ジュネーブ条約
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海龍種を何とか力押しで倒した吉晴だったが、実質敵国であるガレッド帝国の水兵を捕虜とし、彼らをトローデス王国に引き渡しても、ガレッド帝国に送り返しても待ち受けているのは絶望的なものだ。そこで捕虜の今の段階で最上階級の人物と話し合いをもうけることに決まった。
「その、偉い人はこの部屋にいるのか…?」
正直、偉い人と話すのは王様以来でちょっとばかし緊張しちまっている。そんな俺の様子を察したミーシャが励ましてくれたのかは分からないが元気付けてくれた。
「今は吉晴様の方が偉いのですよ?そんなに縮こまらなくても大丈夫です。いつも通りで問題ありませんよ。大抵のことなら私でも決定権はありますから♪」
「そ、そうなのか…なら行きますか!」
俺達は鉄製の飾り気のない扉を開けた。
「君が…この艦隊の指揮官かね…?随分若いな…」
「そうですね、なにぶん訳ありなもんで…」
ここで妙な静けさが訪れた。意外にもこの静寂を絶ちきったのはガレッド帝国の指揮官だった。
「率直に聞こう。そこの彼女から聞いたが本当に君達はトローデス王国軍ではないのか?」
そこの彼女とは雷のことだろうか…それにしてもこれだけの艦隊で軍属ではない。と言うのだから疑うのも仕方ないと言うものだろうか。
「確かに私達はトローデス王国の味方ですが、軍ではありません。今回戦闘になったのも単なる偶然に過ぎませんよ。」
納得できない様子だったが、ガレッド帝国の指揮官は切り替えて問いかけてきた。
「となると私達の艦隊は軍でもない民間人にやられたと言うわけか…なにぶん相手が軍だったら捕虜がどうなるかは知っているのだが、民間人に負けた軍が居ないからこれからどうなるのかわからぬ。」
ガレッド帝国の指揮官は皮肉のように苦笑した。自暴自棄というやつか?
「私達は少しばかり民間人とは違うのですよ?」
指揮官は少し疑問な顔を俺に向けてきた。目が誰だこいつ?っと、俺に問いかけてきている。しかし声の主であるミーシャは話を続けた。
「すみません。いきなり入り込んでしまって。私はトローデス王国の第三王女、ミーシャリア·トローデスです。」
指揮官はもう頭が混乱していて驚くにも驚けずにいる。
「ちょっと待ってくれ!トローデスの姫は軍属でもない艦隊に乗るのか!?」
「いいえ?そんなことはありませんよ?私は吉晴様の妻ですから♪」
おいおい…そんなこと言って良いのかよ?一応敵だぞ?
「信じられん…」
「無理もないでしょう。それに彼らはこの世界の人間ではないのですから♪」
いきなり指揮官の顔つきが真剣になった。どうしたのだろうか…
「彼ら…この世界の人間ではない…つまり…君達は勇者と言うことか?」
あぁ~めんどくさくなりそうだ…どうしてくれるんだよミーシャ…
「そういうことになっています。あ、私は綿嶬…新島結奈で、す…。」ポン
あ、自滅した…そう言えばこの世界には結婚したら名字が変わると言う風習は無いみたいだ。
ここからは俺の出番か…
「確かにこの世界の伝説の勇者と私達は同じ国に住んでいたのでしょう。そしてとある事情でこの世界に来てしまいました。そしてこの艦隊は私の能力によるものです。」
それを聞いた指揮官は大きく溜め息をしたあと敵意は見せずこう続けた。
「勇者様に喧嘩うっちまうとは…運のつきだな…我々をどうするのだ?」
「特になにもしませんよ?もともと軍が民間人や捕虜に危害を加えることは私達の世界では禁止事項ですので、もしそれを犯せば重大な罪になります。制限はついてしまいますが、基本的に港につけば自由にしてくれて構いませんよ?」
「そんなことをすれば…敵を助けるなど国家反逆ではないのか!?」
「そんなことは私がさせませんよ?」
ミーシャが心強いことを言ってくれた。それにしても俺は軍じゃないから軍法会議にかけられる心配はないし、公にガレッド帝国を敵国と発表していないトローデス王国は俺が彼らを助けても敵兵を助けたとは言えないのだ。しかもトローデス王国の法律には他国の兵士を助けてはならないと言う文言も何処にもない。
「つまりです。俺達は海龍種討伐中にガレッド帝国主力艦隊に遭遇。それを撃破したが敵兵の生存者は見当たらなかった。っていう設定にしましょう。それが一番楽です。」
「そんなことで良いのか?」
「はい、それには1つ条件があります。海賊の討伐です。討伐できればトローデス王国から報酬も貰えますし私からも多少の武器は渡しましょう。」
指揮官は少し悩んだようだったが、比較的あっさりこの要求を受け入れてくれた。出港前にふと、耳に入れた話で海賊の被害が後をたたなくなってしまっているらしい。この際にいい仕事なことを踏まえて、彼等に一任する事にしたのだ。
「それも良いかもしれないな…もともと私より上の人が居たんだが、このイカれた作戦を考えたのもそいつだ。幸いあいつは俺の目の前で炎に焼かれて死んださ。」
聞くところによると、この作戦は志願ではなく、強制的に参加させられたらしい。
「詳しい話は陸に上がってからにしましょう。それにしてもお腹減りませんか?こっちはもう腹ペコですよ」「確かにな、こちらは朝からなにも食っていないな…」
「なら夕食にしませんか?港につくのもまだ時間はあるはずですから」
ミーシャもノリノリで結奈はウキウキしている。
「今日は焼き肉パーティーをしよう!」
「雷は他の人を、指揮官さんと連れてきてくれ。俺達は甲板で準備してるから。」
雷は指揮官を連れて早々と部屋を出ていった。
甲板に出た俺はまずBBQセットを沢山だし、火をガスバーナーでちゃっちゃとつけていく。
次にテーブルと、椅子だが近くに喫茶店があった事を思い出してそれをまとめて出す。肉は沢山の種類を揃えた。ちょうどその時、捕虜たちを連れた雷が甲板にやって来た。みんな改めてみる現代艦隊のスケールに驚いている様子だが、落ち着いている指揮官を見て静かにしている。
「これで好きなだけ肉を焼いて腹を満たして下さい。もし火が弱くなったら、そこの黒い木を火の中に放り込んでくれたら良いです。ではどうぞ!」
真っ先に飛び付いた結奈に釣られて、徐々に食べ始める人が増えて行った。
どうやらBBQは異世界でも通用するようです。
「俺達も食べますか!」
「このお肉美味しいですね♪」
「幸せ~」
ミーシャと結奈の笑顔が見れて、色々あった1日を振り返ってみた。明日、港に帰ればガマデスの問題が待っているが、それにはすでに取って置きの秘策がある。これを使えばガマデスの失脚は間違いない。
「ま、今は楽しみますか…」
海龍種を引っ張っている艦隊はかなり速力が落ち、何時もよりも時間がかかる。その間、捕虜たちの晩餐会は終わらなかった。
「ちょう…艦長!起きてください!もうすぐ港につきますよ?」
「そうかそうか…やっとか~」
少し寝る予定が、大分寝込んでしまったみたいだ…
「って、起きれないし。」
「ま、女の子に囲まれるのは構いませんが、程ほどにしといた方がいいですよ?」
「ハーレム願望は少ししか持っていないぞ?」
「少しあるんですか…それも良いかもしれませんが、増やしすぎると、あとが怖いですよ♪」
「何で最後嬉しそうなんだよ…」
「それはそうとして、早めに艦橋に来てくださいね?」
「分かった…」
雷は子供っぽいと思っていたんだが…意外と大人な女性なのかな?
「それにしても…」
無防備にも程があるだろ…。
こうしてまた波瀾万丈な1日が幕を開ける。
「で、あとどのくらいなんだ?」
「30km位ですね。」
30km…本当にもうすぐだな~
「よし、このまま港の1km手前まで進んでくれ、この船で港に入ったら座礁しちまうからな」
「船が入れない港…」ププ…
雷が笑った!笑顔じゃなくて、笑った!これは貴重な瞬間を捉えたぞ!
「何ですか?艦長…って、私だって笑いますよ!全くもう!」
「悪い悪い…」
そんなことを話しているうちに目的の場所まで到着する。すると港から大急ぎで5隻のこの世界で言う戦艦がやって来るではないか。
「ここら辺で停泊するね?」
1km沖でも船底はギリギリで錨が直ぐに海底についてしまった。
「トローデスの海岸は遠浅なのか…何とも現代艦には使いずらそうな港だ…」
「すみません…」ぐすん…
あ、ヤベ…
「ミーシャのことを責めたんじゃないぞ!?な、な?」
「そうだよ?ミーちゃん!吉晴君は悪気があった訳じゃないから!」
いつの間にか、結奈がミーシャをミーちゃんって呼び始めてるし…
「ね~ぇ、あの船の人たち何か話してるよ?」
「ちょっと甲板出てくるわ~ミーシャも…」
「私決めました!深い港を国家事業で造りましょう!」
「お、おう…そうか期待してるぞ…」
この宣言で、僅か2年でこの世界最大の港が完成するのだが、それはまだ先のことだ。
何だかんだでミーシャと結奈とで甲板に出て、木造戦艦の人達と対面した。
「何者だ~名をなのれ~!」
あ、足震えてる…警備兵か…まぁこんなでかい艦隊だからな仕方ない。それにしても数少なくないか?どうしたのだろうか…
「トローデス王国第3王女ミーシャリア・トローデスです。海龍種討伐を成功したと王にお伝えください。」「k、海龍種!?ひ、姫様のご命令だ!急いで伝書鳩を放て!」
通信手段は伝書鳩なのか~てか居るのか鳩。
暫くして違う船が現れた。ガマデスの野郎だ。
「姫様のぶ、無事なお帰りを…お待ちしておりました…」
姫様だけね。
「それより何故これ程までに警備が手薄なのですか?」
「主力は大規模演習中でして…」
「ま、良いでしょう。それで主力はいつ戻るのですか?」
「明日の昼頃には…」
あんなことがあったあとだ。今警備が疎かなのは非常に不味い。ガマデスは知らないようだが一回ガレッドの主力が攻めてきている。
「雷。皆に明日の昼頃までこの海域を警備していてくれないか?と伝えてくれ。」
返事はみんな引き受けてくれた。
「しばらくこの艦隊でこの海域を警備しましょう。」
戦艦組とイージス艦組に別れてまた沖へ出ていった。本当に申し訳ない。
「さ、王宮にいきましょうか。」
俺は雷の上にギリギリ乗っかるヘリを召喚した。ガマデスは乗り物だとも思っていないだろうが、悪いがお前の座る座席は無いんだ。
「私達はこれで王宮まで行きますので、ガマデス殿は急いで王宮にお越しください。あ、そこの彼らは私の客人です。2、3日ほど面倒を見てやってください。」
ガマデスは口にはしないが心底めんどくさそうな顔をした。
「私からもお願いします。私が無理いって連れてきたんです。」
「承知しました…。」
ざま~ねな~、姫様の命令には逆らえないとか…
そんなことを思っていると横から雷が話しかけてきた。
「艦長、もうそろそろ全員退艦してくれると助かるんだけど…」
何故だろうか…
「何でって聞かないでね?見た方が早いから。」
「お、おう。?」
「ではみなさん、そちらの戦艦に乗ってください。この船ではここからは進めないので」
ミーシャが彼らに指示した。姫の命令には逆らうことができずに、木造戦艦に元捕虜達が乗り込んでいく。甲板には、遂に俺達四人しか居なくなりガマデスは不機嫌に王宮に戻っていった。
「これからどうするんだ?」
雷の言う通りにするが何がしたいのか未だによくわからない。
「後はあれに乗って飛ぶだけだよ?」
「船から離れても大丈夫なのか!?」
「良いから良いから!」
雷に押されて、俺達は離陸することになった。
「本当に良いんだな?」
「もちろん!」
「じゃいくぞ!」
ヘリはゆっくり、甲高い音を大きくさせながら、ローターの回転数を上げていく。そして飛ぶのに十分な揚力が生まれると、機体は地面を離れる。そうして10mほど上昇したところで雷が呟いた。
「艦長!下見ててください!」
下と言うのは船体のことか?次の瞬間、俺達は目を見張った。
「お、おおおい!雷!船が船が!」
船首が光出したと思うと、光が散るように消失していく…それは船尾でも同様な現象が起きている。
「落ち着いてください!壊れた訳ではありませんから!」
30秒後にはそこにあったはずの駆逐艦は跡形もなく、海面が広がるだけだった。
「これは後で説明しますから今は先を急ぎましょう?」
「そ、そうだな…」
俺はなるべくこのヘリを人目から遠ざけるために、高度を高く保っている。
窓に張り付くミーシャの目は輝いている。ま、この世界でこんなに空高く到達した人間は存在しないだろうからな。
「あ、ガマデスの船を追い抜いたぞ?」
「速いです!凄いですね!?」
「もっと速いのいっぱいあるんだけど…」
戦闘機とか戦闘機とか…
「これより速いのですか!?吉晴様の世界は凄いです!魔法も使わずこんなに速いものなんて!」
どうやら姫様は速い物好きのようだ。あいにく地球には速いものが溢れかえっている。
「今度、乗せてあげるよ?」
「それは本当ですか!?」
「吉晴君は言ったことは守るから期待していいと思うよ♪」
はしゃぐミーシャには癒される~。 っと左にずれちまった…
「これは…バカップル…いえ、この場合はバカ夫婦?」
「おい!」
雷の意外なコメントにヘリのなかは笑いに包まれる。
「あ、海龍種はどうなったんだ?」
「問題ありません!船と繋がっていましたから、今度船を出すときに一緒に出てきます。」
「そこら辺よくわからんが、大丈夫なんだな?了解した。」
そんなことを言っているうちに陸地上空に入った。王宮まではあと少しだ。
「ミーシャ、城のどこら辺に降りればいい?」
「そうですね~あ、吉晴様が転移魔法で最初に来たところで構いませんよ?」
「分かったよ~」
ヘリが一気に高度を落とすが勢い余って男しかわからないあの浮遊感が俺を襲ってしまった。
「ひぃ…」
「どうしたのです?」
「どうしたの?」
「な、何でもないよ?」
そんなことがあったが、無事に城に着陸し、直ぐにちょっとした騒ぎはあったがミーシャが出てった事ですぐに収まった。
「姫様、吉晴様、結奈様も王がお呼びになっています。そちらの方は…」
「私の客人です。」
「そうでございましたか。どうぞこちらへ」
そうして俺達は見慣れた王の書斎に来ている。
「よくぞ帰ったぞ!ミーシャリア…吉晴君も結奈さんも」
王はこころよく俺達を迎えてくれた。
「お父様…苦しいです…」
「あ…悪い悪い…元気そうで何よりだ。」
ミーシャの父であるトローデス王国現王は俺に向き直り本題に入った。
「海龍種はどうなったんだ?」
「そいつは倒しましたよ?しかし…」
「倒したか!それは誠にスゴいことじゃ!しかしまだ何かあるのか?」
「ついでに…その~ガレッド帝国の主力艦隊も倒してきてしまいました…」
「そうかそうか!ガレッド帝国の主力…って…何!?倒しただと!?」
「偶然遭遇してしまって…」
「もちろんトローデスの領海内ですよ?」
ミーシャがフォローしてくれた。しかしそれでも、王様の表情は冴えない。
「困ったことになった…ガレッド帝国が遂に動いたか…」
あ、やっぱり面倒なことに首を突っ込んでしまったらしい…
「お父様…吉晴様は私達のために…」
「分かっている。ガレッド帝国とは遅かれ早かれ開戦は決まっていたことだ。今さらそう焦るほどの事でもなかろう?肝心なのはこれからのことだ。」
「うむ。一旦これは置いておこう。しかし良いことが聞けたな…」
「そうですね~これで達成することが出来ますよ♪」
「我も今日3番目の良いことじゃ。1番目はミーシャリアの無事じゃ。2番目は海龍種の討伐成功。そして3番目が」
『ガマデスの失脚』
ここで二人の声が気持ち悪いくらいに重なった。
「吉晴様もお父様も何だか怖いですね…」
「何か難しい話だね~」
「艦長も国王も中々えげつないことをお考えになるのですね~」
しばらく国王と俺はこのあと開かれる報告会の段取りを話し合った。勿論、国王様には捕虜の一件は正直に真実を話し、国王様はその件は俺に一任するといってくれた。
「では手はず通りに…」
「我も困っていたのじゃ、ガマデスは国防費の予算を私的に使い始めおってからに、最近金遣いが荒くなってきているんじゃ…証拠は残らないようにしているから、大きな行動は出来ない。しかしお主とは気が合うの~」
「いやいや、私も一々ミーシャに関わり合ってくるガマデスは邪魔なんですよね…」
「それにしても良いのか?」
「えぇ。そんなことは朝飯前ですよ?一飛びして戻ってきますよ♪それより本当なんですね?ガレッド帝国の王宮は完全な軍事要塞で、民間人はいないと言うのは。」
「それは間違いない。この世界では有名な話じゃよ?」
「なら良いですが…」
「ではガマデスの失脚を祝って」
「乾杯!」
国王様とコーヒーのような物をすする音だけが響いた。
「やっぱりお父様方…様子がおかしいです…」
「艦長のことだから、大丈夫だよ?やろうとしていることは結構凄いことだけど…」
「久しぶりにお風呂入りたい…」
こうして帰還をゆっくりくつろぐ吉晴達は報告会の時間までゆったりしていた。




