第六十三話「勇馬の独り立ち」
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第六十三話「勇馬の独り立ち」
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警報が鳴り始めたのは、翌日の朝だった。
管理センターのモニターに、第七層の映像が映った。
機兵が動いていた。
一体、二体……十二体。
全て、胸部のエネルギー制御回路が発光している。活性化状態だ。
「なぜ……」と田所が言った。
「調整コアの起動に共鳴した可能性があります」とメイが言った。「第八層の装置が動いたことで、第七層の機兵が連鎖して再起動した」
◆
渉は第八層の最終調整の途中だった。
負荷試験の第二フェーズ。出力を上げながら、各部の振動と温度を確認する作業だ。
この段階で離れると、データが取れなくなる。
「渉さん、どうしますか」とメイが言った。
「第七層は対処が必要です。でも俺はここを離れられない」
「メイさんかフィオナさんが……」
「戦闘サポートはできます」とフィオナが言った。「でも機兵の解体は……」
渉はモニターを見た。
十二体。
勇馬が渉を見ていた。
◆
「勇馬」
「はい」
「七層を頼みます」
勇馬が少し表情を変えた。
「……俺一人ですか」
「フィオナさんが一緒に行けます。でも機兵の解体判断はお前がやってください。打音検査で状態を確認して、優先順位を決めて、急所を見つけて止める」
「十二体、全部ですか」
「全部止めなくていいです。暴走が広がらないように、活性化の強い個体から順番に止めてください。優先順位の判断は、お前の耳で」
◆
勇馬はしばらく黙っていた。
次に、メモ帳を取り出した。
「確認します。打音で活性化の強い個体を判断する基準は……胸部の共鳴音が高音域に集中している個体が優先、でしたよね」
「そうです。エネルギーが飽和に近い個体は、音程が上がります」
「止め方は。核のどこを」
「動力ケーブルの切断。場所はいつも通り、肩の外装を開けて三番目のケーブルです。でも今回は連鎖再起動してるから、急所の位置がいつもより内側に入ってる可能性があります。一体ずつ確認しながら判断してください」
「……バールとインパクトレンチ、予備バッテリーを持ちます」
「養生テープも入れてください。緊急時の固定に使えます」
「わかりました」
◆
勇馬がバッグを準備した。
フィオナが横で弓を確認していた。
「勇馬、私はスキル使えます。近づくのが難しい場合は言って」
「ありがとうございます」
「……大丈夫?」
「大丈夫です。渉さんに教わったことを、全部使います」
◆
渉は第八層の作業台に戻りながら、勇馬に言った。
「一つだけ」
「はい」
「焦らなくていいです。俺は第七層の機兵を何時間で全部止めたと思いますか」
「…………七体を二時間以上かけてました」
「そうです。急いで失敗するより、ゆっくり確実にやる方がいい。その速さで十分です」
「……わかりました」
「行ってください」
◆
勇馬とフィオナが第七層に降りた。
渉は装置に向き直った。
メイが「……心配じゃないですか」と聞いた。
「心配です」
「でも行かせた」
「一人でできると思ったからです。心配と、信頼は別の話です」
◆
第七層。
勇馬は広間の入り口に立って、十二体の機兵を見渡した。
大きい。
多い。
渉が最初に七体と戦った時の、あの格納庫の映像が頭に浮かんだ。
でも渉は「怖くなかったですか」という問いに「怖さは後から来ます」と言った。
今は仕事に集中する。
◆
点検ハンマーを取り出した。
一番手前の機兵に近づいた。
胸部を叩いた。
コン。
音程は中音域。活性化は強くない。
次の個体。
コン。
少し高い。
三体目。
コン、コン。
高音域だ。飽和に近い。
「この個体が優先です」と勇馬はフィオナに言った。
「牽制が必要なら言って」
「お願いします。右から注意を引いてください。俺は左から入ります」
◆
フィオナが矢を放った。
機兵の右肩に当たって弾かれたが、注意は引いた。
機兵が右を向いた瞬間、勇馬が左側から走り込んだ。
左肩の外装の継ぎ目にバールを当てた。
ぎっ……ごっ。
開いた。
インパクトレンチを差し込んだ。
ヴィィィィ、カカカカカ。
ボルト三本。
動力ケーブルが見えた。
ワイヤーカッターで切断した。
機兵が静止した。
◆
一体、二体、三体。
勇馬は順番に進んだ。
五体目で問題が起きた。
急所の位置がいつもと違った。
外装を開けたが、ケーブルが見当たらない。
「渉さんが言ってた、内側に入ってるやつだ」
勇馬は焦らなかった。
もう一段、内側のパネルを外した。
そこにあった。
切断した。
止まった。
◆
八体目で、バッテリーが切れた。
予備に換えた。
渉がいつもやっている動作を、そのままやった。
九体目。十体目。
十一体目を止めた時、勇馬は少し立ち止まった。
「……音が変わった」
十二体目の機兵を見た。
胸部の音程が、他と違う。
コン、と叩いた。
こん。
空洞に近い音だ。
「……内部が腐食してる。動作したら自壊する可能性がある。こっちから止めるより、距離を取って待った方がいい」
「本当に自壊しますか」とフィオナが聞いた。
「渉さんなら、ここで待ちます」
◆
三分後、十二体目の機兵が右脚の関節から金属音を出して、倒れた。
渉が以前に「膝が折れる」と言った時と同じ光景だった。
勇馬は倒れた機兵を見てから、スマートフォンを出した。
渉に短いメッセージを送った。
「十二体、全部止めました。一体は自壊を待って対処。全員無事」
◆
第八層で、渉がメッセージを受け取った。
一度だけ読んだ。
何も言わなかった。
装置の作業に戻った。
でも、隣でメイが渉の顔を見て、小声で言った。
「……顔、緩んでますよ」
「そうですか」
「よかったですね」
「そうですね」
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〈第六十三話 了〉
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【次話予告】
第八層の最終調整が完了した。
しかし渉は再び装置の前で止まった。
「……衝撃の吸収が足りない。帰還時の振動で、ダンジョン側に影響が出る」
「どのくらい影響が出ますか」とメイが聞いた。
「ゴールドが消える可能性があります」
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【あとがき】
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第六十三話、お読みいただきありがとうございました。
勇馬の独り立ちを書く回です。
一番大事にしたのは「焦らない」という描写です。渉から「ゆっくり確実にやる方がいい」と言われた勇馬が、五体目で急所の位置がいつもと違うと気づいた時も、焦らずにもう一段パネルを外した。これが技術の伝達が成功している証拠です。
十二体目を「自壊を待つ」という判断。これが一番大事なシーンだと思っています。渉が「膝が折れる」と言った時と同じ状況を、勇馬は自分の耳と目で判断した。「渉さんなら、ここで待ちます」という言葉が、勇馬の中に渉の視点が根付いていることを示しています。
「顔、緩んでますよ」というメイの指摘に「そうですか」と返す渉。感情を出さない渉が、顔に出てしまっていた。それを指摘されて「そうですね」と認める。この短いやりとりが好きです。
(作者)




