6話 藤達真唯と相棒と
お待たせしました。
ではどうぞ。
SIDE~藤達真唯~
私が彼に出会ったのは9歳の頃。今と同じ春の季節。小遣い稼ぎに薬草を「恐れの森」へ取りに行ったとき、道に迷った私は―――
「ここ…どの辺りかな……。家に…帰れるかな…。お母さんに……会えるかな……ぐす……」
道に迷ってしまったそもそもの原因は、魔物に出会ってしまった事でした。
この森は「恐れの森」という名前だけあって魔物のランクが物凄く高いのです。
魔物のランクは全部でF、E、D、C、B、A、S、SS、SSS、U(Unknown―測定不能の頭文字)ランクまであって「恐れの森」では最大でSランクの魔物が生息しています。
でも、森の外周部には全くと言って良いほど出現しないので、安心して薬草を採取していたのですが……恐らく群れから逸れ、道に迷っていたのでしょう。きょろきょろと、周りを窺いながら2メートル半はあろうかという巨体、そして1メートル程の大きな爪を持った熊が森の奥から出てきました。
この魔物については本で読んだことがあります。
名前はナーゲルベアー。獰猛な性格で知能が高く五匹程度の群れを作って活動し、獲物を罠に掛け自身の大きな爪で仕留め、肉を貪るBランクの魔物です。
Bランクというのは熟練の一流冒険者七、八人で、ようやく勝てるという強さを表しているのです。
そんな魔物に多少「力」が使えるとはいえ、九歳の少女である私が対抗できる訳がありません。逃げる方が良いに決まっています。そう決意した私は脇目も振らずに駆け出しました。
幸いなことに発見される前に逃げられた様なのですが……道に迷ってしまっては、家に帰れないことに変わりありません。
とりあえず私は一直線に歩いてみました。
「恐れの森」は円形に広がっているので、まっすぐに歩けば抜けられるのでは?と、思ったからです。でも……その考えは間違っていました。
「森の外周部には全くと言って良いほど出現しない」という事は、中心部には魔物が大量に出る、という事です。
九歳の私はその事実に気づいていませんでした。
しばらく歩いていると開けた場所に出ました。「開けた場所」といっても森を出られたわけではなく、周りは木々で囲まれています。
歩きつかれたので少し休憩しようかな、と思った私は近くに腰を下ろして目を閉じ――――その時初めて気づきました。
周囲から聞こえる荒々しい息遣いに。
食欲に染まった目で、こちらを見てくる視線に。
「う、うそ……」
私は恐怖で腰が抜けてしまって、その場から動けなくなりました。ただ、ただ迫りくる「死」にガタガタと、震えることしかできません。
やがて四匹の獰猛な熊たちが姿を現しました。
そして、もうがまんできない、とばかりに一匹が私に向かって駆け出して来ます。
「グガ――――!!」
死を覚悟してなお私は悲鳴を上げてしまいました。
「イヤ――――ッ!!!!」
――――ズガンッ!
そのとき、一発の銃声が聞こえてきました。
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SIDE~貫在恭也~
その日の昼食前、本拠地としている場所で俺は暇つぶしに武器創りを行っていた。
此処、「恐れの森」では食料調達が俺の唯一の娯楽で、最高の娯楽だった。
なぜなら、この世界に存在する魔物は魔界には存在しない、完全な新種だったからだ。強さもなかなかでいい鍛錬の相手になった。しかも、どいつこいつも丸焼きにするだけでもとっても美味しい。まさに文句なしの娯楽だ。
だけど幾らなんでもさすがに飽きる、と言うか飽きた。そこで武器創り、という訳だ。いや、今までの異世界(人生)で使ってきて、この世界では本当の強さがばれるのを避けるため使わなかったある刀、を少しいじるだけだから武器強化って感じかな(この世界では主に銃と体術)。
俺は念のために『知覚阻害』を発動してから、無属性で無系統の個人魔法『別空間倉庫』を発動するべく、自然魔力を取り込み右手に集めた。右手が青白く発光し始める。ゾワッ、と目の前の空間に黒い円が出現する。俺はそこに右手を躊躇なく突っ込んだ。
円の後ろ側に出るはずの手は、漆黒の中で何か棒状のものを確かに、掴んだ。そのまま引き抜く。
その右手には鞘が真っ黒の刀があった。
「久しぶり、相棒」
鞘から抜き出し声を掛ける。愛刀の刀身は鞘に反して真っ白で幻想的な美しさがあり、薄く発光している様でもあった。
今からやるのは、この刀を人格物質に変えること。もし成功すればこの刀は、自ら魔法を行使したり、人格を持って人形になったり出来る。
だけど、創るのがとても難しい。魔法を使ったり、人格を持ったり、っていう事は「魂の力」を持つ、という事。アルマを持つには「魂の器」も必要になる。そして、それらはそこ等に落ちてるもんじゃない。ではどうするか?
簡単だ――無いなら、持っている奴から取ってくれば良い。この場合は俺がこいつに、あげれば済む話だ。
俺はまず自己魔力を刀に注ぎ込み、精神的なパイプラインを構築する。
次にアルマを「器」ごと譲渡するんだが……これが難しい。どんなに「器」小さくとも、後から注ぐアルマで大きさはどうとでもなるから、渡す量は少しでいいんだが、何しろアルマはともかく「魂の器」の方は、初めてでイメージが全く湧かない。力を分け与えるならまだしも、魂を譲渡するイメージ、って……無理だろ。
一時間ほど格闘しながらも何とか出来たっぽく、刀が力強い白光を帯び始める。俺は譲渡した流れに乗って、この刀が耐えられる最大のアルマ――およそ二割――を、「魂の器」に注ぎ込む。白光の濃度が増した。視界が白く染まり、右手から鞘の感触が消え――――――やがて光が収まった。
目の前に、真っ黒なワンピースを着て、真っ白な肌と真っ白な髪を肩で切り揃えた、十五歳くらいの美少女がいた。その美少女が透き通った声で話しかけてくる。
「こうして話すのは初めてですね、マスター」
「こうして、って事はお前の方に意識はあったのか」
「はい、始めて出会ったときからずっと、ずっと……」
「ん、そうか。で、調子は?」
「これが自分の体なの?ってぐらい調子がいいです」
「そうか、苦労した甲斐があったよ」
言いながら笑ってみせる。
「ふふっ、ありがとうございます。で、その~マスターに、お願いがあるんですけど~、いいですか?」
「俺に?まあ、出来る限り聞いてやるけど?」
「ありがとうございますっ。ではその~、私に『名前』を付けてくれませんか?」
「名前か…………」
「だめ、ですか…………?」
ものすごく不安そうに、とっても可愛い「上目遣いで」問いかけてくる。俺は慌てて答えた。
「もちろん良いに決まってる。大丈夫、ちゃんと考えてあげるって。フム……」
名前、名前ね…………………………お。
「月夜、かな」
「月夜、ですか。理由を聞いてもいいですか?」
「お前の見た目だよ。簡単で悪いけどお前の本質を的確に表してるかな、って思って」
「……?」
意味が分からなかったらしく、不思議そうな顔で首を傾げる。俺は恥ずかしかったが、微笑みながら意味を教えてやった。
「真っ黒な鞘が夜、真っ白な刃が月。そして何より真っ暗だった俺の道を、その月明かりで照らしてくれたからな。気に入らなかったか?」
「いえいえっ、とっても嬉しいです///」
本当に嬉しそうな顔で言ってくれる。そんなに喜んでくれるなら、俺も考えた甲斐があったってもんだ。
「マスター、ありがとうございますっ!私は今から『月夜』ですよ。ちゃんと呼んでくれないと怒っちゃいますからねっ!」
瞳を潤ませて抱きつかんばかりに近づいてくる月夜。
「わかってる、わかってる」
俺は安心できるように深く頷いてやった。が、月夜はまだ何か言いたいことがあるようだ。そんな顔をしていた。
「言いたいことがあるなら言ってみ?」
月夜は恥ずかしそうに、もう一つお願いが、と切り出してきた。
「もし私が、喋れるようになって自分の体を持てたら、マスターとしたいこと、もしくはしてもらいたい事を三つ決めてたんです。一つ目は名前を付けてもらうこと。二つ目は…………」
月夜は顔を真っ赤にしている。そんなに恥ずかしいならやめれば良いと思うんだが……。
「なあ月夜。無理はしないほうが良いんじゃないか?」
俺はまた今度にすればいい的な意味で言ったんだが、月夜は頬は赤いままだが、決心したような顔で否定する。
「いやです!!三つ目はともかく、これだけは絶対にして貰いますっ」
「そ、そうか」
「じゃ、じゃあ言いますよ……ふ、二つめのお願いは……その……わ、私を…………だ、抱きしめてくださいっ!!!」
「……は?」
「だから私を抱きしめてくれればいいんですっ。さあ、早く!!」
月夜はどこか吹っ切れたような顔で、どうぞ!とばかりに俺に向かって両腕を広げ、パッチリとした大きな瞳を閉じた。…………どういうこった。なんなんだ、この状況。アレか、親愛の情的な意味でか?俺の身長は現在の身長は、九歳にしちゃ少し大きい百五十㎝だ。それより五㎝くらい大きい月夜とは釣り合ってなくて、恥ずかしくね?などと、悶々と考えながらチラッと月夜の方を見ると体が…………………………震えていた。
「つ、月夜……?」
少々不安になりながら尋ねると、掠れた涙声が返ってきた。
「無理、ですよね……。私なんてただの刀、道具ですもんね。気持ち悪いですよね、もう置いて行って貰っても構いません……」
「おい、月夜」
「……はい…」
「お前はずっと何を見てきたんだ?」
「え……?」
そこで月夜は涙のたまった目を開く。
「そんなことで俺がいちいち何か言うようなやつじゃないの、知ってんだろ?それに、別に気持ち悪くも何ともない」
「………………グスッ……………………はわっっ!!?」
俺は月夜を抱きしめた。月夜の体が硬直して目を見開き、だけどすぐに力を抜いて体を預けてきて、俺のほうに手を回してくる。真っ赤になった耳元でささやく。
「これからもよろしくな、相棒」
「…グスッ……つ、月夜って、呼んでください……」
「はいはい。これからもよろしく、月夜」
「はいっ、マスター!」
「そういや、三つ目のお願いって何?」
「それはもちろん、キ――――――ひ、秘密ですっ!!!!」
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