3 侯爵の仕事
ある日、ラビオナ嬢にさりげなく聞いてみた。
「ラビオナ嬢はご卒業後はどうなさるご予定ですか?」
「ジレンド様は学園ご卒業後は外遊なさったのですよね? 羨ましいですわ。わたくしは女ですので、一人で外遊というわけには参りませんもの。留学するか、領地に戻り領地経営に邁進するか。どちらにするか悩んでおりますの」
ラビオナ嬢は憂いている悩みではなく、希望を持った悩みであるという笑顔であった。
これはマズイ! 彼女と離れる未来などありえない。メーデル王子の婚約者試験が終わったらアプローチしようと思っていたのでとても焦った。
私はすぐに王妃陛下に相談することにした。
「伯母上。以前おっしゃっていた『褒美』についてはまだ有効でしょうか?」
両陛下に仕事を認められ褒美をいただけるというお話をいただいていたが、その時には特に欲しい物もなかったので『考えておきます』と保留しておいた。
私の敢えての『伯母上』呼びに、王妃陛下はニヤリと笑う。
「うふふ。もちろんよ。やっと我が国の宝―ラビオナ―に気がついたの?」
「ええ。先日までは王家の宝―メーデルの婚約者―でしたので心を揺らすことはありませんでしたが、王家が手放されたので是非我が手にと思っております」
私の毒舌に王妃陛下は少しだけ顔を顰めた。私は先程の仕返しとばかりにニヤリと笑い返した。王妃陛下はさらに顔を顰める。王家がラビオナ嬢を手放したくなかったことは重々承知していた。このようなやり取りをできるのも親類ならではだと理解している。
「フンッ! まあいいわ。ただし、王家の宝でなくとも国の宝であることは変わりません。国外持ち出し禁止よ」
「はい???」
私は自国にて父上から伯爵位をいただいてラビオナ嬢を迎えようと思っていた。彼女を迎えるためには無爵位というわけにはいかない。
「貴方の言うようにあの子は王家の宝ではないから、わたくしから貴方へ差し上げることはできないわ」
王妃陛下がまた意地悪く笑う。
「『褒美』はいただけないと?」
「わたくしからあげられる褒美は爵位です。王家領から伯爵位をあげましょう。
あの子を口説くのは自分でやりなさい」
「!!! もちろんです! 伯母上! ありがとうございます!
では、口説く時間をいただきたいので、例の話を進めたいのですが」
「そうね。今回の試験を利用するといいわ。詳細を練れたら教えてちょうだい」
「かしこまりました」
女性の知識向上と社会進出を求めていた王妃陛下はメイドの門扉を広げることと初の高官―王妃陛下付高官―採用についての案件をすぐに了承してくれた。ラビオナ嬢ならきっと高官を目指してくれるだろうと思われる。
王妃陛下とメイド長とともに話を煮詰めて、案件について総務部に報告する。するとテレエル宰相から総務部でも数名採用すると提案された。テレエル宰相はラビオナ嬢の卒業後の身の振り方を模索していたようだ。身分も知識も高いラビオナ嬢はある意味いろいろと難しいと予想できた。
テレエル宰相にとって渡りに船の話だったのだろう。
そして、私はこの話を機に私のラビオナ嬢への気持ちをテレエル宰相に伝える。私が隣国の公爵家の次男だと知っている宰相は苦い顔を隠しもしなかった。
「王妃陛下より伯爵位と多少ですが領地をいただけることになっております。仕事は安定していると自負しております」
「両陛下からどの程度聞いているかは知らんが、政略結婚の婚約から愛くしみ合う関係を築かせるということはもうしない。
あくまでもラビオナの気持ちが一番大事なことだ」
大恋愛結婚をしたテレエル公爵閣下はラビオナ嬢が思いを寄せる者が現れるまで待つつもりのようだ。それは私にとってもちろんチャンスが増えるのだから僥倖である。
私はことあるごとにラビオナ嬢へ話しかけ、手伝えることは片っ端から手伝った。これを下心だと言うならどうぞ言ってくれ。ラビオナ嬢には、私へ対しての好意を抱いてほしいのだ!
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なりふり構わず働いた結果、ラビオナ嬢からの好意のお言葉をいただけた。本当に嬉しい!
そして、テレエル公爵家から伯爵位を賜り、さらに王家から領地を賜ることで侯爵となった。ラビオナ嬢を迎えるにあたり何の憂いもなくなった。
侯爵としての仕事はゆっくりと学んでいけばいいと言われた。王妃陛下補佐官としての仕事が忙しいので正直助かる。
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私たちの結婚式当日は曇り空だった。雨雲ではないので気にしてはいない。
王都にある一番大きな教会で挙式だ。あちらこちらにステンドグラスと光取りの天窓があり、白い壁が美しい教会内部。
私は神父の前でラビオナの入場を待つ。ゆっくりと大扉が開き、テレエル公爵閣下にエスコートされたラビオナがこちらへと歩を進める。
お二人が中ほどまで進んだ時、雲の一部がパァッと晴れ、天窓からこれでもかと光が注ぎ、その光はラビオナを照らすように集中していた。会場のすべての者が息を飲んだ。
『女神の降臨……』
ベールに隠された様子が神秘さを盛り上げる。光はなぜか歩を進めているラビオナに降り注がれている。
私はそこからは夢心地でよく覚えていない。私の手を取ってくれたラビオナを何度も見た。天に召されてしまうのではないかという不安と女神を手に入れた幸福感でクラクラしていたのだ。
私は、天におわす神にではなく、隣に凛と立つ女神に永遠の愛を誓った。
〜 fin 〜
一度こちらで完結とさせていただきます。
他のキャラクターのことも書きたいので外伝として続けたいと思っております。
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