第11話 声楽部と風魔忍者
物語が少しづつ動いていきます。
井土ヶ谷部長自らが淹れたのだと言うお茶が運ばれてきた。
お寺の和室と言う事もあってかイグサとお茶の匂いに混じり、線香の香りも漂ってきている。
「どうしたの? 静岡のいいお茶よ。せっかく淹れてみたんだから飲んでよ」
多分、このお茶が1gあたり1万円でも1円でも春久には味の違いなどは分かりはしない。
「姉さん。いい加減、別所にスケジュールが細かい訳を教えてあげたら? 少し気の毒だよ」
春久はお前が言うなという言葉を飲み込む。おそらく場を緩ませる為に井土ヶ谷が選んだ切り口なのだろう。しかし、なぜかそれを聞いた新入部員以外の4人の表情が少し厳しくなった。
「そうだな、別所くんや順を多少強引に入部させたんだもんね。説明をしなければならないわよね」
アレが多少なのかとも思ったが、そう語る部長に目をやると、その表情は厳しく今までにない雰囲気を醸し出していた。
部長は一口だけお茶を啜り終えるとゆっくりと口を開き、そして語り始めた。
「これまでの話と矛盾してしまうけど、今からワタシが話す内容を聞いて、もし嫌なら3人共、部に入る事を辞退してもらっても構わないわ。そしてその決断については誰も責めないし、責めさせない。それは約束する」
淡々と話しをしている分、その言葉には重みがあり、また、その部長の言葉を聞いている既存の部員の表情も真剣なそのものだった。
「まず、和泉さん。アナタはさっきも言った通り、純粋に戦力として欲しいのよ。当然活躍も期待しているわ。さっき聞いた歌声は本当に魅力的だったわ。他の部員同様、今年ワタシたちが選んだ自由曲の大きな武器になる……そして、別所クンと順、2人には声楽部の庶務になって貰いたいの」
意外と言っては何だが、まっとうな理由だ。
「庶務?」
井土ヶ谷も疑問に感じたのか問いを挟む。
「そうよ。ウチの部は伝統がある分、慰問やイベントで歌う事が定例化されていて、その数もかなりのものなの。それはそれで光栄な事なんだけど、反面打ち合わせやら準備やらで結構時間がとられているの。ただでさえ人数が少ない中、ソレに人を割くと練習もままならなってしまう。さらに言えば打ち合わせの際には音楽の素養が求められるから、春久くんのピアノ、順のベースの経験は貴重なのよ。だからその部分をあなた達に任せたい。これが一つ目の理由……そして表向きの理由ね」
表向き。つまりは裏があるという事になる。
「別の理由もあるということかい? 姉貴」
弟の声のトーンが一段下がる。
「そうよ。 別所クンと順を入部させたいもうひとつの理由、それは言葉にするならそうね・・・…警備員、いや、お庭番になって貰いたいと言った所かしら?」
それなりに気張っていた春久の気持ちが白む。
「お庭番って、江戸時代の忍者みたいな連中の事ですよね?」
いくら風魔忍者に縁のある小田原とは言え、どうにも厨二臭い。
「そうよ。そのお庭番。実際かなり面倒な事をしてもらう事になるわ。主に頼みたいのは、体育館や音楽室などの練習場所、それに部室の警備。そして何より部員の身辺警護をして貰いたいの」
部長はそう答え尚も続けた。
「端的に言うとワタシたち声楽部部員は気味悪い迷惑行為を受けているの。目的や動機、当然相手さえも分からない。そしてここにいるさくら、睦美、能美さん、そしてワタシが今の所の被害者よ」
被害者。
いい響きの言葉ではない。
「具体的にどんな事があったかって、聞いても良いんですか?」
言葉を濁す事無く春久は尋ねた。
「構わないわ。一番最初に被害に会ったのは睦美ね。4月に入ってすぐ睦美の化粧ポーチが消失したの」
紛失ではなく消失。
「落としたと言う事ではないという事ですね」
春久は敢えて反町に尋ねた。
「ええ、私も最初は自分が何処かに落としたと思って、大切なモノだったし学校中を探し回ったわ。でも見つからなかった。なのに翌日、体育館を覗いたらピアノの上に私のポーチが置かれていた」
話だけ聞けば、親切な誰かが反町のポーチをピアノの上に届けてくれたと考える事もできる。もしくは反町に対する苛めや嫌がらせの類とも。だが反町の顔色がソレを否定している。
「当然、最初は誰か親切な人が届けてくれたんだって、私もスゴク感謝したわ。ポーチの中身を確認するまでわね」
反町の表情は険しかった。
「中身を盗まれていたんですね」
井土ヶ谷弟が先を促す。
「違うわ。その逆で中身が新しくされていたのよ。ハンドケア用のクリームもマネキュアも全く同じモノが新品の状態で入っていたわ。それにピアノを弾く時に髪を纏めるピンや爪切りなんてピカピカに磨かれていたわ」
言葉に詰まる。内容が全く理解が出来ない。
「スイマセン、意味が分かりません。いや、何が起きたのかは分かるのですが……その……」
春久と井土ヶ谷順が顔を見合す。
「中身に手を付けられたって事なの。別所君と井土ヶ谷君は男の子だから分からないかもしれないけど、ポーチの中身って少しでも弄られたら女の子は分かるものなの。ましてやモノが新品になっているなんて事があれば尚の事……」
そう補足を入れてくれたのは能美だった。
「プレゼント。いえ、善意の押し売りとも取れなくは無いけど、相手が何をしたいか分からないのはワタシたちも同じ。だからこそ気味が悪いのよ」
部長は腕を組むと、ため息交じりにそう語った。
「次に被害に会ったのが、さくら副部長よ」
そう言葉を続けたのは反町だった。
「副部長の場合、4月の中ごろに部室に置いていた体操着とジャージが盗られたわ。そして翌日にキレイに洗濯された上、畳んだ状態でソレが音楽室のピアノの上に置かれていたの」
何とも形容しがたい行動だ。副部長が部員の中で1人だけジャージ姿である理由はコレなのかもしれない。盗まれないように常に身につけておく。
「……気持ち悪い」
そう洩らしたのは今まで口を噤んでいた一祈だった。
「そして次に被害に会ったのがケイちゃん。あたしの事件の直ぐあと」
そう副部長が続ける。
「ケイちゃんの場合は、わたしとは逆に制服。体育の時に制服がなくなってしまい、翌日部活に出ようと音楽室のドアを開いたらピアノの上に洗濯されたうえ、キレイに畳まれた制服が置かれていた。プリーツひとつひとつにアイロンまで掛けられてね」
ここまで来るとやっている事は変質者と言って良いのではないだろうか。そして春久は、斜め前に座っている能美が僅かに震えている事に気がついた。
「能美、気分が悪いなら席を外せ。和泉、反町先輩、能美と一緒に別の場所に……」
春久がそこまで話すと能美由香が続く言葉を征した。
「私は大丈夫。ありがとう別所君」
まだ、微かに震える続ける能美の背を一祈が優しくさする。
能美を見つつ部長が語り始める。
「私的な見解なのだけど、能美さんに対する行為が一番気味悪いわ。彼女の場合はブラシ。愛用のヘアブラシが鞄の中から無くなり、昨日の昼休にソレが体育館のピアノの上に置かれていたのよ」
昨日の昼休みに能美が涙を流していた理由はコレなのだろうか。
「ゆかぽんのヘアブラシって、あの昔から使っている黒檀とか言う木で作られている黒いブラシ?」
一祈が視線だけ動かし能美に尋ねる。
「うん」
能美は静かに頷いていた。
「黒檀か。俺も何かで見た、いや正確には読んだ記憶があるな。黒檀っていうのは簡単に言えば木の種類だよな。箪笥などにも使われたりする品の良い木って書かれていた記憶があるな」
春久は言葉を挟んだ。
「おばあさまから頂いたものだから詳しくは分からないけど、木だから磨くと綺麗な光沢が出るの。だから戻ってきた時にアレだけ光沢が出てたって事は誰かがかなり磨いたんだと思うの」
能美の説明はゆっくりとしたものだった。つまりは誰かが勝手に磨いて戻した。
「正直、それだけならまだ良かったのよ」
部長が搾り出すような声を上げた。
「……えっ?」
井土ヶ谷弟と春久は思わず声を上げた。まだ何かあるという事なのだろう。
「……ブラシって、梳かした時にどうしても千切れたりした短い髪の毛が、いくつか残るでしょ?」
能美はポツリと呟く。
確かに春久も風呂上りに髪の毛を梳かした後、ブラシを見ると髪の毛が数本引っかかっている。
「それがね、ないの。キレイに取られていて1本もないの。ブラシとブラシ間の埃さえもみんなキレイに取られていているの」
能美は淡々とそう答えていた。
気色悪い。そうとしか言いようの無い行動だった。
反町も部長も副部長も、そして能美も皆、身体に触れるモノを取られ、それを気色の悪い形で戻されている。
「学校には報告していないんですか?」
一祈がごく自然な疑問をぶつけた。
「無論、報告したわ。警察に連絡して欲しいと。顧問の三木先生は真剣に取り合ってくれたのだけど、校長先生からは実害ではないから、大げさにはできないと言われてしまったわ。落としたものが届けられているだけじゃないかともね」
釈然としない言葉だが一理なくも無い。おそらくは様子見るつもりなのだろう。
「そんな!! 中身入れ替えられたり、洗濯されたり、磨かれたりしてるんですよ!?」
一祈は食い下がっていた。
「その通り!! 当然、ケイちゃんとわたしでその部分は訴えたよ。そしたら思い違いは良くある事だし、もしかしたら、なにかの善意かもしれないと真顔で言うんだもん話しにならないよ!」
副部長が吐き棄てるように一祈の言葉に意見を重ねた。
「こんなの善意でもなんでもないわ。ただ気持ち悪いだけ。まぁ、他の部の人間が嫌味っぽく言う“人気のある部の定め”と言えばそれまでなのかもしれないわね」
井土ヶ谷部長が一連の行為を纏めるように眉間を抑えながらそう洩らす。
「姉貴、声楽部の人気があるってどういう事だよ? 人気が無いから部員が足りなくて和泉さんや俺たちを勧誘したんじゃないの?」
井土ヶ谷順の疑問はもっともだった。春久も首を縦に降り自分も同意見である事を示して見せた。
「部員数と人気では話が違うのよ。だいたい2人は男のクセにわからない? 見ての通り、ウチはさくら、睦美、それに能美さんと綺麗どころが揃っているわ。ほかにも2年の葵はお嬢様特有の雰囲気でファンが多いし、彩香のスタイルの良さだってモデル並よ。さらにはもう一人の1年生、瀬谷さんの北欧風美少女の雰囲気なんて同性のワタシから見てもため息しか出ないわ。それくらいのキレイな女性部員が揃っている。贔屓目抜きで現行の部員全員が美形と言っても大げさではないわ。コレで和泉さんみたいな可愛い子が入部してみなさい、部員のモテ度ならウチと張り合えると豪語している戸塚のバスケ部や、何かと張り合ってくる二本榎の吹奏楽部が歯軋りして悔しがるわよ」
質問の答えにはなっていなかったが、おそらくは場を少し和ませる為の部長の気遣いなのだろう。更に言えば井土ヶ谷部長だって相当の美形だ。春久は敢えてそれに乗りつつ、話の軌道を戻す。
「確かに八千代部高校は美人が多いのも伝統だと聞いた事がありますね・・・…まぁ、つまりは学校内の男子生徒のファンが多いと言う事ですか?」
一祈が醒めた目でコチラを見ていた気がするが今は気にしても仕方がない。
「それも合っているけど、ファンなら男連中より女子の方が多いかもしれないね。もともと八千代部高校の男女比率は4:6で女子の方が多いし!」
何故かそう楽しそうに答える副部長。
「そうそう!! 学校の裏サイトでも“桂子おねえさまを見守る会”なんてのもあるしねぇ。あのスレ主、絶対部長の熱烈なファンの女の子だよ」
反町がイタズラっぽく微笑む。
「女性のファン?」
女性のファンとはどういう事だろう?春久は言葉を挟んだ。
「声楽部の女性ファンかぁ。なんか分かる気がする」
間を空けず一祈が声を上げる。
「和泉、どう分かるんだよ?」
春久は正座から足を崩し、姿勢を直しつつ和泉に尋ねた。
「別所君は男の子だから分かんないかも知れないけど、部長の凛々しさはある種、女の子の永遠の理想像みたいなモノなんだよねぇ。それに副部長の中性的な綺麗さ、反町先輩の女性として洗練された部分にも女の子は憧れるんだよねぇ……ゆかぽんみたいな美人さんに関しては見ているだけで幸せだしなぁ。それぞれ抱きしめて貰いたくなる様な魅力があるとでも表現すればイイのかなぁ?」
少しうっとりとした表情でそう語る一祈。説明を受けたにもかかわらず春久には何を言っているのか1ミリも理解できない。
「えっ!? 和泉は“おねえさま”とかソッチもいけるの?」
反町がマジメに尋ねる。
「いやいやいや!! 一応アイドルとかスポーツ選手とかのイケメン君も普通に好きなんで、おねえさまとかはないかと思います……多分」
「も? 多分?」
「一祈ちゃんならありえるかも」
照れ笑いを浮かべながら答える一祈に反町と能美が笑いながらツッコミをいれる。
「そうかぁ、やっぱり一祈っちもイケメン好きなんだぁ」
獅子ヶ谷副部長も話に乗っかて来た。しかし、何故か視線は春久に向いている。嫌な話が続いていた場が少しだけ和む。ある意味部長の狙い通りなのだろう。
「でも、それじゃあ別所の時間が細かい事の説明にはなっていないよ。姉さん」
井土ヶ谷弟も笑いながら柔らかく割って入る。話の軌道を戻す意図が覗えた。
「その通りね。本題はここからなのよ。実は2人に警備を頼む少し前から、とある信用の出来る人物がソレを行ってくれてたの。でも彼にも部活は元より、予備校など大事な用事もあるのよね。律儀な性格だから、無理をしてでも約束を守ろうとするだろうし、そもそも一人での対応は無理な話なのよ」
春久は何となくある男の顔が浮かんだ。
「つまりは、その人の負担を減らしつつ、効果的に警備を行いたいということかい?」
姉に井土ヶ谷弟が尋ねる。
「そうよ。つまり警備は3人で分担してやってもらいたいの。メインは順になるけど、ウチの庶務の仕事やその男子の日程、そして別所クンの陸上部での活動等を加味すると、どうしても日程は細かくなるのよ」
少し話が見えてきた。そして部長の細やかな気遣いも。
「色々とお気遣いありがとうございます。で、その信頼できる男って、誰なんです?」
春久は尋ねた。
「キミのもう1つの部の部長、庚クンよ。言ったでしょ? 話はつけてきたって」
顔の端だけで笑みを見せる井土ヶ谷部長。しかし、弟のほうは釈然としない様子だ。
「姉さんたちの人選に文句をつけるわけじゃないけど、その庚って先輩を含めて選んだ基準が見えないな」
確かに言われてみれば、自分を含んだ3人に共通項は無いように思える。先程から井土ヶ谷弟はそのにこやかな外見と裏腹に冷静かつ的確に物事を尋ねている。
「共通項ならあるわ。それは3人が一連の嫌がらせ行為に加担していないと断言できる人間という事よ」
論拠がまるで見えないが相変わらず井土ヶ谷部長は自信満々だ。
「ありがたい評価ですが、何故加担していないと断言ができるんでしょうか?一応、我々も男ですよ」
春久は言葉を選びつつもそう尋ねた。自分で言っていながら顔が熱を持っているのが分かる。
「確かにね。でも、そこを加味しても貴方たち3人は除外して良いとワタシは考えているのよ。まず順、アナタは姉であるワタシの制服を欲しがったりする?」
井土ヶ谷部長は笑いながらそう説明をする。
「無いな」
弟の即答。
「さらに、アナタはワタシの部の部員に対してこんな事をしたら、ワタシがどういう報復をするか一番分かっているでしょ」
言葉に迫力はあったが春久には姉の弟に対する絶対の信頼のようにも聞こえた。
「想像したくないよ」
井土ヶ谷弟は力のない笑みを浮かべていた。
部長は続けた。
「次に声楽部の者なら知っていると思うけど、庚クンはさくらの彼氏だ。あの律儀な男が彼女の在籍している部に対して変質的な嫌がらせが出来る男だと思う?」
庚大介と獅子ヶ谷さくらが恋人同士という事にかなり驚きを覚えたが、女性陣のリアクションを見る限り周知の仲ということらしい。
「ないよ。断言できる。大介が協力してくれてるのだって、わたしに対するイタズラに怒ったからだもん」
そう答えた獅子ヶ谷副部長の顔は少し赤く染まっていた。何となく聞いている春久のほうが照れくさくなり、その気配を悟られぬ様にお茶を一口啜る。
「そして、別所クン、キミも庚クンと同様だ。和泉さんはキミの彼女なのだろう? これから彼女が入ろうとしている部に対して、キミはそんな事はしないだろ?」
部長のあまりにも堂々とした断言ぶりと内容に春久は飲んでいたお茶を喉に詰まらせそうになった。
「いやいやいや部長、みなさん違いますよ!! もう今日だけで何人にそれ言われたかな? 困っちゃうな……別所くんとは家が向かいの幼なじみ! そんなんで親同士がめちゃくちゃ仲良しで、私たちも付き合いが長くて気心も知れてますが、そんなんじゃないですからっ!!」
一祈が半分困りながら慌てて説明をはじめた。
「和泉の言う通りで確かに家族ぐるみの付き合いですし、仲は良いですが、それは誤解です」
春久も同じ内容を言葉を代えて説明する。
「そうなのか? でもなぁ、あんな写真を見ると誰でも勘違いするよ」
部長は何故か残念そうにそう答えた。
「……写真?」
春久は思わず声を上げた。一祈を見ると顔を真っ赤にして俯いてしまっている。どうやら部長の言う写真の意味が分かっているらしい。
「なんだ当事者のキミが知らないのか?」
部長も何故か照れくさそうだ。
隣に座っている反町が自分のスマホを操作しだした。どうやら学校の裏サイトを覗いているらしい。
「コレよ! これがさっき話した学校の裏サイトに載っていたの。“ぼっちの騎士と眼鏡のお姫様”ってハッシュタグつきでね。この中で知らないの多分、アナタだけよ」
そう反町が春久に示したのはスマホに映し出された幾つかの写真。それは今週の水曜日に一祈が色酔いで倒れたところを映した写真だ。倒れている一祈の姿からはじまり、呼吸や脈拍を確認している春久の表情、そして一祈を抱きかかえて保健室へ向かう姿などが鮮明に撮られていた。
「いつの間にって…… コレかくし撮りじゃねぇか。悪趣味すぎだゼ。だいたいぼっちの騎士と眼鏡のお姫様ってなんだよ。センスねえな!!」
春久は思わず早口に言葉を洩らす。
「そうかな? 言いえて妙だと思うけど。別所君、昔から一匹狼っぽいところあるし、一祈ちゃんは可愛らしくて“姫”って感じするもん」
こめかみに指を当てながら、少し上を見つめるように能美が笑う。
「別所、ホントに知らないのかよ。昨日今日とクラスでも結構みんな騒いでいたろ?」
井土ヶ谷弟は呆れて顔でそう呟く。
「いや、クラスの皆が何を騒いでるなんか興味ねぇっていうか、知らねぇし」
春久はそれ以外の言葉が出てこない。
「相変わらずねぇ。抜けていると言うか鈍いと言うのか……冬美子先生や美夏さんはそう言う所も鋭い人なのに。アナタは今、八千代部女子の噂の男の子よ。校内で女の子を颯爽とお姫様抱っこしのよ。 女の子はみんなドキドキものよ。今日、音楽室で部員の娘たちが遠めで2人を見つめていたのにも気がつかなかったの?」
多分、今日の仕返しもあるのだろう。反町の言葉は何故か楽しそうだ。
「いや、アノ視線は俺を煙たがっているのだと思ってました」
春久は正直に答えた。
「どんな風に受け止めれば、そんな視線に見えるのよ……」
部長も呆れ顔だ。
「そうそう、みんな興味津々って感じだったじゃん! その上、さっきだって、由香っち、一祈っちの2人が睦美っちにイジメられているのをピアノ弾いて助けちゃうんだもん。アレは乙女心刺激するよねぇ。きっとウチの部にもハルっちのファン出来たんじゃない?」
副部長は自分も「○○っち」呼びなのかと春久は少し驚いたが、それ以上にこの人は、後輩イジりを楽しんでいる様子だった。
「さくら副部長、もう勘弁してください・・・・・・ホントにゴメンね能美、和泉。私、人から無視されたり、忘れられたりすると頭に血が上っちゃうからさ・・・ヒスな女だけど、頼むから嫌いにはならないでね」
本当に申し訳無さそうに深く頭を下げる反町。その先輩後輩を超えた傾頭ぶりに春久は昔から変わらない反町の正直な人柄を見た気がした。
「反町先輩、気にしないでください。先輩は全く悪くないですから」
能美が小首を傾げながら春久の方を見つめ微笑む。
「そうそう女の子の事を忘れる別所君が悪い!」
一祈も怒ったような声を上げ同調する。
「その様子じゃ、あまり女心とかその手の事に気が回るタイプでもないだろうから、やはり今回の一連の犯人ではないのは確かだよねぇ」
副部長が大きく笑う。
「女心!? ムリムリ、女子にデブるとか平気で言うし、その上、結構負けず嫌いで、ちょっとした事でも、女子相手にムキになって張り合うタイプですから。ねっ? ゆかぽん」
一祈が感想を重ねつつ、能美に同意を求める。
能美は少し困ったように笑っていた。
「うわっ、成長してない。相変わらず子供すぎ」
反町はイタズラな視線を春久に向けている。
「どちらにしても、別所君の入部も問題ないという事になりそうね。新入部員は早速明日から来て欲しいけど問題は無いかな3人共?」
この空気で参加を断れるメンタルがある人間などあまりいない気もするが、春久は他の2人が首を縦に振るのを確認したうえ自分も頷いて見せた。
「よし! では今日は時間も時間だし、これでお開きね。別所クンは能美さんと和泉さんを送ってくれる? 同じ中学なら近いでしょ? ワタシと順で反町を送るから、反町は確か鴨宮駅南口の近くよね?」
段取り良く話を進める井土ヶ谷部長。確かに今の話からすると被害に会った女性部員は送るのが無難だろう。
「僕は問題ありませんが、それより獅子ヶ谷副部長は……」
春久が静かに尋ねる。
「キミは気を利かしているつもりなんだろうが、はっきり言って野暮だ!! さくらには概ね専属の警護のモノがいると話をしたろ?」
部長が少し怒った様に春久に言葉を飛ばす。
「……あっ!!」
そう言いながら春久が横目で見つめた獅子ヶ谷副部長は顔を赤く染めながら思いっきり照れていた。
「流石に今のはデリカシーないよ。別所君」
能美にまでそう言われてしまい、返す言葉のない晴久はただ苦笑いするしかなかった。




