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フィストニーナ拳闘記~君と殴り合う乙女ゲーム  作者: 未羊


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Round51 異形の令嬢

 私たちの目の前に現れたその化け物は、なんとスラステア様だという。

 一応同じ学年のご令嬢なので、姿くらいは見たことがある。

 あのウェーブのかかった暗めの銀髪は確かにその特徴と一致している。

 だけど、なんであんな化け物になっているのよ。


「フィストニーナ様、来ます!」


 ネイリア様が叫ぶ。

 確かに、拳を振り上げて、今にも攻撃してきそうな感じになっているわね。

 それにしても、あんな化け物になっても攻撃手段は拳なのね。どこまで徹底して拳にこだわってんのよ、このゲーム制作陣は!

 化け物となったスラステア様の拳が、私に向けて振り下ろされる。

 反応は遅れたけれど、ファブニールによって鍛えられた私にとっちゃ遅い。エルくんの方がまだ速いわよ。

 だけど、この攻撃の真の恐怖はその後の方だった。

 躱したのはいいんだけど、地面にぶち当たった攻撃が、地面の土を大きく弾き飛ばす。土の塊や砕けた石が飛び散って、これがまた結構痛い。


「フィストニーナ様!」


 砕けた地面がボコボコ当たっているせいで、ネイリア様が私のことを心配している。


「だ、大丈夫よ。このくらいなら平気だわ」


 冗談。ものすごく痛いわよ。

 だけど、ネイリア様に心配をかけるわけにはいかないから、私はやせ我慢をする。

 でも、この攻撃の痛みのせいで、ゲーム内でのスラステア様のステータスに納得がいくというものだわ。

 上振れしたフィストニーナ()のステータスと、軽く凌駕してくれるんだからね。

 地面を砕いたインパクトからも、そのステータスは裏付けができる。

 だけど、私は負けるわけにはいかないのよ。負けはゲームオーバーであり、我が家の没落まで一直線という意味不明な展開のせいでね。

 その私の目の前では、攻撃を外したというのに、化け物となったスラステア様は追撃を仕掛けてこなかった。おそらくは私を見失っている。

 ならば、今は反撃のチャンスというわけね。

 私はファブニールとの特訓で身につけた実力を見せつけるべく、ぐっと身構える。

 死角から気づかれないように、そっと攻撃を仕掛けるわよ。


(今だ!)


 完全に気が逸れているタイミングで、私はスラステア様に攻撃を仕掛ける。

 ところがだった。


「なっ!」


 ぐるんと振り返って、その目が私を捉えていた。

 なんとも気持ち悪い動きだったので、私の体が一瞬硬直する。


「ふぃすとにぃなぁ~っ!」


 私の名前を叫びながら、スラステア様の右の拳が、私へと振り抜かれる。

 躱すことはできなかったけれど、どうにかガードをすることはできた。


「ぐっ!」


 だけど、一撃が重い。

 私は吹き飛ばされてしまう。


「フィストニーナ様っ! よくも!」


 私はどうにか得意の風魔法を使って攻撃の衝撃を和らげるも、私が殴り飛ばされたところを見たネイリア様が、スラステア様に攻撃を仕掛けてしまう。

 私の攻撃の後は隙だらけになっていて、ネイリア様の拳は、確実にスラステア様の顔面を捉えていた。

 ところが、きれいに決まったはずの拳なのに、ネイリア様の表情は驚きに満ちている。


「そんな、手応えがない」


 まったく効いていないということなのだろうか。

 それを示すかのように、拳をまともに受けながらも、スラステア様は気味悪く笑っている。


「じゃまする、ころす」


 今の一撃で、完全にヘイトがネイリア様に向いた。

 いけない。あの笑みは相手を殺すことにも躊躇していない顔だわ。

 こうなれば、イチかバチか、私はこのかなり離れた距離から拳による魔法を放つことにした。


「狙いは私でしょうが! 私以外に手を出させないわよ!」


 私の渾身の右の拳が振り抜かれる。


「ジェットフィスト!」


 音速の拳が放たれる。

 私の右の拳から放たれた風魔法は、確実にスラステア様の顔面を捉えている。

 やったと思ったその瞬間だった。


「なっ!」


 一撃を決めた後、恐怖で動けなくなっていたネイリア様を盾にしようとして、左手で自分の前に引っ張ったのだ。

 これはまったくの予想外の動き。このままじゃネイリア様が危ない!

 もうだめだ、そう思った時だった。


 キィィ……ン。


 何か音が響き渡る。

 次の瞬間、ネイリア様に私の一撃が命中してしまう。

 ダメだと思った私だったけれど、なんとネイリア様は無事だった。よく見ると、その体の前に薄緑色のシールドのようなものが張られていた。


「今のは一体……」


 あまりにも予想外のことに、私はもちろん、ネイリア様もスラステア様も何が起こったのか分からないでいる。


「ガアアッ!」


「きゃああっ!」


 イラついたのか、スラステア様は盾にしていたネイリア様をその場に投げ捨てて、私へと突進を仕掛けてくる。もちろん、右の拳を振りかぶってだ。

 愚直に私を狙い続けてくれるのはありがたいわね。下手に攻撃を仕掛けなければ、他人が巻き込まれないで済むんだもの。

 そこまで熱烈に私にアピールするんだったら、私だってそれに応えてあげようじゃないの。

 迎え撃つ覚悟を決めた私は、ぐっとファイティングポーズを取る。

 さぁ、どっちの拳が強いか決めましょう。


「フィストニーナ様、お逃げ下さい!」


 ネイリア様が叫ぶけれど、覚悟の決まった私はこの一撃に賭けるためにも逃げるわけにはいかないのよ。


「しねぇっ、ふぃすとにぃなっ!」


「どちらの拳が上か、決めようじゃありませんか、スラステア様!」


 お互いに呼吸を合わせたかのように、しっかりと右の拳を振りかぶり、同時にその拳を相手の顔めがけて放った。

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