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【完結】孤児院イチの悪ガキだった俺が、次期国王の腹にアイスクリームをぶつけたら  作者: りっく
第三章 海賊島の女神ニナ

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34.女神たちの思惑

 海賊島にやってきてからのニナの生活は、奇妙なものだった。


 海軍の公式発表では、10年前に港町を(おびや)かし、隣国との国交を破壊した海賊たちは一度根絶されていた。

 三年前のこの海は、平和で穏やかなはずだった。


 しかし、それは海賊と海軍の癒着が生んだ嘘だった。

 海では賄賂が横行し、海賊は海賊に咎められることなく、堂々と商船から積み荷や金を奪う。

 

 商船の人々はもちろん海軍に被害を訴えかけるのだが、調査したが見つからなかった、と数日後にすげなく返されるだけ。

 さらには、「ただ紛失しただけなのに国の保証金目当てで嘘をついたのでは」と疑いをでっちあげて嫌がらせする始末

 

 そんなことが続けば、誰も海軍には頼らなくなる。

 港の治安は酷いものだった。

 

 無人島に忘れ去られた女神様の教会に身を寄せたニナとマザーは、その状況をまざまざと見せつけられていた。


「どうして罪を重ねるの。女神様は、こんなこと望んでいない……」


 マザーはといえばそればかりだった。

 それならハウスをめちゃくちゃにして弟妹たちを死なせたことも女神様はきっと望んでいなかったと思うけれど、ニナは何も言わなかった。

 代わりに、とある発案をした。


「海賊たちも、元は女神様を信じていたんだよね?」

「ええ……でも今彼らは女神様の声を見失って、間違ったことを……」

「なら、女神の声を語ればいいじゃない。せっかくここに来たのは、海賊をなんとかしたいからでしょう?」


 マザーは海の女神様の近くで尽くして過ごしたい、と言っていたけれど、本当は海賊のことを恨んでいたからだとニナはわかっていた。

 ニナの提案に、マザーは久しぶりに光の宿った目をして頷いた。


 新しいライフワークを得たマザーは、ニナを女神の代弁者として海賊たちの前に出させた。

 マザーが考えて話させるニナの言葉は、簡単に海賊たちの心を奪った。若い少女の見た目も、きっといい方に働いた。


「人から奪う者は人から奪われて然るべき者です。恐れるのならば奪ったものはこの島に捨てていきなさい。そして悔い改めること」

「海に血を流すことは、私の体を汚すこと。あなたたちがそうでないことを願います」


 ……といった調子で、海賊から物資を取り上げつつ、あり方を否定することで足を洗わせようと試みた。

 取り上げた物資は、自分たちの生活に必要な分だけもらって、それ以外は時折島を立ち寄る海賊船以外の船に寄付した。


 信心深い海賊たちの中には、マザーが考えた言葉を聞いて本当に海賊を辞める者も少なくなかった。

 それほどまでに、教会で教えを伝えるニナの姿は神秘的だったのだ。

 

 少しずつ海賊の数は減り、残ったのは女神の教えよりも目先の欲を選ぶ背信者や、宗教にあまり興味のない新参の海賊たちばかり。

 だんだん女神の言葉が響かなくなってきて、マザーは目に見えて消耗しはじめた。


 そうでなくても、無人島暮らしは過酷だ。

 ある日マザーは、ニナに女神カトア式の葬送儀礼を伝えたあとに、眠るように息を引き取った。


 一人になったニナは、マザーの望みを引き継いだ。

 海賊の卑しさは自分の目でよく見ていたから、いなくなればいいと思う心に嘘はなかった。


 女神の教えなど知らないニナは、代わりに適当なことをでっちあげた。

 海賊たちの信心深さなんてどうでもいい。もっと男たちのプライドを刺激するような言葉を考えた。


「海軍に目こぼしされねば生きていけない海賊など、海の恥」

「逃げ隠れする場のないのが海です。逃げるのではなく追いなさい」

「ここに武器を納め血を残し宴をしてゆきなさい。女神の加護があるでしょう」


 海軍に賄賂を渡すのをやめさせて、代わりに女神への貢ぎ物と、海賊たち自身の宴会のために金を使わせた。

 海軍と戦いになったときは逃げるのではなく戦うように。

 そう言い聞かせながら貢ぎ物をだんだん厳しくすると、やがて海賊は海軍に対抗できる力を失い、海軍と戦っては敗北するようになった。


 それが、ここ数ヶ月のことだ。


「海賊なんて、今やちっとも怖くないけど……結構、頑張ってきたと思うのよ。この海を穏やかにするために」


 ニナはそう話を締めくくった。


 ニナは大したことないような顔をしているが、トットからすれば知らない情報だらけの話で目が回る。

 どこから何を聞けばいいのか、悩んで言葉に詰まるトットの耳に、外から物音が聞こえてきた。


 鉄がぶつかり合う音と、規則正しい足音。

 トットは顔を上げ、後ろを振り返って外の森の方に目を凝らした。


「……誰か来た」

「え……海賊たちかな。こんな朝早くに、珍しい。トットは隠れてて」


 ニナは立ち上がり、教会の出入り口の方に歩いていく。

 トットは慌ててその手を取り、彼女を止めた。


 ……足音は複数あるが、ザクザクと土を踏むテンポは揃っている。

 やってきたのが海賊なら、きっとこんなに足音は揃わない。

 

「待て、俺が出る。……これは多分、海軍だ」


 ニナが怯えたように息を呑む。

 トットはニナと教会を庇うように、外へ出て海軍騎士たちを待ち構えた。

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