封印されし
「良い心がけだ。どのみち我等は争うしか道はないのだからな。だが、奴は強い……今のお前ではまだ厳しい。私が指示するまでは、待て」
「では、いつになったら認めて下さるのですか?」
「……奴の式神はどの等級か分かるか?」
信明は夜月に問いかけた。
「……一級クラスですか?」
「違う。おそらくだが……特級クラスだ。奴の式神は私の式神より強い。現在特級クラスを調伏しているのは、他には晴海のみだ。真っ向勝負では勝てんだろう」
「なら……特級クラスを調伏すれば良い」
「安倍家の長い歴史でも、特級クラスに至った陰陽師はそう多くない。数百年に一度、十二神将を調伏する天に愛された寵児が生まれる。今の晴海のような、な。だが、お前も知らない過去が、安倍家にはある。十二神将以外に、安倍家に仕えていた特級妖怪が過去に居たことを知っていたか?」
「えっ⁉ 他に特級が?」
夜月はその言葉に、初めて表情を大きく動かす。
安倍家に連なる者で、十二神将を知らない者は居ない。
安倍家の起源にして頂点と言われる安倍晴明。その晴明が調伏していた式神だからだ。
だが、他に特級妖怪を調伏していたとは知らなかった。
「どこに……お父様が調伏しているのですか?」
「違う。私も調伏には失敗した。二百年前、京都の百鬼夜行を鎮めた七代前の安倍家当主『安倍晴華』が当時調伏していた二柱の式神は特級妖怪だった。晴華以降誰も調伏できず、かといって野放しにもできずにこの家の地下に封印されている」
「地下に……」
この家の地下に特級妖怪が封印されていたという事実に、夜月は驚いた。
「私に会わせて下さい」
「驕るな、夜月。お前如きが、特級と調伏できるとでも思ったか!」
「実力が足りないのは知っています。だからこそ、その距離を。特級と私の距離を知りたいのです」
夜月は堂々と父に言い返した。
(ここまで覚悟が決まっているのか……その覚悟を決めさせたのが、芦屋家とは皮肉なものだ)
「……付いてこい」
信明はそう言うと、部屋を出る。
開かずの間となっている、書庫の鍵を開ける。
書庫の奥に進むと、信明はしゃがみ込み、床に触れる。
木が軋む音と共に、床の扉が開く。
そこには、二重、三重の封印が施された鋼鉄の分厚い扉があった。
信明は扉を閉じる封印の施された鎖に触れると、呪を唱える。
「安倍家当主・安倍信明が命じる。施された封印を解かん」
その言葉と共に鎖がほどける。
「行くぞ」
信明はまるでシェルターのような分厚い扉を開け、地下へ進む階段を降りる。
湿り、どこか籠った階段だった。
光はなく、階段を降りる音だけが響く。
夜月は、小さく唾を呑んだ。
そしてようやく二人は階段を終え、再び扉の前に立った。
夜月は自らの心臓の音が大きく聞こえることに気付き、深呼吸をして扉を開ける。
その瞬間、悪寒が夜月を襲った。
「ハッハッハ。お前と息子以外の者が来るなんて、珍しいじゃねえかよ。まだ、子供じゃねえか」
と男が笑う声が響く。
震える体を動かし、夜月は声の方向を見る。
全身を分厚い鎖で縛られた男が座っていた。
だが、ただの男ではない。
その角には大きな二本の角が生えていた。
(あれが……特級! 意識が……⁉)
夜月は男を見て、そのまま意識を失い、倒れ込んだ。
「ハハハ! なぜそんな雑魚を連れて来た。まだこの領域まで辿り着いているようにゃあ見えねえが」
男は上機嫌でそう言った。
「前鬼、あまり子供を虐めるもんではない」
男を窘めるように言ったのは、若い女性の姿をした鬼。
同様に全身を鎖で封印されている。
「うるせえよ。ガキでもなんでも陰陽師だ。それに……晴華と近い匂いがした。晴華の血縁だろう? 手加減する理由がねえ」
「そうね、確かに晴華と同じ匂いがしたわ。懐かしい」
「五月蠅い。この子には現実を知ってもらう必要があった」
信明はそう言って倒れた夜月を抱きかかえる。
「現実? まさか本当に見学に来ただけとはな! 暇な奴等だぜ」
男が騒いでいるのを尻目に、信明は夜月を連れて地下を出た。
(やはり耐え切れなかったか……だがこれで現実を知っただろう。焦らずに少しずつ成長しろ、夜月)
信明は夜月をソファに寝かせた後に、携帯でとある者に連絡をする。
「ああ。私だ。あいつらに、芦屋家の処理を頼んでくれ。方法は全て任せる」
信明はそうとだけ伝えると、電話を切った。
「これで良いだろう。晴海が動かぬ以上奴等に任せよう」
信明は部屋を出ようとした時、夜月が目を覚ました。
「ここは……私は気を失ったのですね」
「そうだ。身の丈を理解できただろう?」
信明の言葉を聞き、夜月は笑った。
「はい。素晴らしい体験をありがとうございました。目指すところがはっきりしました。必ずあいつを調伏し、私も二人の領域にまで辿り着きます」
本気の口調である。
その目は正に力を求める、飢えた獣の目をしていた。
(あの二柱を調伏するにはまだ、力が足りない……。絶対的な基礎の力。一級程度の霊力を携え、式神も増やす必要がある。見えた。あの二柱であれば……必ず届く)
侮るなかれ。
夜月は、まさしく安倍家本家の娘だった。
昨日
『復讐を誓う転生陰陽師 ―芦屋道弥は現代世界で無双する―』
第2巻発売しました!
出てます! よろしくお願いいたします!





