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12 触れちゃだめですぜぇ!!

(12)



 宵闇が四方から迫りつつある。

 木々の葉が覆う山道を上れば扇状に開けた里山が渓流に沿って見える。その里山の田園に無数の提灯が吊り下げられ、それが迫る宵闇を待っている。

 だが未だ夏の太陽は地平には沈まず、代わりに空に月が見えた。

 しかし今のロダンにはそのような風情を楽しむ心の余裕がなかった。彼は自転車を投げ出すように旅館に置くと駆け足で一目散に走り出した。

彼はどこへ走り出したというのか。

額に滴る汗を手の甲で拭き、祭りへ行こうとする人影をまるで猿が木々を跳び越すように抜けてゆく。

(…いけない)

 彼は心の中でどれ程その言葉を繰り返しただろうか。やがて彼の大きな足は神社の石段に掛かる。そして彼は大股で石段の階段を二、三段跳びで飛ばして駆け上がると、やがて祭りの準備の為に集まり始めた関係者達を掻き分ける様に社殿へと走り出す。

 いやもっと正確に言えば、あの社殿の壁に掛けられた――神楽面の処に。

 ロダンは社殿の引き戸を引いた。

 引くとその奥に人影があった。

 見えたのは財前先生だった。先生は神楽面を手に取り、突如息を切らして現れたロダンを見ている。

ロダンはその姿を見て一瞬よろける様に数歩足を出したが、やがて膝に手を突くと大きく息を吸ってから、先生の方に顔を向けて言った。

「…良かった、間に合って」

 彼が息を吐く様に漏らした言葉に先生はきょとんとした表情のままロダンに言った。

「どうしたのロダン君、息を切らして。まるで何かがあって駆け込んで来たみたいに」

「先生」

 ロダンは強い口調で言った。

「その手にした神楽面の裏側に絶対手を触れちゃだめですぜぇ!!」

 思わず、自分が以前演じた江戸の股旅者口調になって、大きな声を吐きだす。

 それから大股で先生の方へ歩み寄るとロダンは言った。

「先生、聞きますが。この面の裏側には手に触れてませんね?」

「え?裏側。いや…まぁ、こうして持ってるから触れてないことも無いけど」

 普段とは違う強い口調のロダンに少しにじる様な焦りを感じながら先生が答える。するとロダンは首に巻いたタオルを取ると、先生から神楽面を奪い、先生に言った。

「先生、いいですか。絶対その手で口に触れてはいけない。早く手を洗ってください」

 言うやロダンは社殿の引き戸の外に出ようとする。

「…ロダン君、それどうするの?これから舞子の巫女頭が被る物なんだよ」

 先生の慌てる声にロダンは振り返ると、彼はやや悲し気な眼差しをして言った。

「先生、一緒に下の沢迄降りましょう。そして残念ですけど、今夜、この面を被って志保ちゃんは巫女舞をすることは出来ませんぜ」

「何だって?」

 先生の驚きが社殿内に響く。

 ロダンはその驚きに動じることなく冷静に言った。

「——思春期だから、という事ではすまされないところでしたよ、先生」


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