に」
「ええっ!? わ、私は……」
拒否するような素振りはフェイクか、促されるまま寝そべる二人。
プロポーションではこの中でダントツトップの二人が、俺の目の前で無防備に背中をさらしている……
「じゃあ、頼むで、隊長さん」
「……や、やさしくね?」
……え? マジで俺がやるのか……?
「……わかった。 冷たくても我慢しろよ」
仕方なく俺は、ローションみたいなオイルを手に垂らし、わずかな知識を総動員して手を動かす。
……手で軽く練って、温めるんだっけ……
二人の背中へ視界が移る。
思わず生唾を飲んでしまうほどの光景。
……どっちかからとかは不公平だしめんどいから、いっぺんにやるか……
そっと二人の背中に手を置いた。
「ひゃぁっ!」
「――っ!」
ビクッ、と震えるのが手のひら越しに伝わってくる。
……いや、震えたのは俺の方か……?
「…………」
……平常心、平常心……ポーカーフェイス、ポーカーフェイス……
「…………」
つつ……と、そのきめ細やかで柔らかい背中を撫でるように手を動かす。
温もりが、鼓動が、柔らかさが、直に感じられる。
ひと撫でするたびに漏れ聞こえてくる甘い吐息が、俺の聴覚を奪う。
オイルでしっとりと濡れた背中に目を奪われたまま、ひたすらに、オイルを塗っていく。
胸のそばも、お尻の上まで。
見ないよう、触れないように、それだけは細心の注意を払って塗っていった。
それは二人の為でもあり、俺の為でもある。
「......兄さん……」
「…………」
ピタ、と手が止まる。
錆びたロボットのように、ゆっくりとその声に振り向いた。
「……ヒカリ」
ヒカリの左目には、例のデバイスがつけられている。
外したと思っていたが、外したのは俺の推理だったらしい。
「......ものすごーい数値が、出てるんだけど……?」
あ、これ確実に怒ってるやつだ。 ヤバいやつだ……
「い、いや……これは、その……」
ステラとヒヨは、「ありがとねー」なんて呟きながら、そそくさと逃げて行った。
あいつら、絶対後でシバいてやる……
「......……って」
「え?」
「......わたしにも、やって」
「……え?」
ヒカリは淡々と告げると、水着の肩紐に手を掛け……って!?
「うわっ!? ちょっ!?」
「......ふふっ……わたしにも反応してくれるんだ」
何やら呟いたヒカリは、ステラが寝ていた位置に寝転がった。
……見えてない。 見えてないからセーフ。 うん……
「……あたしにも、当然……やるんでしょ?」
腕を組んで、仁王立ちのローザ。
「……あ、はい……」
断る術もなく、2回戦のゴングが鳴った。
*********
ヒヨとステラはアカリとアキラを誘導したらしく、俺の元へは来なかった。 そこはナイスだ、二人とも!
ただ、俺の神経と理性と胃袋が、そろそろ限界を迎えていた。
こんなに直に人肌に触れたのが結構久しぶりなせいもあって、予想以上に疲れてしまった。
「よーし、そろそろ引き返すぞ」
陽も傾いて、海に溶け込み始めた頃、ようやく帰投命令が下った。
……おぉ……やっと帰れる……
「ライトはそのまま放置でいいか?」
「ふざけんなっ!! マジで動けねぇんだぞ!?」
どうしてこうなったか思い出すのも面倒だが、なぜか俺の体のほとんど……というか頭以外は、砂の城で生き埋めになっていた。
よくこの刑に処されるシーンは見かけるが……これは人が死ぬぞ。
絶対どこか火傷してるし、重いし動けないし。
「……全く。 しょうがないから、あたしに免じて助けてあげるわ。 感謝することね」
そんなローザを始め、埋めた張本人たちが、次々に俺の救出に来てくれた。
「……これに懲りたら、行動を改めることね」
どこかで俺が言ったような言い回しで、ローザに返された。
いや、俺が改めるべき行動なんて、あったか……?
*********
基地に戻った時には、すっかりあたりは暗くなっていた。
モンスターの気配がちらほら確認できるので、外はもう出歩かない方がいいだろう。
晩御飯を食堂で済ませ、その日は解散となった。
女子チームがお風呂に行く約束を取り決めている間、ケンが颯爽と食堂を出て行ったのを、俺は見逃さなかった。
だが、めんどいのでもう止めるのもやめた。
疲れていた俺は、風呂前に一眠りしようと、先に部屋に戻ることにした。
指紋認証ロックを開ける。
そして、ベッドに倒れこんだ。
「ふぅ……」
息を吐くと、すぐに眠気が追いついた。
俺は抗うことなく身を任せ、目を閉じた。
「…………」
やべ……普通に寝すぎた……
「…………」
隣で満足そうにケンが寝ている。
時計を確認した。
ちょうど日付が変わったところだった。
「風呂、開いてるかな……」
なぜか個室にはトイレしかなく、風呂は大浴場のみというこの施設。
全てはケンの計画通りになるため、施設が調整されているんだとか。
「……行ってみるか」
体を起こし、用意を持って扉を開けた。
*********
「なんだ。 開いてんじゃん……」
ここも自動管理にしているらしく、人の気配はない。
「光熱費は……クリスタルがあればタダか……」
脱いだ服をカゴに投げ入れ、風呂場への扉を引く。
「……露天風呂があったよな」
俺とケンしか使う予定のなかった風呂場は、それにしては広すぎる。
その中を突っ切り、奥の扉を押し開けた。
「…………」
星と月のカーテンの下、淡い光と湯気が俺の視界を包む。
さすがに夜は冷えるので、さっと湯船に浸かる。
「はぁ……」
思わず息が漏れる。
「……ライト?」
え……?
背中から声が聞こえた。
振り返ると、竹の柵が広がっていた。
岩と岩に挟まれるようにしてそびえる柵は確か、男湯と女湯を分けていたはず……
「……ローザ、なのか?」
「ええ。 き、奇遇ね」
少しくぐもった声が返ってくる。 これは間違いなくローザだ。
……それにしても本当にすごいタイミングだ。
こんな時間に、こんなところに……二人きりなんて。
「……あんた、寝てたって本当なの?」
「え? だ、誰から……」
聞き返してから愚問だったことに気付く。
俺の様子を見に来れたのはケンだけだ。
「……ヒカリから」
「なんであいつはぁあああ!!!」
「ちょっ!? 大丈夫!?」
気付いたら吼えていた。
……落ち着け、俺。 もう受け入れるしかないんだ……
「はぁ、はぁ……。 ああ、本当だ。 マジでさっきまで寝てた」
「……それでこのタイミングって……」
「……何か言ったか?」
「え? ううん、なんでも!」
くぐもってるせいで、いつも以上に音が拾えない。
サーチャーでも付けてこれば……って、そういやポルとトルを放置したままだったな……後で構ってあげないとな……
「…………」
「…………」
こんな時に特に話すこともなく、沈黙が続く。
「……星、綺麗よね」
沈黙を破ったのは、ローザだった。
「そうだな」
……ローザもこうして見上げてるんだろうか。
確かに綺麗だ。 そうとしか形容できないほどに。
「……あなたはあたしにとって、あの星のように輝いた存在よ」
「え……?」
「……ご、ごめんなさい。 逆上せちゃったかしら……あはは……」
ザバァ、と湯船から出る音が。
「……いや、俺はそんなに輝かしい人間じゃないさ」
「…………」
「悪いことも、お前が想像できないようなことも、たくさんしてきた。 隠し事も、後ろめたいことも、いくらでもある」
「……そんなの、誰もがそうよ」
遮るように、そう呟くローザ。
「それでも、あなたの生き方が、考え方が、強い意志が……全てがかっこよく見えたの。 だから、好きになったのかもね……」
「…………」
顔が熱くなっていくのがわかる。
「……本当に逆上せちゃったかも。 もう行くわね。 おやすみ」
「あ、ああ。 おやすみ」
ガラガラ、と扉が閉まる音が響いた。
「…………」
俺はもう一度空を見上げた。
星は確かに、輝いていた。




