↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/102

第三項 姿は違えど(第69話)

第一部 新世界の産声編 第四章 其々の帰還 第二節 不本意な帰宅

 シルフィーネと思われた下手人の捜索は思わぬ出会いという形で終わったが、シルフィーネ達の母に当たる太古の精霊であるスフィア。それが生まれ変わった魔女、風音リンとの協力関係を築くことができた。


 リンの協力があれば、親子の繋がりを利用して生まれ変わってしまったシルフィーネを見つけることができるはずだ。


 これでシルフィーネの捜索は進展したと言えよう。


 なので、協力者であるリンを宰相に紹介するべく城へ連れて来たのだが――


「ふむ、カザネ・リン。人族ですか。異世界の者とは言え、協力者としては些か心許ないですね」


「えっとぉ……正確には魔女、なんですけど」


 ――宰相は、リンが自身の母親であることに気付かなかった。


 まあ、無理もないか。宰相は人族嫌いだからな。


「宰相よ」


「なんですか?」


「その人族との繋がりを感じぬか?」


 そう告げると、宰相は怪訝な様子で確認を取り始める。


「はあ? そんなわけが――ん? いや、そ、そんなはずは……」


 珍しく狼狽える宰相に対して、リンは泣き真似をして見せた。


「あーあ、悲しいなぁ。我が子に気付いてもらえないなんて……ぐすっ」


 しおらしい反応をしているが、顔を隠しつつも笑っている気配を感じる。


 こういう時、普段の宰相であればすぐに気付いたのであろうが、完全に翻弄されているな。


「ほ、本当に、母上なのですか!? 完全に消滅したはずでは……否、姉さまの件もありますし、母上も別の世界に?」


「まあ、そうなるのかな? 生憎と記憶の大半はまだ思い出せてないんだけどね。自分の死因も知らないし」


「そう、なのですか……残念ながら、母上が消滅した原因は私も存じ上げておりません」


「あー、いいよいいよ。なんだったら力とかもかなり失ってるみたいだし、自分のことは自分でどうにかするわ」


「……その、随分と変わられたようで」


 宰相め。何かを含むような言い方だな。


 先の反応には一瞬怯えのような物を感じたが、スフィアという精霊はどのような性分だったのだろうか?


「そりゃまあ、生まれ変わってるわけだし、見た目はかなり変わったと思うけど」


「いえ、そうではなく……その、性格が陽気になられたと言いますか」


「へえ、そうなんだ? 記憶は幾らか思い出せてるけど、自分がどんなふうだったのかはよくわかんないのよね。自分の事で覚えてるのは自分の見た目と子供が二人居たってことくらいかしら?」


「そうですか……あの、龍王様、少し宜しいでしょうか?」


「なんだ?」


「龍王様は、消滅前の母上との面識はありますか?」


「いや、ないな。太古の精霊が居た時代の我は魔物との戦いに明け暮れて居ったからな。せいぜいが小話に出てくるのを聞いていた程度だ」


「そうですか……」


「本人目の前にして意味深な話は止めて欲しいんだけど……てか、精霊時代の私って相当やべー奴だったりするの?」


「やべーという表現はよくわかりませんが、苛烈な性質を持った方ではありました。なんでしたら好戦的な方の姉上よりも」


 好戦的な方のシルフィーネよりも、だと?


「それは……とても信じられんな」


 あれ以上となると、もはや歩く災厄ではないか。


「え、なに? シルフィーネの好戦的な方っていったらあのやんちゃな方でしょ? それよりヤバいってどんだけよ! それはもはや戦闘狂を通り越してただの厄介者じゃないの!」


 戦闘狂も充分に厄介だがな。やんちゃで済ませるあたり、親としての贔屓目があるのだろうか。


 とはいえ、当時の我が聞いていたスフィアの噂は事実であったらしい。


「まあ、実際問題、魔物よりも味方相手に喧嘩を売り過ぎて煙たがられていたという噂話はあったな。終ぞ我の所には来なかったが」


 喧嘩を売ってきたら迎撃してやろうと思っていたのだがな。


「以前の母上は逼迫した戦いを好んで居られましたので、敵味方を問わず実力が伯仲した相手を狙って果し合いを挑んでいましたよ」


 血沸き肉躍る戦いが好みか。気持ちはわからんでもないな。


 我らのような種ともなれば魔物か同胞くらいしかまともに戦える相手が居ないからな。


 ましてや我はその頂点の座について居ったからな。魔物くらいしか相手が居なかった。


 後にシルフィーネが喧嘩を売ってくるようになるが、奴との戦いは我が不得手としていた魔法戦が主体だったな。


「なにそれこわい。前世の記憶を思い出すのが憂鬱なんですけど」


「その点はさほど心配は要らぬと思うぞ。生まれながらであればともかく、ある程度人格がしっかりとして居れば記憶が戻った所で生じる影響は微々たるものだからな」


「あ、そうなんだ。それなら安心かな?」


「私としては今の方がとっつきやすいので、そのままでいてくれると非常にありがたいです。むしろ、そのままでいてください」


「いや、どんだけヤバかったのよ……まあいいわ。これで私の実力に対する不安はないでしょ?」


 我としては力が不足していようが構わないのだがな。重要なのはシルフィーネとの繋がりなのだから。


 しかし、宰相は納得がいかないらしい。


「いえ、それはそれ、これはこれですね。母上――いえ、あえてリン殿と呼ばせていただきますが。貴女はどれだけの力を使えますか?」


「え? そうねぇ。風魔法のコントロールには自信があるわね。全力を出せば災害クラスの嵐を引き起こすことも可能よ?」


 リンが自信有り気に答えるが、その程度であれば宰相でも容易に起こせる。


 案の定、宰相は頷きながらも次を促した。


「他には?」


「え? えぇっと、他には風ほどじゃないけど多種多彩な属性の魔法が使えるかな? あ、それとバフ、デバフも行けるよ?」


 確かに多彩だが、その程度は魔法を使う者にとっては基本中の基本であるな。


 しかし、異世界の魔法は細かい分類がされているようだが、なぜそんな面倒なことをしているのであろうか?


 それではこちらの人種が使う魔法と大差が無いではないか。


「なるほど、そちら側の世界の魔法の認識はその程度ですか」


「言ってやるな。それでも人種の最上位程度の魔法の腕はあるのだぞ。何より宰相、貴様は一度出し抜かれておろうが」


「むぐっ、あ、あれは連日の疲れもあって……いえ、言い訳に過ぎませんね。確かにあの日、私を始めとした城の者達はリン殿の存在に気付けなかったのですから」


「あー、あれね。隠形法って言って、異形の人から教わった魔法とは違う技術なんだけど……」


「ほう、そのような技術があるのか。異形とやらも侮れんな」


 あるではないか。魔法とはまた違った体系の技術が。


「異能の類いでしょうか? スキルとは異なる力のようですが」


 うむ、確かにスキルを持つ者特有の不快な力の波長は感じられないな。


「異能かぁ。一応、私の風魔法も異能に分類されてるんだけどね。普通の魔法とは根本から違うし。ところでスキルって何? そっちからゲーム的なワードが出てきて気になったんだけど」


 ゲーム的なワードとは? 異世界語は難しいな。


「スキルとは一時期の人族が使っていた力で、ステータスという物に付随する力の一つだが、今はもう失われたものだ」


「正確には正当な持ち主の元に力が戻っただけですがね」


 宰相が付け加えると、リンは露骨に顔を顰めた。


 凡そ何があったのかを察したらしい。洞察力はなかなか鋭いようだ。


「あー、だいたい察したわ。やっぱり都合の良い力なんてものは存在しないのよね」


「それはそうであろう。力とは生まれ持った物を人生においてどれだけ研鑽してきたかで変わるものだからな」


「あー、耳が痛いわ。そっちの世界では平等の精神とかは存在しない感じ?」


「平等? 遍く命は生まれながらに不平等だというのにか?」


「ごもっともで……まあ、私自身もそういう考えだから魔女側に属してたんだけどね」


「ほう、平等とやらを謳っているのは魔法少女達の方だと?」


「正確には機関――魔法少女機関っていうのがあって、そっちの方がそう言った考えを持っている人達が建ち上げたっていう経緯があるわ」


「ふむ、話を聞く限りでは機関という側の方が賛同者が多いように思えるのだが」


「正解。まあ、こっちの世界はドッさん達みたいな超越的な存在がほとんどいないからね。異形の人達にしたって研究し尽くされた結果、力を持たない人間に敗けるなんてこともあるし」


「研究か……技術の研鑽によって上位種を従えるほどなのか、そちらの人族は」


「そ、特に現在なんかは体制側の人間との癒着が酷くなったせいで、腑抜けた魔法少女もどきが量産されて、不当に虐げられる異形が居る始末よ」


 異世界の事とは言え、こうして世界が融合した以上は見過ごせぬな。


「ふむ、宰相よ」


「はっ、直ちに異世界人族の調査と共に異形なる存在との接触を試みます」


「あ、異形の方ならいくらか私が紹介できるけど……」


「それならば、魔法少女も含む体制側に賛同する者とそうでない者の情報が欲しい所だな」


「体制側のは難しいかも……ただ、夢幻島って所に中立の異形達がたくさん居るから、彼らに接触するのが一番簡単かもしれないわ」


「夢幻島ですか。この地図の、どの辺りでしょうか?」


「おわっ! えっ、なにこれ? まさか、魔法!? ハイテクじゃなくて?」


 ハイテク……? 異世界語の調査も急務だな。


「これは任意の記憶を空間に映し出す魔法だ。それにしても……世界は随分と様変わりしたようだな」


 以前であれば世界全土が我が領土のようなものだったのだが、随分と塗り替わっておるわ。


 異世界と融合したことで各世界の影響力の強い部分が現在の世界に反映されているのか?


「勢力図はまだ未完ですが、我が国に匹敵する勢力が現在は三つ程あります」


「ほう、宰相がそこまで言うような勢力があるか」


「はい、規模だけの話となりますが、なにぶん未知数なものなので。一つは話題に出たばかりの魔法少女機関、二つ目は世界防衛軍、三つめは通称を人民軍と言い、複数の組織や企業によって成り立っていた組織です。こちらはすでに解体済みとなっております。また、世界防衛軍も現在は解体に向けて動いており、いくつかの防衛組織という形に枝分かれするようです」


 世界防衛軍は長との話題で出て来たな。


 多数の機動兵器とやらを保有する世界規模の軍事組織だったか。


 どれほどの戦力なのかは話だけではつかめなかったが、海上都市で実物を目にした感覚としてはさしたる脅威には映らなかったな。


 人民軍とやらは初めて名前を聞いたが、此度の外出では耳にすることのなかった名前だ。


 大なり小なり力のある組織であれば名を耳にしてもおかしくはないから、現状は脅威に値せずという評価だな。


「今後の動きを踏まえるとなれば、目下の脅威は魔法少女機関か」


「そうなります」


「え、今後の動きって……?」


「戦争だ」


 なにせ国と国の関係だ。利害が一致せぬ場合は戦争も辞さない。


「ふぁっ!? 待って待って! 戦争反対!」


「む? なぜだ?」


「いや、なぜって、まずは話し合いじゃない!?」


「愚かなことを。なぜ始めに対話をする必要がある?」


 対話とは、双方が対等な力を持ち、力での解決が望めなくなってから要するものだ。


 最初から話し合いなど、利害の不一致で決裂するに決まっておる。


「いやそうなんだけどね!? ちょっと手段が直接的過ぎやしない!? 虐殺反対!」


「虐殺? 何を勘違いしておるのだ」


「リン殿。我々の世界における戦争とは強者と強者の戦いです。弱者の出る幕はありませんよ」


「え、あ、そうなの? じゃあ死者とかは出ない感じ?」


「いえ、戦いに敗北した場合は死ぬこともありますよ?」


「さも当然のように……! でも、私の思ってたような戦争じゃなくて安心したわ」


 そこまで戦争を忌避するとは、いったいどのような内容なのだ?


「ふむ、参考までに、そちらの世界の戦争の様子を教えて貰ってもよいか?」


「いいけど、真似しない?」


「内容によるな」


「私達の世界の戦争って、権力者が安全な所から指示を出してたくさんの軍属の人達が武器を手に戦うっていうか、もうほぼほぼ殺し合いって感じで」


「論外ですね」


「うむ、先を越されたが同感であるな」


 それにしても酷いものだ。


「それじゃあ、真似はしない?」


「するわけがない。人材の無駄遣いにもほどがある。ついでに尋ねたいのだが、その軍属の者達は皆年寄りか?」


 そうであればまだ救いはあるのだが。


「いや、若い人もいるけど」


「なおのこと論外ですね。そちらの世界は無能が統治してるんですか?」


「言ってやるな。おそらくは太古の昔よりそうやって生きて来たのだろう。それにしたって進歩が無いのが救えぬがな」


「い、一応、経済戦争なんてのもあるけど」


「経済というからにはおおよその予測はつくが……」


「まさか、重要な物資、それこそ食糧などの生産需給を他国に頼ったりしていませんよね?」


「その、一部ですがそういう物も、あります……」


「なっ」


 そんな馬鹿なことが現実に起こり得るのか? 思わず言葉に詰まってしまったぞ。


「龍王様、やりましょう。異世界の民の為にも我らが統治すべきです」


「落ち着け、まだ猶予はある。しかし、必要物資の生産を他国に頼るとは……どうなっておるのだそちらの世界は」


「私に言われても……」


「……ふむ、それもそうであったな。存外、我も動揺していたらしい」


 本当に、酷い国があったものだ。


「それにしても酷い国ですね。民が逃げ出してもおかしくないのでは?」


「まったくだな」


「あ、こっちの世界では他国に行くのにパスポートっていうのが必要で、それの発行に二週間ほどかかるのよ」


 パスポート? 国家間の移動に用いるという事は通行手形のような物か?


「二週間!? 要は手形のような物ですよね!? 即日発行ではないと!?」


「いやいや! 審査とかで時間が掛かるのは普通でしょ!?」


「そんなもの一瞬で済むでしょう! せいぜいが犯罪歴や危険思想の持ち主でないか程度の調査ですよね!?」


「他にもいろいろあるけどそれが一瞬で出来ちゃうってどんな技術!?」


「双方ともに落ち着け。生憎とこちらには我が国とせいぜい属国がある程度だから審査が緩いというのもある。多少……とは言えそちらの方は些か長すぎる気がするが、統治者の異なる国へ行く為の手形であれば、審査期間があるのは仕方のない事ではないか?」


「いや、それにしたって長いでしょう。来歴調査など遡行探査魔法で一瞬じゃないですか」


「えっ、なにその便利そうな魔法」


「その人物の来歴を辿ってどのような人物なのかを調べる魔法ですが……ないのですか?」


「それってもう時空魔法の粋じゃない?」


「時に干渉する魔法は使用に資格が必要ですが、修得難度自体は軽い方では?」


「ま、魔法に対する認識が違い過ぎるぅ……」


「ああ、そうでした。魔法に対する認識が異なっているのでしたね」


「……ところでさ。これって、普通の人達の認識はどうなってんだろ?」


 それは我も気になる。


「ふむ、宰相よ。どうなのだ?」


「龍王様、私は生き字引ではありません。生憎と魔法に対する認識は想定外でした。とはいえ、予測は着きます」


「ほう、どのようになる?」


「まず、こちらの魔法とあちらの魔法は使うものは同じではありますが、形式が異なります」


「魔力は共通しているけど、術式とかが違うってこと? そう言えば、そっちの魔法ってちゃんと見たことないわ」


「リン殿、精霊の力を使う時はどのように魔力を使っていますか?」


「え、そりゃあ……あっ! そういう事ね! 私のこれ、異能じゃなくてそっちの世界の魔法だわ! え、それじゃあ、こっち側の魔法って……うわっ、レベル低すぎ! これが異世界魔法が進み過ぎてる件ってやつ!?」


「よくわからぬが、そちらの魔法は此方の物とは異なるようだな」


「異なるって言うか別物だしお粗末よ。改善の余地があり過ぎて何から手を付けらたいいのかわからんわ。むしろそっち側の魔法が洗練され過ぎてて笑えて来るわ。もしかしてだけど、そっちの世界って簡単な魔法なら誰でも使える感じ?」


「うむ、生活魔法は子供のうちに覚えるように教育に組み込まれておるぞ」


「こっちの世界じゃ魔法を使えるっていうのは、エリート――優秀な人の証なのよ。くくくっ、これは魔法界が荒れそうな予感がするわね。ざまぁみろだわ」


 心底愉快そうにリンが嗤う。魔法ひとつで優劣がつくとは、あちらの世界はどうなって居ったのだ……。


「それで、宰相よ。具体的にどうなる?」


「そうですね。おそらくは双方の魔法が体系別の一般的な技術として認識されていると思われます。その優劣に関しては特に混乱が起こっていないことから判断するに、認識がぼやかされているのだと思われます。また、各々自身の世界の魔法が普通の物だという認識を引き継いでいるのではないでしょうか? 借りに気付くことがあるとするならば、他方の世界の魔法を使用した時でしょうね。」


「まあ、その辺りが妥当か。そして、自身の世界の魔法があるのに他方の世界の魔法を使おうとする者はおそらく少ないだろうな。魔法の無い世界の者に関してはどうだ?」


「双方使ってみた結果、便利だと思った方を使うでしょうね。技術とはそういう物ですから」


「ふむ、やはりそうなるか。とはいえ、別の体系の魔法か……」


「ええ、気になりますね」


「え、なにそれ? 明らかにこっちのがしょぼいと思うんだけど」


「それはあくまで現状の話だ。確かに此方の魔法はそちらの物より優れているのだろう。ただし、それは長い年月に及ぶ研鑽の末に磨き上げられた技術であるからに過ぎぬ」


「あー、そういう事ね。とはいえ、こっちだってながーい時間をかけて培われてきたのが今の魔法なわけなんだけど?」


「ほう、魔法史はどの程度だ?」


「魔法史? 魔法の歴史ってこと? 少なくとも数百年くらいかしら? 流石に千年はないと思うわ」


「リン殿、魔法史というのは確かに魔法の歴史ではありますが、その記録をしたためた物です」


「えっ! そんな物が残ってんの!? こっちの世界なんて古代魔法なんかは良くて秘匿、最悪は廃棄されてたのに」


「魔法なんぞ秘匿してどうするのだ」


「廃棄……? 禁術の類いでしょうか? 失敗例こそ残しておくべきでは?」


「こっちの世界では魔法関連は世界の裏側の物だったのよ。危険な技術だし、誰でも使えたら危ないでしょ?」


「と、それらしいことを言って一部の者が技術の独占を図った。と言うのが真相であろうな」


「人族に多く見られる傾向ですね。だから発展が遅れるのですよ」


「……真相は私も知らないけど、確かにそれが原因で一時期は魔法そのものが消えかけたことがあるわね。うちのご先祖様の手記に書いてあったわ」


「こちらの世界ではそうやって潰えていった技術が幾つもあるぞ」


「人族は技術を生み出すのが得意ですが、失うのも得意なんですよね」


「あー、うん。それは私も覚えがあるわ……でもほら、技術って開発者にとっては大切な物だし、すぐに広めちゃったら真似されて利権が脅かされるでしょ?」


「ふむ、利権か。こちらの世界では新技術に対しては発表者に対して一定の対価を支払って買い取った後に公開をするという流れを取っているが、それでは駄目なのか?」


「一定の対価ってどれくらい?」


「その技術が産み出す利益に対する対価だ。凡そ想定し得る利用法を吟味した上で年間使用量の概算を出し、その三十年分の褒章を支払っているな」


「さんじゅうぅ!? 流石にそこまではいらないでしょ! 技術なんていずれは廃れるじゃない!」


「ふむ、では具体的に廃れた技術と言う物を挙げられるか?」


「えっ? ええっと……具体的には分からないけど、古い技術とか使われなくなった技術ってなくなるものでしょう?」


「ふむ、宰相よ。我が国に廃れた結果、消失した技術はあるか?」


「いえ、ありません。研鑽の果てに洗練され尽くしたものは幾つかありますが、それでも失われることはないでしょう。新たな技術の発見により更なる道が開ける物もありますので、技術の保護は欠かさず行っております」


「研鑽の果て……そっちの世界の魔法?」


「うむ、なので、そちらの世界の魔法は我が世界の魔法の更なる発展の道を示してくれるやもしれぬのだ」


「考え方のスケールが違い過ぎる……あと財力も」


「我らは生きるために金を使わぬからな」


「その仕組みは大いに利用させて貰っていますがね。その点では人種の皆様を不憫に思いますよ。中途半端に知恵さえつけなければ貧富の差に苦しむようなこともなかったものを……」


「金や富と言う概念を生み出したのは人種の大罪であるな」


「価値観が違い過ぎて何も言い返せないわ……って、すっかり話が脱線しちゃったけど、私はドッさんの旅に同行しても良いのよね?」


「そうですね。ここまでの会話で凡その人となりも掴めましたし、構いませんよ。ただし、龍王様の指示に従うという条件付きですが」


「それくらいなら構わないしそうするつもりだけど……思いのほかあっさりと許してくれたのね?」


「実力が伴っていないのに母上のような性格であったら、すぐに死んでしまいますからね」


「私って、そこまで弱く見えてるの?」


「龍王様と行動すると言うのは、それだけの脅威と遭遇する可能性があるのです」


「えっ」


「数こそ減っていますが、今の世界には魔物と言う脅威が居るのですよ。そして奴らは龍王様やその同胞を酷く憎んでいるのです」


「魔物ぉ……なんか、そっちの世界ってゲームみたいよね。やっぱり色んなのが居るの?」


「それはもう。書斎に図鑑がありますが、ご覧になりますか?」


「見たい!」


「では案内させましょう。ウィニア、リン殿は大切なお客人です。書斎まで案内を、丁重に頼みますよ」


「はい、畏まりました。リン様、こちらへ」


「あっ、はい。それじゃあ、ちょっと行ってきます」


「ごゆっくり」


 メイドとリンが部屋を出て行き、その姿を宰相とともに見送った我は宰相に話しかけた。


「随分とリンの事を気に掛けるな?」


「性格や姿は違えど、母は母なので……」


 恐れているようではあったが、やはり母か。随分と慕っていたようだ。


 やけに会話を長引かせていたのは――と、一つの可能性を邪推したが、合っていたらしい。


「そう睨むな。しかし、貴様も難儀な性格をしておるな」


「厄介な性格なのは母親譲りですから」


「違いない」


 さて、宰相の許可は得られたことだし、リンと共にシルフィーネを探しに行くとしよう。


 しかし、異世界での生まれ変わりともなると、今生のシルフィーネは果たしてどうなっておるのやら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。