27.『仲間』
シワレス襲撃事件の翌日、セリシア騎士団達は街の復興作業に人員を避けざるを得ない状況だった。
中心街はほとんど壊滅状態で、まともな暮らしができるのはまだまだ時間が必要だ。何より、被害者数の、確認を急速に行った。
しかし、これが意外な事に被害者はシュワの時計塔内部で倒れていた老人一人のみだった。
街にいた住民達の中には負傷者は居たものの、ギルとソージュを中心としたら騎士団の護衛によって、速やかな避難と救助活動が行われていたため死者は出なかった。
そして今、セリシア騎士団は街の復興と同時並行で、『襲撃者』であるエルフのナナ。『大罪人』ルイ・レルゼンの連行を行っていた。
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「俺達は騎士だ。例え神を受け継ぐ奴であろうと、市民の平和を脅かすのなら容赦はしない。」
「―――」
「ナナ...って言ったっけか?どうしてシワレスを巻き込んだ。お前の望みは、ルイ・レルゼンただ一人だったんだろ?」
「その為に、犠牲が必要だっただけだ。人間如き、どうでもいいだろう。」
間髪なく、相手の言い分に対して反論をする姿勢から彼女の一貫した考え方が伝わる。
小さくか弱い彼女の足首に付けられている大きい鉄球は、彼女の動きを最大限まで鈍くさせる為に付けられた重荷だ。
両手には特殊な鉄で作られた手錠が付けられ、シワレスの牢獄の中で身動きが取れない状況であり、魔法も使えない彼女は為す術の無い捕縛人。だと言うのに、臆するどころか堂々とす彼女の生き様は、どこまで行っても『神の後継者』を彷彿とさせるエルフそのものだ。
そんな彼女に、ギルはため息をこぼす。
「お前の考えはよーく分かったよ、極刑は免れないと思えよ。エルフ様が人間に処刑されるなんて、後世に残る恥だな。」
「私を処刑したけばすればいい。その場合、困るのはそっちだろう?エルフは仲間想いでな、戦争でもするつもりか?」
「あ〜...そういう意味で、ずっと澄まし顔してるって事か。」
ナナは特段、この状況を恐れてはいなかった。それは決して"死"に対しての恐怖が無い訳ではなく、ただ単純に死ぬ事は有り得ないと高をくくっているだけだ。
「人間とエルフでは、立場が違う。お前ら如きが私をどうこうするなど頭が高い。さっさとこの拘束も解け。」
そう言いながら、自身に括り付けられている手錠をギルに見せびらかす。
「...随分と、余裕そうだが、安心しな。」
「は?」
ギルが突然、不敵な笑みと共に近付いてくる。
そして、牢に思いっきり腕を押し当て、冷酷な眼差しでナナを睨みつけながら言葉を紡いだ。
「テメェだけは、必ず死刑にしてやる。エルフが相手になろうと、関係ねぇ。」
それは確かな、決意を込めた"殺意"だった。
「―――」
ナナは息を飲む。
心のどこかで、ただの脅しだと思っていても、目の前の男の狂気的な目が、ナナの神経をゾッとさせる。
「それと、朗報を一個教えてやる。」
「...?」
そんな思考を他所に、ギルは続けて言い出す。
「お前の標的...ルイ・レルゼンの身柄を確保した。一緒にあの世に行かせてやっから、安心して成仏しな。""神の出来損ない"が。」
「っ!...そうか。」
「...?」
てっきり、ルイの捕縛に笑みを浮かべるか、自分の手で復讐を果たしたいからこそ怒る、といった二択の反応を示すと思っていたギルであったため、彼女のどちらでもない表情に違和感を持った。
――コイツ、何だか寂しそうな面してやがる。
「ま、今騎士は街の復興で手一杯だ。せいぜい残りの余生噛み締めて生きるこった。」
そう言いながら手をヒラヒラと振り背を向けるギルであったが、横目に映るナナの表情が、脳裏にこべり着いてどうにも後味が悪かった。
「...」
ナナの牢獄から立ち去り、長い廊下を歩きながら独りで舌打ち交じりに呟く。
「なんで...テメェがそんな顔すんだ...。」
やるせない感情が、ギルの思考を鈍らせていた。
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「つー事で、被害はなんとびっくり、建造物だけ。死者が出てないとか、奇跡超えてますぜこれは。ね?兄貴もそう思いやせん?」
「俺もそう思うから、ここから出してくんない?」
「中心街はほぼ壊滅状態だったけど、何故かそびえ立つ時計塔だけは目立った外傷が無い。どんな造りでできるのやら。ね?兄貴。」
「凄いね。ここから出してくんない?」
「やっぱ、俺の『閃光』たる所以がここで皆にバレちまいやしたかねぇ?案外やる時やる男なんすよ、ね?兄貴。」
「そうだね、ここから出してくんない?」
「ちなみに今俺はバリバリ任務サボって――」
「誰かぁあああああああああ!助けてぇえええ――――」
暗い地下牢獄の中、ルイの雄叫びが響き渡るが、その声が地上に届くことは無い。
ここはシワレスでも重要犯罪人が収容される牢獄。
このまま慎重な警備でセリシア王国の王都へと連行される訳だ。
――だが...今の俺に、そんな人数かけて警備する必要全く無し...!ここにいる騎士の数で事足りるレベルだぞ?
現在のルイ・レルゼンには、意味の無い事。
下手したら、今も尚、ルイの戯言を聞こうとせず任務をサボってルイを煽りに来ているソージュ一人で片付けられるかもしれない。
「無駄ですぜ、兄貴。地上からは大分離れた地下牢獄。助けは来やしないッスよ。」
「...」
「まぁ...心配事があるとしたら、エルナ・リーベの存在...。重症の兄貴がエルフを抱えて倒れているのをギルさんが発見しやしてね、応急処置を済ませてからここに投獄したんですが」
「エルナは、何処に...?」
「こっちが聞きてぇっすよ。どこにいるんすか。あの女。」
と、ルイはここでエルナの行方が分かってい無いことを知る。
ルイの意識が無くなる直前まで、エルナは心配をかけてくれていた。
正直、ルイを置いて逃げてもらっても全然構わないんだが、エルナの事だ、絶対にルイを助けようと策略を練っている。
「だがまぁ、ここにいりゃあ現れるっしょ。あの魔女野郎。アイツが兄貴を置いてく訳がねぇ、恐らく兄貴の怪我の深刻度を見て、兄貴の命を優先して行動したんでしょ。」
「...っあ、つまり...アイツ、俺の怪我を騎士共に治させてから、俺を回収するつもりか!?」
「絶対そうっすよ」
流石エルナ、無駄の無い効率的な立ち回り。今目の前にいたら頭でも撫でて褒めてやりたい。
そんな、エルナの立ち回りが自分の子供かのように嬉しく、ソージュに向けて高笑いをする。
「はははっ!してやられたな騎士共めっ!無罪の俺をこんな薄汚い所に入れやがって!ざまぁみやがれ!エルナの方が一枚上手だっ!」
「なんで牢獄の中からそんな勝ち確定みたいな振る舞い出来るんすか。コッチもそれ読んで警備固めてるに決まってっしょ。」
一発で論破されてルイは威勢が小さくなる。
「...んで、兄貴。」
「ん?」
一呼吸置いてから、ソージュは雰囲気が変わり、柄にもなくマジモードだ。
ルイを見つめて静かに問いかける。
「どこまで、アンタの作戦なんスか?」
「...?」
あたかもルイが全て狙い通りの立ち振る舞いのように言うソージュに、ルイはキョトンと首を傾げる。
「どこまでって...全部行き当たりばったりだけど?」
「兄貴...俺には本当の事話してほしいっす。正直今回の兄貴の動きは読めねぇっすよ。」
「...?いや、何言ってんだ?」
何だか、様子がおかしい。
「じゃあ言っちゃいますけど――」
ソージュは辺りを見回し誰もいないことを確認した上で再びルイに言う。
思い返せば不可解な点がある。
ソージュ・グルストン、この男は騎士であるくせして、やたらとルイに協力的だ。
だが、確信的なモノは無かった。
だからこそ、彼の発言にルイは度肝を抜かす。
「――仲間なんすから、頼ってくださいよ。ルイ兄貴。」
ソージュ・グルストンは、『大罪人』ルイ・レルゼンの仲間だった。




