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世紀末アイドル☆社畜くん  作者: 聖者
第1章『ロッカちゃん爆誕』編
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第1話『ここから保険に入ります』

芸能界の事は何も知らないです!(元気いっぱい)



「六多は多才だなあ。」

「………………………。」


────ある日。ヤクザ面のゴリラはそう言った。



「清掃員、スタントマン、マネージャー、電話対応スタッフ、スカウトマン。…………1人で何役こなしてるんだお前。お父さん感動しちゃったよ、流石俺の息子だよな。これからも命削ってくれよな。何事もなせばなるもんだ。」

「結論から言ってくれませんかね」

「過労死寸前のお前の仕事をさらに増やす事にした。」


わーパチパチ。わざとらしい拍手をしやがって。


ちなみにこのゴリラはただのブラックな芸能事務所の社長である。

俺との間に血の繋がりなど無い。

ちょっと言動が支離滅裂で、父を自称するだけの赤の他人おじさんなのだ。妻の連れ子を育てたとか、そんな背景も別にない。


なのでこれはただの怖い話だった。


先も言った通り、俺の仕事は中々多い。

多分他の事務所……でなくとも真っ当な会社に勤めている大人なら分かるだろうが、異常である。

誠に遺憾ながら、うちの事務所では日本国憲法や条例とか法令とかが実装されていない。ろくな教育を受けていない俺には難しいことは分からないけれども。



そして唐突に真顔になるゴリラ。

「厳密には予定してたマネージャー業務が別業務に変更になるカモ……。」

「そうですか。ちなみにどんな」

「アイドル」

「え」

「美少女アイドルですけど?何だお前、文句あんのか?」

「あるに決まってるだろ」


都合が悪くなると逆ギレして勢いで誤魔化そうとする、駄目な中年だ。



剃り込み坊主に尖ったサングラス。

その名の通り、オーガの様な大男、

大我大五郎がヤクザから足を洗わずに始めた

芸能事務所がここ、『芸能事務所蜥蜴組』である。


足は洗えよ。


───まあ、良いとして。

問題は直近の話だ。ここは金のない小さな事務所だがいよいよ唯一の所属ガールズアイドルグループをデビューさせる手筈になっていた。

正直微妙なグループだったが、その分なけなしの金を宣伝に注ぎ込んでいたらしい。のだが───。



「前日に置き手紙して全員脱退&裏切りかぁ………」

「「「アーハッハッハッハッ!世知辛ぇーッッ!」」」



うちへの嫌がらせの為だけにライバル事務所である、

MSC(ミュージックスターカンパニー)が彼女ら全員のデビューを約束して引き入れた。

あっちは大手だし法律も守っている堅気の方々だ。勝てない。

セキュリティを潜り抜け全員逃亡してしまった。


そして今日がデビュー御披露目前日←イマココ



もう笑うしかないだろコレは。



いつだって気の強いゴリラ社長まで、

今日ばかりは小指を立てて“鼻柄”のハンカチを噛み締め泣いているものな。


「クッ………訴えてやろうにもこちらの事務所がそもそも違法で悪質なのがいけないと弁護士にも取り合ってもらえなかったザマス……でも正義は負けない!いつか必ずMSCのカス共をまとめて生皮剥いでカーペットコレクションにするんだから!」

「ンー完全に悪役しか言わない反逆仕草ですね〜」




「あとなんか作曲家も夜逃げしてたわ。ついでに曲もなんとかしといてくれ。」

「作曲……ベシさんまで?確かに繊細な人だけど」

「金を払わず虐待してたからって酷い男だよな。捕獲してくるわ。鎖鎌寄越しな」

「はい。」


茶番に飽きた社長は去っていく。

しかしだなー。

この詰んだ状態からあがく必要って本当にあるのだろうか?

もう諦めろって。終わってるの分かるじゃないか。

いや、俺だってこれが1カ月前なら頑張るぞ?

1週間前でも足掻いたかもしれない。

でもさ。


曲は作りかけ含めて2曲。

メンバーは5人で紹介済みなんだよ。


デビューライブは無駄に1時間30分もある。その中で5人のメンバーの自己PRと曲を3曲やらなきゃだったしその後質問コーナーと他人の曲を更に2曲披露の予定な訳だ。そして今前日の21時……あっ今22時になっちまった。

この地獄の様な事務所には今、俺しかいないのだ。

あと猫。可愛いね。


これで5人分のパフォーマンスが出来るわけがなかった。

明日を信じるとか、ここから逆転の目があるとか、最後まで諦めないとか、……無理だ。

むしろそんな奴いたらポジティブの形をした病人だろ。


「馬鹿野郎!最後まで諦めるな………ッ明日を信じてここから逆転の目を探すんだよ! (超小声)お前1人で」

「全部言った……。クソ馬鹿野郎……」

「だってもう金づr……ドル豚の皆様にも告知しちまったし。あと、MSCの社長と賭けをしたから出れなかったら大変な事になるんだ、六多。」


ちなみに(自称)ライバルであるMSCも同日同時デビューで枠をとっていた。今となっては幸いもクソもないが、今回は会場で人を呼び込む形式ではない。オンラインで放送する形だ。

まぁ、デビューライブなんて別グループの前座かイベントでも無ければ観ないだろう。大手会社や個人活動で知名度あるわけでも無ければなおさら。

配信サイトで生放送してアーカイブで後からでも観てくれれば御の字だ。

ふむ。タグいっぱい付けたらワンチャン誰かが間違ってクリックするかもしれない。


「───視聴率とか評価数で競うんですか?絶対負けるじゃないですか」

「いや、“そもそも会社がカスだからデビュー前に逃げられるVS逃がさず無理矢理にでもデビューだけはさせる”で喧嘩したから勝利条件はデビュー配信を乗り切ることだな。」

「馬鹿にされ過ぎてるようで的を得てるからうちの会社は本気で駄目なんだよな………」


しかも社長自身会社がカスな自覚がある為逃げられる前提で逃がさない方に舵を切ってるのがまた………。

この世は地獄です。


うちの事務所は法律に囚われない自由な勤務形態が売りなんだが、退職という制度が無いところが欠点かも。あるのは殉職だけなんだ。

いくら働き者の六多さんだって、そうでなければとっくに足抜けしているところだよ。


入社するとき四肢を抑えてから血判押したり戸籍表こちゃこちゃされて、おやおやおかしいねとは思ったんだけど。気付くのが遅かったよ。

世の中のリーマンが働くのは辛いことだと言う理由がよく分かるな。


「あっ、もう12時じゃん」

「にゃーん」

「シーちゃんアイドルやらないか。猫ならきっと皆許してくれそうだし脱走犯よりお前の方が可愛いよ」


会社の古株、猫のケット·シー。彼女以外は皆この場におらず、脱走犯を始末しに闇に消えてしまった。明日の穴埋めより先に()りたい事を優先してしまうのは社会人として良くないと思う。そういう無責任な姿勢が余計な通報と誤解を産むんだきっと。

 

古びたイ草と鉄錆の匂いに囲まれたちゃぶ台の上。(※謎のお札が貼ってある)

事務所の見慣れた鉄格子の向こうを眺めては、(謎の赤い染み)

青い空を懐かしんでいた。俺もたまにはシャバに出たいものだ。


作りかけの音源を編曲しながら、1人ごちた。




芸能界のルールとか法律とか分かんないからそもそも守らない事にしました!(解決)

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