第二項 魔力が満ちた世界(第60話)
第一部 新世界の産声編 第三章 異なる世界、異なる人々 第四節 海原の戦士
その異変に気付いたのは、森を出てから三日目の事だった。
「なんだか身体の調子が良いわ。なんでかしら?」
『うーん、ボクもすっごく調子が良いかも。魔力がみちみちだからかなぁ』
「みちみち? あらほんと、いつの間にか世界に魔力が満ち溢れているわね」
森から出た直後はもう少し薄かった気がするのだけれど、かなりの魔力濃度になっているわね。
これが昔、異形の方に聞いた魔力が満ちた世界の光景なのかしら?
「魔力が満ちていると体調が良くなるのですか? 私にはよくわかりませんが……」
「私や神鳥様の場合は身体がそちら寄りだから、どうしても魔力の影響を強く受けるの」
それにしても、本当に調子が良いわ。今なら多少の無茶が効きそうね。もうそのような機会はないだろうけれど。
「ああ、確か精神体というものでしたか。体調が悪いわけではないのであれば何よりです」
『これなら全盛期の力が使えるかも。ちょっと試してみて良い?』
「あら、そうなのね。神鳥様の全盛期の力ってどのような物なのかしら?」
『ボクはねぇ、元々は世界樹を守る役目を負っていたんだよね。正確には、ボクの他にも三人、いや、三匹かな? ボクも含めて四匹で世界樹を守っていたんだけど、当時は守護神獣って言われていてね。それぞれに得意分野があったんだよね。ボクの場合は智慧と風を司っていてさ。特に強力だったのが暴風領域って言う固有魔法で、これで侵入者たちを空の彼方に吹き飛ばしてたよ』
色々と気になる所の多い話だけれど、要点を搾ると神鳥様は強い風の力を持っていたようね。神鳥様らしい力のようだけれど、一つ気になる点が。
「神鳥様が知恵、ですか?」
ウララさん、気持ちはわかるけれど感情が声に出ているわ。
『あー、ボクが鳥頭だからってバカにしてるなぁ? そりゃ見ての通り頭は鳥だけどさぁ。物覚えは悪くないんだよ?』
そうなのよね。神鳥様、語り口はこのような感じだけれど、とても賢い方なのよ。
表面上は全くそう見えないだけで。
「そもそも、一般的な知識に神鳥様を当てはめるのが良くないという事なのかしら? そういうふうに神様に創られた――という認識で良いのかしら?」
『そうだね。産み出されたというよりは創り出されたって感じかなぁ? 生まれた時からボクってこんな感じだし』
「生まれた時から……」
「駄目よウララさん、想像してはダメ」
決した生まれた瞬間からあのカカポの姿で発光しながら踊っていたわけではないはずよ。
『二人して酷いなぁ。でもほら、こっちの姿は威厳があるでしょ?』
確かに、今の鷲獅子の姿には威厳が感じられるわ。
「確かにそうなのですが、神鳥様と言われると、どうしてもあちらの姿の方が……その、印象に残ると言いますか」
そうなのよね。おまけにあの姿で踊りながら発光しだすものだから余計に記憶に残ってしまうのよ。
『あの姿は世界樹の民が親しみやすいようにって神様が決めたんだよ。ボク以外の三匹も似たような形の姿になってたっけ』
親しみやすいように……ウララさん達の世界の神様はなんだか人間味が強い印象があるわね。
それと、世界樹の民というのはまさか……?
「神鳥様、聞きそびれていたのですが、その世界樹というのは何なのでしょうか?」
『ボクたちが守れなかった大きな樹だね。とても重要なものだったんだけど、強欲な人間のせいで焼け落ちちゃったんだ』
「私の居た世界にも似たような樹の話はあったわね。こちらのは枯れてしまったみたいだけど」
こちらでは生命の大樹という呼ばれ方をしていたそうだけど、世界樹という名前自体は子供の頃に読んだ絵本で見かけた覚えがあるわね。
『そっちにもあったんだね。で、こっちの世界樹には世界を魔力で満たすって言う役割があって、ちょうど今みたいな感じで魔力が――あれ?』
「そうね。どこもかしこも魔力で満ちているわ。もしかすると、私達の世界の樹にも同じような役割があったのかしら?」
私達の世界では異形の里に生命の大樹の若木が植えられていたけれど、確かあれにも魔力を排出するような力が備わっていたはず。
もっとも私達の世界の場合、魔力といえば龍脈から湧き出るものが主ではあったけれど。
この魔力の多さは龍脈に何かあったのかしら?
「あの、推測ですが、世界が融合したことによって別の世界の世界樹が今の世界にはあるのでは?」
そういう考え方もあったわね。何しろ、四つもの世界が融合しているのだものね。
『それだぁ! まさかこんな形で世界樹が蘇るなんて思わなかったよ! これでウララちゃん達も故郷に帰れるよ!』
「え? あの、我々の故郷はあの森ですが」
『ああ、そっか。教えてなかったもんね。君達こそが世界樹の民の子孫なんだよ?』
「初耳ですよ!?」
『そりゃ初めて言ったもの。世界樹が無いのに世界樹の民なんだよー、だなんて言えないし』
「それはそうなのですが……あの、とりあえず皆にはまだ黙っておいてもらっても良いですか? 流石に突然すぎて受け入れがたいと言いますか」
『それもそうだね。それに、今の世界樹はあくまでも別の世界樹で、ボクたちの世界にあったものとは違うもんね。それに、今の森の暮らしも気に入ってるし』
「四つほどの世界が融合していると思われるのよね? 私と神鳥様達の世界は違うとして、残り二つのどちらかの世界のものなのだろうけれど」
『あるいは両方かな? いや、自分で言って置いてなんだけど、たぶんそれはなさそうかな。本当になんとなくなんだけど』
「あら、私もそう思うわ。なんでかしら? とりあえず、今の世界には世界樹があるとわかっただけでも良かったのではないかしら?」
これも機関への報告案件に入れておいた方が良いかしら? ただ、この辺りの情報は一般的に知れ渡っている可能性もあるのよね。何しろ世界が魔力で満ちるような状況だもの。とはいえ、私の主観による情報というのは数少ない世界が融合しているのを認識している者からの視点として貴重な情報になり得るのよね。
……このまま報告しましょうか。
決して報告する内容を見直すのが面倒だからではないのよ?
『そうだね。世界樹があるとわかっただけでも、少しは救われた気分だよ。ただ。今の世界で昔のような事にならないと良いんだけど』
「別の世界の世界樹は無事だったのだから、大丈夫じゃないのかしら?」
流石に手放しで楽観視は出来ないとは思うけれど、別の世界では無事だったという事実がある以上は、その世界樹を守る強固な何かがあるという事なのだろうし。
「そうですよ。もしかしたら人の手が出せるような場所にないのかもしれませんし」
『なるほどね。確かにそれなら平気なのかも? 場所が解ったら見に行きたいなぁ』
「今はハルカを送り届けるのが先決ですよ」
『わかってるって。ところでさ、本当に調子が良過ぎるくらいなんだけど、ちょっと速度上げてみてもいい?』
「あら、いいわよ? 私も調子が良いから、少しくらいの無茶も平気よ? なんだったら競争してみる?」
「え、ちょ、ハルカっ!? 正気ですか!?」
あら、失礼ね。
「大丈夫よ。本当に調子が良いの。今なら全盛期に使っていた上位変身が出来そうなの」
上位変身は魔力の消費が大きいから若い頃しか使えなかったのよね。
久しぶりに高速機動形態の【風華閃雷】を使ってみようかしら?
『えっ、ハルカの変身ってそう言うのもあるの!? 見てみたい!』
「それじゃあ、やってみようかしら? 上位変身【風華閃雷】」
変身の宣言と同時に、身体と衣服が一瞬で作り替わった。
契約外の変身はこの速さが良いのよね。
契約していた頃は微妙に長ったらしい変身の文言や専用の魔装具が必要な上に変身にかかる時間が長いのが難点だったのよね。
その代わりに振るえる力や能力が強かったから文句こそ出なかったけれど、緊急時に困るのよね。
やろうと思えば早く変身できるのに、異形の皆は様式美だからと言って譲らなかったのよ。どうしてなのかしらね?
「ハルカ、以前から思っていたのですが、変身する際の呪文や特別な道具のような物はないのですか?」
「様式美という物かしら? 確かにあるけれど、今の私が使っているのは契約外の変身だからこうなっているけれど……誰に聞いたのかしら?」
一体どういう経緯でそう思ったのか、気になるわね。
「あ、いえ、外で暮らしていた際に見たアニメーションに魔法少女を題材にしたものがあったので」
あら、私達の仕事が別の世界でもアニメになっているだなんて、不思議な縁もあるのね。
こちらの世界ではドラマの方が多かったかしら? 近年はアイドル活動なんてしているくらいだし。あと、配信だったかしら? そういう活動もあると孫から聞いた覚えがあるわね。
「そうだったの。不思議なこともあるものね。ああ、そう言えば、私の方の世界では特撮と言ってウララさんのような怪人の姿をした登場人物が主人公だったり敵役として出てくる作品があったわね」
「それは何とも……複雑な気分になりますね」
改造されている身としてはそう言った気分になってしまうのかしら?
『人里にはいろいろとあるんだねー。それじゃあ、ハルカ、そろそろいい?』
「あら、そうだったわね。変身もできたことだし、ちょっと競争してみましょうか?」
「あの、神鳥様、振り落とさないでくださいね?」
『ダイジョブだって! それじゃあ、ウララちゃん、合図をお願いね』
「うぅ、わかりました。いざという時は私も変身しなくては……おほんっ、それではお二人とも、用意は良いですね? 三つ数えたら海上都市の方角へ向かってください。ひとつ……ふたつ……みっつあぁぁぁぁ!?」
ウララさんの悲鳴を合図に、私と神鳥様の競争が始まった。
「ふぅ、久しぶりに全力で飛んだわ。やっぱり空を飛ぶのは気持ちがいいわね」
『ねー。ウララちゃんというハンデがあったとはいえ、ボクが負けるとは思わなかったよ。ハルカって本当に人間?』
「あら、こんなお婆ちゃんを捕まえて失礼ね。どこからどう見ても人間でしょう?」
今は若返って少女の姿だけれど、人間に見えるはずよ。
「ハルカ、姿だけで判別できない存在は今の世界には大勢いると思います……」
それはそうね。ウララさんもそのうちの一人だもの。とはいえ、神鳥様がウララさんを背負って居なかったら負けていたのは私の方でしょうね。
「私もまだまだね。神鳥様が本気を出せていたら負けていたわ」
『まあ、うん、流石にそこまでやって勝てなかったらさすがのボクも自信を無くしちゃうよ』
「そう言えば、途中で急停止した車を見かけたけれど、警戒をさせてしまったかしら?」
『そうなの? 全然気づかなかったよ』
「私も気づきませんでした。事故を起こしていた様子はありませんでしたか?」
「車はその一台だけだったから大丈夫じゃないかしら? どこかにぶつかった様子でもなかったし、驚いただけだと思うわ」
『結構な速さで飛んでたしねー。って、そうだ。ハルカって飛ぶの上手すぎない? ぴったり吸い付くように飛ぶから怖かったんだけど』
「ああ、あれは空力を利用した飛び方なのだけれど、そんなに怖かったかしら?」
『そりゃ怖いよ! あんなことされたの生まれて初めてだもの!』
「あれは極力魔力を使わずに飛ぶ方法の一つで、私が若い頃は長距離移動する際には飛行機を利用して、ああやって飛んでいたのよ。ただ、特級魔法航空免許と航空会社の飛行許可証が必要だから、誰でもやって良いというわけではないのよ?」
『とりあえずとんでもない技量が必要だって言うのは分かったよ』
「長距離移動なら普通に飛行機を使えばよかったのでは……?」
「そう思うでしょう? でも、そうも行かないのが魔法少女の辛い所でもあるのよ。当時はまだ異形による事件が多かったから、彼らの標的になり易い魔法少女は公共交通機関の利用が禁止されていたの」
「魔法少女が標的になり易い……?」
「ほら、魔法少女って魔力が高い子がなるものでしょう? そして、異形が好むのもまた、そう言った魔力が高い子なのよ。彼らの理想を言えば魔法少女になっていない魔力が高い子ってところね。でも、当時の機関はそう言った子を優先的に保護して魔法少女にしていたから、襲える相手が、ね?」
「ああ、悉く魔法少女に成ってしまっていると。しかし、なぜ魔力が高い者を好むのでしょうか?」
『それはたぶん、その方が美味しそうだからじゃないかなぁ?』
「美味しそう!?」
「正解よ。彼らの目的は生命が宿す魔力を喰らう事なの。その中でも魔法少女の魔力は質、量ともに極上の獲物に見えるそうよ。同時に危険な獲物でもあるわけなのだけれど、そう言った行動に移してしまうものの多くは自分の欲求に酷く正直で、捕食衝動に抗う事が出来ないのよ」
「あの、そのような者達と魔法少女は契約を交わすという事だったと思うのですが、大丈夫なのですか?」
「ええ、むしろその為に契約という手段があるとも言えるわね。契約の内容には魔法少女側から魔力を提供するという物があるのよ。だから、理性的な異形はむやみに襲い掛からず、この契約に応じて魔力を得る方を選んでくれるというわけね」
『その言い方だと、理性的じゃない異形って言うのも居るんだよね?』
「ええ、そうね。その辺りは人間と一緒ね。ほら、欲望を抑えられない人とか我慢ができない人とか、偶にいるでしょう?」
「犯罪者と呼ばれているようなのはだいたいそういった者ですね」
『じゃあ、異形の犯罪者ってこと?』
「残念ながら当時は異形に適用される法律は存在しなかったから、彼らが幾ら人を害したり殺したからと言って法的に裁くことは出来なかったのよ。そこで出来たのが異形法という物なのだけれど、一時期使われていた程度で、今はすっかり形骸化してしまっているのよね」
「それでは法律を作った意味がないのでは」
「それはそうなのだけど、問題を起こすような異形達は私達の活動や協力してくれる異形達のおかげで大きく数を減らしてしまったから、異形による犯罪は数年に一度あるかどうかというほどに激減してしまったのよ」
『あー、人間の感覚だと長く感じちゃうよね。ボクらみたいな長命種だと頻繁に感じるけど』
「ええ、だからこちらに協力的な異形の方達は形骸化してしまっていることに対して危惧していたのだけれど、今の世界になる少し前に法の廃止が決まってしまったのよね」
『いや、それって不味いんじゃないの? これからの時代にはむしろ必要な物でしょ』
「私もそう思います」
「ええ、本当にそうなのよね。推測になるけれど、これだけ魔力が世界に満ちているという事は、どこかしらの世界には異形のような存在が普通に暮らしている世界があると思うの」
『まあ、あるだろうねー。森を出てから同胞の気配がたくさん感じられるし、どこかの世界がそう言う世界だって言うのはボクも同感かな。同胞がたくさん居るって言うのはそう言う事でもあるし』
「そんな状況であるというのに、多くの方々はそれが普通だと認識しているのですよね……」
「そうね。でも、そう考えると法の廃止が見直される可能性も出てくるのね」
『なんだったら別の世界の法律がその辺りをうまく補ってくれるかもしれないね?』
「そうだと良いのだけれど、流石に楽観視はだめかしら?」
念の為、この件に関しても改めて機関の上層部に打診してみましょうか。
「そうですね」
『だねー。あー、難しい話をしてたら疲れちゃった。そろそろどこかで休憩しない?』
「あら、それもそうね。どこか良さそうな所はないかしら?」
「あそこに小さな町が見えますね。お腹も空いてきましたし、お昼にしましょうか」
『やったー! ご飯だぁ!』
「この辺りだと海も近い事だし、海鮮料理も良さそうね」
『どうせならボクは他の世界の料理が食べてみたいなぁ』
その発想はなかったわ。
今日にいたるまで泊ってきた宿泊施設も食べた料理も特に変わり映えの無い印象だったけれど、今の世界は他の世界と融合しているのよね。
「あら、それはいいわね。それじゃあ、店頭のメニューを見て私とウララさんが知らない料理を見つけたら、そのお店に入ってみましょうか」
「ハルカ、私はあまり料理に詳しくないのですが……」
「私だって世界中の料理をしているわけじゃないのよ? でもほら、明らかに見慣れない食材を使っていたりしたら異世界の料理だと思っていいんじゃないかしら?」
「なるほど、それなら少しは判りそうです。とはいえ、そのような食材が本当にあるのでしょうか……」
そう懸念するウララさんだけれど、四つも世界が融合しているのだから、流石に見知らぬ食材があっても不思議ではないと思うのよね。
『もうすぐ着くよー』
神鳥様が着陸態勢に入ったので、私とウララさんは会話を中断して席に着いた。
……あら、変身したままだったわ。解いておかないと魔力の消費が――あら? 殆どないわね。
世界の魔力濃度が上がっているからかしら?
これは思わぬ恩恵だけれど、現場への復帰要請がありそうなのが嫌ね。まあ、流石に断るけれど。
「あっ、この店の料理はどうかしら?」
街から少し離れた所に降りてからタクシーを拾って街中に入った後は見慣れない料理を求めて少し歩いて、十分ほど経ったかしら?
意外と探せばある物で、見慣れない食材を使った料理がそこそこ見つかる。
とげとげしい見た目の果実あるいは野菜を使ったサラダのような見た目の聞いたこともない名前の料理やちょっと派手な色合いをしたお肉の料理と言った具合に……本当に食べられるのかしら?
「これは、肉料理でしょうか? 神鳥様、どうですか?」
『うーん、昔こんな感じの料理を見たことあるなぁ。他のにしよう』
そして、神鳥様が意外にグルメなのもあって、料理がなかなか決まらないのよね。
「そうなのね。それじゃあ別のにしましょうか」
見つけておいてなんだけれど、私も今は肉料理の気分ではないのよね。
空から海を見たせいか、できることなら海鮮料理が食べたいわ。それも、可能であれば異世界のものがいいわね。
森の中では木の実や獣の肉を使った料理が多かったのもあるけれど。
「あそこはどうでしょう? 店構えからして見慣れない感じですが」
「あら、どんなお店かしら?」
『どれどれー? って、もしかしてアレ? 確かに陸では見慣れないというか、お店としては見たこともない形だけど』
ウララさんと神鳥様が見ている方に視線を向けると、そこには確かに見慣れない店構えをした建物があった。
あれは――なんて表現したものかしらね? 強いて言うのであれば……海賊船、かしら?
とはいえ、海賊船というわけでもなさそうなのよね。海賊旗が無いし、とても船とは思えない付属品があるもの。
「でも素敵ね。こういった船の形をしたお店なんて初めて見たわ」
船の形をした料理店と言えば屋形船で、そちらには何度か乗ったことがあるけれど、それとはまた違って、こちらはどこかのテーマパークにあるようなイメージが強いわね。普通に街中にあるようなものではないと思うの。
「そうですね。私も陸地でこのような店を見かけるとは思いませんでした。そもそも、船の中の飲食店は副次的なものという印象でしたので、料理店が主体というのは初めて目にします」
確かに海から近いとはいえ、どうしてこんな不安定な形の建物にしたのかしら?
『しかもこれ、普通に船として機能しそうだよ? 船の形としては古い時代の物かな? でもボクが知っているのとはまた違うなぁ。色々と余計な物が付いてるし、おまけになんか魔力を感じるし』
神鳥様が言うには建物ではなく、本物の船らしい。
「私の世界の物でもないと思うわ。歴史の授業で似たような形のものを見たことがあるけれど、そちらは魔力とは縁もゆかりもないものだったもの。ところで、これって本当に料理屋さんなのかしら?」
「はい、店頭と言いますか、乗り場にメニューがあるので間違いはないかと。店の名前は【飛行料艇・深紅の翼】だそうです」
「メニューはどうなっているのかしら?」
『とりあえず近くまで行こうか。それにしてもウララちゃん、よく見えるね。怪人化の影響?』
「視力に関しては元からですよ」
森の中に住んでいたからかしら? 狩猟を生業とする種族は総じて目が良いという話もあるものね。
船の形をしたお店に近づいて行くと、店員と思われる人が中から出てきた。
「あ、いらっしゃいませ。当店をご利用ですか?」
店員さんは――これもまた見慣れない人というか種族のようで、下半身が蛸、いや、烏賊かしら? とにかく、そのような形をした人だった。異形ではなく。何せ、異形特有の魔力が感じられなくて人と同じ魔力を感じるのだもの。
見た目と魔力の齟齬に戸惑っていると、ウララさんが店員さんとやり取りを始めた。
「ああ、はい。メニューを見てから考えようと思っていました」
「おおっ、そうですか! 本日のお勧めは此方のクラーケンの幼体の活け造りですね。活きの良いのが入っていますよ!」
クラーケンと言えば、こちらで言う所の神話の生物かしら? 要は創作なのだけれど、異世界には実物が居るみたい。
一方で違う部分に疑問を持ったのか、神鳥様が人前でしゃべってしまった。
『クラーケン? 幼体? ちっちゃいってこと?』
「おおっ! こちらの方は……鳥人の方ですか?」
どうやら神鳥様のような種族が他にもいるみたい。
『あー、うん。そんな感じで』
「おお、そうでしたか。鳥人の方でしたら細かく色々と食べられる盛り合わせメニューがおすすめとなっています」
『お、色々と食べられるのは良いねー』
「それと、そちらのご婦人には新鮮な海の幸をふんだんに使った汁物がおすすめですね」
「あら、いいわね。ちょうど温かいものが食べたかったの」
「では、こちらで決まりでしょうか?」
『いいよー』
「ええ、そうしましょうか」
店員さんのセールストークに釣られた私達は、船の形をしたお店に入って行ったのだった。
この後、船が文字通り飛んだり出てくる料理に驚いたりと色々とあったのだけれど、料理はとても美味しかったのにお値段は思ったより安くて、満足のいく昼食となったのよね。
飛行料艇・深紅の翼
FF4の飛空艇団である赤い翼から来ている名称
安直に決めたので特に深い意味はないです




