第十二話「お前たちの手には、渡さない」
■タイトル
自動車解体業者のおっさん、クビになったのでダンジョン内の魔導機兵をバラバラに解体して無双する
〜「油臭いから近寄るな」と言うのに、なぜかS級美少女たちが離してくれません〜
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第十二話「お前たちの手には、渡さない」
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翌朝、渉が工房のシャッターを開けると、外に人が立っていた。
四人。全員、グレーのスーツ。
先頭に立つのは、先日も来たNDMの神崎だった。その後ろに、渉より体格のいい男が三人並んでいる。
「おはようございます、佐藤さん」
「……おはようございます」
「今日は少し、強めのお願いに上がりました」
◆
神崎が持参したのは、A4サイズの書類だった。
「特定技術・特定道具類 国家管理移行通知」という表題が、渉にもはっきり読めた。
「あなたの使用している工具一式を、国家ダンジョン管理機構の管理下に置かせていただきます。使用の際は申請が必要となりますが、当然ながら優先的に……」
「道具を、取り上げると」
「管理です。あなたの技術と道具は、国家安全保障に関わる重要資産と判断されましたので」
渉は書類を受け取って、一度だけ読んだ。
そして工房の中に一歩、入った。
◆
渉は何も言わなかった。
工具掛けに並んだ道具たちを、一つずつ見た。
バール(大)。バール(中)。バール(小)。
インパクトレンチ。予備バッテリー二本。各種ビットのセット。
スピンナハンドル。ロングエクステンションバー。各サイズのソケット。
トルクレンチ。設定値を示すダイヤルに、渉が慣れ親しんだ目盛りの跡がついている。
KURE 5-56。ラスペネ。パーツクリーナー三本。
ワイヤーカッター。ニッパー。ペンチ。モンキーレンチ。
全部、渉が自分で選んで、買って、使い込んだものだ。
バールの柄には、渉の手の形に合わせた傷跡がある。グリップが磨耗した部分に、渉がテープを巻き直した跡がある。インパクトレンチのボディには、現場で当てた傷が三箇所。
二十五年分の、仕事の跡だ。
◆
神崎が続けた。
「あなたの技術の再現性を確保するため、道具の分析が必要なんです。現代の素材で同等のものが作れれば……」
「作れません」
渉は振り返った。
声のトーンは変わらなかった。
静かだった。
しかし神崎が、一瞬、言葉に詰まった。
「……なぜそう言い切れますか。素材を分析して、複製すれば」
「道具は使う人間と一緒に育つんです」
渉は工具掛けのバール(中)を手に取った。
重さが、手のひらに馴染んだ。
「このバール、買った時は柄が太くて、少し滑った。だから一年かけて、自分の手に合う角度で握り続けて、今のこの摩耗の形になってる。この形じゃないと、俺の力が入らない」
渉はバールを工具掛けに戻した。
カン、という金属音が工房に響いた。
「トルクレンチのカチッ、っていう手応え。これも、同じレンチを何百回も使って、自分の感覚と合わせてきた。新品では、この感触は出ない」
◆
神崎が書類を少し持ち直した。
「それは感覚的な話であって……」
「感覚的な話です」渉は頷いた。「でも解体の仕事は、最後はその感覚でやります。ボルトが緩む手応え、金属が分離する瞬間の音、固着した継ぎ目が開く時の抵抗感。全部、この道具で覚えた感覚です」
渉はトルクレンチを手に取った。
ダイヤルを一段階締める。
カチッ。
小さな音が、工房の静寂の中に落ちた。
「これが、俺の道具の手応えです」
渉は神崎を見た。
「分析して複製したレンチに、このカチッが再現できますか」
◆
神崎の後ろに立っていた大柄な男の一人が、前に出た。
「理屈は結構です。書類上の話ですので、従っていただく必要が……」
「待ちなさい」
後ろから声がした。
全員が振り返った。
工房の入り口に、リーニャが立っていた。
戦術防護服を正式に着込んだ、特務部隊の制服姿だった。
その後ろにメイ。研究所の白衣ではなく、NDIの正装を着ていた。さらにその後ろにフィオナが、弓を背中に提げて立っている。
三人とも、顔が普段より少し硬かった。
「警察庁特務ダンジョン部隊第七班、リーニャ・アルフォレストです」リーニャは一歩前に出た。「佐藤渉氏は現在、当パーティの正式登録メンバーです。パーティメンバーの私有財産への国家機関による強制接収は、探索者組合規約第十七条の……」
「それは……」
「読んでいただけますか」
メイが書類を差し出した。
特務部隊の公印が押された、文書だった。
◆
神崎が書類を読んでいる間、渉はトルクレンチを棚に戻した。
カン。
また静かな音がした。
「……本日のところは引き下がります」
神崎がそう言って、部下たちに目配せした。
「ただし、交渉は続けさせていただきます」
「どうぞ」と渉は言った。
神崎たちが庭を横切って出ていくのを、渉は工房の入り口から見ていた。
◆
「三人とも、わざわざ来てくれたんですか」
「当たり前です」とリーニャが言った。
「連絡もしてないのに、よく来たな」
「田所さんから聞きました。スーツの人たちが来たって」
渉は少し考えて、「田所さんって気が利くな」と言った。
「私たちもです!!」とリーニャが言った。
「そうですね。ありがとう」
渉が頭を下げると、また三人が揃って「っ」という音を出した。
渉にはまだ、なぜそうなるのかわからなかった。
◆
その夜、渉は一人で工房に残った。
工具たちを一つずつ、ウエスで拭いた。
パーツクリーナーをウエスに含ませて、バールの柄の金属部分を磨く。錆の初期兆候があれば拭き取る。インパクトレンチのビット溝を細いブラシで清掃する。トルクレンチのダイヤルを一度最小値に戻して、また使用設定値に合わせる。
カチッ。
いつもと同じ手応え。
渉は少し目を細めた。
道具は正直だ。
手入れした分だけ、応えてくれる。
◆
その夜、渉は工房の棚の隅に、今まで気づかなかった小さな紙を見つけた。
メイの字だった。
「この棚は、佐藤さんの工具のために設計しました。一生、使ってください。 メイ・クロスフィールド」
渉はしばらく、その紙を見た。
それから棚の中の道具たちを見た。
また紙を見た。
「……一生か」
口の中で呟いて、その紙を棚の奥にそっと仕舞った。
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〈第十二話 了〉
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【次話予告】
「佐藤さん……あの人が来ています」
田所の顔が、いつもと違った。
管理棟の前に、見覚えのある男が立っていた。
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