「借りキャラストーリー第3話-Forseti(フォルセティ)~カランコエに匂いやつけし帰り花~-」
借りキャラストーリー第3話。
冷泉湊さんのお話。
大人な雰囲気で、彼なりの考えや借りキャラたちの関係性も見えてくるお話です。
続編でも大いに活躍してくれそうな豪華な方々の登場シーンも!
しみじみ思いますが……女の子って大事ですね。
※約6,500字です。
“人は悲しみ受け入れなきゃいけない日々に希望失わぬように
自分以外に護りたいと思うものが一つ それがあればいい”
『シリウス』より抜粋
現在 夜
自宅
冷泉湊
「う゛っ……ぐ……はっ!」
俺が涙を流しながら斬りかかってくる誰かを殺したところで目が覚め、逃れたい気持ちからか勢いで上半身を起こした。
ちょうど視線の先にある時計を見れば……まだ3時か。
「またあの時の夢か……!」
何度この悪夢を見たんだろう。
あと何回見れば俺はこの悪夢から逃れる事が出来るんだ。
そう思いながら額を拭えば脂汗を掻いており、寝起きの所為か声が掠れている。
詳しくは言えないが、過去に後悔した出来事が悪夢となって襲いかかり、いつも最後の1人を殺したところで解放される。
すると部屋に女性が足音を立てずに入ってきて、
「大丈夫? 湊……」
と、声が廊下に響いていたからか、心配そうにベッドの側に来て、少し屈んで俺を胸に抱いた。
「……あぁ。いつも悪い……」
俺は女性に全身を預け、彼女にも迷惑を掛けたと思い嗚咽した。
それから俺は言葉を紡ぐ事は出来なかった。
そうして長い黒髪に頬を寄せ、犬のような幻獣柄のダイヤモンドのネックレスの紐の結び目に指を絡ませながら、後悔に苛まれる自分を癒す彼女に感謝した。
……俺の鳥の幻獣とは柄違いの、お揃いのネックレスだ。
2007年8月19日 午後(天気:晴れ)
裾野と菅野のターゲットの潜伏場所
冷泉湊
颯雅の話で、ターゲットを救う為に龍と竜斗の前に立ちはだかった話があったと思う。
俺はそのとき潜伏場所であるホテルの一室を訪ねていた。
――コンコン、ココン。
事前に彼女とは人脈を駆使して連絡を取っていたため、ノックの音を聞いてほしいとだけ言ってあった。
しばらくして出迎えてくれた彼女の名は、りん。
名字はどうしても言えないらしい。だから今後はそう呼ばせてもらう。
りんは今年で10歳を迎える女の子だ。
この年で仕事をしているということは、分かるよな?
おそらく、彼女は裏の世界の住人。
背丈は130cmあるか無いかぐらいで、髪の毛は生まれつきなのか、若干桃色がかっている黒髪セミロング。
小麦肌で艶があり、10歳とは思えない程大人びた風貌をしているが、ビー玉のように美しい黒目の奥には淀んだものが見える。
また恰好も年の割に奇抜で、烏色のショートブーツにショートパンツ、トップスはオフホワイトの胸の下程の丈のタンクトップに、前開きで髪の色に似た半袖のカーディガンを羽織っている。
斜め掛けのチーズが大きくプリントされたポップな配色のカバンは、大分使い古しているのか、ところどころ擦り切れている。
りんは依頼人から一方的に恨みを抱かれている。
彼女は有休を取っているとはいえ、なるべく早く逃げたいとのことだった。
「湊さ~ん、ごめんなさ~い」
と、りんは数十センチ低いところから見上げながら言った。
「大丈夫だよ。こっちだ」
と、俺が手を引いて慎重に扉を開くと、廊下には一切気配を感じなかった。
どうやら颯雅が上手く誘導してくれたみたいだな。
だが、何か違和感を感じる。
と思ったのも束の間、突如藍竜組の隊員たち総勢10名がそれぞれの部屋から飛び出し、拳銃やアサルトライフルを構えた。
女の子相手にこんな人数なんて大人気ないな。
緊張の走る一触即発の現場。
一刻も早くりんを逃がす為には、一旦彼女を部屋に戻そうと思い、彼女を押し出そうとしたときには、隊員の1人からアサルトライフルが無くなっていた。
奪われた隊員はしばらく気付かず、綺麗に構えた姿勢のままだった。
「……っ!?」
この状況に藍竜組隊員たちは互いに目を合わせ、アサルトライフルの行方を目線で追っていくと、銃は……?
「はい、お兄ちゃん!」
と、下から元気なりんの声が聞こえ、隊員たちの銃口を視界に捉えつつ彼女の方を見ると、小さな両手にアサルトライフルが乗せられていた。
「……ありがとう!」
俺はすぐに状況を飲み込み、それを受け取ると隊員たちに向けて威嚇射撃をした。
あくまでも銃弾は当てないよう、軌道を逸らしながら。
「えへへっ! りーちゃん、役に立った?」
逃げている途中で、りんは片手で耳を塞ぎながら訊いてきた。
「うん、役に立ったよ。本当にありがとう」
と微笑むと、彼女はとても嬉しそうに笑っている。
……俺には見えていた。
彼女は磁石付きのレールガンで、隊員が構え終える前にアサルトライフルを撃って華麗に引き寄せてみせたのだ。
10歳で大人の隊員を騙すとは、大物になれそうだな。
俺はエレベーターで降りる前に廊下に弾切れのアサルトライフルを捨て、りんの手を引いたままフロント前まで行くと、颯雅に一報入れた。
その後彼女を見下して、
「……どこまで逃げるつもりなんだ?」
と、小声で訊きながらホテルのチェックアウトを済ますと、りんは小首を捻ってしばらく考え込み、ガバッと顔を上げて目をキラキラと輝かせながら、
「う~ん……バス停まででいいよ! そこからおうちに帰るから」
と、子ども特有の甲高い声で言われ、俺は思わず頬が緩んでしまった。
自分にもこんな時期があったなぁ、と。
バス停に着くと、りんは俺の手をぎゅっと握ったままバスを待った。
あと5分ほどで来ると思うが、その間に万が一のことがあれば颯雅の頑張りも報われない。
俺は彼女のカバンを指差して、
「大事に使ってるんだな」
と、周りに溶け込む為に彼女のお兄さんであるかのように振舞うと、りんは太陽のような笑みを浮かべ、
「そうなの! りーちゃんの大事なもの!」
と、俺の手ごと自分の胸の前に引き寄せてぎゅっと握った。
あぁ……御両親の愛を沢山受けて育ったという事が伝わってきた。
そのときに一瞬何かが視界を横切ったが、彼女から目を離すのは危険だから、一応知らない振りはしておこう。
やがて後ろにちらほらと人が並び始めたときに、俺が「まだあと1分あるから、何か話そうか?」と提案すると、
「ううん! もう来たよ!」
と、バスが来る方向を指差し、あどけない笑顔を浮かべた。
そして扉が開くと、りんはぴょんとバスステップを飛ぶように上り、
「お兄さん、ありがとうね~」
と、口パクで言いウィンクをする彼女の右人差し指と中指の間には、俺の財布から抜き取った1,000円が挟まれていた。
この時に確信したんだ。彼女が怪盗だという事を。
だが悪い気はしなかった。
人を殺さない怪盗というのも、チャーミングで盗まれたのに不快さを感じないというのも、今まで出会ったことのないタイプの人間だったからな。
これからが楽しみだ。
「どこかでまた会える気がする……」
と、俺は予め財布の別ポケットに入れておいた1,000円を指でなぞり、頬を緩めて呟いた。
その後彼女を見送っているとき、不穏な淳や颯雅の声が耳に響いていた為すぐにでも急行したかったが、彼女を安心させる為にも見えなくなるまで手を振った。
やがて見えなくなると、俺は全速力でホテルの裏路地に入った。
それから瀕死状態である颯雅を見つけると、
「淳、連れていってあげてくれ」
と、すぐに指示を飛ばし、狼狽える淳の背中を優しく押した。
不安で視点が定まらない彼女に微笑みかけ、颯雅を連れていかせた。
どんな時も、っていう訳ではないんだが、彼女に治せないものは無いから、任せておけば大丈夫だろう。
あんなにやられてる颯雅は初めてみた。
優しい颯雅の事だ、親友に刀を向けられなくて攻撃を全部受ける事しか出来なかったんだろう。
いつもだと無傷で何でもこなすんだが……。
こんな事になるなら、今回だけは役割を変えるべきだった、と後悔の念に苛まれ動揺してはいたが、なるべく余裕そうに振舞って悟られないようにした。
「何してんねん……」
竜斗は仕事の顔のせいか、普段の快活そうな表情ではなく、声色も無慈悲なそれになっている。
また、大振りの槍を構え直し、今にも斬りかかってきそうだったが、龍は目を伏せて僅かに口元を歪ませた。
「恨みますよ……湊さん」
だが穏やかとは思えない口調で、いつもより掠れた声で名を呼ばれた。
戦うしかないか。
それに幾ら龍と竜斗とは言っても、颯雅をあんな状態までした奴らに優しくしてやれる程、人間出来てない。
さっきから怒りがこみ上げてきて、それを必死に抑えているのもまた事実だった。
藍竜組ではターゲットを見失えば、半裸状態で3日間の磔。実質断食、排泄も出来ず風呂にも入れない。
「……」
もちろん、それは例えようが無いほど辛いものだということも分かってる。
だがそれよりも、命を守る方が大事だ。
勿論、龍も竜斗も殺す訳にはいかない。ここは戦略的撤退だな。
余談になるが、この世界では特殊能力を持つ者が多いが、俺もその一人だ。
淳や俺は、剣術よりも特殊能力を使う方が得意なんだ。龍也や颯雅は剣術の方が得意らしい。
さて、ここは力の見せ所だな。
俺は全身の神経を集中させ、彼らを幻覚の中へ誘った。
俺が解除しない限り、彼らはこの世界から逃げ出す事は不可能だ。
「2人を殺す訳にはいかない……」
そう真横で囁いた幻覚を見せ、その場を去った。
これが2人の成長に繋がるのなら、俺は恨まれたって構わない。
現在に戻る……
2015年9月2日 夕方
藍竜組 総長室
冷泉湊
藍竜総長とは年が近いことや過去のこともあり、昔から親交がある。
だから半ば幼馴染みのような、そして俺にとってはかけがえのない兄弟のような存在だ。
淳が彼と親しく話していたのは、俺が彼女の幼少期に藍竜と引き合わせていた為、彼女にとっては近所のお兄さんのような感覚に近いからだろう。
藍竜は俺が会いに行くと、経営者の顔から親友に見せる顔に変わる。
いや、弟に見せる顔、と言うべきだろうか。
というよりも、雰囲気が全く違う。
「よく来たな」
藍竜は黒髪短髪で、目があまり良くない為俺と会う時だけは黒縁のメガネをかけている。
だから報告書を渡した後に、わざわざ同じ内容を龍が口頭報告をする必要はここにある。
藍竜は日に焼けていて大柄な為、黙っていると威圧感があるが、廊下を歩けば皆が笑顔で挨拶をするような、近づきやすい総長だ。
そして彼はだいたい、専用の高級革張り椅子の背もたれに身体をどっぷり預けることはせず、書道有段者だからか手前に座って背筋を伸ばしている。
「久しぶり、か」
俺は今朝のことを頭の隅に追いやりつつ微笑むと、藍竜は不思議そうに俺の顔を覗き込み、
「今日も変わりなさそうだな」
と、皮肉混じりに言うのは日常茶飯事だ。
「イケメンの若さは永遠だぞ?」
と、冗談を言うと藍竜は僅かに表情を緩ませる。ちなみに、こんな冗談は藍竜以外には言わないからな。
「面白い。鳩村に研究させてもいいか?」
藍竜は冗談に冗談を重ねたがるので、会えば必ずこの冗談の後に何かしら言う。
「それもいいかもな」
だがここでまた重ねると面倒だ、と言われるのもこの長い付き合いから学んでいる。
すると藍竜は、決算報告書らしきものを黒のファイルで隠しながらパラパラとめくり、
「湊。藍竜組をどう思っている?」
と、資料から顔を上げて語気を強める藍竜は、一瞬で経営者の顔に戻る。
何故それを俺に言うのかは、颯雅の話の通りだ。
殺し屋からターゲットを逃がし、安全な場所まで誘導している俺達は、殺し屋組織からすれば目の上のたん瘤の存在だからな。
俺はふっと息を漏らし、笑い皺を刻んで、
「一言では説明出来ないな。殺し屋組織自体は無くなればいいと思ってるが、藍竜組に関しては、野放しにするべきではない人間も依頼を受けて消してくれるからな。藍竜組が無くなれば、そう言った危険人物が野放し状態になる」
と、穏やかな口調で言うと、藍竜は何も表情を浮かべずに頷いた。
「湊に新人にするような話は要らないだろうが、殺し屋という職業でしか自分を表現できない人間も居る。頼むから、殺し屋しか無いという志の高い隊員の自信は奪うな。たとえ湊が逃がしたと経営層が分かっていても、ターゲットを見失った罰は下される。もちろん、裾野と菅野の事も……3日間半裸にして磔にしたからな」
藍竜は手を擦り合わせながら淡々と言っていたが、龍と竜斗を磔にした、という部分は口ごもっていた。
そのことは風の噂で聞いていた。
下ろされるその時まで、龍は黙って受け入れていたが、竜斗はずっと「理不尽や! おかしいやんか!」と、水分が無いせいか原形を留めていない程のガサガサの声で訴えていたこと。
淳が龍也と一緒に、藍竜に必死で止めるよう懇願し続けていた事。
それを見下す藍竜が、どれだけ辛い思いをしていたか、という事も。
「経営層とは言っても、お前しか知らないだろ。それなのに罰を下すのか?」
俺は無表情の藍竜を見下したまま、諭すように訊く。
「……本当にそう思うか? …………弟も幹部クラスも知らない、と……本当にそう思えるか?」
藍竜は見下ろす俺の目を鋭く射たと思えば、すぐに俺だけに見せる顔に戻り、
「裾野聖の周りの人間を知っているだろう……」
と、ため息混じりに言う。
知っている。
片桐組役員と太いパイプがあり、同組エースと元同期、名家である後鳥羽家の息子という異例の経歴と交友関係……。
「そんな考え方は可笑しいだろ。だからといって罰を下して何の得がある! ……殺し屋組織のそういうところが嫌なんだ。せめて……俺らが邪魔した時だけ罪を下さない、っていう裏ルールを作ってくれ」
俺は冷淡な目で見下す龍と、怒りの矛先が分からなくなり拳を握って地団駄を踏む竜斗に謝罪したことを思い出し、堪らず声を大にすると藍竜は珍しく口の左端を僅かに上げた。
「裏ルール、か。構わないが、その殺し屋がターゲットを逃がしたという記録だけは残る――」
殺し屋の頃の顔が垣間見えた藍竜がその先を言う前に、
「それでも俺は、罪の無い人達を救い続けるんだ」
と、俺が強い覚悟を持って言うと、藍竜は黒ファイルを上にして机に置き腕を組み、大きく頷いた。
「そこで、本題に入るが……」
と、藍竜が呼び出した理由であろう事を話し始めたので、
「殺しなんてごめんだぞ?」
と、予防線を張ると、
「あぁ。“BLACK”の影響で、俺の組織や片桐組に乗り込もうとする連中が増えている。そこで、湊にしか出来ないことを頼みたい」
と、藍竜は椅子に座ったまま組んでいた腕を机に下した。
「持ち上げたところで、親友とはいえ首を縦に振るとでも思ってるのか?」
俺は近くの壁にもたれかかり、腕を組んで足を交差させ、眼だけは藍竜を見てそう言った。
すると、藍竜は顎に手の甲を添えて目を伏せた。
「そうか。では、弟に頼むとする」
と、時計の秒針と同じスピードで顎から手を離したり付けたりしながら言った。
だがそうは言っても、本心では俺にやって欲しいのだろう、やはり顎に手を添えたところで止めている。
そのうえ、どことなく気の進まなさそうな顔もしており、俺は立場上言いづらいであろう彼を気遣い、
「藍竜」
と声をかけると、藍竜は経営者の顔のまま俺を見据えた。
その瞳には迷いが見える。
「俺は護ることが専門で、お前みたいに捕まえて殺す事は出来ないんだ。……分かってるだろ?」
俺がなるべく穏やかに言ってみせると、藍竜は数秒目を瞑って考え込んだがすぐに再び俺を見つめ、
「あぁ」
と寂しそうに言った。
「それに、俺はその仕事を受けない、とはまだ一言も言ってない。取り敢えず話を聞いてからにはなるが、俺だけなら関わっても良い。だが、1つ条件がある」
と、人差し指を立てて言うと、藍竜は眉を潜めた。
「藍竜総長、久しぶりに俺とその仕事……受けませんか?」
と、アイロニカルに笑って言うと、藍竜も昔のようだが皺の増えた爽やかな笑みを浮かべて、
「ははっ……面白い!」
と、堪えきれずに豪快に笑う姿は、今となっては見られなくなってしまった、藍竜の若かりし頃の姿そのものだった。
「その仕事というのがな――」
と、打って変わって深刻な表情の藍竜から仕事の内容を聞かされたとき、目の前が真っ暗になった。
何故、藍竜はいつも自分の身を削ろうとしてしまうのだろう。
だから弟に頼むと言ったときに、乗り気ではなかったのか。
俺とだから……やろうと思えたのか。
そう納得した俺は、笑い皺を深く刻みながら、
「しょうがない、やるか!」
と、自分でも驚くほど凛とした声で答えた。
“挫けるんじゃないと煽る夜明け
君のその胸に秘めた祈りを暖めたいんだ 消えぬように
この身は削れたっていい 答えがあるなら”
『Answer』より抜粋
如月龍也だ。
湊らしい話だったな。
楽しんでもらえたか?
俺的には、プロローグが1番印象に残っている。
あいつ、女に興味無かったんじゃねぇのかよ。
なのに女とイチャイチャしやがって……
って言いたいとこなんだけど、実は俺は例の女性、知ってるんだ。
安心しろ。
あいつは期待を裏切らない、硬派な奴だ。
いずれ時が来れば、彼女の正体も分かる。
長くなって悪かった。
次回は俺の話を書いてくれる書いてくれるらしい。
投稿予定日は、9月9日(土)か10日(日)だ。
夏休みも終わってしまったな。
皆はどこに行ってきたんだ?
俺は淳と一緒に北海道に遊びに行ったんだ。
一日中エアコン無しの楽園だった……!
じゃ、来週も楽しみにしててくれ!
如月龍也




