木の妖精と貴族の娘
アタシの背後で頭をぽんぽんしていたのは、人間の女性であった。
この世界に来て出会った人は殆どが金髪碧眼であったのに対して黒髪の碧眼であった。
欧米人特有の彫りが深い顔付きが一見きつそうだが、
目許が日本人的な優しさを主張しているというどこのハーフ顔なんだろう?
元の世界の日本なら大騒ぎしそうな美人さんである。
そして白いシャツ、白いズボン、白いマント、傍らに置いてある胸当てを含む鎧兜も全て真っ白だ。
ここまでくれば該当する人物は一人しかいない。
そう、兵隊さんが探している貴族の娘さんだ。
でも身長は170センチ程くらいあるから、とても小柄だとは思えなかったが、はたと気がついた。
よく考えればこの世界の男は2メートル越えは当たり前。
そう言えばジェニファーさんは180センチ越えていたはずだし、そもそも普通の体格って基準が違うのかもしれない。
とりとめもなくそんなこと考えていたら。
「冒険の最後にこんな素敵な出会いが待っていたなんて。街に居たら妖精さんに逢うなんて出来なかったわ。冒険者やっていて良かった。街では貴族との舞踏会とか食事会とか性に合わない事ばかりだったし。本当に良かったわ」
何だか感極まっているみたいなので口を挟めずにいると。
「妖精さんはなんで姿を見せてくれたの?」
と聞かれた。そんなの知らない、どちらかと言えばアタシの方が聞きたい事だ。
「アタシにも分からない」と正直に言って昨夜の話しを聞いた。
それは至って当たり前のことだった。
今はただの冒険者だからと、家名は言わずクラウディアとだけ名乗り、愛称である『クラウ』と呼んでほしいと言われた。
アタシも名前はマッキーと伝えたよ。職業を聞かれなかったから冒険者とは言ってないけど。
クラウさんは兵隊さん達に追われている。
今度捕まったら王都に強制的に帰されて、親の決めた貴族との結婚というクラウさんからすると牢獄が待っている。
貴族の娘として産まれた身だから親の決めた相手と結婚しなければならない。それは納得しているが、最後の悪あがきと言うか、捕まるギリギリまで冒険を続けていたい一心で逃げていたのだと。
でもこの森に居ることがバレたらしくそろそろ限界かと思っていた。
アタシは寝ていて気が付かなかったが、夜に雨が降ってきたらしく。
雨宿りが出来るところを探していたらこの木のうろを見つけたと。
入る前に他に動物が居ないことを光の魔道具で確認したのだが入ると何かがおかしい。
冒険者の直感でこの狭い空間に何かがあると思い慎重に手でさわってみると、
匂いもしない、気配もない、目にも見えない透明な塊が有ることが分かった。
未知の透明な塊。はっきり言えば怖い。今はそこに有るだけだが、もしかしたらそれは擬態でいきなり襲い掛かってくるかもしれない。
私は冒険者だ。と言っても今まで冒険という冒険はしていない。魔物である生物を倒して魔石を得たくらいだ。
それくらいなら冒険者でなくともちょっと鍛えれば誰でも出来る。
誰も知らない何かを得ることが冒険者だ。
だから怖くても逃げたりしてはいけない。
私の本当の意味での初めての冒険だ。
恐怖と緊張で身体が強ばり手が震える。
透明の何かに触れると、膜とか服のような気がする。
それを思いきって掴んでみると。
突然白い塊が現れた。
やっぱり擬態だったのかと身構えたが、白い塊は襲い掛かってくることもなくそのままであった。
落ち着いてよく見ると、白い塊は白いマントを着た子供だった。
丸まって寝ているだけである。
それで私は理解した。
白は聖なる物。この子は木の妖精で夜になったから寝ているだけなのだと。
妖精は居ると昔から言われていたが誰も見たことがない。それは見えない存在だから。
確かに見えないし気配もない。
でも触れることは出来る。しかも姿を見せてくれた。
私が冒険を続けていたかった理由はきっとこの妖精に出逢うためだったんだ。
私は暫くの間、妖精を見て感激していたが、徐々に寒さを感じはじめた。
雨に濡らされて身体が冷えてしまったのだろう。
妖精さんに触れると暖かい。
妖精は金属を嫌うと言う。
確かに金属はいっさい身につけていない。
私は身に付けている金属の鎧を脱いだ。
寝ている妖精に心の中で謝りながら抱き抱えた。
とても暖かい。温もりを感じる。香りも良い。心が落ち着く。妖精は人に癒しを与えてくれる存在なんだと思いながら私は寝てしまったと。
アタシはその話しを聞いて、潜伏スキルの最大の弱点ともいえる振動感知が出来ない危険を再確認した。
今回は幸運な事に妖精だと思って手荒なことはしないで大切に扱ってくれたクラウさんだったから良かったものの、
木のうろに来たのが違う人だったら何をされていたか分からない。
潜伏スキルは見えなくなるだけだから肉体はそこに存在する。だから触れるしそこに居ると確信して調べられると解除されてしまうのだ。
あのゲームの設定通りである。
あと良い香りって世界の王がアタシの装備を洗濯してくれたからだろう。
洗剤に芳香剤と柔軟剤をブレンドしたのか?どんだけ真面目なんだか。
クラウさんがこちらを見ている。次はアタシが話さなければいけないらしい。
世界の王のことだから、洗濯物は機械に放り投げたらあとは畳むところまで自動なんだろうと思いつつも裸の生き物が洗濯機が必要なのかとも思う。
もしかしたら手洗い?
世界の王が洗濯板を持って川で洗濯しているところを想像してしまい。
思わずにやけてしまった。
そんなんで何て話しをしたら良いのか考えが纏まらない。
どうしようと焦れば焦るほど洗濯板が脳裏を横切りにやけてしまう。
にやけるアタシを見てクラウさんは頭を下げてきた。
「私がしてしまった数々の無礼を笑って許して頂けるとは感謝致します。御寝室を荒らしてしまい申し訳ありませんでした」
あ。クラウさんが自己完結してくれた。その間に落ち着こう。
えっとクラウさんはアタシの事を妖精と勘違いしている。
間違いを訂正するか?
何となく感動に浸っているクラウさんに悪い気がする。
それならば妖精の振りを続けるべきだよね。
一期一会、この広い世界できっともう会うことはないよね。
それならば。
「クラウと申したな。先程アタシに出逢うために冒険を続けていたと申していたが、これから如何するつもりだ?」
出来るだけ威厳を込めて言ってみたけどどうかな。
「先程の通り、冒険に満足したので家に戻るつもりです」
親の決めた相手との結婚か。妖精だし折角だから冒険の思い出として何か祝儀を贈ろうかな。
「そうか幸せな家庭を築くがよい。何か祝儀を贈りたいのだがアタシは人のことはよく分からない。たいした事は出来ないが一つ望みを言うがよい」
ふふふ。一度は言ってみたい上から目線での一言。
アタシってば神様みたい。あ。妖精か。さぁ何を望む?




