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『虎と呼ばれる男の素顔、そして龍の奏でる交響曲』  作者: 趙雲
おまけ~借りキャラストーリー~
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「借りキャラストーリー第1話-Vidar(ヴィーザル)~冬を想う、夏のあの日~-」

神崎颯雅が裾野さんの側で戦う理由、殺し屋組織に所属しない理由が垣間見える……?


※約4,700字

※ストーリー原案は、借りキャラの親である友人です。

いつもと一味違うお話を、どうぞお楽しみください。

(2017.8.23完成)


 ”時にこの世界は 上を向いて歩くには少し眩しすぎるね 

  沈むように目を伏せると 渇いた地面が涙を啜る”


 『alones』 より抜粋



2007年8月19日 午後(天気:晴れ)

裾野(後鳥羽龍)と菅野(関原竜斗)のターゲットの潜伏場所付近

神崎 颯雅(そうが)



 俺にもついに、龍と竜斗という幼馴染とその相棒の依頼を阻止する時が来てしまった。

出来れば避けたかったんだが、どうしてもターゲット非が無く、依頼人の勘違いで殺されそうになっていんだ。

ターゲットはただ誘いを断りたかっただけで、仕事が溜まってたせいで苛立ったような口調でメールを返してしまったらしい。依頼人はターゲットが嫌っていると思い込み、ターゲットの返信を全て否定し、殺してやると送ったそうなんだ。

それでターゲットは有給休暇を取り、ほとぼりが冷めるまでホテルの一室で潜伏しているっつー訳だ。


 それにしても、まさか依頼した殺し屋が、龍と竜斗だなんてな……。

一応湊の伝手で数日前から知ってたんだが、赤の他人だったらどれだけ楽だったか。

っつーのも、俺は罪のない人たちを救うことが第一で、今までにも何十人と殺される必要の無い人たちを救って、その場では殺し屋たちの怒りを買うことも多々あった。

……不思議なことに、またしばらくして阻止をすると、「お前は誰だ?」っつー反応をされるんだけどな。

 さっきも話した頭の切れる湊は、主にターゲットを安全な場所に避難させる役割を担ってて、俺は腕にそこそこ自信があるから殺し屋を足止めすることが多いんだ。


 前置きが長くなったな。そろそろ龍と竜斗が来る時間……15時55分を迎える。

何でこの時刻なのかは分かんねぇけど、中途半端な時間ほど油断するからだろうな。

俺が腕時計を確認しつつ、ホテルの裏口付近を歩いていると、自分とは違う種類の足音が聞こえた。

「……」

息を潜めて身をかがめ、従業員や業者でないことを確認する為に裏通路の角に隠れて様子を伺うと、高い位置から息を吸う音が響いた。

「誰か居るな」

低くもあり、仕事の時だけは威圧を含めることの多い龍の声だ。

「身をかがめていて、呼吸は深く落ち着いている……同業者かもしれない」

殺し屋の経歴が長いこともあって、物陰の人の気配だけじゃなく、その人物が何をしているのかも見抜く。

「そ、そうなん? でもこの情報って……誰も知らんやろ?」

と、中低音ほどの声で心配そうに訊くのは竜斗だ。

「……思い当たる人物が、居ないことは無い!」

と、龍は語尾に向かうにしたがって語気を強め、言葉尻を噛むように言うと、鞭のように(しな)る斬撃を俺の居る場所目掛けて振り下ろした。

俺がすぐに妖刀を抜き斬撃を真っ二つに叩き斬ると、龍は鼻を鳴らした。

「ほんまや……誰?」

と、竜斗は自然と言葉を零す。

「あの妖刀、間違いない……颯雅だろう!」

と、龍に大声で名を叫ばれたから、しょうがなく角から姿を現すことにしたんだが、龍は剣を抜いたままで一向に納刀しようとしねぇ。

「ターゲットを救うのは、俺ら以外の前で頼む」

と、むしろ逆に俺を苛立たせようとしてんのか、首をぐるりと回してグキグキと関節音を鳴らして言う。

 親友の前に立ちはだかりたくねぇんだが、罪の無い人が殺されている現実を変える為に俺は動いてんじゃねぇのか? と、自問自答をして気持ちを奮い立たせ、

「たとえ……龍が、敵だとしても……生命(いのち)を救うためには……まだ諦める訳にはいかねぇんだよ!!」

と、妖刀を納刀し、2人の前で仁王立ちをした。

刀は抜く訳にはいかねぇ。

大切な親友を傷つけて、罪の無い人を救える訳がねぇからな。

けど対峙したくねぇのに、龍と竜斗には依頼と信頼もあるから立ち向かってくるだろうな。

 すると竜斗は龍の肩をポンと叩き、

「ちょうどええやん。どこで刀を出すか……試させてもらうで」

と、竜斗が口を歪めて言った。

……殺し屋の顔を初めてだな。

 そんな竜斗の姿を見ながら、俺は心の中で誓った。

ターゲットを殺させない。

必ず罪の無い人を救ってやる!


 竜斗ははっきり言うとポテンシャルを感じる程の強さで、まだ粗削りだがいつか誰をも凌駕する殺し屋になることは確実だ。

俺は一切刀には手を掛けず、彼が繰り出す技1つ1つの成果を身体に刻んでった。

それを見る龍は竜斗の技の精度を見つつ、俺に申し訳なさそうに視線を遣った。

――どれ位時間が経ったんだ?

幾らスピードとパワーに自信あるっつっても、こうも一方的な状況だと俺が不利なのは明白だった。

だけどもう……このままでは身が持たねぇな……。

竜斗を傷つけず……少しでも踏ん張る為に。


――あの手を使うしかねぇな。


 俺は足元に力を入れ、能力を解放した。

能力解放状態になると、オレンジ色の髪は漆黒のそれとなり太腿辺りまで伸びる。

それに根本的な性格は変わらねぇけど、無口になる。

二重人格に少し似たようなイメージだな。

着ていた服は竜斗の攻撃でただでさえ破れてたんだが、更に檻からようやく脱走した人喰いライオンのように身にまとっているものも己の筋肉と細長く黒い布切れ程度になった。

「ふぅ……」

こうなると、片手で竜斗の攻撃が防げるからかなり楽になんだが、それでも俺は半殺し状態っつっても過言じゃねぇ。

そのうえ俺から手を出せねぇからかなり劣勢を強いられるが、少しでも攻撃を跳ね返して時間を稼げたら……ターゲットを救うことが出来る。

そう残り少ない体力の中考えていると、バッと目の前を影が通って立ちふさがった。

「お願い!! やめて!!」

影の正体は、竜斗の彼女である淳だった。

彼女の予想外の登場に、龍は特に何も反応しなかったが、竜斗は「げっ」と、分かりやすく龍の元まで後退した。

……淳は特別な存在だ。

「淳、下がってろ……。お前を…………危険な、目、には……遭わせ、たく、な……い……」

言葉にしてみれば、どれだけ自分がダメージを受けていたのか改めて直面したが、ここで踏ん張んねぇと……俺は……。

「しっかりして……!! お願い!! 死んじゃやだ!!」

と、淳は薄れゆく意識の中で泣き叫び、誰に押された訳でもないのに突き動かされたように俺に駆け寄ってきた。

竜斗も半分パニック状態になりながらも、「どないしよう!?」と、叫ぶ始末だ。

そのときに、龍が見せたあの複雑な目は……いったい…………


 俺はあの後淳によって治療され、湊からターゲットの誘導が完了したことも告げられて、すっかり安心しきってたんだが、ただの安堵では済まされないのは重々承知している。

っつーのも、また今回みてぇに大切な人に刃を向ける時が来るかもしれねぇからだ。

けど勿論、刃を向ける気は毛頭ねぇ。

なら、またこうして周りに迷惑をかければいいのか……?

そうじゃねぇよな。

……悩んでいても、仕方ねぇか。

 数日が経ち、傷も塞がった頃に湊と何気なく世間話をしているときにふと持ち掛けてみると、

「大切な人たちの為なら、俺は恨まれる悪役でも喜んで演じるな」

と、頬横の笑い皺を濃く刻みながら空を見上げて言われ、俺はつくづく湊のようにはなれねぇな、と思った。

 でもいいかもしれねぇな?

その時が来たら……

もし……もしだ。


――恨まれる悪役になってみればいい。



……後編


2015年8月19日 朝方(天気:くもり)

片桐組前裏路地

神崎颯雅



 あれから8年後の同じ日。

龍の話でもあったが、淳と竜斗の結婚式のあと龍は藍竜組を抜けて、皮肉にも今日片桐組に入り直すことになった。

だから家から片桐組に行く道の最後の裏路地で待ち伏せして、いざという時に連絡を取れるように湊には起きてもらっている。

 来たな。

朝日に映える黒髪短髪、スラッとしているってのに怪力な幼馴染が。

龍は俺に気付くと、いつもと同じくろくに表情も浮かべねぇで見下してきた。

恐らく、俺が何を言いたいのか分かってるんだろうな。

「何でいつも勝手に1人で突っ走んだよ!! もっと周りを頼ってくれよ!!」

と、俺が龍に詰め寄って叫ぶと、

「何のことだ?」

と、優しく見下して言う龍は、殺し屋の”裾野聖”の無慈悲な顔も含んでいた。

「とぼけんじゃねぇ!! 俺がお前の事……分からねぇとでも思ってんのかよ!!」

俺が壁際に追い詰めたら、龍はあっさり「あぁ」って返事した。

「俺も連れていけ」

親友をあんな危ねぇところに行かせる訳にはいかねぇっつー俺の気持ちとは裏腹に、龍は首を横に振った。

「それは無理だ」

「お前1人では行かせらんねぇよ」

そう言い返すと、龍は肩をすくめて、

「そうか。無駄な口論になるな」

と、俺を無視して行こうとするから進路を塞いで、

「待てよ……それなら、俺を殺してから行けよ!!」

っつったら、龍は手首をバキバキ鳴らしながら準備体操始めて、

「そんな暇はない」

と、丸腰であることを示すように両手を広げた。

ここで俺が引けば、龍は二度と帰ってこないかもしれねぇ。

俺は湊と交わしたあの言葉を思い出し、本気では出来ねぇかもしれねぇけど、龍に刃を向ける事を決意した。


 妖刀を抜いて龍の身体を真っ二つにするみてぇに振り下ろしたら、攻撃は避けんだだが全然反撃してこねぇ。

「……丸腰相手に酷いな」

龍は心底悲しそうに言った。

「悲しそうな演技をされても丸分かりだぜ」

と、鼻で笑いながら、次に横に薙ぎ払うように振ってやると、龍の親友の後醍醐純司が何か仕込んだのか、ツナの缶詰みてぇなのが一斉に爆発しだして、爆音で耳がイカれそうになったぜ。

「……ったく」

俺は爆風を妖刀で振り払いながら距離を詰めて、若干視界が歪む中龍の胸倉を掴んでやると、

「残像」

って、耳元で言われて、俺は徐に目を伏せた。

まさか蜃気楼のメカニズムを使われるとは思わなかったな。

「俺は丸腰だから、この後何も出来ないが……用なら訊く」

龍は煙草に火を付けながら言うと、近くの壁に寄り掛かったから、俺も納刀しながら隣で寄り掛かった。

「……お前を護りたい。だがお前に勝たねぇと行っちまう……。なぁ、俺はどうすりゃいいだ……?」

この言葉を聞いた龍は、煙草を口から離して微笑んだ。

これは龍の微笑みだ、間違いねぇ。

「それなら放っておいて欲しい。幼馴染なんだから、な?」

龍は煙草を携帯灰皿に押し付けて消すと、肩をポンと叩いて微笑みを崩さねぇまま行こうとするから、

「龍!」

っつって、大きな背中を見上げて叫んだ。

すると龍は俺の方を振り返って微笑みながら見下した。

「これ……持ってけ」

俺は腰につけていた妖刀の鞘ごと外し、龍の前に差し出した。

「……どうしてこれを。大事なものではないのか?」

龍は不思議そうな表情を浮かべ、差し出す俺の手に視線を落とす。

「あぁ」

と、短く答えると、龍は無表情だったがこめかみを触っていた。

「……本当に良いんだな?」

龍はその手で頬を掻くと、俺の目を真っすぐに見た。

「あぁ。大事なものだからこそ、お前に渡すんだ。お守り代わりだと思っといてくれ」

俺がニッと笑って言うと、龍は決意したように妖刀を受け取り、

「ありがとう」

と、早速鞘から僅かに抜き、太陽の光に反射させながら言った。

それから龍は何も言わずに背中を向け、自分の刀の下に隠すように差しながら歩いていった。


 たとえ俺がお前を助けに行けなくても、俺に代わってその妖刀が守ってくれる。

これまでも、これからも、ずっと応援しているぜ。


 ”かけがえのない君へ贈ろう

 絆の歌”


 『絆の歌』 より抜粋

淳で~す。


おまけのお話は、乞田さんに代わって湊、龍也、颯雅、私が後書きを担当します!

いや~それにしても、颯雅に特別な存在って言ってもらえて、ほんま嬉しいわ~!

私にとっても颯雅は特別な存在やけど、勿論竜斗が大好きな事には変わらへんで!

えっ、何て? 今誰か「それは不倫でしょ」って、言ったやろ!?

そんなんちゃうに決まってるやん! 私は竜斗一筋やからな~!


という訳で、次回は私のお話です!

投稿日は8月26日(土)か27日(日)です。

もう夏休みも終わりやんなぁ~……めっちゃ辛いわ、ずっと夏休み続いてほしい……。

最近天候も良くないし、体調には気を付けてな!

幾ら私に治療能力があるって言っても、皆の治療は残念ながら出来へんねん……。

特に夏バテには、ほんま気を付けてな~!


んじゃ、またね~!


龍勢淳

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