プロローグ、第1話 異世界召喚
恋人とのデート直前に異世界召喚にあった男のブチ切れ異世界コメディです。連載ですが短いので隙間時間にどうぞ。
◆プロローグ
日本の何処かにひっそりとおわす土地神。
分霊を人間として転生させた。
人間の世界を知るため。
土地神は楽しんでいた。
分霊が只人として生きている姿を眺めて。
男は忘れていた。
自分が分霊である事を。
男は平凡だった。
異世界に召喚される前までは。
◆第1話 異世界召喚
今夜の俺は洒落たスーツを着て、コロンをふわりと漂わせていた。髪はバックに流して、ビシッと決めていた。何しろ今夜は恋人と付き合い始めて1周年記念に、高級レストランを予約しているのだ。少し緊張し気味なのは、初めて高級レストランに行く平凡な庶民だから仕方ない。
彼女は俺と違ってわりと裕福な家庭で育っているから、俺より場馴れしているだろう。だが、その分、いつもとはまた違った素晴らしいドレス姿を見せてくれるに違いない。俺は期待しながら、彼女がこの待ち合わせ場所に姿を現すのを、今か今かと待っていた。
それなのに―――
「おい、どうしてくれるんだ?!」
俺は目の前にパタパタとやってきた少女にすごんだ。いや、俺がいじめてるみたいだが、
「あなたは勇者に選ばれました!」
と、最初にクソみたいなことを言った彼女が全面的に悪い。涙目になっていても、同情心は1ミリも湧かなかった。ついでに、俺の怒りのせいか知らんが、日本のとある土地神の分霊という記憶も蘇ってきて、俺の頭に雑音をまき散らして余計にイライラした。そんな事より、大切なデートだよ!
「俺はなぁ、これからデートだったんだぞ?!1周年記念だぞ?!彼女がどんな格好でくるかも見られなかったんだぞ?!彼女が俺を必死に探してたらどうしてくれるんだよ?!!」
「あ、あのぉ、こちらに来た時点で元の世界の記憶は修正されますので―――」
「あ゛?!」
「ひぃっ!あ、あのあの、だから、ダイジョウブデス……コ、コココワイ……」
俺の顔が怖かったのか、少女は最後は片言になっていた。そして俺はダイジョウブじゃないぞ?
「責任者」
「は、はい?」
「責任者出せ。こっちの世界の”神”でもいい」
「せ、責任者はぁ……」
少女がちらりと視線をやった先には、人のよさそうなじいさんが立ってたが、視線をそらしやがった。
「じゃあ、神でいい。呼び出せ」
「は?あの、神はその、おられますが、呼び出すって、その……」
「俺も”神”だ。問題ない。呼べ」
少女は完全にフリーズした。じいさんを睨みつけると、しぶしぶこっちにやってきた。
「神を軽々に呼び出すわけにはまいりませぬ。いくら選ばれし勇者殿であろうとも、神を呼び出すなど……」
「だーかーらー、俺も”神”なの!むこうの!土地神の!分霊なの!!」
「はい?ト、トチガミ?……ワケミタマ?」
じーさんは理解が出来なかったようで、困惑してこっちを見ている。
「『はい?』じゃねーよ!日本にはいーっぱい神様がいるの!俺はそのうちの一人の分霊!」
俺は自分を指さして言ったが、困惑したままのじいさんも使えねぇ。俺は周囲を見回すと、どうみても”祀ってます”的な腰までかかるストレートの髪をした穏やかな顔つきの像を見つけて、ツカツカとその前に歩いて行った。
「あ、勝手に!なりませぬ!」
「ダメですよぉ!」
止める二人を無視して、俺は像の前に立って、口を開いた。
「おい!出てこい、異世界の神!俺はデート直前だったんだぞ?!トラ転とかじゃねぇぞ!」
『いやぁ、抗議するならそこじゃないよね?』
「「か、神様?!」」
独特な響く声に二人は跪いたようだが、俺には関係ない。
「声だけ出してんじゃねぇ!姿を見せろ!」
『こっわ』
うっすら姿を見せたのは、像とはあんまり似てない、若そうな肩あたりまで癖のある髪を伸ばしたロン毛のニィちゃんだった。
「どうしてくれるんだよ?!」
『いやぁ、分霊とか予想外だよ。どうしよう?』
「知るかよ!さっさと元通りに戻してくれ!」
『ん〜、難しいね』
「はあ?!」
『とりあえず、怒りを鎮めてくれないか?神威でてるよ?』
気がつくと、あの2人は失神していたようだ。通りで静かだと思った。
『えーっとね。この世界のシステム上、すぐに帰せないの』
「知るかよ」
『そうは言ってもねぇ。基本的に、異世界から勇者召喚っていうのは……その、かっこいいでしょ?』
俺は躊躇なく異世界の神を殴った。もちろん、グーでだ。手ごたえはあんまりなかった。
『うっすらにしててよかったぁ』
「チッ!」
嬉しそうに言っている異世界の神に、腹を立てつつ俺は聞いた。
「最短で帰るには?」
『そうだね。そこの聖女ちゃんと旅に出て、2年くらいかな?』
「『2年くらいかな?』じゃねぇ!どういうことだ?!」
『お作法だよ。ほら、そっちの世界の空想の物語の”お約束”!私、あれが好きでねぇ』
ニコニコ話す異世界の神に俺は再びグーパンを顔面にお見舞いしたのだった。
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