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第六十三話「勇馬の独り立ち」

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第六十三話「勇馬の独り立ち」

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 警報が鳴り始めたのは、翌日の朝だった。


 管理センターのモニターに、第七層の映像が映った。


 機兵が動いていた。


 一体、二体……十二体。


 全て、胸部のエネルギー制御回路が発光している。活性化状態だ。


「なぜ……」と田所が言った。


「調整コアの起動に共鳴した可能性があります」とメイが言った。「第八層の装置が動いたことで、第七層の機兵が連鎖して再起動した」



 渉は第八層の最終調整の途中だった。


 負荷試験の第二フェーズ。出力を上げながら、各部の振動と温度を確認する作業だ。


 この段階で離れると、データが取れなくなる。


「渉さん、どうしますか」とメイが言った。


「第七層は対処が必要です。でも俺はここを離れられない」


「メイさんかフィオナさんが……」


「戦闘サポートはできます」とフィオナが言った。「でも機兵の解体は……」


 渉はモニターを見た。


 十二体。


 勇馬が渉を見ていた。



「勇馬」


「はい」


「七層を頼みます」


 勇馬が少し表情を変えた。


「……俺一人ですか」


「フィオナさんが一緒に行けます。でも機兵の解体判断はお前がやってください。打音検査で状態を確認して、優先順位を決めて、急所を見つけて止める」


「十二体、全部ですか」


「全部止めなくていいです。暴走が広がらないように、活性化の強い個体から順番に止めてください。優先順位の判断は、お前の耳で」



 勇馬はしばらく黙っていた。


 次に、メモ帳を取り出した。


「確認します。打音で活性化の強い個体を判断する基準は……胸部の共鳴音が高音域に集中している個体が優先、でしたよね」


「そうです。エネルギーが飽和に近い個体は、音程が上がります」


「止め方は。核のどこを」


「動力ケーブルの切断。場所はいつも通り、肩の外装を開けて三番目のケーブルです。でも今回は連鎖再起動してるから、急所の位置がいつもより内側に入ってる可能性があります。一体ずつ確認しながら判断してください」


「……バールとインパクトレンチ、予備バッテリーを持ちます」


「養生テープも入れてください。緊急時の固定に使えます」


「わかりました」



 勇馬がバッグを準備した。


 フィオナが横で弓を確認していた。


「勇馬、私はスキル使えます。近づくのが難しい場合は言って」


「ありがとうございます」


「……大丈夫?」


「大丈夫です。渉さんに教わったことを、全部使います」



 渉は第八層の作業台に戻りながら、勇馬に言った。


「一つだけ」


「はい」


「焦らなくていいです。俺は第七層の機兵を何時間で全部止めたと思いますか」


「…………七体を二時間以上かけてました」


「そうです。急いで失敗するより、ゆっくり確実にやる方がいい。その速さで十分です」


「……わかりました」


「行ってください」



 勇馬とフィオナが第七層に降りた。


 渉は装置に向き直った。


 メイが「……心配じゃないですか」と聞いた。


「心配です」


「でも行かせた」


「一人でできると思ったからです。心配と、信頼は別の話です」



 第七層。


 勇馬は広間の入り口に立って、十二体の機兵を見渡した。


 大きい。


 多い。


 渉が最初に七体と戦った時の、あの格納庫の映像が頭に浮かんだ。


 でも渉は「怖くなかったですか」という問いに「怖さは後から来ます」と言った。


 今は仕事に集中する。



 点検ハンマーを取り出した。


 一番手前の機兵に近づいた。


 胸部を叩いた。


 コン。


 音程は中音域。活性化は強くない。


 次の個体。


 コン。


 少し高い。


 三体目。


 コン、コン。


 高音域だ。飽和に近い。


「この個体が優先です」と勇馬はフィオナに言った。


「牽制が必要なら言って」


「お願いします。右から注意を引いてください。俺は左から入ります」



 フィオナが矢を放った。


 機兵の右肩に当たって弾かれたが、注意は引いた。


 機兵が右を向いた瞬間、勇馬が左側から走り込んだ。


 左肩の外装の継ぎ目にバールを当てた。


 ぎっ……ごっ。


 開いた。


 インパクトレンチを差し込んだ。


 ヴィィィィ、カカカカカ。


 ボルト三本。


 動力ケーブルが見えた。


 ワイヤーカッターで切断した。


 機兵が静止した。



 一体、二体、三体。


 勇馬は順番に進んだ。


 五体目で問題が起きた。


 急所の位置がいつもと違った。


 外装を開けたが、ケーブルが見当たらない。


「渉さんが言ってた、内側に入ってるやつだ」


 勇馬は焦らなかった。


 もう一段、内側のパネルを外した。


 そこにあった。


 切断した。


 止まった。



 八体目で、バッテリーが切れた。


 予備に換えた。


 渉がいつもやっている動作を、そのままやった。


 九体目。十体目。


 十一体目を止めた時、勇馬は少し立ち止まった。


「……音が変わった」


 十二体目の機兵を見た。


 胸部の音程が、他と違う。


 コン、と叩いた。


 こん。


 空洞に近い音だ。


「……内部が腐食してる。動作したら自壊する可能性がある。こっちから止めるより、距離を取って待った方がいい」


「本当に自壊しますか」とフィオナが聞いた。


「渉さんなら、ここで待ちます」



 三分後、十二体目の機兵が右脚の関節から金属音を出して、倒れた。


 渉が以前に「膝が折れる」と言った時と同じ光景だった。


 勇馬は倒れた機兵を見てから、スマートフォンを出した。


 渉に短いメッセージを送った。


「十二体、全部止めました。一体は自壊を待って対処。全員無事」



 第八層で、渉がメッセージを受け取った。


 一度だけ読んだ。


 何も言わなかった。


 装置の作業に戻った。


 でも、隣でメイが渉の顔を見て、小声で言った。


「……顔、緩んでますよ」


「そうですか」


「よかったですね」


「そうですね」


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           〈第六十三話 了〉

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【次話予告】

 第八層の最終調整が完了した。

 しかし渉は再び装置の前で止まった。

 「……衝撃の吸収が足りない。帰還時の振動で、ダンジョン側に影響が出る」

 「どのくらい影響が出ますか」とメイが聞いた。

 「ゴールドが消える可能性があります」



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【あとがき】

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 第六十三話、お読みいただきありがとうございました。


 勇馬の独り立ちを書く回です。


 一番大事にしたのは「焦らない」という描写です。渉から「ゆっくり確実にやる方がいい」と言われた勇馬が、五体目で急所の位置がいつもと違うと気づいた時も、焦らずにもう一段パネルを外した。これが技術の伝達が成功している証拠です。


 十二体目を「自壊を待つ」という判断。これが一番大事なシーンだと思っています。渉が「膝が折れる」と言った時と同じ状況を、勇馬は自分の耳と目で判断した。「渉さんなら、ここで待ちます」という言葉が、勇馬の中に渉の視点が根付いていることを示しています。


 「顔、緩んでますよ」というメイの指摘に「そうですか」と返す渉。感情を出さない渉が、顔に出てしまっていた。それを指摘されて「そうですね」と認める。この短いやりとりが好きです。


                   (作者)

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