転生悪魔は弓を撃てない
俺の背中には弓がある。
エルフ……ですから。
と、エルフらしさを出すために背負わせているが実際のところ弓は撃てない。アルカナになった今もきっとそうだろう。
弓筒の中には木に羽がついた原始的な矢が確認で出来た。
それと反して背中に背負った弓は、ヒスイのような乳白色を含んだエメラルドグリーンの大弓で弾いてしなるようには到底見えない。
そうだとも、なんせこいつは剣だ。
そもそも世界に弓というものが存在しないのだからあるわけがない。当然プレイヤーが作れるレシピの中にもない。
弓を射って当たって死ぬ相手が居ないからだ。
悪魔は頑丈だ。しかも封印状態でも早いし魔法のせいで当たってもダメージが入らない。
人間もそうだ。悪魔に対抗するため頑丈すぎる装備に身を包んでいる。
木の矢で死ぬわけがない。
でもエルフといえば杖より弓じゃん。
指輪を巡る物語だってエルフは弓を持っていた。
と同じように弓がないから弓スキルもない。フルダイブVRなくてPCのMMORPGなら尚更のこと。
弓を持っても弓スキルは生えっこない。
弓に見えているこいつは反った刃の……つまり刀の刃の部分だけのやつに糸をつけたナマクラに、一見矢にしか見えない投げナイフだ。
背中に固定されていた金具から引っこ抜いて構えてみるがしっくり来ない。
刃は手に食い込んでいるが切れないのは単に悪魔の防御力が高いから成せる技というわけだ。
悪魔たちはこの防御力の高さを生かして人間に武器を取られないよう対策していた。持つだけで出血ダメージを食らって時間経過でしぬとかどんな呪いの武器だよ。残念持ち手まで刃の武器でしたー。馬鹿だろ。という感じだ。
だから俺が持っている弓形の全面、刃の剣は特別おかしなことでもない。
試しに弓を構えて矢筒からとった矢っぽい短剣を撃ってみるがブルンブルンと振動するゆるゆるの糸とただ自由落下する矢があるだけだ。
弓……まあ弓だな。弓についた糸はまるで緩んだギターの弦のようで、矢はちっとも飛ばずに足元の地面に突き刺さった。
撃つ。撃つ撃つ。
その全てが下に落ちるだけ。
ふっ……現実というもの虚しいものだな。
だが諦めんぞ、エルフは弓を使えてこそエルフなのだ!
何回も近くの木を目標に撃ってみるがブルンブルンいうだけ。
今度こそは……そう考えて矢を拾う俺の悪魔としての能力に何かの存在を見つけ出した。
◇
「何ものだ!」
爽やかな青年のような声。
アルカナの声を初めて聞いたがこんな感じだったのね?
声を出したのと同時に体は動いていた。
弓がなまくらで上手く射れないなら矢を持って直接刺せばいいじゃないか。
考えるまでもなく俺は拾い掛けていた矢を逆手で掴んでコソコソ隠れていた奴の真横に突き刺してやった。
悪魔の胆力によって半ばまで木にめり込み矢。
隠れていた奴は目を丸くして、見開いて体を硬直させていた。
「何か要なのか?」
殺す気でやっといて何を言っている?というような顔をしているな。
殺す気なら呼びかけるまでもなく時間停止魔法で暗殺している。
「な、あ……っ!?」
なあ?って言った?嘘、冗談だよ。
驚き過ぎて声が出ないと言ったところか。
隠れていたのは小太りのおっさんだった。冴えないおっさんだ。
見たこともあるような気もするしない気もする。悪魔の国家を治める身としてプレイヤー、NPC関係なく生贄にしてきたから死んだ中に似たような顔をしたものがいたかもしれない。
白髪混じりの茶髪で薄気味の髪、肥えた子豚風白豚なおっさんだ。
硬直している男を待つ間が勿体ないので置きっ放しにしてきた矢を影を通して回収しつつ、木から伸びた影に手を突っ込んで矢を纏めて受け取った。
「何か要でもあるのか?」
「ぅ……申し訳ございませんでした!」
なんか謝られた。もちろん心当たりはある。
覗き見していたのがバレて、どうせ俺が怒って殺そうとしているとか思ってんだろ?
心を読む技能はない悪魔だがどうせ今、目の前にいるおっさんが考えていることなんて、目の前のエルフがエルフなのに弓が下手くそなのを見てしまったから口封じとか対価を要求されるとかビビってんだろ。
くふふふ、我輩には貴様の心が手に取るようにわかるぞ。
「私めの護衛が薬を調合するために神木を切ってしまったことにお怒りなのはわかります、ですが、どうかお待ちを!もちろんタダとは言いません!対価もお支払いします!ですからどうか怒りをお納めください!」
あ、違った。
何?神木?薬?光魔術で直せよ。
光魔術なら毒も傷も、呪いも治るだろ。
何?こいつもしかして俺が神木とやらを管理しているとか思ってる?
おkおk。オッケー牧場万々歳だ。
わかった。これはラッキーだ。
なんだか知らないが貰っておこうじゃないか。
「何ゆえ、薬が必要なのだ?」
こういうのは場の雰囲気もそうだが口調も気おつける必要がある。
昔の占い師ごとくやたら勿体ぶっていうのだ。さすれば相手も神木とやらの所有者だと思いつつけるだろう。
「ハッ、私めの娘が急病を催しまして悩んだ末、近くにあった神木より枝を頂戴致しました」
「人間……。貴様は人間だよな?」
「はっ」
当たり前だろ、何言ってんだって顔だな。いやオークだろとかいうつもりはないよ。ホントダヨ。
「人間は光魔術で治せば良いと記憶にあるのだが、なして神木を所望する」
「は?えっと、もしかして古代精霊様でありますか?」
は?質問を質問で返すなよ。古代精霊とか強そう何それ。古代精霊アルカナ……ふふふ。良きかな
「…………ふん、人間どもは何かと名付けるのが好きらしいな」
ただ言葉が思いつかなかっただけだが何かを悟ったかのような表示で目を閉じて言ってみた。
「はっ、至らぬことばかり。人間を代表してここに謝罪を。」
こいつ物腰ひっくいなぁ。
何で謝罪してくるのかわからないけど謝らせておこうか。
ここは、"いやいや止してよ!謝罪なんていいからさ、俺アルカナ!お前なんていうんだ?○○です。そうかそうか。おれもお前のこと呼び捨てにするからお前も呼び捨てにしていいぞ。"
とか他の人なら言うんだろうな。
「うむ、良きに計らえ」
と思いながら肯定してそのまま謝るのを止めずに地べたに土下座させた。




