5話 一年F組
此処、一年F組の教室はとても居心地の悪い雰囲気が流れていた。
原因は教室後方にある空席を睨む、ナイスバディをした赤髪の美人教師にある。燃えるような赤髪が腰まで伸び、毛先に少しカールがかかっている。目は切れ長できれいな肌を持っている。
今は入学式後のクラスの顔合わせの意味を持つ、ホームルームの時間。正確にはその三十分後。このクラスではまだホームルームが始まっていなかった。一人の遅刻者のせいで。
どうやら美人教師は何が何でも全員揃うまではHRを、始めないつもりらしい。
美人教師の出す不機嫌オーラの居心地の悪さに、クラスの誰もが冗談事ではなく、悲鳴を上げようとしていたそのとき教室後方の扉が開かれた。
入ってきたのは黒髪黒目の鋭い目つきをし、整った顔を持つにもかかわらず、どこか眠そうな雰囲気と薄い存在感を纏った少年だった。
この少年の登場に生徒のほとんどが、ぶつけるべき怒りの感情を忘れ、少年に注目する。
「「「「「かっこいい……///(美人教師を含む)」」」」」
「「「「「……くっそ……かっこいい……な…」」」」」」
女子は(美人教師を含む)頬を赤く染め、男子は悔しそうに呟く。
少年、もとい恭也はそんなことは聞こえていないようで、欠伸をしながら教室に入ってくる。
「おい!!貴さ「そ、そこの男子生徒!!三十分の遅刻だぞ……」……くっ……後で覚えておけよ…」
だが一部、というより一人の男子生徒は違ったようだ。この男子生徒は名家「盾元」の息子で、本来Sクラスに入れる実力を持つのだが、首都から遠出しすぎたせいで、試験に間に合わず、泣く泣くFクラスに入った不幸な少年だ。
自分のFクラス入りと「盾元」の次男を三十分も待たせるとは何事か、と並々ならぬ怒り少年は持っていた。そしてそれをぶつけ様とした矢先に、元に戻った美人教師に言葉を遮られる少年。金髪の、プライドが高そうなイケメンフェイスが屈辱に歪む。
「ほ、ホームルームが終わったら、他の者たちは今日はもう終わりだが、お、お前は後で職員室に来るように。に、二度と遅刻などしないように、みっちり説教してやる。……うふふふ。」
「は?」
「「「「「えーー!?」」」」」
少しうれしそうにしながら頬を赤くし、そう美人教師は宣言する。
不思議そうな顔をする恭也。
とても不満そうな顔で叫びだす女子たち。
「俺は三十分も遅れたんですか?」
「ああ、そうだが?」
「そうですか。それはすいませんでした」
謝罪した後恭也は、何か思案しているような顔で空席に向かって早足で歩き席に着く。
(そんなに時間を掛けていたか。考え事をしていると周りが見えなくなる癖は、何とかしたほうが良いな)
恭也の席は窓側の一番後ろだった。
ここならのんびり眠れそうだな。
のんきにそんなことを思っていると、隣から驚いたような感極まった声が聞こえてきた。
「あ、貴方は……」
茶色の髪を腰まで伸ばし、少し幼い顔立ちをした、それでいて豊かな胸を持つ美しい少女だった。
「恭也さん…ですよね?」
感動のあまり涙で瞳を濡らしている。
「ん?」
恭也は首をかしげる。
この顔どこかで……。
「覚えていませんか?……あのとき恐れの森で…」
不安そうに少女が問いかける。
(恐れの森……?そういえば六日目にナーゲルベアーから誰かを助けた気が……。確か名前は……)
「真唯?」
「はい!藤達真唯ですっ。あの時は本当に」
「そのことは後で」
真唯の声を遮り耳元に口を近づけ、言う。
「ひゃ、ひゃい!!」
顔を真っ赤にしながら真唯は前を向く。
恭也は訳が分からない、という風になりながらも前を向く。
「さて、ようやく全員揃ったところでホームルームを始める。まずは自己紹介から。私は赤崎好音。クラスの担任だ。昨年までは、ここの生徒だった。教師としては新人だが護神騎士としては五年も先輩だ。その経験を生かして頑張っていこうと思っている。この学校には二年生から専門科ごとの授業になるんだが、私は前衛科の担当だ。よろしく」
好音はそこで笑顔を見せる。
男子生徒のほとんどが赤くなった。
それは当たり前のことだった。好音は怒ってさえいなければとびきりの美人なのだから。
「それじゃ、皆にも自己紹介してもらおう」
いちばん前の生徒が席を立つ。
そこで机に突っ伏していた恭也の意識は眠りの国へとんで行った。
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