ダンジョン 後編
「爆音?」
「本当だぞ!カリナも聞いたんだし!」
「う、うん…」
見回りに行っていたジャンとカリナはミラン達の元へ一旦戻り、謎の爆音について相談していた。
ミランの側には小さな寝息をたてるサーシャの姿があり、いまだに起きる気配はない。
「結構上の階で鳴ったみたい…多分だけど…」
「カリナが言うなら間違いはないだろうけど…ダンジョンの中で響き渡るほどの爆音を出すようなバカはいるのか?そんな事したら魔物達の良い目覚ましじゃないか」
「そうなんだけど…おかげでストレートスネークから逃げれた…」
「そうか…って…!?ストレートスネーク!!!!!!?????」
「ちょ、声大きいよ…」
ミランは突然の出来事に驚いて、いつもの冷静な姿は無かった。
「あぁすまん…それでよく無事だったな…」
「爆音の方に行ったんかもな、でもここまでは聞こえなかったのか?」
「全く?静かなもんだぞ?」
みんな揃って会話がなぜか止まり、ここの静寂を改めて実感する。洞窟内は基本的に無風で本当に耳鳴りがするほど静まり返っている。ただ薪がパキパキ燃える音とサーシャの寝息を除いて…
「…ん?なんだか今何か聞こえませんでした?」
突然カリナがキョロキョロと音の方向を探り始める。
「こ、怖いこと言うなよ…」
「いや…確かに聞こえる…聞いたことない音だ…」
当たり前だ。なにせ、この音の正体は…
《バババ!! バババ!! バババ!! バババ!! バババ!!》
耳をつんざくような強烈な爆音が、歯切れよく3回ずつ鳴り響く。かと思えば
《ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ…!!!!!》
終わりの無いような爆音も鳴り響く。まさにそこは戦場だった…
「トラップ…?それにしても数が鬼畜過ぎよ!」
「俺に言うなよ!って…トラップ!!!?」
ほんの数分前。あの魔方陣を破壊した3分後ほどしたころ事態は一変した。
今、空のボス部屋だったはずのグラウンドほどの広さがある部屋には、山ほどの魔獣が埋め尽くしている。
それも徐々に増えたわけではない。何処からともなく一斉に三ヶ所の入り口から流れ込んできた。
今はM4A1の三点バーストと呼ばれる、一度引き金を引くと三発発射されると言う銃を使っているが、圧倒的に火力不足で、いつ数で押されるかわからない。
他にもMINIMI軽機関銃と言う継続した射撃ができる銃や、シヴィが上から投下する手榴弾など、できることすべての火力を注いでいる。M2重機関銃を使えば今よりも戦況は良くなりはするだろうが、俺たちへの跳弾を考えると、それは得策ではない。
(畜生!撃っても撃ってもキリがない…一度に吹き飛ばすか?いや、吹き飛ばしたところでまた増えるだけだ…くっそ…)
ただやけくそに撃ちまくる。ただそれしか現状はなかった。
「これでも食らいやがれぇぇぇ!!!」
バシュゥゥゥゥゥ!!!!と、飛んで行くRPG-7。ろくに狙いもせず放たれたその弾頭は、迫り来る魔獣の壁に突き進む。その距離7~80mほど。一瞬もたたずに着弾した弾頭は分厚い戦車装甲をも貫く高温高圧のメタルジェットを形成する。その衝撃で数体が一瞬で肉片とかし十数体が吹き飛ぶ。しかし、崩れた隙間を埋めるようにみるみるうちに塞がれてしまう。
《ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ》
止まない銃声に止まらない魔獣。もはやこれは、ダンジョンVSMagic Leadの負けられない根気勝負だ。
しかし幸いなのは魔獣側に遠距離の攻撃が出来るものが居ないこと。近づけなければ勝ち目はあった。
「いつまで続くのぉ!!!!」
「居なくなるまでです!」
「それしかないだr…って!?飛ぶやつ来たぁぁぁ!!!?」
それはコウモリのように不気味に羽ばたきながら群れを作っている。その群れは最初渦を巻くように集まったが、やがて俺たちに方に飛んでくる…口と思われる箇所から飛び出た鋭い牙から滴る液体。それは地面に落ちたとたん煙となり地面を溶かした。
「うっわ!?近づけさせるな!あの液はヤバい!!」
直ぐ様、銃口を飛ぶ敵に向けるが当然当ててる実感は無かった。マガジン1つを使いきっても、落下が確認できたのはたった数羽…こんなペースでは直ぐに強酸性かは分からないが、岩を溶かした液体の雨を食らうことになりかねない。
「結奈!!ちょっと地面は任せて良いか!?」
「良いよ!なるべく早くね!」
火炎放射機でまとめて焼き殺すと言う手段もあるが、ここは洞窟。そんな事をすれば確実に酸欠になってしまう。
「見てろよぉ…」
俺はガチャリとコッキングレバーを引く。初弾が装填されいつでも撃てる状態になる。
あとは簡単。群れに向けて引き金を引くだけ…この状況ではあまり狙うと言う作業は要らない。
ただばらまく。それだけに特化したとも言えるこの銃。
【サイガ12K】
《ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ!》
今までとは違い、重い銃声が響く。それに比例するように、バタバタと落下して行く飛ぶ敵。あきらかにさっきとは効果が違う。今まで俺は“奴等”をモンスターもしくは魔獣と思っていた。今飛んでいる奴等も同じだ。
でもよく考えれば鳥じゃないか?鳥なら鳥で撃ち落とす為の弾薬がある。銃がある。そんな単純なことだがちょっと前までパニクッて忘れかけていた。
「すげぇな…バードショットって…」
その名の通り、鳥撃ち用のショットシェルで、5mm台の小さな玉を1発で数十個同時に撒き散らす。
まとまって飛んでくる奴等には効果絶大で、1発撃つ度に十数羽落ちてくる。それがセミオートで撃てるとなれば、形勢は逆転する。
あっという間に半減した鳥のような魔獣は、訳のわからないうちに仲間が死んでいく姿を見て何を思ったか、我先にと逃げ帰って行く。残ったショットシェルを使いきるように、逃げ帰る時にも3発ほどお見舞いした。
「次はこいつら…って!?」
目の前に腕らしきものがブーメランのように飛んでくる。その光景はトラウマになるほどのホラーだった。
よく見れば、シヴィの手榴弾で吹き飛ばされた体の一部だと気づく。
「さて、どうするか…」
数十m先の大軍と、それに勝るとも劣らない膨大な数の死体。きっと、この光景だけ切り取ればどんな歴戦の兵士でも“普通の戦争”を選ぶだろう。
また洞窟と言う閉鎖的空間での戦闘は、どんな訓練を受けたところで慣れることはない。まして、ろくな訓練もうけているはずもない俺は、心拍数、脈拍が増え、背中には冷たい汗がつたる。こう見えて内心かなり焦っていた。いつもなら湧いて出てくるような兵器の知識も、今回はなぜか鈍い。集中できないとはこの事を指すのだろう。
「吉晴さん、ちょっとごめんなさい。」
いつの間にか俺の横に来ていたリュミがそんなことを言い残し、爪先でたつように背伸びをして、その小さな唇を俺の首筋に当てる。
事が終わったのかゆっくり俺から離れる唇には、微かな血の色がうかがえる。
「一気に片付けます!」
途端にリュミの体が緑色に輝き始める。それはまるで緑の炎が燃えてるかのごとく揺らめき、周囲にあるものすべてに威圧する。徐々にリュミの体にまとわり付くように渦をなす。
だが次の瞬間には、リュミの姿はそこにはなく、ただそよ風が残る。
「イヤァッ!!!!!」
リュミは赤く光る目で獲物をとらえるかのように、敵を両断して行く。そう、リュミは自分から大軍のなかに突っ込んでいってしまった。そして敵を両断したその腕は少し歪んで見えた。
「リュミ!!!!!」
超高圧に圧縮された固い空気は、リュミの腕に巻き付くように渦を巻いている。歪んで見えたのは光の屈折率が変わっているからだろうか。しかし両断と言うよりは“爆ぜた”に近かった。
敵の中を錯乱するように戦うリュミは、どこか上品でまるで踊っているかのようだった。
そんな可憐な動きでも瞬く間に敵を倒して行く。
「身体強化のブーストを使ったのね…」
「ブースト?」
リュミの姿を見るシヴィがボソッと呟く。鳴り止まない騒音の中でも偶然聞こえた一言だった。
「人には魔力を流せる量も決まっているの。流れる魔力が多いほど魔法自体の効果も上がるけど、それだけ身体への負担も大きくなる。だから普段は体が無意識のうちに制限をかけているわ。」
何だか人間の筋肉みたいだな…筋肉が本気出せば自分の骨が耐えれないらしいから、かなりのリミッターみたいなのが掛かってるらしいと聞いたことがある。
「でもリュミはその制限を自分の意思で解除できる数少ないうちの1人。」
「それってヤバくないか!?」
「…えぇ。不幸にも身体強化のブーストは特に危険ね。今のリュミの急加速と急停止で体はとっくに限界越しているわ。いくら身体能力の高いヴァンパイアだとしても、いつ骨が折れても可笑しくない。」
「だったら…」
俺はシヴィの顔を見たら、言いそうになったことが引っ込んでしまった。リュミを見つめるシヴィの表情はどこか寂しくて…諦めのような、そんな物が伝わってきた。
「これはリュミが選んだこと。リュミも危険性の事くらいは知っているわ。それに私達が止めたところでリュミは絶対にブーストは捨てない…。」
そう言い残したシヴィは早々に敵の真上へ戻る。俺はただいつもより暗いシヴィの後ろ姿を見守っていた。
気づけば敵の増加もとまり数が減っていて終息が期待できる量へと変わっていた。
だが、このダンジョンはそんな俺達の甘い理想など、簡単に打ち砕いて見せた。
このダンジョン…いや世界中のダンジョンの生まれた意味。存在理由を知るものは人間にはいない。
なぜなら…ここは…
最近僕の文章表現の無さに気づき始めました…。なんと言いますか書いていて引き込まれなくなってきています…。
さて、もうそろそろチートの完全解放しても良い頃合いに思えます。
これからもよろしくお願いします!




