二項 意外といける(第10話)
第一部 新世界の産声編
一章 交差する世界
一節 オアシスにて
「お、意外といけるな」
昨晩見つけた蛇を捌いて作った蒲焼が意外と美味い。
砂漠のオアシスに不時着してからひと月ほど経った。
正確な日数を数えたのは十日までだったな。
しかし、こんなところでも、いざ生活してみると意外と快適なもんだ。
このひと月ほどで周囲の住環境を整えた為、かなり快適に過ごせているのが一番でかいな、
半分冗談だったとはいえ、割とバカンスっぽくなっている。
「とはいえ、結構直ってきたなぁ」
そう呟きつつ見上げた相棒は、不格好ながらも原型がしっかりしてきた。
毎日少しずつとはいえ、せっせと敵機の残骸から使える物を取っては相棒に移植してきたからな。
使える道具が少ねぇからちょっとばかり不格好だが、最終的に動くのならば問題はねぇ。
この調子だともうしばらくかかるだろうが、時間はたっぷりとある。
……いや、さすがにいい歳だから、たっぷりと時間があるとは言えねぇか。
流石にこんなところで死ぬのはごめんだぞ。
「こんなことなら義肢の予備を積んでおくんだったな」
俺の四肢は全てが義肢だ。
現在使っている軍用の義肢は相棒の操縦からちょっとした修理などと、なかなかに用途範囲の広い代物だ。
俺が使ってんのは正規品の払い下げで二つほど型落ちの旧式だが、使い勝手が良いので気に入っている。
ただ、こういった義肢は充電が必要な物が大半で、二、三時間も機能を使い続けたらあっという間に電力が尽きる。
幸いにも太陽光発電機が生きていた為に十分な電力を確保できているが、あれがなければ作業は遅々として進まなかっただろう。
ただ、充電時間は使用時間と同程度にかかる為、特別早く進んでいるというわけでもない。
「ま、ない物ねだりをしてもしょうがねぇか」
今のところ、これと言った問題はねぇし、このまま地道に修理を進めていくしかない。
強いて言うならあれだな。たまに来る砂嵐が厄介だ。
精密機械に限らず、機械にとって、粒子の細かい砂は天敵だからな。
相棒の修理もそのあたりを考慮して真っ先に外装から取り掛かったくらいだ。
ちなみに俺の義肢は気密性が高いため、全く問題はない。
「さて、暑くなってくる前に作業に取り掛かるかぁ」
現在の時間帯はおそらく早朝ってところだ。
まだ日が昇っていないため若干肌寒いが、日中に比べたら快適なくらいだ。
外装の修理はほぼ終わったため、後は中身だ。
むしろ、砂嵐のせいで外装が終わるまで中身に取り掛かれなかったからな。
中身で逝かれてたのは手足の関節部のモーターが焼き切れている他諸々の不具合だ。
奴との戦闘でかなり無茶をした結果だが、今回はしっかりと仕留めたから問題はねぇな。
「こっちの方は最低限動くようになりゃあ良いか」
予定としては、相棒を装甲車のような形態に留め、推進器を利用して砂の海を往く船のようにするつもりだ。
わざわざ人型の形態で動かす必要もない。
これは相棒がもともと陸戦機体だった名残で脚部をキャタピラ形態に可変させられるからこそできる芸当だ。
そう考えると、乗っていたのが相棒でよかったな。
ひとつ前に乗っていた当たり障りない性能の機体――お利巧ちゃんだったらと思うとゾッとする。
こうして俺が生きていられるのは、相棒が無駄に頑丈な機体だったからこそだな。
ちなみに若い頃に乗っていた機体――師匠だったら、そもそもここにはいなかっただろうけどなぁ。
ま、それこそない物ねだりってやつか。
ここで生活するようになってから考える時間が増え過ぎた。
……つーか、あれだな。
「そろそろ人恋しいっつーか、この生活に飽きて来たよなぁ」




