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魔王とかめんどくさ  作者: 空白
世界のうねり
18/25

第17話 無限の...

今回もいつものように日常回……のはずだったんですが、

気づけばまたとんでもないことになってました。


それでは、どうぞ!

アルムは、息苦しさで目を覚ました。

呼吸がしにくい。いや、できない。


「……んぐっ」


アルムが目を開けると、ともえの頬があった。自分の顔にぴったりと張りついている。


(……顔に乗るな!!!)


さらに、体の横からはサディががっしりと抱きついていた。

片腕を枕にされ、逃げられない。

足元には――シンの足が絡みついていて、完全に動けない。


(……なんでこうなるの!?)


もぞもぞと身をよじって脱出を試みるが、誰かが引っかかるたびに

「ん……うぅ……」

「……ふえ……」

「……なに……」

と、それぞれが寝言のようにうなされ始める。


三人はようやく目を覚ました。



アルムは寝ぼけている三人に、冷たく言った。


「どいてくれる?」


三人は「ご、ごめん……」と急いでベッドから降りる。


アルムは体を起こそうとするが、足元がふらつき――

「……っ」


そのまま、ベッドの下に崩れ落ちた。


「……最悪……」


シンがすぐに駆け寄って、しゃがみ込む。


「アルム、大丈夫? どこか、痛い?」


「手足が、しびれてるだけ」


「……無理に動かない方がいいよ」

そう言うと、シンは静かに背を向けて、肩を差し出した。


「……そろそろ朝ご飯だと思うから下に降りるない?おんぶするからさ」


アルムは一瞬ためらったが、反論する気力もなく、そのまま彼の背に身を預けた。


ともえとサディも後ろに続き、四人で階段へと向かっていく。


サディは、ともえの隣で声をひそめて言った。

「きょうの あさごはん……たべるときのマナー、おしえてあげる」


ともえは少し驚いたようにサディを見てから、すぐに小さくうなずいた。

「……うん。ありがと……」


アルムはまだシンにおんぶされたまま。

階段を降りていくのは、シン・サディ・ともえの三人だった。


広い中央ホールに入ると、ノンナが朝食の準備をしていた。

四角の木のテーブルの上には、焼きたてのパン、香ばしい肉、彩りの良いサラダに、湯気の立つスープが並んでいる。


ノンナは四人の姿を目にして、ふわりと目を細めた。

「……子どもって、いいものね」


シンは静かに足を止めて、丁寧な口調で言った。

「おはようございます、ノンナ様」


そう言って、おんぶしていたアルムをそっと椅子におろした。


そしてノンナに向き直り、自然な調子でたずねた。

「何か手伝えること、ありますか?」


ノンナは少し目を細めてから、やさしく笑った。

「じゃあ、一緒に運ぶの、お願いできるかしら?」


「はい」

シンはうなずき、ノンナと一緒に中央ホールから奥の食堂へ向かっていった。


アルムは無言のまま椅子に座り、少し不機嫌そうにノンナの朝食を見つめていた。


サディは、ともえの隣に座り、食べる順番と食事マナーをそっと教えていた。


ともえは真剣な表情でサディの動きを見つめ、静かに頷いている。


ちょうどそのとき、ノンナとシンが戻ってきた。席についたノンナは全員揃ったので「いただきます」と声を合わせた。


ようやく、ともえはゆっくりとスープに手を伸ばす。サディの教えを思い出しながら、慎重にひと口目を運んでいった。


しばらくして、ノンナが食べ終えると、食卓の静けさの中で柔らかく声をかけた。


「今日は、魔法の訓練をするわよ」


そう告げると、ノンナは自分の使った食器を手際よく片づけて、静かにその場を離れていった。


アルムは始めての魔法訓練ができると思った。上機嫌になった彼女は、パンを頬張り、スープを一気に飲み干して、食器を置いたまま席を立ちかけた。


すると、隣にいたシンが、少し呆れたように言った。


「……自分の食器くらい、自分で片付けなよ」


アルムは眉をひそめ、不満げにため息をついた。


「わかってるよ、もう……」


そう言いながら、渋々立ち上がり、食器を手に取る。そのあとを追うように、食べ終えたシンとサディも食器を持って立ち上がった。


食器を台所へ運び終えたアルムは、早足で外に出ようとした。


だが、その背中にノンナの落ち着いた声がかけられた。


「まだ、ともえさんが食べ終わっていませんよ」


アルムはぴたりと足を止め、振り返らずに小さく舌打ちした。


(なんで……なんで私が、ともえに合わせなきゃいけないんだよ)


それでも口には出さず、食卓へ戻ると、自分が座っていた席に腰を下ろした。


ともえは、まだスプーンを手に持ち、慎重に食べ進めていた。アルムは肘をついて顎を乗せ、つまらなそうに天井を見上げた。


(……はやく食べ終わってくれないかな)


そんなことを思いながらも、彼女はじっと、静かに待っていた。


食器を片付け終えたシンとサディが中央ホールに戻ってきた。

サディはそっとともえの隣に腰を下ろし、柔らかく声をかけた。


「ちゃんと……こぼさず、 スプーンの もちかた……できてる。 じょうず」


ともえは、その言葉に一瞬きょとんとした表情を見せたあと、「褒められたのかな……?」と戸惑うように目を瞬かせた。

やがて、いつもの気持ち悪い引きつった笑顔ではなく、自然と口元がふわりとゆるむ。


──けれど。


(……わたし、いま わらった……)

ふと、そのことに気づいたともえは、はっとしてアルムとシンの方へ目を向けた。


怒られてしまうかもしれない、そんな不安が胸に広がる。

だが、二人はとくに気にする様子もなく、それぞれの席に座ったまま何気なく目を伏せていた。


ともえはそっと息を吐いた。

そしてもう一度、小さく笑った。


今度は、隠さずに。


ともえがきれいに食べ終えると嬉しそうに席をたち食器を片しに部屋をでた。戻ってくると、ノンナが立ち上がった。


「地下で魔法の訓練をします。ついてきてください」


その言葉に、四人は立ち上がり、ノンナのあとについて階段を下っていく。

ひんやりとした空気が肌をなでる。しばらく降りていくと、目の前に広がった空間に、アルムは足を止めた。


「……え?」


そこは、地下のはずなのに、まるで昼間の野外のように明るかった。

天井から降り注ぐやわらかな光、どこからか聞こえる風のような音――閉ざされた空間なのに、開けた場所にいるような錯覚を覚える。


「ここ、地下だよね……?」


アルムがぽつりと呟く。

彼女の目には、常識を覆す光景が映っていた。


ノンナは四人を地下の広間の中央へと立たせ、壁際にそびえる一本の大木を指さした。


「今のあなたたちの実力を見ておきたいわ。あそこにある大木に、自信のある魔法を撃ってみてちょうだい」


ともえは目を丸くし、首を傾げた。


「……まほう、うったこと、ない……」


ノンナは微笑んで、ともえの肩にそっと手を置いた。


「じゃあ、ともえさんは三人の魔法を見ていて。順番に撃ってもらうわ」


最初にシンが前に出た。緊張したように息を吸い込み、詠唱を始めた。


「――熱よ、灯火となれ。ファイア・ショット!」


彼の手のひらから放たれた炎の弾は、大木に向かって真っ直ぐ飛び、表面を黒く焦がした。木の皮がパリッと音を立てて剥がれ、微かな煙が立ちのぼる。


続いてサディが一歩前へ進んだ。小さく息を吐いて目を閉じ、短く詠唱する。


「風よ、きざめ……ウィンド・スライス……」


風の刃が走り、大木の幹に浅くも鋭い傷跡を刻んだ。木の破片が散り、音もなく風が流れる。


サディの魔法が終わったあと、アルムがノンナのほうを向いた。


「ねえ、詠唱しないと魔法って出ないの?」


ノンナは少し考えるように頷きながら答えた。


「基本はそうですが、まれに詠唱せずに魔法を使える者もいます」


アルムは「ふーん」と気のない声で返しながら、手を軽く前に出した。するとその手の先に、突如として淡い金色の光が集まり始め、鋭く輝く“光の槍”が形作られていった。


それはまるで、以前ノンナが見せた「ロンギヌスの槍」に酷似していた。


アルムは特に構えもせず、力むことも見せず、そのままその光の槍を放った。


槍は風を切り裂きながら一直線に飛び、大木に命中した。爆発音こそなかったが、その一撃は幹に大きな穴を穿ち、さらに後ろに並んでいた木々までも連続して貫通していった。


地下とは思えないほど静かな空間に、残響のような余韻がしばらく残った。


ノンナは思わず目を見開き、言葉を失っていた。


ノンナは唖然としたまま、しばらくアルムを見つめていた。


「アルム様……どうやって作ったんですか? 魔力量も、魔力適性も平均的なあなたが……どうしてあんなものを……」


アルムは肩をすくめて、何でもないように答えた。


「森の奥で作ってみたんだよ。なんかね、頭の中で“こういうの作りたい”って思ったら、その通りに作れるからさ」


ノンナは眉をひそめ、言葉にできない感情を胸の奥に押し込めた。


(確かに、魔法は創造力次第で“何でも”できる……でも、これは――いくらなんでも異常すぎる)


そのとき、ともえがそっとアルムのもとに歩み寄った。先ほどの光の槍をまだ目に焼きつけたまま、真剣な表情で問いかける。


「いまの、わたしにも……できる、かな?」


アルムは一瞬(めんどくさ……)という顔を浮かべながらも、ふっと息を吐いて答えた。


「コツ、知りたいなら……教えてあげようか?」


シンとサディも、まるでオモチャに群がる子どものようにアルムのもとへ駆け寄った。


「それ、ぼくにも教えてほしい……!」


「わたし、も ききたい……!」


ノンナも興味を持ったのか、腕を組んで一歩引いた場所からその様子を見守る。


(基礎魔法の知識すらないこの子が、どんなふうに魔法を認識してるのか……興味深いわね)


アルムは、みんなに囲まれてちょっと面倒くさそうにしながらも、いつもの無表情なまま淡々と説明を始めた。


「さっきの魔法はね、まず“槍”を作ってから、その槍に“光魔法”を纏わせたの。槍は、伝導性が高い“金”でできてる」


全員の頭の上に、はてなマークが浮かぶのが見えるようだったが、アルムは気にせず続けた。


「で、その金に光を集めて、風魔法で飛ばすって感じかな。ちなみにこの“金”は……今ならこの辺の土を使って、“超臨界状態”まで上げて、無理やり金にした」


ぽかんとする一同。


「魔法で物を直接作るより、外部の物質を“核融合”させて別のものにしたほうが安定するし、わたしが手を加えなくてもずっと残るから楽なの」


…………。


誰も、何も返せなかった。


四人は完全に沈黙したまま、まるで異星人の話を聞いているようにアルムを見ていた。


「他にもね、風魔法にはちょっとしたコツがあって……」


アルムが続けようとしたとき、ともえがぽつりと呟いた。


「……わかんない」


その言葉に、アルムは一瞬言葉を止めた。


「……まさか。え、科学ってあるよね?」


ともえ以外の四人はぽかんとしたまま、まるで未知の単語を聞いたような顔でアルムを見る。


「……うそでしょ」


アルムは視線を遠くに向けた。


(魔法の世界で、科学が発展するわけ……ないか)


自分の頭の中にある知識と、この世界の“常識”とのずれ。それを初めて、明確に自覚した瞬間だった。


(でも……じゃあ、わたしはなんでこんなに詳しいんだ?)


思い出そうとしても、霧がかったように何も思い出せない。


名前も、生まれも、前の世界のことも。ただ、身体に染みついた“知識”だけが残っている。


(……なんか、めんどくさいな)


アルムはみんなを見て聞いた。


「……まだ、知りたい人いる?」


その問いかけに、少し間を置いて、ともえがぽつりと答えた。


「……しりたい、かも」


すると、シンも腕を組みながら、真剣な顔で言葉をつなぐ。


「うん……わからないってことが、よくわかった。でも、そもそもなんでそんなに同時に展開できるの? 魔力切れとか起きないのか?」


ノンナは(それそれ、それが一番聞きたかった)と心の中で頷いていた。


「ぼくが学校で習ったのは……まず魔力を体の中で感じ取って、それを属性に変換してから、詠唱で意志を定着させて発動するってやり方だった。だから、最初に“集中”が大事だって教わったな」


その説明を聞いていたサディも、うなずくように言葉を続ける。


「わたし……も、おなじ……。魔力、あつめて……かぜ、って 思って……ことば、で だす……」


サディは指で空気をなぞるようにして、風が流れるイメージを示した。


アルムは、ぽそっと呟いた。


「……もしかして、魔素見えないの?」


その言葉に、シンとサディ、そしてノンナが一斉に「魔素?」と首をかしげた。


アルムは、逆に驚いたように眉をひそめた。


「え、魔法放つときって、体の魔力と外の魔素が反応して魔法になるんだけど……。私は外にある魔素を自分の魔力に変換して使ってるから、たぶん魔力切れにならないんだと思うけど……。」


ていうか、この人達魔素のこと知らずに魔法使ってたの!? マジで!?


自分が当然のように使っていた前提が、他の誰にも通じていないことに、アルムは本気で驚いていた。


「逆に言えば、魔素って魔法を出すときに必要だから、過剰に集めて放ったら、過剰な威力になるんだけど……。」


ぽそっと補足された言葉に、ノンナの表情が強張る。


(この子……まだ三歳のはずよね? それでいて、誰も到達していない領域の理解と実践……一体、何者なの?)


ノンナの内心には、静かな恐怖すら芽生えはじめていた。


「……魔法、さらに発展できると思ったのに……」


誰に言うでもなく、ぽつりとこぼすと、肩をすくめて背を向けた。


「……まあーいいや。部屋に戻る」

アルムは生まれつき、魔素を100%魔力に変換できる特殊な体質を持っています。

(ちなみに、普通の人も魔素を体内に取り込んで魔力を“少しずつ”回復してますが、アルムは“全部”変えられます)


そのため、魔素がなんとなく“見えて”いました。


さらに彼女は生まれたときから前世の記憶を持っているのですが、これは実は——


圧倒的な魔力量によって、無意識に魔法を使って記憶を掘り出していたからです。

通常、転生時には記憶は完全に消えますが、アルムは常に魔力を供給できるので記憶を維持し続けることができました。


ノンナが使った測定魔法は「魔力量」と「魔力適性」しか測れなかったため、数値としては“平均”でしたが、

実際には前世の科学知識+体質チートでとんでもないことになってます。


……そりゃあ光の槍くらい作るよね。


無意識魔法とは、“魔素を100%魔力に変換できる特殊な体質の子ども”が、自覚のないまま魔法を発動してしまう現象です。


通常、人は外の魔素を少しずつ体内に取り込んで魔力として蓄えますが、アルムのような体質を持つ者は、外の魔素を即座に、しかも100%魔力に変換することができます。そのため、魔力量が“ほぼ無限”のような状態となり、眠っている間や強い感情に引っ張られて、意識せずとも魔法が発動してしまうのです。


これが、いわゆる「無意識魔法」です。


しかしこの魔法には問題があります。


無意識魔法の存在を“知ってしまった”者は、それ以降「無意識に魔法を使おう」と意識的に考えてしまい、莫大な魔力を消費して倒れてしまう危険性があるのです。


そのため、脳や本能が“危険な知識”として無意識に記憶から消そうとしてしまうため、無意識魔法を体験しても記憶に残らない、もしくは記録に残らない理由になっています。


実際にこれまで無意識魔法を覚えていられた例はほとんどなく、アルムの母ミアや賢者ノンナのような、膨大な魔力を持つ者だけが知識として保持できていたという稀有な存在です。


結果的に、この世界では「無意識魔法」は“存在しない魔法”として扱われるか、子どもの気まぐれと思われて消えていくのが常となっています。


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