出会い。
随分、間が空いてしまったことにお詫び申し上げます。
「おいおい、ねぇちゃんよ~。こんな奥深くにぁ何もねえぞ?それに、こんな簡単なダンジョンに俺含めて8人っつうのは、いささか多すぎやしやせん?」
「まぁまぁ、こんな簡単な仕事で大金くれるんだから文句言っちゃいけねえよ」
「ハハハ、全くだ!」
洞窟のなかを進む一団のなかで、ねぇちゃんと呼ばれたフードを深く被った女はそんな会話など聞こえていないと思わせるように、ただ先を急いだ。その表情はうかがうことはできないが、確かに不気味に笑っていた。
《ふふふふふ…心配せずともあなた達 実験材料は、もうすぐ文句など言えなくなりますゆえ…》
その言葉は男たちには届くことはなく、先頭を歩く女のあとを追うだけだった。
「結奈、あとは俺がやるからリュミの側に居てやってくれ」
「分かったよ!」
「吉晴様!私もお手伝いします」
あのあと、身体強化と風の魔法を使い強引に敵陣に突っ込んだリュミは、敵を内部から混乱させて次々と壊滅させていった。
しかし、リュミのまだ幼い身体では身体強化に対応できず、案の定徐々に劣勢になりあと少しで危ないところだった。早めに戻したから良かったものの…あと少しで敵のど真ん中で動けなくなっていたことだろう。それが今のリュミの状態。
しかし、リュミの活躍のお陰で敵は確実に減ってくれた。と言うのも山のような死体で銃弾が効率よく当たらなかった。
「ブーストってのも気にはなるけど、今のところは問題はなさそうだな…。 よし、やるか…」
「あとは片付けるだけです!」
俺とミーシャは、残りの十数体を倒すべく、銃を構えた。
「ふぅ…終わりましたぁ…」
「あぁ…やっとだな…」
今まで元ボス部屋らしき場所を埋め尽くしていた死体は、床に吸い込まれるように無くなっていった。
この光景を見て、改めて戦いの終了を実感できた。
でも他にも嬉しい事もあった。
「うわぁぁぁ♪魔石がこんなに…はっ!?これは火の魔石!?あ!あっちには風の魔石がぁ!」
目が覚めたリュミが、魔石の天国とかした元ボス部屋で跳ね回っていた。
正直、異世界小説ほどの知識はあるものの、この世界での魔石の有用性が実感できない俺としてはリュミの笑顔の方がよっぽど印象に残った。
「でさ、これからどうするわけ?」
「ん?」
「上へ戻るか、先に進むかってことよ」
「あぁ…そうだな。」
大した怪我もなければ…自然回復する俺は除いて、結奈も怪我はないみたいだし、シヴィもミーシャも問題ないみたいだな…。問題はリュミだが…
「風の魔石がこんなに手に入りましたぁ♪…売るのは勿体ないぐらいです♪」
「…大丈夫そうだな。」
「え?」
4次元袋(仮)に詰め込むリュミはこちらの気も知らないで、コク?っと首をかしげた。
「そうね、逆にあんなに倒したんだから、ここから先は楽なはずよね。今のうちに進んだ方が良いかもしれないわね」
「えぇぇ!?ちょっと待って!まだ魔石を全部集めてないから!」
ハワハワと急いで魔石を広い集めるリュミを見ていたら、魔石コレクター見たいな称号が浮かんできた。
てか、口調変わってたよな?
「もう少し待ってやるか…」
「リュミさーん、手伝いますよぉ~」
「あ、私も!」
「仕方ないわね…」
「ありがとぉございますぅ!」
結局、全ての魔石を回収するのに30分近い時間を費やした…
魔石集めもこうも数が多いと大変なのもで、農作業みたいに屈む体勢が続くためかなり腰に来る…
「ふぅ。これで最後です。」
「やっとか…」
そうして元ボス部屋を出るのはそれから10分程休憩したあとのことだった。
「結構深くまで来ましたね~」
「さっきの部屋から…2時間位歩いたか…」
「…初級のダンジョンとはいえ…まさか1日…と言うか半日でここまで来るとは思わなかったけど、思った通り敵は少ないみたいね」
2時間休むことなく歩き続けた結果、すでにこのダンジョンの2/3ほどの所まで来てしまっていたらしい。ここの辺になると暗視装置も要らないほど明るい。
入り口を覗いたとき俺は少しガッカリしてしまった点があった。それは《光苔がないだと!?!?》っていう重大なことだった。その名の通り苔類で岩に張り付き、光る植物。と言うのが俺の異世界知識。必ずと言って良いほど洞窟とセットで出てくる光苔が入り口付近では見られなかったため落胆したものの…
「うわぁ…本当にあるんだなぁ光苔…さすが異世界だわ!」
「本当にキレイ…優しい黄色い光が照らしてる…」
俺と結奈が、光苔と鼻が付きそうになるほど、まじまじと見つめていた。
見れば見るほど不思議な気持ちになってくる。
「何でここからは光苔が育っているんだろうな…」
「環境的な問題もあると思いますが…一番は乱獲でしょうね…」
「乱獲…?」
「今でこそ魔法具が発達して光苔の需要は無くなりました。と言っても魔法具が発達して一般の人が扱えるまでになったのは、ここ数十年の事なのです。それまで光苔がかなり高値で取引されていました。」
「なるほどな…」
昔は今よりもずっと光苔が沢山あったんだろう…今ではこうしてかなり奥深くまで来ないと、群生していない始末…。どこの世界でも人間は大自然への加減を知らないし、気付くのは壊してからだ。しかしこの世界は科学に手を出していない分、地球よりはまだ“マシ”かもしれない。火力発電所もなければ、自動車もない。火と言えば日常の生活に使うちょっとしたものか魔法のみ。地球に比べたら驚くほどのクリーンエコ社会だろう。
「どこの世界でも、人間は自然を壊すのか…」
「吉晴君…?」
「あぁ、何でもないよ…さぁ進もうか」
世界は違っても人間の欲と言うものが底を知らない事実は変わらなかった。そして決して自分もその例外ではないと自覚したら、自然と声のトーンが下がってしまう。
【口だけは、みんな言えるんだ…どうせ君もあいつらと……】
「!!??…何だ今の…」
突然聞こえた声。いきなりのことで周囲を確認したが、やはり結奈達しか居ない。
謎の声の主を突き止めることはできず、結局あやふやなまま、ひとまず置いておくことにした。
「ところで吉晴さんは、もとの世界ではどんな生活をしていたんですか?」
洞窟も明るくなって少しだが緊張もほぐれたのか、リュミが聞いてくる。さっきの出来事で色々考え事はあったが、リフレッシュする気で考えてみる。
しかし、
「…え、あぁそうだな…なんと言うかぁ」
誇れるほどの武勇伝もなければ、笑える冗談も思い付かない俺は内心かなり焦る。だって…
(オタクだったんだもん!異世界大好きだったもん!って結奈!笑うんじゃねぇ!)
結奈がクスクスと静かに笑う。悪気がないのは分かってはいるがやっぱり腹立つ…
「どうしたんですか?いけないことを聞いてしまったのでしょうか…」
「違う違う、普通の生活だったぞ?この世界みたいに武器なんか要らなかったし、退屈な毎日を過ごしてただけだよ」
「私に言わせれば、勇者の世界は夢の世界なのに…」
ミーシャは、やたら俺達がいた世界に憧れを抱いているようだが、あの世界でも争いがないと言えば嘘になるし、全ての人が平等で幸せかと言えばそれも大嘘になる。
お金もなく食糧もなく、産まれたばかりの幼い子供までもが飢えで死んで行く。そんな世界が良い世界な訳がないと思ってしまう。しかし皆が幸福…そんな世界は夢物語で、実現なんて不可能だと少し考えれば分かりきっていることだ。
「俺達の世界も平和って訳じゃないんだ。差別もあったし貧困もあるし、間違いで命が奪われるって言うこともある。そんな夢に見るような世界じゃないよ」
「…。そうなんですか…でもこの世界を救ってくれたのは紛れもない事実です。私は、やっぱりいつか見てみたいんです。吉晴様が育った国を…」
今のミーシャの目は好奇心だけではないような気がした。でもそれ以上の事は俺には分からない。
ただ、ミーシャがあの世界に産まれたなら、あの世界も少しは良くなっていたかも知れないと思った。
「魔力が存在しないって言うのは、魔導師にしたら最悪の世界よね…」
「でも私も行ってみたいなぁ、」
「ほんとぉ?そうなったら私が案内してあげるよ♪」
「いつかな…」
まぁ、世界を渡るなんて方法は分からないが、それが出来たとしたなら少しぐらい彼女達に見せてあげても良いかな …
「おはよう」
「おはよう…って、あぁ魔力切れで…」
パチパチと薪が燃え、揺れる炎に照される彼女が、ほっぺに枯葉をくっ付けながら目をさました。
「大丈夫、2、3時間ぐらいしか寝てないよ。」
「光苔が光ってるってことはそうみたいね…で、私が寝ている間に何かあった?」
「あぁ、まずあっちに無光樹があって薪が調達出来たことと…モンスターがどこにも居ないことだな。」
「はぁ?居ない?そんなわけないでしょ!」
あの爆音が聞こえてからと言うもの…ほぼ居ないと言って良いほど少なくなった。
事の真相が分からないことが不安ではあるが、今の俺達にはそれ以上ないチャンスでもあった。
「今のうちに出口を探そう。今しかない。」
「本当に居ないんだったら、そうかもしれないけど…さっきから何か変なのよね、下の方が…」
サーシャが下に指差す。その顔はどこか不思議そうにつくられる。
「なんだか、色んなモノが混じっているような…そんな感じがする…」
「いっぱい集まってるってことか?」
「ううん…違う。1つになってる。有り得ないんだけど1体から色んな魔力が伝わってくる…それも周期的に…例えるなら心臓の鼓動みたいに」
この世界にはまだ解明されていないことが数多くある。その中に魔法に長けている者は、他の魔法に長けている者の居場所が無意識のうちに分かってしまうと言う現象があった。しかも場所だけでなく、魔法の属性、魔力量なんかも確認されている。
これらには色んな説が唱えられているが、どれも仮説の域を出ない。ただ何となくそうなるものと言う曖昧な解釈が一般的となっている。
「それは気になるけど、今は光苔が光っているうちに上に向かって出口を見つけるのが妥当だろう。」
「…そうね。そうと決まれば早いうちに出発しましょう。ジャンとカリナも準備してね?」
「りょーかい」
「わかった…」
数分で身支度を済ませた彼らは、最後に今まで暖炉となっていた火を消して再び幾分か光苔の灯りでマシになった洞窟を進む。
靴底のコツコツコツと言う音だけが、無音に近い洞窟に響く。
「本当にモンスター居ないのね…何だか気味が悪いわね…」
「同感。」
モンスターが居ないことがむしろ、不気味に思えてしまうほど、何となく感じる不気味なオーラが漂う。
今までけして少なくないダンジョンを見てきた彼らも、今回ばかりは警戒を今まで以上に高める。それほど不気味だった。
「サーシャ、まださっき言ってた奴は続いているのか?」
「えぇ、聞き続けてると頭が痛くなるわよ…あと、近くに不思議なのが居るのよ」
「またかよ!?」
「…今度はあんまり気味悪くはない…かも?」
「かも?」
「なんだか、不思議な感じがする…」
ミランは「不思議なことが多いなぁ…」と呟き、その会話はいったん幕を閉じる。
一同は、上へ上へと足を進める。
「そういや、勇者って信じるか?」
「あぁ、この間随分騒いでいたやつか?ま、噂ほどあてにならない物はないけど、火のないとこには煙はたたないって言うし、信じてる訳じゃないけどガセネタでもないんだろうな…」
「噂では勇者は二人で、トローデスのお姫様と、ヴァンパイア属の子と、妖精みたいのがくっついてるらしいなぁ~。」
いくら長期間ダンジョンに潜っているとはいえ、戦勝品の換金や買い出しなどでギルドなどに顔を出せば、嫌でも耳にする情報だ。
「勇者かぁ~…お父さんとお母さんに紹介したら喜ぶかなぁ~」
「ん?ぁ、サーシャの家族って魔道具の店だもんな、この前も変なものを見せられたっけ…」
「まぁあれね、最近は販売だけじゃなくて骨董品も集めるようになったみたいだけど…いろんなものが溢れかえって大変なのよ…今はどうなっているのかしら…」
まるで世話のかかる子供を相手にしているかのように、腰にてをあて深くため息をした。
しかし、魔道具を取り扱うにはかなりの難しさがついてくる。たまに呪いとかがくっついたものを扱わねばならなかったり…。サーシャが魔術を修得する学校をへて若くして魔導師という称号を授かることができたのも、そんな家族の遺伝的ものかもしれない。そんな才能をもって生まれた彼女が、家を継ぐことはせず、こうして彼らと旅に出るに至るのは別の話だ。
そんなとき、静かに忍び寄る影には気づくことができなかった。
「そう言えばさ、ヒッ!?」
「サーシャ!!」
「お前!誰だ!?」
サーシャの首に突きつけられた刃。大きさ的に短剣の部類にはいるその剣は、確実に致命傷を与えられる。
「…。」
サーシャに短剣を突きつけている正体は確認することはできないが、サーシャの影に隠れていることからかなり小柄なやつだとわかる。
《リュミ~!いきなりどうしたんだ?》
場の雰囲気に合わない間の抜けた声が聞こえたのは直後だった。
「って!?リュミ!?な、なにしてんだ!!!」
「え、あ、はい…すみませんでした…」
サーシャはいきなり拘束されていきなり謝られて、何がどうなっているのか理解できずにおどおどしている。
一瞬だが強い殺気をあてられた彼らも、ポカーン…と口をあけるが、すぐに正気に戻る。
「お、お前ら!何したかわかってんのか!」
「今のはれっきとした敵対行為だ。私達に非でもあったか!」
「ま、まさか盗賊?」
カリナの一言で、身構える。
「っ…違う!俺達はただの冒険者だ!」
いきなりのリュミの謎の行動に理解を苦しむが、今は彼らを何とかするのが先だ…
「んだと!?ならサーシャに突きつけたその剣はどう説明するんだ!?」
彼らの怒りは収まるきざしを見せない。
そんなとき、結奈達が合流する。
「ど、どうしたの?大声聞こえたけど…」
リュミの話を聞くには、彼らの方向に殺気を感じたから先手をとったらしいのだが、どうやら違ったようで今の状態に至る。
「確かにこの辺から感じたんです…でも、本当に、本当にごめんなさい…」
純粋なリュミが深く頭を下げた謝罪が、彼らに届いたのか少し収まったような気がした。
「もう、私は構わないんだけど…もし本当に盗賊の類いだったら、今みたいな謝罪なんかないと思うし、だから…ね?」
「サーシャがそれで良いなら、良いけど…」
「確かに、賊が謝罪なんか聞いたことがないからな…それに、彼女が感じた“殺気”もわからない事もない。俺も何かがおかしいとは思っている。」
そう言うと、キリッとした目付きの彼が自分達の来た道を振り返る。
「あ、ありがとうございます!」
最悪が訪れるのは、リュミがそう言った直後だった。
《グシャ…》
「え…?」
そんな音と共に崩れ落ちるカリナ。
その小さな体を貫通する謎の何か。
俺達はただ呆然と脳が追い付くまで見ていることしかできなかった。
「ケホッ…あれれ…なに…これ…」
口から血を吐く光景を見たショックで、やっと理解できる。
「カリナァァ!」
「う、嘘だろ…」
「っ!し、止血だ!早く!」
カリナは力なく意識を失う。
徐々に顔色が悪くなり、周りに恐怖感を与える。
「吉晴くん!」
俺は洞窟の奥に銃を構える。
薄暗くて見えないが、確かになにかいる。
ただ者じゃない。それだけがわかった。
【ふふふ…これはこれは…なんだか、懐かしい感じがすると思ったら……ふふふ…あははははは…!楽しみですわぁ】
狂ったように高笑いする女の声。その声は聞くだけで寿命が縮むような感覚さえ思える…。
そんな最悪に打ち勝つ力。吉晴達にあるのか。
世界の命運をかける戦争が始まる。
夏休みに突入したので、投稿ペースをあげようと思います。これからも宜しくお願い致します!




