「借りキャラストーリー第2話-idun(イズン)~一葉知秋の子どもたち~(前編)-」
淳ちゃんのお話です。
前編では彼女の人脈の広さを中心に書きました。
ですが人には必ず影があります。
※約6,700字です。
※投稿が大幅に遅れてしまって、大変申し訳ございません。
“知らない空に一番星 謎々が解った日
見つけたよ とても温かいもの
決して無くならない目印”
『友達の唄』より抜粋
2015年8月26日 15時前(天気:雨)
後鳥羽家 玄関
龍勢淳
めっちゃ雨降ってるな~……。
今日は利佳子ちゃんと最近人気のカフェ行こ~って思ってたんやけどなぁ。
あまり言う機会無かってんけど、後鳥羽家なら利佳子ちゃん、竜馬、紅夜と潤くんとは龍が紹介してくれたお蔭で仲良いねん。
しかも後醍醐家の詠飛も紹介してくれて、ほんま頭上がらへんわ~。
それに皆強い人ばっかやから、剣技の指導してもらったり、体力鍛える術も教えてもらったりしてんねん。
私はふと過去を思い出しながら花柄の傘差して、ここに何軒建つんやろか、ってくらい広い庭歩いててん。
……あれは。
「やっぱりな~……」
私は雨音に消えるぐらいの声で呟くと、綺麗に整えられた庭に咲くワレモコウの細い茎についた水滴を払ってん。
ちょっと折れそうやったからそうしてんけど、他の花も見といた方がええんかな?
あ……!
ちょうど葉っぱの間に隠れている藤色のヤブランが、大粒の雨の所為なんか花が下向いてたから、そっと除けてあげて雨が当たらんようにしてん。
そうしてたらいつの間にか玄関着いたから、呼び出しベルで呼んで執事の方に中に入るよう言われてんけど、利佳子ちゃん忙しいみたいで待つことになってん。
そしたら、深刻な表情をした紅夜が私に気付いて、こっち来てん。
「あれ? 利佳子だっけ」
紅夜はそう言うと、近くの執事に声掛けようとしたからすぐ呼び止めて、
「今忙しいみたいで……」
って言うと、その様子を見た紅夜は、きょろきょろ周り見回して考え込んで、
「あ~……。それなら、1つ頼まれてくれないかな~?」
って、顔の前で申し訳なさそうに手合わせてん。
私は「ええよ~」って笑顔で頷くと、紅夜はほんま嬉しそうにほっと息をついて、
「ありがと~。別館に住む潤のことなんだけどね……」
って、アクアグリーンの傘を棚から出しながら話し始めてん。
後鳥羽家はここ本館の隣に別館があって、そこには”暴食”の潤くんと”色欲”の瀧汰さんが住んでるんよ。
一旦外出ると、紅夜は重い口開いて、
「どこかにぶつけたみたいだから、悪いけど待つついでに治療してもらえないかな~?」
って、ダークレッドチェリーの前髪を左に流しながら言ってん。
「任しといて~!」
って満面の笑みで言うと、紅夜は別館の鍵開けて、
「ごめん、忙しいから俺はここまでね~。潤の部屋は入って左にある扉から入れるから~じゃあね~」
って、ほんまに急いでるんか半ば後退しながら早口で言い終えると、本館までダッシュで行ってしまってん。
紅夜の走る姿初めて見たわ……。当主になると大変なんやなぁ……。
そう思いながら別館に足踏み入れて、傘置き場に水払ってから傘入れてん。
それでその足で潤くんの部屋の前まで行って、扉ノックしてん。
「お兄ちゃん?」
部屋からパタパタって可愛らしい足音が近づいてきて、扉を元気よく開けた潤くんは、私を見るなり肩落としてん。
何回か治療したりしてるんやけど、無関心やからか名前も顔も全然覚えてくれへんくて……。
それでも仲良うなりたいから、何回も名乗って警戒解くのに時間掛けて……ずーっとこの繰り返しやねん。
「誰ですか?」
潤くんは鉤爪構えてすぐに戦闘態勢に入るんやけど、私はいつもと同じように母親みたいな笑顔向けて、
「龍勢淳です! おんなじ名前やから覚えやすいやろ? ……今日はりょ……潤くんのお兄ちゃんから頼まれて、潤くんの治療に来てん」
って、潤くんに歩み寄りながら言うと、”お兄ちゃん”っていう単語に目輝かせてん。
「そっか!」
……ほんまは紅夜なんやけど、それ言うとたまに「誰、そのひと?」って、言われることがあるから、嘘付いてでも絶対覚えてる龍の名前出さなあかんのよな~。
一応こう言えば治療できるんやけど、大人しく服 開けさせてると、
「さっきから全然怖い顔しないけど、お姉さんは僕が怖くないの?」
って、子どもみたいに無邪気な顔で訊いてきてん。
怖い顔ちゃうくて、怖がる顔って事かな?
実は龍や紅夜からもサイコパスってこと、偏食人間で人肉が主食っていうことは聞いてるんやけど、それを怖いとか言うて差別するんは間違ってると思ってるから、
「……確かに、潤くんのお兄ちゃんから最初は人を……食べるって話聞いた時は、怖かったかもなぁ……」
って、どっかぶつけた程度とは思われへんほどの血を確認して治療しながら言うと、潤くんは大きく頷いてん。
「そっか! 何とも思わなかったんだ~」
でも出てくる言葉は、何か食い違ってたんよな。
やっぱ、そういうことなんかな?
それでも私は笑顔のまま治療しながら、
「でも……実際に会ったら、めっちゃ素直で純粋やし、私にも毎回名前訊いてくれたり、予想とは全然違ってたで!」
って、食い違ったこと気にせえへんように言うと、潤くんは首捻って考えてから自分の頬揉むと、
「素直で純粋なのは、お兄ちゃんも褒めてくれるからそうだよ。ねぇ、お姉さんはこの部屋に興味あるの~?」
って聞いてきてん。
「うん、潤くんらしい部屋やし、その髪色とも合ってるな~って思って! それにこの髪、会った時からめっちゃ綺麗な色やなぁ、素敵やなぁって思っててん!」
髪色の話すると、私が荷物片付け始めたから、潤くんはシャツのボタン付けながら立ち上がって、髪触りながら、
「そうでしょ! この色……いいよね! お兄ちゃんが染めてくれたんだ! 染料にも拘っていて、海外からわざわざ僕の為に取り寄せてくれて、だからすっごく綺麗でしょ!」
って、両腕を大きく広げて目もカッと見開いて言う姿は、めっちゃ魅力的やねんけど、龍の過去の話聞いてたから、全部嘘って……分かるよな?
せやけど知らない人からしたら、まともに聞いてまうかもしれへんぐらい、ほんまに魅力の塊やったわ。
「……うん!」
私は戸惑いながらも頷いてその場を後にすると、しゃがんで私の服の裾引っ張ってきたから振り返ると、
「ありがとう! って、お姉さんのことを紹介した龍お兄ちゃんにも言っておいて! じゃあね~!」
って、手振りながら言うんやけど、彼のお茶会に参加してる方達の腕掴んでやってる感じやと、ほんまに隔離せーへんと危ないのは確かなんやなって思った。
同時刻……
後鳥羽家本館 玄関ホール
”憤怒” 後鳥羽 竜馬
利佳子姉さんは忙しいからと来客を遠ざけてるが、あれはただ単にロリコンクソ執事長の外国語の課題が終わって無いだけ。
うざったい執事長を抱える者同士大変だが、もう少しで終わるという報告を受けてからはクソ野郎が近づかないように、部屋の前で見張ってるところ。
こんなバカらしいことをするから、ストーカー執事長は気絶させて拷問室に閉じ込めた。
……ったく、面倒臭いな。
はぁ……待つのが苦手ってのもあるが、まだ5分しか経ってないのに30分経ったと思ってた。
仕方ない、いつも持ち歩いてる仕込み傘の話でもするか。
――ガタッ!!
「……!!」
利佳子姉さんは、”無欲”教育を受けてるから喋らない。
だけど物凄く表情豊かで、顔を見るだけで全部分かる。課題が終わって、提出も済んだんだろう。
だっつーのに全然歩こうとしないから手を引いてみると、嬉しそうに鼻の穴を膨らませて大きく何度も頷く。
「……ハイハイ」
全力でやったから疲れた、だな。
それにそろそろ姉さんの来客の淳も待ちくたびれてる筈。
……早く行かないと。
そうして玄関ホールまで来たんだが、淳の姿はどこにも見えない。
まさか応接間に通した奴が居るのか!?
利佳子姉さんを玄関前に立たせ、俺は傘を構えながら応接間の扉をノックすると、紅夜兄さんが返事したから、すぐに間違えた、と部屋に聞こえるぐらいの声で言っといた。
どこに行った……?
俺が辺りを見回しながら睨みつけてると、勘違いした奴らが物陰に隠れる。
すると姉さんが俺の肩をポンポンと叩いて、別館の方角を指差した。
「そっちに何の用がある……んですか?」
……危ない。
ちょうど外交相手が横切ったから、慌てて敬語に直した。
利佳子姉さんは俺の敬語に笑いを堪えながら、何度も小刻みに頷いた。
「はい……行ってみましょ……うか」
クソ、団体で通りやがって。
その度にクスクスしやがる姉さんを見るのも腹立つが、ここで暴言でも吐けば後鳥羽の信頼が……。
何なんだよ、面倒臭い。
俺の黒い雨傘と、姉さんの白い傘を取って渡してやると、姉さんはそそくさとロングスカートを翻して別館まで走った。
……喋らない代わりにちょっとは勘が働くらしいってのは、前から知ってたけど……今回は女同士の何かかもしれない。
そのまま追ってけば、別館から女の悲鳴と、「止めて!」って声が聞こえてきた。
”色欲”の瀧汰兄さんが、既婚者の淳を襲ってるってのか?
許せない。人の物は取っちゃ駄目。潤兄さんだって知ってる事だ。
「姉さんは、入り口で待機。俺が兄さんに鉄槌を下す」
俺は軒先で雨傘を畳むと、姉さんに預けて先導した。
扉を開け放ち、瀧汰兄さんの紫がかった長い髪を探したが、悲鳴が近くで聞こえた筈なのに別館には一切の気配も無かったし、
「…………ん、んー!!」
と、利佳子姉さんが必死に瀧汰兄さんの部屋を指差してくれるまでは、全然気がつかなかった。
指差す先の部屋の扉は、僅かに開いてて……
「お願いやから止めて下さい!」
と、淳の叫ぶ声も聞こえてきて、俺は仕込み傘のボタンを2回押して先を刀に変えると、階段を駆け上がった。
そして性欲を刺激する香水にやられないように鼻をつまみながらドアを蹴破ると、瀧汰兄さんは口を歪めて、幼馴染みだという女と目を合わせて、
「竜馬も悪くない……」
って、言いやがった。……この人はクソ兄貴の言うことが正しければ、整形してんだろ。
元はどんな顔だったんだ……。
……そんなことはどうでもいい。
今はマウントポジションを取られてる淳を何とかしないと!
「怒りの鉄槌を下す!!」
と、仕込み傘を振り下ろして叫ぶと、瀧汰兄さんは覚悟を決めたみたいで香水を何本かポケットから出しやがった。
クッソ……俺だけなら風を起こして香水の匂いでイカれる姿が見られるが、その下には淳が居る。
……銃弾に香水かなんかで加工されて突っ返される心配はないし、いっそのこと突っ込むか。
俺は刀の状態のまま斬りこむと、幼馴染みの女が目の前に来て鼻を摘まんでいる手を離させようとしやがるから、峰打ちで気絶させて斬りこむと、瀧汰兄さんは身軽に攻撃を躱しやがった。
「……やっぱ無理だ」
俺は傘を完璧には使いこなせてないから、これ以上相手の土俵で戦うのは危ない。
なら、今躱してベッドから降りたんならさ……!
俺は淳を抱きかかえて、瀧汰兄さんに向けて傘をバッと開くと、
「じゃあな、兄さん」
と、走り去りながらボタンを押して突風を起こし、香水の匂いを向こうに飛ばした。
玄関側まで逃げると、姉さんは顔面蒼白だったが淳を指差すので見下してみれば、カタカタと小刻みに震えていた。
だが全部おかしかった。
……こいつは能力解放すれば強いのに、何でやんないんだ。
折角力があんなら、思い切り暴れりゃいいのに。
「何でその力、使わなかったんだよ。無駄じゃんか」
俺は淳を転がすように下すと、姉さんは慌てて身体を支えた。
それから俺を睨み上げ、淳には優しい眼差しを向けて背中を擦ってやってる。
……くだらねぇ。
力を使わないなんて、後鳥羽の人間からしたら有り得ねぇ存在だ。
クソ兄貴は違うかもしれねぇけど?
すると淳は姉さんに支えられながら立って、
「お兄さんに刃を向けられる訳ないやろ!」
って、急に泣き叫びやがって。
俺の兄だろうが何だろうが、淳からしたら他人だろうが!
そう言い返そうと口を開きかけたときに、
「ごめん……」
先手を打たれたってハナシだ。
淳は申し訳なさそうに頭を下げて、
「それに、力は誇示する為にあるんとちゃうくて、人を護る為に使うもんなんちゃうかな」
と、無理に笑顔を作って教えてくれた。
そして淳はふらふらと俺の近くまで来ると、
「でも周りに守られてばかりなんやけどな」
って、儚い笑顔を向けて言いやがって……バカなんじゃねぇの。
「守ってもらえるんだったら、ずっとそうしてろよ」
俺が吐き捨てるように言って、クソ兄貴にCAINを送っていると、
「ありがとう」
と、背後で震える声が聞こえてきた。
何だよ、うるさいな。
「……ちょっと待ってろよ」
俺は口ごもって言うと、その場を後にした。
あとはあいつさえ来ればいいんだし。
だけど1回だけ振り向いて、
「気を付けて行けよ」
って、傘を肩に担いで顔を隠しながら早口で言うと、姉貴のやつ……何であいつが照れてんだよ。
はぁ……知らねぇよ。
数分後……
後鳥羽家 別館
菅野
なんやなんやなんや!?
裾野がものすっごい電話口でキレてたんやけど、淳に何かあったんなら早せんとあかんな!
で、俺が別館に駆けこんで雨傘を乱雑に投げると、淳が逆に豆鉄砲を食らったような顔してるんやけど。
は? また裾野のしょーもないウソかなんかなん?
「どうしたん?」
って、ほんまに驚いた顔で言うてんねん!
俺もう帰ってええやつ?
そう思って投げてもうた傘を拾って出て行こうとすると、女の子? 女の人? が、俺の腕を引っ張ってブンブンと首を横に振ってんねん。
「ん~……?」
オーラはとりあえず、出て行くなって感じなんやけど、裾野も詳しいことは知らん言うてたからなぁ。
そしたらな、女の人がスマフォのメモ機能使って何か打ち始めて画面を見せてきてん。
こりゃ鳩村はんみたいな子やな!
「え~っと……襲われた!?」
俺が大声で叫んでまうと、ここに住み着いていた虫たちの羽音が耳にキーンってなるぐらい響いてん。
みんなごめんな。
「どういうことや!?」
でも勢いが止まらんのは、俺のええとこ。
別に終わったこといちいち怒ってへんけど、襲われそうになってから言うてほしいっていうか……。
事後とかそういうのよう分からんけど、もうええわ面倒臭い!
「……」
俺が叫んでから淳はめっちゃ暗い顔してしもて、何か話そうとはしてくれてるみたいなんやけど全然喋ってくれへん。
せやけど肩震えてる……え、泣いてる!?
俺は裾野がくれた指輪と、結婚指輪を交互に見て覚悟決めてん。
「え!? 何で泣いてるん!?」
とりあえず、抱きしめてみて……あとはどうするんやったっけ。
せや、ハンカチ、ハンカチや!!
……おし。
「これで涙拭きや」
最大限声を低くして言うと、淳は俺が変やったからか知らんけど少し笑いながら声あげて泣いてん。
俺はすぐに背中擦ってあげて、ポンポンとゆっくり叩いてあげてん。
……こうすると俺も安心するんよな。
そしたら淳はハンカチを目元に押し当てながら、
「ほんま怖かった……。もう思い出したない……」
って、辛そうに言うから、俺も何だか泣きそうになってんけど、淳をこれから守るのは……俺や。
裾野にいつまでも”泣き虫”って言われるのも、思われるのも嫌やから、ここは俺がビシッとせんとな!
「じゃあ、これからは結婚したんやしさ……隠し事も無しにしよ、な?」
あぁ~何や裾野っぽい……。
俺の頭の中では顔を真っ赤にしてる俺が居るんやけど、一応気づかれへんように頬を触ってみたらめっちゃ熱かってん!
……現実なんかぁ。
「うん」
それでも淳は、泣きながら頷いてくれてん。
ほんま結婚してよかった……あ!?
「……これからお茶行くのに、ほんまごめん! あ~……護衛しよか?」
って、俺が護衛に名乗りをあげると、淳も女の人も嬉しそうに頷いてくれてん。
ま、裾野のおかげで分かったんやし……後でCAIN送っとこ。
カフェ『12』
龍勢淳
利佳子ちゃんとカフェ入ったら、すぐ腰低い店員さんが出迎えてくれて、席も希望訊きながら案内してくれてん。
店内は吹き抜け構造で、木目調で窓も多くて開放的な感じ。私の心鷲掴みやわぁ~。
竜斗も一緒に入ればええのに、女の人ばっかやからって外で待つ言うて聞かんくて。
しかも電話までしだして話しかけられなくなってん。
しゃあないから、メニュー片手に色々注文してんけど、利佳子ちゃんって意外とレモネードとか好きなんやなぁ。
甘い紅茶飲んでるイメージやったから驚いたわ。
「……あんな、今日は利佳子ちゃんに話したいことあるねん」
「……?」
利佳子ちゃんは、首をかしげて大きく見開かれた目を細めてん。
ほんまくりっくりでめっちゃ可愛い目やねん!
「ちょっと昔の話。利佳子ちゃんのお兄さんの龍との話……してもええかな?」
「……」
利佳子ちゃんは戸惑いながらも頷いてくれて、私は飲み物来たタイミングでそっと口開いてん。
誰やってそうやと思うけど、人生一筋縄でいかへんことばっかりやんな。
菅野と付き合うのも、付き合った後も……。
その後ろには常に、裾野聖……後鳥羽龍が居ってん。
次の話から、後編も読めます!
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