第四項 東へ~改修完了(第34話)
第一部 新世界の産声編 第二章 英雄達の新世界紀行 第一節 砂漠の都市群
相棒の改修のため、手伝ってくれると言うクレアと共に素材屋で材料を仕入れてから格納庫を訪れたのは良いんだが、失念していたことがある。
「そうか、ここの設備はこんなもんだったのか……」
「失礼なっ! これでも最新の物なのだぞっ!」
正確には、クレア達の世界の科学技術は俺の世界のそれと比較すると大幅に遅れており、設備類も時代遅れの物だった。
クレアの言う通り最新型の設備なのだろうが、こちらの認識としては古臭い設備にしか見えない。
軍で使用していた設備は最新の物から一世代ほど前の型落ち品が大半で、ここまで古い物はほとんど使ったことがない。
「新しい物なのはわかるんだが、ちぃとばかり操作に不安がなぁ」
「適当に動かせばよいのではないのか?」
「そりゃそうなんだがな。ちょっと弄らせてもらってもいいか?」
「うむ、好きにするがよい」
「よし、あぶねぇから設備には近づくなよ?」
「その程度はわきまえておる。余は子供ではないのだぞ」
そうは言うが、どうにも何かをやらかしそうな雰囲気があるんだよなぁ。
「悪かったよ。あーっと、設備の起動は――ああ、これか。しっかし、こんなレバーで操作しなきゃならねぇのか……」
「汝の所のはどんな物なのだ?」
「操作方法か? 最近のだと思念操作や神経操作が主流だな。正確かつ繊細な動きに定評があるぞ」
「ふむ、よくわからぬがすごそうだな」
「操作難度もすごいけどな」
特に思念操作の方は技術よりも生来の素質に大きく依存するから使用できる者が限られている。
まあ、その分、生身の動きでは出来そうもない繊細な操作が可能なんだけどな。
「うぅむ、機械というのはどうしてこう進歩する度に難解になっていくのか……」
「それについては同感だな。それに比べりゃ、こっちのは子供の玩具みたいなもんだ」
格納庫にある設備の大半は単純作業を行うもので、俺にとっては発言通り、子供の頃に遊んでいた玩具も同然だった。
世界が違うだけでこうも技術に格差が出るもんなのか。
「余はそういうのを扱ったことがないからわからぬが、少なくとも免許を要する様な物ばかりのはずだぞ?」
「そりゃそうだろ。幾ら操作が簡単でも操作一つ間違えたら人が死ぬもんだからな」
幾ら操作が容易いからと言って免許や資格が無くなって良いもんではないだろう。
「ふむ、そういうものか」
「ああ、そういうもんだ」
俺もガキの頃は死んだ爺さんに頭叩かれながら操作技術を学んだもんだ。
爺さんは口よりも先に手が出るタイプだったから必死で覚えたのをはっきりと記憶している。
ところで、俺の世界の免許はここでも有効なんだろうか? まあ、問題はないか。
「それで? まずはどのような作業から始めるのだ?」
「うん? そうだな。まずは装甲を全部引っぺがして機関部を全て剝き出しにするところからだな」
そして、そこに魔力回路を刻んでもらうつもりだ。
「おぉ、本格的であるな!」
「これが本職だからな。じゃあ、設備を借りるぞ」
「うむ!」
作業は恙なく進み、相棒の装甲は全て外すことができた。
ここに来てから毎日点検は行っていた為、各機関部に問題がないことは確認済みだ。
ただ、外骨格が少しばかり歪んでいたので、装甲を剥がすついでに直しておいた。
さすがにオアシスでは歪んだ外骨格を治すことはできなかったからな。
「たまにはこういった機械を扱うのも悪くねぇな」
作業効率は落ちるが、こっちの方が意外とパワーがあるな。
パワーがあり過ぎて外骨格を直すのが容易で、何なら危うくへし折る所だった。
俺の方の世界では近年は軽くて頑丈な金属素材を扱うのが主になっていたから、自然と最大重量の基準が下がったってところか。
ってことはクレア達の世界では重い素材が主流なわけだ。
「なあ、クレアが知っている中で一番固い素材ってなんだ?」
「む? 一般的にはダイヤモンドであるな」
金属系の答えを望んでいたんだが、聞き方が悪かった。そして、ダイアモンドはクレアの世界にもあるのか。
意外と共通する点は多いのか?
あと、わざと引っかかるような言い方をしたな?
「一般的にはっていうと?」
「うむ、市場には出回っておらぬが存在はするぞ」
「なるほど。極秘ってやつか」
「うむ、話が早くて助かる」
「いや、それについてはお互い様だからな」
こっちも機動兵器に使用されている技術は黙秘してるからな。
技術自体は漏れて困るもんでもないが、戦争が終わった以上、あまり必要のない技術でもある。
今後どう扱っていくかの判断は軍や政府が考えるだろう。
まあ、そんな面倒な事よりも相棒の改修だ。
「よし、これから改修を始めるぞ。そっちは打合せ通りに頼む」
「よしきた!」
本日は各機関への魔力回路引きをクレアに任せ、俺は内部の使い物にならなくなった機器類の交換を行う。
魔力回路の方はクレア曰く数日掛かりになるという事なので、しばらくはそっちに専念してもらい、俺は細々とした作業をしていく予定だ。
オアシスを脱出する為の最低限の修理しかしていなかったからか、追加で逝かれてしまった機器が幾つかあった。
奴らとの戦闘に備えて宇宙用に改修してあったとは言え、やっぱり大気圏突入は無理があったな。
ちなみに推進器ごとくっつけてあった化け物の機体は推進器を除いてきっちり取り外し、クレアの指示で別の場所へと保管された。
クレア曰く自前の技術で修復してみるそうだが、果たして無事に修復できるのやらだ。
まあ、今の所有権はクレアにあるので、俺から言う事は何もないな。
「じゃ、俺は中で作業しているから、何かあったら呼んでくれ」
「うむ! 魔力回路の事は余に任せよ!」
自信満々な様子で嬉しそうに宣言するクレアには若干の不安があるが、魔力回路に関しては世界一だとアーノルドの奴も言っていたから大丈夫だと信じよう。
そもそも魔力回路ってのはクレアが一から理論を構築した技術なんだとか。道理で金持ちなわけだ。
そういや、世界一位の資産家でもあるとか自慢げに言っていた気がするな。
クレアの話は大体がクレア側の世界の事だったから、話半分程度に聞き流していたからな。
作業に取り掛かり始めたクレアを確認してから、俺も操縦席へと入り込むと、作業に取り掛かった。
「さて、やってくかね」
「……ん? もうこんな時間か」
作業前にセットしておいた時計のアラームが鳴り響き、昼の時刻を告げる。
素材屋で材料を調達した足で格納庫に直行して作業に取り掛かったから、作業時間としてはそんなに長い方ではない。
なので感覚としてはあっという間だったんだが、身体は正直だった。
「……少し腹が減ったな。飯でも食うか」
クレアの方はどれくらい作業が進んだか確認するか。
「よいせっ、と。クレア、そっちはどんなもんだ?」
操縦席を出て辺りを見渡すと、クレアは相棒の脚部に取り付いて作業をしていた。
「むっ? おぉ、すっかり集中しておったぞ。余の方は脚部周りの魔力回路がほぼ終わった所であるな」
「おぉ、まじか。早いな」
よく見ると、既に結構な量の魔力回路が相棒の脚部に施されている。
「ふふん、余が考案した技術だぞ? この程度は造作もない」
「ま、その辺りは信頼しておくさ。それより、昼飯にしねぇか?」
「む? もうそんな時間か。この手の作業は時間が経つのが早いな」
「まったくだ。ところで、ここって出前とかはやってんのか?」
ここに来てから料理店で飯を食ったりはしてるが、出前は頼んだことがない。
宅配業のようなことは行われているようだから、さすがにないってことはないだろう。
「出前か。たまにはそういうのも悪くないな。よし、余が奢ってやろう!」
「おっ、いいのか?」
「うむ! 好きな物を頼むがよいぞ!」
「よし、それなら――」
適当な料理とそれに合う酒を頼もうとしたが「仕事中の飲酒は感心しないぞ」と言われて酒は断念することとなった。
妙な所できっちりしてやがるぜ、まったく。
相棒の改修は、最も時間が掛かると思われた魔力回路が、クレアの助力もあってすんなりと終った。
結果、相棒の改修にかかった時間は一週間程度で済んだこともあり、砂上艦が立ち寄るという場所に着くまでは軽めの追加改修や試運転を行った。
また、その期間中にはクレアがどうしてもとせがむので、相棒に乗せて格納庫内を走り回ったりもした。
そうして砂上艦が目的地に着く頃には、相棒の操縦席は複座式に改修され、内部の居住性が格段に良くなっていた。
……いや、クレアの影響なのは間違いないんだが、魔力回路の都合上、新しく追加した副座に魔力を扱える者を据えた方が魔力回路に供給する魔力の効率が格段に良かったんだよ。
なんせ俺自身、魔力が扱えないからな。忘れていた訳じゃないぞ?
魔力回路自体は追加で積んだ魔力転換炉ってのがあるから普通に使えるんだが、それだと出力が控えめになる。
正確には、高出力で使っていると、ほんの数時間で魔力が尽きちまうんだこれが。
燃費が悪いとまでは言わねぇが、決して良いわけでもないのが難点だ。
クレア曰く、魔力転換炉の魔素転換効率は未だ魔法少女には劣るのだそうな。
正直、魔力と魔素の違いがいまいちわからんが、魔素というのはそのままでは使用できず、魔力に変換してから使うのだとか。
原油みたいなもんだろうか? あと、魔法少女という単語に関してはそういう種族だと思っておけばいいと言われた。
砂上艦の動力炉を診た時の姿格好から魔法少女という言葉がしっくりくる辺り、クレアも魔法少女なのかもしれないが、無言の圧を感じたので態々尋ねたりはしなかった。
まあ、成人女性なのに少女ってのもなぁ。
「おい、汝よ。余に何か言いたいことがあるのか? ん?」
本日は目的地に着いたという事で、砂漠に出て相棒の試運転をしているのだが、当然のように副座に座っているクレアが文句を言いたげに此方を向いて聞いてきた。
女ってのはどうしてこう、感が鋭いのかね。
「いや、なんでもねぇ。それより、次の海上都市って所へ行くのはいつ頃になる予定だ?」
現在地は砂漠の端とも言える場所で、無数の都市が砂漠と平原の境に乱立している。
これらの都市群の役割は砂漠の進行を止め、緑化を進める為の物なのだそうだ。
で、現在滞在しているのはそんな都市群の一つであり、クレアの抱える財閥が出資している都市だと言う。
これから補給やらを済ませてから海上都市に向かうそうだが、少し前に動力炉のトラブルがあったこともあり、艦の総点検も行うという話を小耳にはさんでいる。
「うむ、最低でも一週間はかかりそうであるな」
「そうか……それなら、あとは自力で目的地に向かった方が早そうだな」
「なにっ! もう行ってしまうのかっ?」
「相棒の方が小回りがきくし、今なら速度も速いからな」
それに砂漠と違って相棒も走りやすくなると言う利点もある。
推進器も奴から奪った物のおかげで大気圏内でも短時間の飛行が可能だしな。
「もう少しゆるりとしていっても良いのだぞ?」
「そういうわけにもいかねぇ。もう手遅れかもしれねぇが、このままだと殉職扱いになっちまうんだ」
世界防衛軍の場合、確実な死亡確認が取れていない場合は半年間の捜索などが行われるが、相棒で大気圏に突入してしまった手前、生存は絶望的と判断されていてもおかしくはない。
幸か不幸かあの戦争での死者は多数出ているから、最悪でも絶望的とはいえ生死不明な俺の死亡届が出されて受理されるまでの期間はそれなりにあるから、急げば間に合うはずだ。
「ああ、そういえば汝は軍人であったか」
「そういうこった。それに、早く戻って家族を安心させてやりてぇんだ」
それと、助太刀に来てくれた機体のパイロットの事も気がかりだ。
奴にとどめを刺す絶好の機会を与えてくれたんだが、手酷くやられていたからな。無事だといいんだが。
「ふむ、家族か。家族は大切にせねばな」
「ああ、だから今夜にでもここを出るつもりだ」
「そういう事であれば、海上都市まで余も同行しよう。余が乗っていた方が足も速かろう?」
「はあ? そりゃそうだが……お前、あの艦の艦長みたいなもんじゃねぇのか?」
「余はただの持ち主だぞ。それに、一足先に海上都市に向かって商談を進めて置くのも悪くないのでな」
「あー、そういう事なら別に構わねぇんだが、周りの奴らが心配するんじゃねえか?」
「問題ない。そもそも心配する要素がないのでな」
「どういうことだ?」
「むふんっ! 我はこう見えても強いのでな!」
そう言って胸を張るクレアだが、確かに見た目は華奢な女で強そうには見えない。
とはいえ、魔法なんてものがある世界においては魔力回路なんてものを一から作り上げた奴だからな。
例のおかしな格好の事もあるし、強いというのは嘘ではないのだろう。
しかし、俺が気にしているのはそういう事ではないんだが……まあ、クレアなら平気か。
「……わかった。ただ、海上都市まで俺と二人っきりになるんだからな?」
「うむ、そうであるな。まあ、余が居ればむっさい汝一人よりもよっぽど華やかであろう?」
華やかではあるが目立つんだよなぁ。
「へいへい、むさいジジイで悪かったな」
「ふふん、余は汝のむさいところも含めて気に入っておるから気にする必要はないぞ? 父親が居たらこうなのであろうとな」
「それを言うなら祖父じゃねぇのか?」
成人しているとは聞いたが、せいぜい二十代前半程度だと思っていた。
「む? 余の年齢はおそらく汝が思うよりもずっと上であるぞ?」
「妙齢の女って表現がしっくりくるとは思ってたが、まさかの三十路越えか?」
「ふふん、さて、実際はどの程度であろうな?」
三十路と言われても否定せずさらには余裕の受け答えをされた。
まさか、さらに上か……? 魔法少女って年齢まで誤魔化せるのかよやべぇな。
「汝、何か失礼なことを考えているだろう。余が若々しいのは余の努力の賜物であるぞ!」
「お、おう、そうか、そりゃ悪かった」
美容の話となると女の執念はすさまじいものがあるのは嫁や娘で解っているので素直に謝っておいた。
この辺りの感性は世界が違っても似たようなもんらしいな。
「ふふん、わかればよいのじゃ」
「しかし、若々しいのが努力の成果だってのは分かったが、その身長は元からなのか?」
若さが努力の成果とは言え、流石に身長を縮めるようなことはしてないよな?
なんとなしに聞いてみたが、どうもあまり詳しくは答えたくないらしい。
「うむ、まあ、幼少期の影響でな……」
こういう時はさっさと話題を切り替えるに限る。
「そうか。じゃあ、出発前に海上都市までの経路の相談と行こうぜ?」
「うむ! そうであるな!」
海上都市までの経路は小さな村や町が点在しており、走行形態の相棒でも通れそうな平地が多い。
なので、速度優先の経路選択をさせてもらう事となった。
無駄に時間をかける必要もないしな。
途中、野宿を何度か挟むことになる予定だが、渋ると思われたクレアの反応はむしろ喜んだくらいだった。
「よし、それじゃあ行くか」
「おう! いつでも良いぞ!」
時刻は夜、世話になった者達への挨拶を済ませ、相棒に乗り込んだ俺とクレアは機内の各点検を終えて定位置に着いた。
副座席にクレアが跨り、運転席に着いた俺は、相棒の動力に火を入れた。
小さな振動と共に起動音が響き、各機関が起動していく。
「よし、異常はないな」
「であるな。魔力回路も正常に動いておるぞ?」
「そうでなきゃ困る。じゃあ、発進させるが、見送りとかはいらなかったのか?」
「子供ではあるまいし、必要ない。後はアーノルドに任せてあるから問題もない」
「それもそうか。それならさっさと行くぞ」
「うむ! 途中までは砂漠であるが、しばらくすれば平原に出るぞ! きちんとした陸路ではどれほどの速度が出るのか楽しみであるな!」
「おう、砂漠よか速度が出るぞ。楽しみにしとけ」
「よし、では出発なのだ!」
「あいよ。出発進行、ってな」
さて、これから向かう海上都市ってのは一体どんなところになってるんだろうな?




