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第一項 新しい世界で(第91話)

第一部 新世界の産声編 第五章 新世界へ 第四節 世界旅行

春香編

 うーん、どうしたものかしら……?


 書斎で今の世界になってから作られたと言う世界地図を見ながら今後の予定を考えていると、紬ちゃんがやってきた。


「おばあちゃん、おやつの時間だよぉ! んぅ? なにしてるの?」


「あら、紬ちゃん。ちょっと悩んでいるのよ」


「なにで悩んでるの?」


「今度お仕事で世界の色んな所に行くことになったんだけど、どういう順番で回ったらいいのか悩んでいたのよね」


「前に聞いたお仕事? またどこかに行っちゃうんだよね?」


「そうなるわね。ただ、今回は旅行みたいなものだし、携帯電話もちゃんと持って行くから、魔法のお勉強なら離れていても見ることは出来るわ。ああ、でも国外だと時差があったわね。その辺りは気を付けないと」


「魔法の勉強を見てくれるのは嬉しいけど……んむぅ。もっとおばあちゃんとおでかけとかしたかったなぁ」


 そう言ってくれるのは嬉しいのだけど、こちらの準備もあるから紬ちゃんとのお出かけはもうできないのよね。


「ごめんなさいね。お仕事が終わったら、また一緒にお出かけしましょうね」


「うん……あっ、おやつの時間だった!」


「あら、そうだったわね。それじゃあ、休憩しましょうか」


「うん! 今日はね、ママがパンケーキ焼いてくれたの! しかもね、アイスものせて良いんだって!」


 そう言えば今日は桜がお休みだったわね。


 パンケーキと言えば、あの子の得意料理――で良いのかしら?


 あの子、パンケーキだけはお店のような品質の物を作るのよね。自分の好物だからかしら?


「あら、良かったわねぇ」


「うん! 紬、ママのパンケーキ大好き!」



 今にも走り出しそうな紬ちゃんと手をしっかり繋いで歩いて行くと、庭の窓際にあるグリーンカーテン下のテーブルまで案内された。


 この時期は家に籠りがちだけれど、空調機だと身体が冷えすぎてしまうのよね。


「ママ呼んでくるねー!」


「ええ……あら、いい風。日陰だと丁度いい涼しさね」


 外はまだ暑い時間帯だけれど、木陰であることとちょうどいい塩梅の風が吹いているのでなかなか涼しい。


 軒下に吊るされている風鈴の音色も良いわね。


 そうしてしばらく涼んでいると、紬ちゃんが桜を連れて戻ってきた。


「いい感じでしょ? はい、お待たせ。紬はチョコとバニラと苺のトリプルアイスのせね」


 紬ちゃんの目の前に、三段重ねのパンケーキとアイツ各種が盛られたお皿が鎮座した。


 パンケーキは厚くボリュームのある形で、型で焼いたような綺麗な形をしている。


 結構な量だけれど、紬ちゃんは見た目以上に食べる子なので、余裕で完食するでしょうね。


「やったぁ!」


 そして、私の目の前にもお皿が置かれた。


「はい、母さんはこれね。抹茶アイスと白玉団子に黒蜜きなこ掛け」


 こちらのお皿はパンケーキが一枚とその他盛り合わせとなっている。


 歳を取って食べる量が減ったから、これぐらいでちょうど良いのよね。


「あら、ありがとう」


「そして私はシンプルにバニラアイスとメープルバターね。紬、飲み物は何にする?」


 桜の方はパンケーキが三枚だけど……いつもなら五、六枚を普通に平らげるのよ?


 妊娠の影響で食欲が落ちているのかしら?


 お腹が圧迫されて苦しい時があるのよね。


「牛乳が良い!」


「紬は牛乳ね。母さんは?」


「暖かい緑茶をいただこうかしら?」


「暖かいのでいいの? 書斎で身体冷やしちゃった?」


「ええ、少しね。身体は平気だから大丈夫よ?」


「無理はしないでよ? 年取ると鈍くなるっていうし」


 三人分の飲み物を準備しながら、桜がお小言を言う。


 とはいえ、確かに身体の衰えは感じるのよね。魔法少女に成っている間はそんなことは無いのだけれど。


「ええ、まだ平気よ。最後に大仕事を任されちゃったけれど」


「母さんが安請け合いするから……とは言え、現状行けそうなのも母さんくらいなのよね。まあ、世界旅行だと思ってゆっくり楽しんできてよ」


「ええ、そのつもりよ。ところで桜、紬ちゃんはどちらなの?」


「……紬は影響を受けた側よ。藤堂家で影響を受けていないのは私と母さんくらいね」


「そうだったの……」


 うちでは二人だけなのね。


 やっぱり、私達のような人は少ないのね。


「大変だったのよ? 妊娠の影響で記憶障害が出てるだなんて言われた時は寝込みそうになったわ」


 それは……心にくるでしょうね。


「もしかして、桜香ちゃんの件で……?」


 そこまで言われるとなると相応の事があったのだと思うけど、そう考えると桜香ちゃんの件しか考えられないわね。


「ええ、盛大にやらかしたわ。病弱だった頃の記憶がないって言われた時の衝撃と言ったら……」


「んぅ? お姉ちゃん、ずっと元気だよ?」


 ああ、そう言えば紬ちゃんは知らないのよね。


「ええ、紬ちゃんが生まれた頃にはすっかり元気だったわね」


 その頃には対処法も確立されていて、日常生活を送る分には問題なくなっていたのよね。


「お姉ちゃん、病気だったの?」


「えっと……母さん、言っても大丈夫なの?」


「紬ちゃんにとっては元から知らないことだし、大丈夫よ」


「そうね。ええ、桜香お姉ちゃんは昔、魔力欠乏症って言って、魔力が足りなくて苦しくなっちゃう病気だったの」


「魔力が? こんなにいっぱいあるのに?」


「ええ、そうね。でも、そういう病気で大変だったの」


「そうだったんだ……でも、今は元気だから大丈夫なんだよね?」


「ええ、でも、このことは誰にも言いふらしたりしては駄目よ?」


「うん、わかった! あっ、アイス溶けちゃう!」


「あらあら、早く食べないと溶けてしまうわね」


「はい、飲み物よ」


「ありがとー! いただきまーす!」


「どうぞ召し上がれ。はい、母さんも」


「ありがとう」


「それじゃ、私達も食べますか」


「ええ、いただきます」


「私もいただきます。と、久しぶりにまともな料理をしたけど大丈夫かしら……んっ、美味しっ。腕は落ちてないわね」


「ええ、生地のふんわり加減が良いわね。甘さ控えめで、付け合わせと一緒に食べると丁度いいわ」


「でしょ? パンケーキは意外と奥が深いのよ」


「それはどの料理でも言えることではあるけれど……なんでパンケーキだけ上手になってしまったのかしらねぇ」


「うっ、い、一応、他の料理も普通に作れるし……」


「紬、ママのハンバーグも好きだよ?」


「ほらね! ちゃんと作れてっし!」


「口調が若い頃の物になってるわよ?」


「おっと、いけないわ。私の完璧な大人のイメージが――いや、今も若いですけど?」


「今度生まれる子供は何人目だったかしら」


「……八人目です。で、でもまだ三十代だし」


「パパが前にママのことアラフォーって言ってたよ」


「……あ? あいつっ! 可愛い紬ちゃんになんて言葉を!」


「おばあちゃん、アラフォーって何?」


「さあ? 若い人の言葉はよく分からないのだけど、ここまでのやり取り的から判断すると、もうすぐ四十歳と言う意味ではないかしら?」


 そう言うと、紬ちゃんが確認するように桜に言った。


「ママって、もうすぐ四十歳なんだ?」


「娘の無邪気な言葉が突き刺さる!」


 桜もまだ年齢を気にするような歳なのね。


「いいじゃないの。四十歳ならまだ若い方でしょう?」


「ま、まあ、それはそうだけど? でも、私の世代的には四十超えたら完全におばさんってイメージが……」


「それこそ勝手なイメージなんだから、気にしなければいいだけじゃない」


「まあ、うん……それもそっか。うん、私まだいける!」


「まだいける!」


「ええ、そうよ。そもそも魔法少女なんて、いくら歳を取っても変身したら若返るんだもの」


 おかげでこの歳になっても仕事が回ってくることがあるのが困りものだわ。


「その辺りのルールは改正していきたいところよね。組織の再編もまだ終わってないし……」


「それはゆっくりとやっていきなさい。急いだ所でぼろが出ては大変でしょう?」


「ええ、そのつもりよ。しっかりと決めていかないと、また今回のような事が起こりそうだもの」


「今回の件に関しては桜香ちゃん達と世論に救われたようなものだから、正式なお礼は早いうちに済ませなさいね?」


 原因が大陸の工作とは言え、


「うっ、それ真田さんにも似たような事言われた……どんな形のお礼が良いのかしら? 桜香たちはともかく、世論となるとなぁ」


「そこは今後の仕事で返していくしかないわね。あとは桜香ちゃん達みたいな、何か楽しそうな催しをするとか?」


「うーん、そこはアイドル部門の出番かなぁ……本来あるべき形の」


「……彼女達の事は聞いたわ。それでも、残ってくれている子達は居るのでしょう?」


「ええ、これからの機関を信じて付いてきてくれるって言ってくれたわ。あの子達の為にも、しっかりしないと」


「そうね。ああ、そうだわ。遭難中に見聞きした物をまとめた報告書があるのだけれど、あとで見てくれる?」


「あー、そんなのもあったわね。わかったわ。あとでね」


「ママー、パンケーキおかわり!」


「おぉー、よく食べるわねぇ。良いわ。持ってくるから待っててね。あ、アイスはあと一個だけよ?」


「えー!」


「お腹壊しちゃうから駄目。それで、味は?」


「うーん……バニラが良い! あとチョコレートのソースかけて欲しい!」


「食べた後はちゃんと歯を磨くのよ?」


「うん!」


 紬ちゃんの元気な返事を聞いた後、桜は追加のパンケーキを取りに行った。


「……ふぅ、お茶が美味しい」


 この穏やかな時間を、あと何度過ごすことができるのかしらねぇ。


 今度のお仕事はかなり時間がかかりそうだし、都度帰宅も検討した方が良いかしら?


 どうせなら、誰かしら新人を連れて歩くのも良さそうね。


 危険はそんなにないはずだし、現場で叩き上げの教育と言うのは今の時代には会っていないけれど、希望者を募れば出てきそうではあるのよね。


 あとで彼方と冬華に連絡して、良さそうな人材を見繕ってもらおうかしら?


 やる気があるのは当然として、今後の機関を支えていけるように教育していくとなると、なるべく若い子が良いわね。


 それに、この新しい世界で臨機応変に動けるような人材となると、私達と同じではきっと駄目よね。


 それでいて、世界が融合していると言う事実を伝えても大丈夫な人となると……今の機関に居るのかしら?


 理想としては桜香ちゃんたちが最適だとは思うのだけど、あの子達には自分達のお仕事があるものね。


 ……とりあえず、彼方と冬華に任せましょうか。

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