第四項 彷徨う戦士(第90話)
第一部 新世界の産声編 第五章 新世界へ 第三節 死出の旅路
そろそろ雪女の村落に向かわなければならなくなってきた頃、修業を終えたウララが探偵事務所に到着した。
久しぶりに生身の彼女を見たが――違和感があるな。いったいなんだ?
「すまない、待たせたな」
その違和感に関しては、荷物を降ろしながら言うウララへ突っ込みを入れたカスミの言葉で判明した。
「久しぶり――って、ウララ、なんか若返った?」
そうか、若返って見えるのか。
「これは魔法の修業の成果だな。正確には、魔法と気の相乗効果だそうだが、なぜこうなったのかは私にもよくわからん」
自身の身体を見下ろしながら言うウララへ、今度は兎塚さんが近づいて行った。
「どうもぉ、ネクシオで顔を合わせて以来ですぅ」
「む、メアか。実際に会うのは初めて――ではなかったな」
「はい、銀狼さんの姿の時に会ってますねぇ。その節はお世話になりましたぁ」
「なに、気にするな。人民軍には随分と助けられた」
「それでもありがとうございますぅ。あの時あなたが助けてくれたおかげで、私は生きて兄弟に会うことができましたからぁ」
「メアにも兄弟が居るのか?」
「ウララさんもですかぁ?」
「ああ、二人いる。知っているかもしれないが、双方共に怪人だ」
「……ああっ、よく一緒に行動されていたよく似た姿の怪人さん達ですねぇ?」
「そうだ。あの二人に迷惑は掛けられたりは……」
「大丈夫ですよぅ。ほとんど接点は無かったのでぇ」
「どっちかと言うと私達は燈牙との接点の方が多かったわね。まあ、一番多かったのはウララだけど」
「そうなのか?」
「ああ、霞達とは現場でかち合う事がそれなりにあったな」
「貴様、私からは逃げ回っていたくせに……」
「弟ほどじゃないが、お前が隙あらば戦闘を申し込んできたからだろう」
「あれはっ……と、とにかく、今回ばかりはもう逃がさんぞ。いいな?」
「もう逃げたりはしない。それと、その……なんだ。ウララの事を受け入れる覚悟も出来ている」
「……よし、ならば決闘だ!」
「なぜそうなる!?」
「私が住んでいる森の風習だ。気に入った男に決闘を申し込み、勝って娶らせるのだ」
「ウララのとこは女性が強いのかしら……」
「内容的にそれっぽいですよねぇ」
「と、とにかくそう言う事だから、貴様の覚悟はどうであれ決闘は受けて貰うぞ!」
「わかった。それでウララが満足するのなら受けて立とう。しかし、手は抜かないぞ?」
「ふっ、望む所だ。今の私には怪人の力の他に魔法少女としての力もあるからな。そう易々とはやられはせんぞ!」
「こちらも気に関しては一日の長がある。悪いが土を付けさせてもらうぞ」
「あー、はいはい。とりあえずここじゃ狭いから、やるなら屋上でね?」
「それが終わったらバーベキューですねぇ」
そうして俺とウララの決闘が屋上で行われ――
決着がつくまではそれなりに時間が掛かった。昼から始めた決闘だが、もう日が沈んでしまっている。
そして、勝敗の方は――
「……流石に、疲れたな」
「か、勝った! 私の勝ちだ! 悪鬼――いや、燈牙! 私を娶って貰うぞ!」
ウララが勝ち、婚姻関係を申し込んできた。
こちらは最初からそのつもりなんだが――まあ、それを言うのは無粋か。
「わかった。ウララを娶ろう」
「ああ……ようやく念願が叶った。もはや悔いはない」
ウララはやり切った様子で空を仰いでいるが、むしろこれからなのでは?
「いや、むしろこれからでしょうが。産めなくなるまで子供を産むとか言ってなかった?」
そんなことを言っていたのか……。
「大胆ですねぇ。とりあえず、ウララさんも来た事ですし、私のお仕事は終わりですねぇ」
「あー、そうなるわね。とりあえずこの後のバーベキューは参加するんでしょう?」
「もちろんですぅ。ドラゴンのお肉は食べてみたいですからねぇ」
ああ、そう言えばまだ残っていたな。ドラゴンの肉。
「そうして英気を養ったら、みんなで燈牙さんを愛でましょうねぇ」
……うん?
「ふむ、私としては最初は一対一が望ましかったのですが……まあ、今後を考えるとそのような状況も想定とした経験は必要ですね。わかりました。受けて立ちます」
待て、受けて立つな。
「それって私も参加するわけ? まあ、口とか胸ならいけるけど……あ、あと、優しくするなら、もう大丈夫だってお医者さんが言ってたけど」
っ、なぜこのタイミングで!?
「まて、本当にそんなことをする気か……?」
及び腰の俺に対して、兎塚さんが珍しく真摯な様子で訴える。
「燈牙さんだって、今後はそのような状況と言いますか、そのような状況しかなくなると思いませんか?」
それは――どう考えても否定できないのが辛い。
現時点で手を出している女性の数が二桁に到達しているからな。
特に雪女の村落での生活が大きいが、外に出てからも霞、兎塚さんと言った具合に数を増やしている。
そして、そこに本日付でウララが加わるわけだ。
それにしても、本気でやって負けるとは……俺もまだ甘い。
……まあ、そう言った面があるにせよ、ウララの使用していた技術が凄まじかった。
気と魔力の相乗と言う技術だが、あれはぜひ俺も物にしたい技術だった。
気と魔力の混交により産み出される爆発的な力……あの力が欲しい。
ぜひとも教えて貰わなければ。
「ほら、ぼさっとしてないでバーベキューの準備をしましょ」
「あ、ああ……」
その為にも、今夜を生きて乗り切らなくては……。
……生きてる。流石に死ぬかと思ったが。
なんだったら霞から話を聞いていたという兎塚さんが自分用にバニースーツ、ウララ用にウルフスーツなる物を用意して、霞のキャットスーツを合わせて三人によるケモノプレ――もとい悪ふざけをされた際には本気で死を覚悟した。
身体の都合上、そう言う昂りを抑えるとまずいため、必然解放することになった結果、かなりの長時間を要してしまったと思うんだが……今何時だ? 時間も忘れて行為に耽っていたのは反省だな。
「それにしても、疲れた……」
すべての行為が終わってからそれなりの時間が経過しているが、季節も相まって部屋の中には熱気がこもっている。ついでにそれ以外のものも。
「うぅ……匂いやばぁ……燈牙ぁ。あたし動けないから換気よろ……」
「無理をするからだ……身体と言うか、その、子供は平気か?」
返事をしながらカーテンの向こうを覗くと、真夜中のようだった。
……丸一日はベッドの上に居たらしい。
部屋の窓を開けて換気を試みるが、なかなか空気が出て行かない。
これは、部屋のドアと別室の窓も開けないとだめか。
「ん、だいじょーぶ、だと思う……こんな経験初めてだし。ところで、メアとウララは大丈夫なの?」
言われて霞と同様にベッドに転がっている二人を見る。
呼吸はしているようだが意識が完全に落ちているらしい
「……どちらも気絶しているみたいだな」
「あんたが激し過ぎるのよ」
「求められると応えざるを得ないと言うか……そう言うのを抑え込もうとすると身体が不調になるんだ」
「ほんと厄介ね……」
「まったくだ。空気が出ていかないから別室の窓も開けて来るが……飲み物も必要だな」
「ん、お願い。喉からから……」
「ああ、持ってくる。随分と長いことしていたみたいだが……食べ物はどうする?」
「ん……起きてからでいいや。水分取ったらまず寝たいわ。眠い」
「わかった。俺はしばらく起きてるから、ゆっくり寝てくれ」
「ありがと……とりあえず飲み物早くね」
「あ、ああ」
……これから一生、霞の尻に敷かれ続ける気がする。
別室の窓を開け、霞に飲み物を届けた後、俺は居間で鍛錬を始めた。
内容は気と魔力の相乗――の初歩である。やり方はウララに教えて貰った。
気と魔力と言うのは水と油のような物で、本来は混ざり合う事が無いそうだ。
しかし、気と魔力の相乗と言う技術はそれを覆し、気と魔力を混ぜ合わせることで大きな力を生み出すという物――と言うのがウララも教わった内容らしい。
では、本来混ざり合う事のない二つの力を混ぜ合わせるにはどうしたら良いのか?
そこで重要になってくるのが双方とは異なる力だという事だ。
その力はさながら界面活性剤のように気と魔力のそれぞれに対して親和性のあるそうで、力の融合を成し遂げるという事だ。
ではその力は何かというと――わからない。とのことだ。
正確には名前がなく、また表現しようがないという事で、しかしその力は間違いなく生命の身体に宿る力であるとのことだ。
そのように正体不明な力をどうやって使うのかと言うと、とにかく感じ取るしかないという事らしい。
具体的な方法としては己の体内にある気や魔力以外の力を探って行けば自ずと辿り着くとのことだったが――
「……難しいな」
気に関しては分かる。魔力も魔法を使うようになってから、わかるようになった。
問題はそれ以外にもそれらしい力が幾つもあるという事だ。
ただ、その大小は様々であり、特に大きな力などは触れてはいけないような気がする。なんとなくだが、この大きな物は生命力だとか、そのような生物として重要な物のように思える。
小さな物に至っては、気や魔力と違ってうまく干渉できない――なんというか、眠っている力とでもいうのだろうか? そのような感覚がある。
それ以外は……気と魔力以外はどこか掴めそうで掴めないような。しかし、身近に感じる力のように思える。
おそらくだが、必要な力はこの中にあるのだろう。
確かにこれは説明が難しいな。言われた通り、必要な力を感じ取るしかない。
しかし、自分の中にこのように幾つもの力が内包されているとは思わなかったな。
……怪人化の影響か? なんとなくだが、そんな気がする。
そうしてしばらく自分の中の力を探っていると、不意に背後から声が聞こえた。
「……トウガ?」
「む……ウララか。起きたのか?」
「うむ、その、なんだ……気絶してしまって済まなかったな。あのようなことは初めてで……」
「気にするな。それより、身体は大丈夫か?」
「む、そうだな……慣れない動きで少し痛む所はあるが、概ね平気だ。ただ……」
「ただ?」
「先も言ったように初めてなのでな……その、子を望むなら、出された物は胎の中に留めておいた方が良いのだろうか? 勝手に溢れてくるんだが……」
……それを、俺に答えろと?
「……無理にかき出したりする必要はないそうだが、そのままにしておくのもあまり衛生的ではないので、ふき取るなりなんなりは必要だと思う。詳しくは霞辺りに聞けばわかるはずだ」
「う、うむ、そうしよう。つい聞いてしまったが、トウガに質問するような事ではなかったな……」
「いや、大丈夫だ。ところで、眠くはないのか?」
「よく眠れた――と言うよりは気絶していたのだが、眠気はほとんどない。もとよりあまり眠らない性質でな」
「そう言う体質なのか。それなら、気と魔力の相乗について少し教えて欲しい」
「構わないが、その……トウガはもう変身できないと聞いたが、大丈夫なのか?」
「お雪さんから聞いたのか。別に変身できないわけじゃないんだが、あと一回だけにしないと死ぬと言われてな。それは奴との戦いに使うつもりだ」
「奴とは、羅刹のことか」
「そうだ。そう言えば、修業の場に羅刹も居たという話だが、本当なのか?」
「ああ、間違いない。正確には、それ以前に遭遇して、修業の場の話を聞いて一足先に向かっていたというのが正しいな。ただ……少しばかり奴の雰囲気が変わっていた。今の奴からは以前のような狂気的な様子が見受けられなかった。だからと言って油断はしない方が良いとは思うがな」
「それは分かっている。しかし、やはり生きていたか……」
「トウガと死闘を演じたなどと言っていたが、本当なのか?」
「総帥との戦いの前にな。結局は総帥の横槍が入って不完全試合と言った具合だった」
「そうか。修行が終わった後はまたしばらく世界を見て回るなどと言っていたが、お前と遭遇すると何をしでかすかわからん。用心はしておいた方が良い」
「そうだな。気を付けておこう」
奴の気は特徴的だから、近い位置にいたらすぐにわかるから、急な遭遇に関しては大丈夫だろう。
しかし、奴は今の世界でも自由だな。世界が融合する前にもニュースで世界を彷徨う戦士などと言われていたが、そう言った放浪癖は変わらないらしい。
「そうして欲しい。それで、気と魔力の相乗だったか。融合に必要な気は掴めそうか?」
「これがなかなか難しいんだが、ウララの中にも複数の力があるのか?」
「もうそこまで行ったのか。流石だな……ああ、私の中にも複数の力が眠っているようだが、おそらく怪人化の影響だと言われた」
「やはりそうなのか……この中から必要な力を探し当てて、その後はどうするんだ?」
「力を引き出すのだが、その力は気と魔力に対して反応しやすくてな。その為、気と魔力をそれぞれ右手、左手と言った具合に遠ざけておく必要がある。別に足でも良いが、私は手の方がやり易かった。そうして必要な力を丹田で引き出し、練り上げる――と言うのが一連の流れだ」
「ああ、あの構えか。両掌を腹の前で合わせたのはそういう事か」
その構えの後から急激に戦闘能力が向上したからな。
「そうだ。ああやって気と魔力を融合させるのが相乗と言う技だ。しかし、勝ったのは私だと言うのに、納得がいかんな」
「勝ちは勝ちだろう? 間違いなくウララには実力で上をいかれた」
「お前、変身せずに変身した私と渡り合っていたのだぞ? まさか気付いていなかったなどという事はあるまいな?」
「……そう言えばそうだったな」
雪女の村落以降、戦闘らしい戦闘も無く、変身もしていないからすっかり忘れていた。
「まあいい。トウガと戦う機会は今後いくらでもあるからな」
「待て、こういった関係になってもそれは続くのか……?」
「どうせ鍛錬はするのだろう? 組手のような物だと思えば良い」
「組手か……そう考えると助かるな」
お雪さんやみぞれとは頻繁に行っていたが、霞はそう言うのは専門外だと言って付き合ってくれなかったからな。
「しかし、組手ならメアに頼めば良かったのではないか? 奴もなかなかの腕だぞ?」
「そうなのか? 確かに格闘戦は得意そうだったが……」
「得意どころか、奴は怪人を数匹仕留めている猛者だぞ。本人から聞いていないのか?」
「いや、聞いていない。そうだったのか……」
身近な所に訓練相手がいたとは、思いもよらなかったな。後で頼んでみるか。
とはいえ、まずは気と魔力の相乗をものにするための力探しだな。早く見つけたいものだ。
今回はここまでです(2024/07/20)
※内容的に07/21に投稿した方が良かったか……?
燈牙編は当初の予定と大きく変わってHでEROな描写が多くなっています。英雄(HERO)なだけに。




