貴族の娘とぽんぽんぽん
アタシはクレーターの窪みの前に居る。
消費した薫製肉を作り直すつもりであったからだ。
そうそう。すっかり忘れていたけどマントと背負い袋、籠手、すね当ては世界の王が拾い集めて洗濯してくれていた上、綺麗に畳んでおいてくれていた。
今更だか世界の王は真面目で几帳面な性格だったようだ。
宇宙人的なインベイダーで無ければ良かったのにとつくづく思う。
なんて、冒頭から現実逃避をしているのは、アタシの家の前で野営をしている集団がいたからだ。
それが数人の冒険者や盗賊なら誰何するなり追い払うなりするけど、
兵隊さんが二十人も集まって何しているのですか。
面倒ごとの匂いがプンプンします。そんなんじゃ迂闊に声も掛けられないじゃないか。
アタシは潜伏スキルを使い木の上に潜んで、なんの用事があって野営をしているのか知るために聞き耳をたてている。
兵隊さん達は訓練が行き届いているらしく無駄話ひとつしない。
こうなれば根比べだ。
そして日が暮れて兵隊さんが炊き出しの夕飯を食べ始めた時にやっと口を開き事情が飲み込めた。
流石にご飯を食べるときは雑談くらいするよね。
どこかの貴族の娘が冒険者になり旅に出た。
所在が分かり連れ戻そうとしたら入れ違いに旅に出てしまった。
痕跡を辿ったが途中で途切れてしまった。
旅の方向から国境に向かっていたのは間違いないが国境を渡った痕跡はない。
念の為に森を調べていたら怪しい家を見つけた。
家主が何か知っているかもしれないから待ってみる。
もう二日経ったが家主は現れない。
森と山に向かった調査隊は明日には帰ってくる。
ここで待っている間は何もしなくて良いのはいいことだが、どこに居るか生きているのか分からない相手を探すのも飽きたし正直そろそろ帰りたい。
と言うことだった。
そう言うことならアタシには無関係だ。
探し人はセントラル王国の貴族の娘だろうからね。
旅の保存食である薫製肉を作りたいし、この集団がいつまでここに居座るつもりか分からないし、
それならいっそ姿を見せて、ここはアタシの家だけどどうかしましたか?とでも言おうかと思ったが、
兵隊さんは男ばかりなので別の意味で夜に姿を見せるのは危険かもしれないから取り合えず朝になるまで様子を見ることにした。
その間も情報収集を続ける。
貴族の娘は邪を弾くと言われている白い服装を好み。小柄な体躯なのに遺跡で見つけた魔法の大剣を背負い、戦闘となればそれを軽々と振り回す。
途中でキャラが被ったかなと思ったが大剣使いなら大丈夫。しかもこれでアタシでないことは確定したしと安堵した。
姿を見せるときは作業着(緑)に着替えなきゃだね。
だからと言って姿を見せる気はないけど。
アタシは潜伏スキル+忍び足でこの場から離れ森の奥で見つけた木のうろに潜むことにした。
潜伏スキルは本当に便利である。他の生物にアタシがここに居ることをまったく悟らせることがないのだから。
お陰でこんな所で寝ていてもいきなり襲われるリスクがない。
しかも常に発動している振動感知も遮断してくれるから良く眠れる。
アタシは木のうろの隅っこで丸くなった。
いきなりだけどアタシは潜伏スキルを過信しすぎていたようである。
で、なければこんな事にはならなかったはずだ。
アタシは目が覚めた。
木のうろの外は明るい。
どうやら朝が来たので目が覚めたようだ。
でもおかしい。
アタシは寝るときに隅っこで丸まって寝たはずだ。
なのに正面を向いて座っている。
しかも背中に感じる二つの柔らかさはなんだ?
更にお尻の下も柔らかい。
背中とお腹、そして足まで柔らかくて暖かい。
振動感知は反応しっぱなしだが初めての反応なのでさっぱり分からないし。
その反応は半身をおおわれているというか……って?
なんで振動感知が機能しているの。慌てて身体を見ると潜伏スキルは解除されていたらしく、自分の姿が見える。
更に慌てて動こうとするがまるで元の世界で数回乗った車のシートベルトで固定されている様に動けない。
原因はなんだと自分の腰回りをみると 腕?
その時、背後から声を掛けられた。
「あら。木の妖精さん、起きちゃったのね。大丈夫。私は何もしないから落ち着いてね」
何もしないって言っているけど逃げられないようにしっかり捕まえているじゃないか。
これが何もしないって言うなら、スル時はナニをするのだと言うんだ。
背後から抱き締めて言葉を話す生き物は何なんだ。
それと何でアタシの潜伏スキルが解除されたんだ。
何にしても、この状況は不味い。逃げ出さなければなるまい。
と思っていたらお腹に回されていた片腕が外れた。
今がチャンスと身体に力を貯めた瞬間。
頭の天辺を優しくポンポンとされた。
予想だにしていなかったその行動に貯めていた力が抜けた。
その後もポンポンとなされるがままだ。
アタシは背後の生物が危険な生き物では無いと判断し、逃げることを止めて話しを聞くことにした。
別に子供であるまいしポンポンに手懐けられた訳ではないとだけは言っておきたい。