第6話 認められた瞬間
やっと少し報われます。
ゼーリアが進化した翌朝、俺はいつもより早く目を覚ました。外からは声が聞こえる。
「飛べる……」
扉を開けるとゼーリアがボートを持ちながらふわふわと羽ばたいていた。
青いゼリーの髪に白い悪魔の様な翼、そして俺を見る双眸。
初めて生み出した時は、辿々しい言葉使いだったが今は——
「レン……見て」
「ん?」
「空……飛んでる!」
嬉しそうに笑う、その笑顔を見ると胸の奥が熱くなった。そうだ、俺は間違っていなかった!
弱い魔物でも配合の方法や掛け合わせの仕方でこんなにも個性豊かに強くなれる! ……まだ下から数えた方が早いランクだけどね……
でも俺が愛さなくて誰が愛すか。
そう思った時だった。
「感動しているところ悪いけど、そろそろ覚悟した方がいいわよ」
ステラか。
「……報告ねぇ」
「ゼーリアは殺されないよな? そうなるなら俺は戦って死ぬ」
「……安心なさい! 少なくとも悪い風には言わないから!」
「ありがとう……」
「勘違いしないで、監視役として当然の判断よ」
そう言いながらも目を逸らす。
何度目だろうか彼女に助けられるのは。
数時間後、俺はステラとギルドに足を運んだ。
村の中心にある大きな建物だ、ここは統魔士や冒険者達の活動拠点。
中に入ると人が忙しなく動いている。
「はぁ、忌々しきギルドよ……」
落ちこぼれ過ぎてパーティに入ることも、統魔士の研究にも関わらせてくれなかったクソ組織よ。
罵声がフラッシュバックする。
「お前ほど才能のない奴はいない」
「人手不足だが無能の手はいらないねぇ」
「スライムくらい買わないでテイムしたら?」
昔言われた言葉、最後は正直正論だな。
「レン……?」
ステラが心配そうにこちらを見る。
「大丈夫だ」
俺は手汗を拭い拳を握る。
「今の俺は違う」
受付まで行くとステラに反応する受付嬢。
「ステラさんお待ちしておりました」
深く頭を下げる、ステラってそんなに偉い人だったのか?
「上が直接報告を確認したいそうです」
「わかったわ、レン行きましょ」
案内された部屋には統魔士が数人いた。その中でも一際目立つ老人、彼がギルド内でも上位の人物だろう。
「レン・グラノヴァか」
「……はい」
「君が例のゼリーマンを生み出した統魔士か」
「はい、傑作でしょう?」
老人は資料を見る。
「ゼリーマンを出してくれ」
「レジェンドが生み出した烙印の銃か、使用者をこの目で見るのは初めてだな」
俺は地面を撃ち、ゼーリアを出した。
「レン! ……ここは?」
キョロキョロ辺りを見回す。それを見て絶句するギルドの老人達。
「殆ど魔族じゃないか!」
「本当にただのゼリーマンなのか? ただのゼリーマンだって作るのは楽じゃないぞ……?」
彼らは声を張り上げて言うのでゼーリアは俺の後ろに隠れた。
「ちょっと怖がっているのでもう少し声を下げて頂けると助かります……」
「そんな事を言っている場合じゃないぞ、どうやって作った?」
迷ったが嘘をつくと更にまずい事になりそうだ。
「交配です」
部屋はいきなり静まり返った。
「交配……? ただの交配ではないな、君は何をした?」
「そんな馬鹿な……普通の交配ではゼリーマンに翼も高知能も無いぞ、そもそもこの個体はほぼ人だ」
ステラは俺庇うように口を開く。
「彼は規則違反をしていません、ただ、通常と違う方法を少し使っただけです」
老人は目を細めた。
「……まさか、進化交配か?」
空気は一気に重くなり老人の目はこちらを鋭く見る。
「それは合成獣を生み出す禁忌の技法だ」
「待ってください! 禁忌? 何故ですか?」
老人は無知なのにそこに辿り着いた俺を不思議そうな目で見始めた。
「かつては、多くの統魔士がそれを試した。強力な魔物を作る為に、だが結果は悲惨なものだった」
空気は更に一層に重くなる。
「知能を得た魔物は、人間の命令を拒絶した。主人さえ敵と認識した個体すらいた」
俺はゼーリアの方を見た、不安そうに俺の服を掴んでいる。
「レン……」
俺はその頭を撫でた。これで少しは気が楽になってほしい一心だった。
「大丈夫だよ」
すると老人は首を振った。
「……いや、君の場合は何かが違う。なぜなら」
ゼーリアを直視する。
「その魔物は、主人を警戒する事なく頼り、君の後ろに隠れた。……レン・グラノヴァ、君を無能とギルドが評価した事を撤回する、君はもう正式な統魔士だ」
この日を境に俺は最弱という不名誉な称号は取り消された、世界で初めて最弱と呼ばれた統魔士が個人で、未知の可能性を持つ者とされた。
最後に老人は言う。
「君は世界中の国や、魔王軍からも目をつけられると思った方が良い。更に仲間を増やさなければ死ぬぞ」
「……この村のギルドは俺を止めないんですか?」
「禁忌を破ったが、教えずギルドの加入すら拒んだ我々の落ち度だ。それにゼーリアは友好的だ、私は君に可能性を感じている。これからも励むと良い」
そうして俺たちはギルドから立ち去った。
魔王軍だろうが国軍だろうが俺は跳ね除けて見せる、弱い魔物だって、弱者からスタートした交配も無限の可能性がある……俺がそれを示してやる。




