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第三項 変わるものと変わらぬもの(第65話)

第一部 新世界の産声編 第四章 其々の帰還 第一節 老技師の帰還


 久しぶりに着けた義肢の調子を確認するのを兼ねて、アリシアを送ることになった。


 軽く体を動かして義肢の具合を見つつ庭で待っていると、ほどなくしてアリシアがやってきた。


「お待たせしました」


 小さな手提げ鞄を一つ持っているが、荷物はそれだけなのだろうか?


「随分とこじんまりした荷物だな」


「ええ、これはマジックバッグなので、見た目よりたくさん入るんです」


 魔法の鞄って所か。しかし、クレアの世界の魔法とは違う様子だな。


「そうなのか? どれくらい入るんだ?」


「ちょっとしたお屋敷一つ分くらい、ですかね? あと、重さは見た目通りですね」


 物理法則が仕事を放棄してやがる。ちゃんと働け。


 アリシアの世界の魔法はどうなってんだ。万能なのか?


「……そっちの世界の魔法はすげぇな。んじゃ、行くか。どっちに行けばいい?」


「あ、駅の方でお願いします」


 駅か、あっちの方にはホテルがいくつか建っていたな。


「わかった。ホテルの部屋でもとってるのか?」


「あ、いえ、うちで経営しているホテルの一つがあるんです」


 ホテルを経営しているのか。


「俺の知っているダグラス家は商才が一切なかったんだがな」


「えぇっと、私の夫が……」


 ああ、旦那の方か……ん? そういや姉さんの婚約者がその方面に強かったな?


「あぁ、そうか。もしかして、そっちの婚約者もレイトなのか?」


 もしやと思い、尋ねてみた。


 姉さんの婚約者のレイト=ワグナス。幅広い分野での商いを生業とする大商人の家の嫡男だった。


 そして、俺の予想は当たっていたのか、アリシアが口元に手を当てて驚いていた。


「え、ええ、そうですけど……そこまで一緒なのですね」


「ここまで来ると気味が悪いな」


 この奇妙な一致は何なんだ。


「あの、そちらのレイトさんは……」


 まあ、そっちで生きてるってことは、そう言う事だよな。


「今、アリシアが想像している通りだ」


 こちらのレイトは姉さんの敵を討つと言って戦いに参加して、還らぬ人となった。


「そう、でしたか……」


「ま、そっちで結ばれて良かったと思う事にするさ。今は幸せ……なんだよな?」


「はい、とても」


「ならよかった。そういや、そっちのレイトは妖精族なのか?」


「はい、そうですね。妖精族の中でも商業に力を入れている士族の嫡子という立場になります」


 ここでも一致する点があったか。


「種族は違うが、立場は似たような物なんだな」


「意外と共通点が多いのですね。なぜなのでしょう」


「さあな。それこそ神のみぞ知るって奴なんじゃねぇか?」


「神様ですか……」


「ん? そっちの世界には神が居るってか?」


「え? そちらには居ないのですか?」


「あー、いや、実際に見たわけじゃないからわからないが、言葉として残っているだけで実際に居るとは思われていないって言うのがこちらの通説だな」


「そうなのですね。こちらの世界では存在だけは確認されています」


「まあ、実際にこんな状況になってんだから居るんだろうな」


 世界が融合するだなんて馬鹿げた現象が神の存在を証明してるようなもんだ。


 と、話しながら歩いていたら駅に着いちまった。


「さて、駅に着いたな。ここで大丈夫か?」


「はい、すぐそこなので平気です。アルバートさんは義肢の調子は大丈夫ですか?」


「問題はないな。神経系はきっちり繋がってるし、感度も良好だ」


「それなら安心ですね。と言っても、よくわかっていないのですけど……」


「そう言う所もこっちの姉さんによく似てるな」


「アルバートさんだって……見た目は大分お爺ちゃんですけど、弟にそっくりです。あの子が大きくなっていたら、きっとアルバートさんみたいになっていたんですよね」


「かもな。それじゃ、今回はこの辺でお別れだな。またそのうち来るんだろ?」


「えっと、本当にお伺いしても良いのですか?」


「ああ、その時は改めて歓迎させてくれ」


 今回は色々と思い出してしまって情緒が変なことになっていたからな。


「わかりました。それではまた」


「ああ、また――いやちょっと待った。連絡先を教えてくれ」


「ああ、そうでしたね。本家の方が良いでしょうか?」


「いや、携帯端末は持ってないのか?」


「けいたいたんまつ……?」


「あー、そうか。そっちの世界には無かったものか……これなんだが、持ってるか?」


「ああ、それだったらこちらに……これですか? じーぴーえすという機能付きで私の居る位置がわかるのだとか」


 アリシアが取り出した携帯端末は旅程の最中で見かけた最新機種だった。


 人気商品らしく、売り切れで購入できなかった型だ。クレアも同じ機種の色違いを使ってた。


 クレアは金縁の黒い色合いの物だったが、アリシアは明るい緑色の単色か……姉さんが好きだった色だ。


「そうそう、それだ。使い方は解るか?」


「お電話の方法なら教わりました。あ、それと、メールという機能も使えます」


「それだけ使えりゃ十分だ。少し貸してくれ。俺の家の番号を登録しておく。だいたいは嫁が出るから、また来る時にでも連絡してくれ」


「ありがとうございます。その携帯端末というのは何かと便利だそうなのですが、なにぶん使い慣れていなくて」


「使っていればそのうち慣れるもんだ。それにしても、この最新機種は人気だって話だが、良く手に入ったな?」


「ああ、それはレイトさんの経営している会社の一つで作っているそうで、少し前に貰った物です」


「これもレイトの所の? いや、それは――どうなんだ?」


「どうかしましたか?」


「いや、この携帯端末なんだが、アリシアの世界には無かったんだよな?」


「はい……あっ」


「そうなんだよ。その携帯端末を売っている会社は別の世界の物だ。そっちのレイトが経営しているのは普通に考えるとおかしいんだが――これも世界が融合した影響ってことなのか」


 しかし、そうなるとレイトの奴、クレア側の世界でも経営者だったってことか?


 そっちはあとでクレアに聞いてみるとして、その世界のレイトは死んだってわけじゃなさそうなんだよな。


 死んでいたのなら経営者が違う者になっているはずだ。


 それが世界の融合によってレイトになったってことはレイトを主として他の世界のレイトが融合したってことなのか?


「あの、アルバートさん……?」


「ああ、悪い。それで、その携帯端末のメーカーを教えて貰ってもいいか?」


「めーかー? あっ、販売元ですね。えぇっと……ここにレイスタイル社と書かれていますね」


「レイ、スタイルねぇ。レイトの愛称を使ってるのか」


「あ、それは偶然だそうです。その会社の大本が光量子研究所で、レイトさんが出資して経営権を得たという話です」


「光の方のレイだったか。お、そうだ。レイトが携帯端末の会社を経営してるんだったら、いい商売のネタがあるんだ」


「なんでしょう?」


「俺が使っているこれは三世界対応の携帯端末なんだが……実はこの世界にある携帯端末は他の世界の物だと通信規格が違っていて別の世界の携帯端末とは連絡が取れないんだ」


「それは不便ですね。でも、なぜアルバートさんが使っている物は大丈夫なのですか?」


「娘と協力して作った。正確には各世界の通信規格を調べて対応できるように改造したんだ。これ、商売のネタになるよな?」


「なるかもしれませんが、世界が融合してから半年は経っているので、既にそういった物の開発は始まっているかもしれないですね。とはいえ、現物が既にあるという事は……わかりました。レイトさんに連絡を入れてみますね」


「大丈夫なのか?」


「大丈夫です。私からの連絡は最優先で受け取ると常日頃から言っているので……」


 一気に話が進んで思わず心配していると、アリシアが苦笑しながら言う。そっちでもあいつの愛は重いのか。


 そして、アリシアが覚束ない手つきで携帯端末を操作して電話を掛けると、すぐに応答があったらしい。


「あ、レイトさん? 実は緊急で商談が入りまして。あ、いえ、私の方の商談はもう済んでいます。これは滞在先の方の所で打診があったのですが、三せか――じゃなくて! 三社の通信規格に対応した携帯端末の現物があるのですが――え? すぐ行く? でも――えっ? 私の滞在先のホテルに居るんですか!? そちらのお仕事はどうなったんですか!? ちょ、レイトさ――切れてしまいました」


「話の流れ的に、レイトが来ているのか?」


「はい、私が滞在しているホテルに来ていたみたいです。あちらなのですが……」


「あれは……ホテル、なのか?」


 城の間違いじゃないのか? いや、アレが異世界式のホテルなのか?


 ホテルと聞いてタワービル型の建造物を想像していたが、まさかの城の形をしていた。


 あんな建物、映像記録でしか見た事が無いぞ。


「あ、来たみたいです」


「おぉ……若いな」


 俺の知っているレイトはもう少し険しい顔のイメージだったが、あれは姉さんの死も影響していたんだろうな。


「やあ、アリシア。迎えに来たよ」


「ありがとうございます。それで、こちらのアルバートさんが三社対応の携帯端末を――」


「アルバート? 懐かしい名前だね。初めまして、僕はレイト=ダグラアアあぁぁぁぁぁルバートォォォ!?」


 挨拶をしながらこちらの顔を見たレイトの表情が驚愕に変わり、名乗りがそのまま叫びへと変わった。


 いちいち反応が喧しい所がこっちのレイトによく似てやがる。


 互いに初対面の気がしないだろうが、初対面のていで挨拶をしておくか。


「……初めまして。アルバート=ダグラス、です」


 やべぇ、丁寧な口調なんざ久しぶりでぎこちなくなる。


「え、あ、あれ? 人族の方でしたか……ん? ダグラス?」


「レイトさん。アルバートさんは……えっと、どうしましょう?」


「……とりあえず、どこか人の耳が無いところで話でもどうでしょうかね?」


 流石にこの場で別の世界のアルバートだなんて話なんざできるわけがねぇ。


「そ、そうですね! それじゃあ、うちのホテルで話をしましょう!」


「え、アリシア? なんか今日はやけに強引というか、このアルバートによく似た人は一体――」


「早く行きましょう! 重要なお話ですから!」


「そ、そうだね?」


「ほら! アルバートさんも早く!」


「お、おう」


 誤魔化そうとするときの強引さや流されやすい所が二人ともよく似てんなぁ。などと思いながら、俺は二人の後をついて行った。



 城のようなホテルの中身は意外とまともだった。


 その一室で、俺とアリシアが隣り合って座り、その対面のデスクにレイトが就いて戸惑った顔をしている。


「えぇっと、なんでアリシアがそっち側に座っているのかな?」


 それは俺も思ったが、これからする話を考えるとこっち側の方が良い……のか?


「実は、レイトさんには秘密にしていたお話があるんです」


「えっ……ま、まさか、そのアルバート似のおじいさんの事、かな?」


「はい」


「ん゛っ!」


 真剣な様子で頷くアリシアに対して、レイトが何かの攻撃を喰らったかのようにデスクに額を打ち付けた。


「レイトさんっ!?」


「お、おい、大丈夫か?」


「は、ははは……まさか、この歳になって離婚の危機を迎えるだなんて思わなかったよ。これが俗にいうネトラレかぁ……」


「……はい?」


「違う! 誤解だ!」


 このレイトも勘違いしやすいのかよ! 懐かしいやり取りだなおい!


「誤解……? うちのアリシアに魅力が無いと?」


「めんどくせぇ野郎だな! レイト! 俺の顔を忘れたか!」


「うっ、や、やっぱりアルバート……? でもなんで人族で、しかもそんなお爺さんに?」


「とりあえず、俺達の話を聞いてくれるか?」


「う、うん。わかったよ。ああ、本当にアルバートだ。懐かしいなぁ」


「いや、感動しているところを悪いんだが、俺はお前の知っているアルバートとは別人だ」


「えっ、でもアルバート、だよね?」


 後半の問いかけはアリシアに対してで、アリシアは首を横に振った。


「そうなんですけど、違うんです」


「え? ええっ? どういうこと?」


「ややこしくて悪いんだが、現在起こっている事実を伝えるぞ。実は半年ほど前に、この世界は四つの世界が融合して一つの世界になったんだ」


「はははっ! 世界が融合とかさすがに……冗談。だよねぇ? えっ、本当に?」


「それが、事実なんです……」


「えっと、どうやって証明するのかな?」


「まず一つ。ここに居る俺とアリシアは世界が融合した際にその影響から漏れたらしくてな。今の世界が融合した世界だって言うのをはっきりと認識している」


「レイトさん。私、この半年間はずっと不安でした。突然、世界の様子が変わって、それなのに誰もそのことに気付いていなくて、相談もできなくて……」


「た、確かに半年くらい前から元気が無いとは思っていたけど、それが原因だったなんて」


 レイトの言葉を遮るように続ける。


「二つ目。今回の商談のネタとして持ってきた、この三世界対応の携帯端末だが、おかしいとは思わないか?」


「三世界対応……た、確かに、携帯端末の会社は大きく分けて三つ。それは通信規格が異なるという理由からだけど……えっ、一般に流通する通信機器だぞ? なんで最初から規格が統一されていないんだ? この僕が指摘されるまで気づかなかった……?」


 レイトが愕然としている。そうだよな。お前の頭ならすぐに気づくはずだ。


「……その辺りの認識はぼやかされているのか。そういうものだと思い込んでいたら、人は以外と気付かないからな」


 こういった認識の改変を世界規模で行ったのか。改めて世界融合という現象の恐ろしさを実感したぞ。


「正直、それでもまだ半信半疑だけど……他に何か証明材料はあるのかな?」


「それはほら、ここに居るだろう。俺が」


「アルバート……死んだはずの人が居るってこと?」


「そっちの世界の俺は姉さんを庇って死んだみたいだが、こっちの世界では……姉さんが俺を庇って死んだ。そして、こっちの世界のレイトは姉さんの仇を討とうと戦いに出て……」


「死んだ、かな? 確かに、アリシアの命が奪われたのなら、僕は命がけで仇を討とうとするだろうね。何より君は、種族が違うのにアルバートに似過ぎている……わかった、認めるよ。確かに世界が融合しているみたいだね。それにしてもアルバート、君、随分と老けたねぇ」


「へっ、姿の変わらねぇお前らの方はよっぽどだろ」


「妖精族だからね。あぁ、その憎まれ口は変わらないね。懐かしいなぁ。本当にアルバートなんだねぇ」


「この類似性の正体は解らないが、どうも双方の世界の俺達はよく似ているらしいな。生憎と、俺にはそっちの記憶は無いけどな」


「それは僕達も同じさ。なのにこの類似性か……興味深いね。このことは他の誰かに?」


「言えると思うか?」


「言えないね。まず正気を疑われるだろうさ。現に僕だってまだどこかで疑ってるよ。認識障害の魔法かな?」


 当然のように魔法なんて言葉を使ってるあたりは変わったというか、違うと感じるな。


 俺の知っているレイトは魔法なんてものは信じちゃいなかったからな。


「おそらくは神様の仕業かと」


「あー、神域魔法かぁ。それはどうしようもないや。とりあえずは二人とも、この話は本当に信用できる人にしか言っちゃだめだよ?」


「言われるまでもねぇ。とはいえ、俺は同じ状況の奴との遭遇率は高いんだよな」


「私はアルバートさんが初めてでした」


「うーん、他に僕の周りに様子のおかしかった人はいないかな? 単にアルバートの運が良いのかな? ちなみに、他の人の事は教えて貰えるのかな?」


「そうだな……まあ、お前ならいいか。一人は砂漠で世話になったクレア=パトラック」


「クレア=パトラックだって!? 長者番付世界一位の大富豪じゃないか!」


「クレアさん……女性ですか?」


「ああ、魔力回路の発明者でもあるな」


「アリシア、クレア=パトラックを知らなかったのかい? 誰でも知っているくらいに有名なのに?」


「はい、初めて聞きました」


 頷くアリシアに対して、レイトが罪悪感に苛まれた表情になる。


 どうしようもない事とは言え、気付けなかったことを悔いているのかもしれない。


「そっかぁ……それで、二人目は?」


「俺の娘だ」


 娘という単語にレイトが微妙な顔をする。


 あの顔は女になった俺でも想像したか? 失礼な奴め……生憎とメリアの中身は俺にそっくりだぞ。


「娘ぇ……ちなみに名前は?」


「あ、私も聞きたいです。うちと同じ六人兄弟なんですよ?」


「これで名前まで一緒なんてこたぁ無いよな?」


 まあ、流石に無いと思うが。


「流石に無いと思いますよ?」


「そうだね」


「まあ、そうか。うちのガキどもは男女が三人ずつで上からアルフレッド、さっき言った二人目のメリア、ターニャ、ガルシアと来て……レイト、そしてアリシアだな」


「まあっ! 私達の名前を付けてくれたんですねっ!」


「ああ、それは嬉しいねぇ」


「うるせぇ、そっちはどうなんだよ?」


「私達は長男以外は女の子で、上からイリス、ウィーナ、エリーゼ、双子のオリヴィアとオリアナ、そして……末の子がアルバートです」


「そっちも俺の名前を付けてんじゃねぇか!」


「姉弟ですもの。考えることは一緒ね?」


「ぬぐぁっ! 姉さんっぽい言い方は反則だぞ!」


 くそっ、油断してたところにこれか!


「あっ……お嫌でしたか?」


「嫌ってことはねぇんだが……こう、なんだ。わかるだろっ!?」


「アルからしてみたら死んだ人が親しげに話しかけてくるような感覚なのかな?」


「お前も寄せて来るんじゃねぇ!」


 くそっ、こいつら夫婦そろって……!


「いやぁ、アルバートをからかうのは久しぶりで、つい」


「ちっ、二人とも死ぬ前と大して変わりやねぇ……俺だけが年を食ったみてぇじゃねぇか」


「まあ、我々は種族的に心身共に若い状態が長いからね。とはいえ、見た目は変わらなくても中身はちゃんと歳を取っているよ。そうは見えないだろうけどさ」


 本当にそうは見えないのが厄介だ。妖精族は警戒すべき種族だな。


「レイトの性格の悪さは輪をかけて酷くなっている気がするな」


「はっはっは、老成していると言ってくれたまへ」


「そうかよ。ああ、それで、話の続きだが、三人目が息子のアルフレッドで四人目がアリシアだ」


「で、君を含めて五人か。君の遭遇率は異常だけど、人類全体の人数を考えると少ないねぇ。それに、君の家族に二人も居るのは気になるかな?」


「そう言われてみると確かにおかしいな。俺が原因なのか?」


「さて、どうだろうね? 判断材料が少なすぎるよ。ところでアルバートは特異点という言葉を知っているかな?」


「特異点? 聞いたことはある気がするが、どういう意味かは知らねぇな」


「まあ、言った僕もよく知らないんだけどね。言ってしまえば、物語の主人公、みたいな?」


「主人公? まさか、俺がそうだって言うんじゃねぇだろうな?」


「そのまさかだよ。話を聞く限り、君だけが他の――アリシア達とは違う道筋を辿っているように思えてならない」


「それで主人公ってか。話が飛躍し過ぎじゃねぇか?」


「そうなんだけどね。この現象が神々の思し召しであるのなら、そう言う存在が居てもおかしくはないんだ。残念ながらね」


「残念ってのはどういう意味だ?」


「もしもこの予測が当たっていたら、今後、君の意思を問わずに厄介事が舞い込んでくると思うよ。おそらく君は旅立ちを余儀なくされるだろうね」


「おいおい、こちとらようやく帰って来たばかりだぞ? それに、こっちの世界は戦争が終わったばかりなんだ。これ以上の厄介事は勘弁だぜ」


「僕たちの世界は強い王様のおかげで長らく平和でね。それが千年以上も続いてこの状況だ。雌伏の時を過ごしていた奴らが動いても不思議じゃないんだよ。それに、他の世界だって融合しているんだ。何も起きないはずがないと思わないかい?」


「……マジかよ」


「大マジさ。だから、君が困った時は僕が手を貸そう。これでも世界中に会社を持っているからね。モノも金も情報も僕の掌の上ってわけさ」


「一応、今の世界で俺達は他人同士なんだがな」


「寂しいことを言うなよ、相棒」


「っ、お前っ、本っ当にこっちの世界の記憶はねぇんだよな!?」


「あるわけないだろ? そう言えば、そっちの僕ってどんな死に方をしたんだい? アリシアの敵は討てたのかな?」


「自分の死に様を聞きたがるとか、イカレてんのかてめぇ」


「僕にしてみたら知らない僕の話だからね。興味も沸くさ。で、どうなの?」


「……姉さんの仇は討てなかった。だが、レイトのおかげでいくつもの命が救われた」


「……ははっ、肝心の相手を取り逃がすあたり、なんとも僕らしい死に方だね」


「けど、仇は俺が代わりに討っておいた。お前が使っていた機体でな。相棒って言うんだ」


「そっか……えっ、機体って、僕が機動兵器に乗ってたの!?」


「ああ、そうか。レイトは知っているのか」


「きどうへいきって何ですか?」


「え? ああ、そっか。アリシアは知らないんだね。ほら、たまに道で大きなロボットみたいなの見かけるでしょ? あれが機動兵器だよ」


「ろぼっと……大きな人型の?」


「そうそれ! いやぁ、僕が機動兵器乗りかぁ。もしかして才能があったのかな?」


「必死こいてシミュレータで訓練積んでどうにかこうにか動かせるくらいにはなっていたな。正直戦闘に出て良い腕じゃなかったが、あの頃はとにかく人出が少なかった」


「うん、大したことはなかったってことだね。そっかぁ……」


「とはいえ、新米達が乗っていたシャトルを守った時の動きはエース級だった。才能はあったと思うぞ」


 本当に才能はあったと思う。それだけに、時間のないあの状況はひでぇもんだったな。


「え、ほんとっ? これを機に機動兵器を一機くらい買ってみようかなぁ?」


「調子に乗るな。それに、今後の機動兵器は戦い以外の分野で使われていくことになってるはずだぞ」


「あー、そうだった。まあ、とりあえずはシミュレータかな。今後何がある判らないし、アリシアを守る為の力はあればあるほど良いからね」


「レイトさん、無理はしないでくださいね?」


「君の為なら僕は龍にだって喧嘩を売るよ?」


「龍王様はだめですよ!」


「あっはっは! 冗談だって」


「龍ってのは、あのでけぇやつか……さすがにあれに喧嘩を売る度胸はねぇな」


 機動兵器に乗っていても一瞬でスクラップにされるだろうな。


「えっ、龍を見たの?」


「ん? ああ、海上都市の近くでな」


「……本物?」


「知らねぇ。ただ、クレアの奴は断言していたな」


「魔法少女のクレア女史が断言ってマジもんじゃん……龍王が出歩いてるとか、本当に世界が融合してるじゃないか!」


 こいつ、まだ信じてなかったのか。


「……最初にそれを言えば信じてたのか」


「それくらい龍王っていうのは信用に足る御方なのさ。ただ、この現象に関してはちゃんと信じていたよ? 龍王様の事は補強材料かな。僕たちの世界では絶対的な存在だからね」


「そんなのに遭遇していたのか……もう遭いたくはねぇな」


「どうだろうね。君の事だから、会ってみたら意外と仲良くなれるかもよ?」


「勘弁してくれ……」


「本気なんだけどなぁ。あ、そうだ。商談の方をすっかり忘れてたよ」


「ああ、そういやそうだったな。しかし、少し疲れたな……」


「あ、それじゃあ、商談の前にお茶とお菓子を用意しますね。少し休みましょう」


「お、いいねぇ。僕も喉が渇いてきてたんだよ。せっかくだから、お茶菓子はとっておきのを出そうかな?」


「あ、それじゃあ私はとっておきのお茶を淹れますね?」


「……」


 そんな二人のやりとりさえも、どこか懐かしく感じる。


 二人を失って、世界が変わって、どういうわけか変わらない二人がここに居る。


 今後どうなるのかはわからないが、この新しい関係を大切にしていこう。

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