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転生悪魔はしれっと嘘をつく


おっさん、いい奴。


枝とは言わず根っこから引き千切ってもいい。

俺のじゃないし。


「そうか、我を案内しろ」


何がそうか、なのか。言っている本人も混乱しながら強引についていく。

こいつらについていけば神木の対価と森から出られるのではないかという打算だ。

光魔術が何故つかえないのか。

それについて何も聞けていないが、正直どうだっていい。神木とか凄いものを所有していて、なんか権力を持っているっぽい人物がいいそうなことを話したまでだ。


さっきまで白豚と揶揄して馬鹿にしていた男は見た目に違って木の間をスイスイと進んでいった。疲れを知らぬ体が高速移動するおっさんを追いかける。悪魔のマックススピードからすると今のスピードもただ歩くのも違いがないような差だが、あくまで人間にしては早いですね。という褒め言葉だ。


あっという間に森を抜け、目に移ったのは森を切り開いて作られた道路だった。


道の端に打ち捨てられた馬車がある。

まさかあれに乗ってきたんじゃないだろうな。

そんな顔をしていたからかおっさんはにこやかな笑顔を浮かべて『あれは盗賊に襲われて壊された馬車の残骸ですよ』そう答えた。


おっさんが歩いていこうとしている方、道の先には停車した馬車が列をなして止まっていた。

白い布で屋根を作った荷馬車。ファンタジーだ。そう言うの以前見た覚えがある。

そういえば、俺、おっさんの名前を知らないな。おっさん、おっさん言うの疲れたからいい加減に教えて欲しいぞ。


「おおーい!おっせーそ、ラナック!」


そう考えていると前方の荷馬車の列の一台から一人の粗暴な大男が降りてきてこちらに向かって叫んでいた。

うるさい。あらやだアルカナくんのお耳は繊細なのよ。そのような野蛮な声を上げられては困りますわ。おほほほ。


ラナック。多分おっさんな名前だろう。

叫んでいるゴリラと面識はないはずだからラナックとか変な名前で呼ばれる覚えはない。

ゴリラ男は俺の方をチラリとみて困ったように口をへの字にした。


「と、…………誰?」


我が名はアルカナ・ラプラス・ユグドラシル!大陸の果て魔界の入り口を守護するもの!ユグドラシルを治める偉大なる悪魔の王であるっ!我が威光にひねふすがよい!フゥーアハッハッハッ!


と言ってもいいのだが。なんか馬鹿っぽいじゃん?一撃で死にかけてどうだ世界の半分をやろうではないか。とか言いそうじゃん?死亡フラグ立ちそうじゃん?そう言う理由もあるし。名前が違うと流石に、こいつらが思っている古代精霊だがなんだか、とりあえず神木の持ち主じゃかいと気づかれてしまうので名乗るのをやめることにした。


「貴様のような野蛮な猿に教える名など無い」


あ、違った。ついついいつものチャットの勢いで煽ってしまったけど俺は悪くない。


「なっ……!」


猿がカンカンに怒って顔を真っ赤に染めて日本猿になった。ブチギレらしい。

後ろに背負っていた大剣を抜き放ち振り回して威嚇しだした。

剣身が随分と暑い大剣のようだ。うーん、俺の武器と負けず劣らずのなまくら具合……ロマン武器だな。


「まぁまぁまぁ」

そう、仲裁にはいるラナック。


「まぁまぁじゃねぇよ!そいつ誰だよ!」


まぁまぁまぁそうなるよな。


「この方は、聖なる森の賢者様であられる古代精霊様だ」


知らない単語がまた出てきた。どうしよう、大丈夫かな。神木の枝の対価を貰って本物が来る前にさっさと離脱したい気持ちでいっぱいだ。


「っうことは……神木の持ち主ってことか」


そう言うと日本猿……じゃなくて、こいつの名前はなんだか知らないが、大男は顔色を戻して、大剣も背中に納めた。


「古代精霊様……よろしければ小癪な人間めにその偉大なお名前を教えて下されませんか」



おだてまくりだな。なんだこいつ。丁寧すぎて馬鹿にしてるような気もしてきたぞ。


きみは、むらびとになまえをきかれている。こたえますか?

>はい

いいえ


>はい


「小癪な人間なぞに教えるのは癪にさわるが……」


「ああ、ならよろしいです。しかし古代精霊様と呼ぶには少々我々人間には言いづらく、出来れば代わりに何か呼びやすいアダ名とかでもあればお教えください」


おい、こら。まだ教えないとは言ってないぞ。騒々しく長ったらしいセリフの末に名前を教えて俺は寛大だから特別に名前を教えてやるのだフハハハハとやりたかったのに何しやがる。



「アダ名で、あるか。ふむ」


アダ名?裏切り者とか闇討ちやろうとか陰湿エルフってゲーム内でギルメンに言われてたよな。

『おーい!陰湿エルフ!ありがとうな』


うん、やだな。どうしよう。



「……我の名は少々長いからな。ラプラスとでも呼ぶがよい」

種族名だけど、一番呼びやすいだろ?


「ラプラス様ですね」

「ラプラス……あ、いって!何すんだよ!」

大剣を背負った大男が呼び捨てをすると目の前にいた白豚……じゃなくてラナックが石ころを投げた。

「様をつけろ」

「あー、はいはい。ラプラス様。すみません。下々の生まれのものでありましまして俺……えーっとわたしはあまり礼儀がないのでありますて、とても反省をしておりますて」


ぷっ。ちょっ……日本語。日本語でおk?

こいつ面白いんだが。

こいつはこのままでいいや。


「ラプラス様っ!彼はあれでも彼なりの敬意を払っております!どうかお怒りをお納めください」


体を震わして笑いを堪えているのを怒っていると勘違いしたらしい。


「よ、よい……フッ……貴様、名を何という」


「お、俺か?」

自分を指をさす大男。

こちらは無言で頷いて話すよう促す


「えーと、俺はぁッいってぇ!!ラナックー!てっめえ!」

ラナックがまた石を投げたらしい。

ラナック見た目と違い投擲の速度が速いな。できる……こいつ!


「アッイテッ・ラナック・テッメイ。変わった名だな。それにしても貴様ら兄弟だったのか」

そんなわけがない。

ただからかっているだけだ。


「おお、よくお分かりで!」

「ラナック、なんか勘違いしてんじゃないのか」

「ああ、私たちは兄弟ですが私がラナックで彼は……自分で自己紹介しなさい」

「おまえ……。俺じゃなくてわたしは、ライナー・リューク・プレバスだ、です」

「似てないな」

茶髪薄らハゲ白豚と黒髪褐色猿だもんな。


「ああ彼とは親が違いまして」

「そうか」

聞いて悪かったなとは言わない。

今の俺は空気の読める悪魔のアルカナじゃなくて空気の読めない森の賢者の古代精霊様様になりきっているんだから。

当然人間のことなんて知らないし、知ったこっちゃない。

「ラナック。といったな、貴様も名乗るがよい」


「ははっ、失礼いたしました。私めラナック・リューク・プレバスと申します。近くの都市を回って商品を卸す行商を行なっているものです。先ほど紹介預かりました彼、ライナーは私の護衛でして、現在彼の所属するパーティとともに聖なる森を経由して第三の都市ロックハルトに向かう途中でした」


ほぅわかりやすいな。出来る……こいつッ!(本日2回目)


「そうか。しかし、ラプラス、ラナック、ライナー。ラばかりで呼びづらいな」


「失礼いたしました!これは気付かず小癪な人間ごときの私達があろうことか偉大なるラプラス様と名前をかぶしてしまうとは!

私、ラナックは名前を変えようがないので、ライナー改め、山猿とでもお呼びください」


「おい、ラナック?」


「ん?何か要か山猿。それから猿が人間様を呼び捨てするとはなんとおかしなことですな。今日からは私のことをラナック "さん"と呼ぶのだ。わかったかね」


ラナック、ノリがいいなこいつ。

ドSだわ。くぅ、カッコいい。痺れる。

これでいてイケメン執事とかならモテモテだろうに。


固まるライナーをおいて二人で荷馬車に向かう。

すれ違い様にライナーの肩を叩いて行くぞ山猿と声をかけた。


「うおおおお!俺は山猿じゃねぇー!」


その怒鳴り声が静かな森にただ響き渡った。


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