価値観のズレ
「それで、嬢ちゃんは何を作りたいんだ?物にもよるがある程度の性能は保証するぞ?」
店主の言葉にヨウは少し考え込む素振りを見せる。鍛冶を依頼する場合は素材や製作費を完全自己負担という形でルアー(通貨)を支払うことになる。鍛冶の腕は完全に鍛冶屋依存になり、物や人によっては100ルアーや200ルアーを優に越える場合もある(3ルアーで格安宿1泊分、酒一杯が2ルアー程)などかなりリスクの高い頼み事となる。
(今の所持金は830ルアー。荒稼ぎしちゃったからお金はそこまで問題ないけど……。)
因みに彼女の武器は相当負けてもらって55ルアーであり、手袋の方は両手合わせて30ルアーである。それでもかなりぶっ飛んだ価格とも思えるが、酒場が発展し多くの冒険者の集うこのエインハルの街だからこその値段とヨウは納得している。
「マフラー。首に巻くマフラーが欲しいかな。」
「マフラー……?首を覆うというと、〈襟巻蜥蜴〉の素材を使った………こういうのになるかな。」
そう言って店主が持ってきたのは首元を覆っている鉄のナニかだった。どちらかというと鉄を使ったネックウォーマーに近い。マフラーやスカーフのようなゆったりさというよりは、鉄で作られているが故の硬さと、ネックウォーマーの防寒機能だけを重視したものだった。
(なんか違う……!!ハムスターとネズミを同じと考える奴くらいズレてる!)
まだこの世界の価値観に振り回されているところがあるらしく、中々自己主張が上手くいかないことが彼女の悩みである。
「……仕立て部屋ない?布の服を縫ったりする部屋あるよね。」
「ないことはないが……滅多に使わないから埃が凄いかもしれん。」
ヨウはそれでも、という感じで部屋にお邪魔させて貰うかたちになった。中はかなり古びた木造建築になっており、木の椅子やテーブルだけの至ってシンプルな造りになっている。
ヨウが目に止めたのは、机の上に鎮座する細長い「つ」の字になった、赤錆と赤茶色の間の色をした機械のようなものである。先端が蛇口のような形をしており、針が下に向いて飛び出している……見慣れたミシンであった。だがその造形は彼女の知っているものとは異なりテーブルの半分以上を占めているなど、かなり大きいタイプのものである。
「ああ、それは鉄にも針で穴を開けて、糸を通しパーツを繋げるのに一時期使っていたものだ。最近では溶接でやった方が速いから、布類の服に後付けするくらいにしか使ってないけどな。」
「お借りしても、いいですか?」
「ああ、好きなように使ってくれ。」
店主の言葉に軽く頷くと、ヨウは機械のセッティングに取りかかった。機械の動かしかたや針の仕組みなど……過去に扱ったものと差はあれど、てきぱきと準備を進めていく。
「押さえがこれで……速さの調節は出来ないか。このツマミを引くと動くタイプ……おっ。」
かなり大振りの針がヨウの引く力に呼応して動き出す。糸を絡めていない為にただ上下に動くだけではあったが、彼女は機械がちゃんと動くことに納得した様子だった。
「えーと……〈メンメェの毛〉に〈メンメェの上毛〉に〈テトラットの細毛〉……〈鮫牙鷲の羽毛〉……防腐剤に〈ナメラカ草の露〉……染色は〈唐血草〉でいいか。」
メンメェから取った毛を基盤に防腐剤を染み込ませ、ミシンでゆっくりと縫い合わせていく。時折別に用意した毛を使って輪を作ったりしている。それをマフラー本体の端に通し、マフラーの端にある装飾なるものを作り上げた。
「後は〈唐血草〉で染色して暫く置けば完成かな……。」
出来上がった基盤を〈唐血草〉の赤い液でつくった染色液に浸し、満足そうな笑みを浮かべるヨウ。〈唐血草〉は赤色の染色液として重宝されており、髪染めなどの用途で一般的に流通している。
「染み込んできた……こっち側も大丈夫そうだね。よしよし。」
鮮血のような真っ赤な色をしたマフラーの手触りを確かめると、それを首に巻いて満悦の表情を浮かべた。至って普通のマフラーという感じではあるが、防寒機能などの実用的なもののみならず、彼女にとっては初めてのお洒落要素である。
「出来た……!」
「お疲れだなお嬢ちゃん。今日は家を貸してやるからゆっくりしな。宛があるなら無理にとは言わないが……。」
ヨウは店主の好意を受け取り、今日は彼の家を借りることにした。




