第三項 食事が不味い(第15話)
第一部 新世界の産声編 一章 交差する世界 二節 不思議な平原
「不味い」
あれからこの珍奇な平原を彷徨いながらも食料となりそうなものを獲っては食べて来たのだが、どうにも不味い物しかない。
例の化生共の影響か、動植物がおかしな変異を遂げているようだ。
あれらのような凶暴性はなく、本来の生物と同じような振る舞いをしているが、実体があれらに近い物になっている。
だからなのか、とにかく味がない。
味のない不味さと言うのだろうか?
これならまだ、消し炭の方がましだ。
「おまけに匂いもないな。一体、どうなっておるのだ?」
今は先ほど狩った猪のようなモノを捌いて焼いているのだが、肉が焼け焦げる匂いすら無いとはどういうことだ。
或いは、我の味覚や嗅覚と言った感覚が狂ったのか。
それならばまだ説明がつきそうなものだが、生憎と自分の感覚が狂ったわけではないらしい。
数日ほど前、何かないかと自分の衣服を漁っていたら飴玉があり、それを口に含んだ際は間違いなく甘かった。
まさか、飴玉なんぞをとてつもなく美味に感じる日が来るとは思わなかった。
あの飴玉をくれたのは、城を飛び出した後に城下町でぶつかってしまった子供だったか。
あの子供には褒美を渡すように文でも出しておくか……?
「いかんな。この状況には思いの他に堪えているようだ」
まともな食事が取れぬだけで弱気になるなど、我らしくもない。
美味い食事は人生を豊かにするという古い友人の言葉を笑い飛ばしていた過去の自分をしこたま殴ってやりたい。
しかし、この状況をどうしたものか。
口にするもの全てが不味いというわけではない。
この平原のものがあれらに汚染されているから不味いのだ。
そう、これは汚染である。
となれば、浄化することで万事解決ではないか。
「そうだ。最初からそうすればよかったのではないか」
あの忌々しい化生共が残したものに配慮する必要などなかったのだ。
さすがに殲滅したのはやりすぎかと思い、せめて残されたものは――等と思った我が愚かであった。
あのようなモノの痕跡はこの世から消し尽くしてやるべきであったのだ。
そうと決めたなら、もはや容赦は不要である。
「ふはは、辺り一帯――いや、この平原の全てを浄化し尽くしてやろうではないか!」
今の我を死んだ連れ合いが見たら落ち着けと殴ってきそうだが、我は至極冷静である。
浄化と言っても、浄化の炎で焼き尽くすなどと言うようなことはしない。
我の使う浄化が、そのような生易しい物であるわけがない。
これより使用するのは先の殲滅呪文を応用した極大浄化呪文の一つだ。
汚染物質をはじめとしたあらゆる毒素を搔き消し、変異してしまった生命すらも正常な状態に戻す代物だ。
詰まるところが、術者が指定する有害な物だけを殲滅もとい浄化するという事だな。
その威力――ではなく浄化力に関しては昔の仲間である聖女のお墨付きだから問題はない。
「我の健全な食生活の礎となれ――ッ!」
もはや躊躇うことなく、我は浄化呪文を発動させた。




