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フラグがたたない!  作者: カンザキ
サブシナリオも大切らしい
22/27

恋愛とは何か

 梓の家は俺や星音の家とは地区は一緒なので送っていくのも自然だった。

 帰り道でまだ本調子じゃないのか、梓がいつもの公園で「少し座りたい」と言い出した。

 俺はすぐに飲み物を買ってきて、少し休憩することにした。

「ありがとう」

 と、梓が買ってきた飲み物を受け取る。

「で、私に何か話があったんじゃない?」

「え?」

 急に梓から話を切り出されて驚く。

「何か理由があって送ってくれているんでしょう?」

「いや〜流石、梓は勘が鋭いな」

「和彦がそんな気が利くわけがないと思っているもの」

 酷い言い様だが、実際に気遣いできなかったというのは本当なので言い返せない。

「涼風先生に頼まれたんだよ」

「それは…送っていくことを?」

「バイト先変えたんだって?」

 バイトという言葉で目を丸くしたが、すぐに笑顔になる。

「それだけ?」

「どこでバイトしているのか届出を出していないって聞いたけど」

「あ、ああ…」

 後ろめたいのか、バツが悪そうに返事をする。

「と、届出を出すのを忘れていたんだ」

「深夜まで出勤するようなバイト先にか?」

「なんで…」

 当たっているみたいだ。

 あまり詮索したくないし、そんな年齢制限が入りそうな展開は望んでいないが、ここは突っ込んで話すしかない。

「夜遅くに見たっていうのを聞いたから…」

「ああ、それで…」

 梓はメインヒロインではないが、大好きなゲームのキャラクターだ。

 たとえ闇を抱えていても、それを一緒に乗り越えていきたい。

「俺は力になりたいと思っているぞ…」

「ありがたいけど、和彦には迷惑かけられないよ」

「そんなこと言うなよ」

「だって、和彦には関係ない話じゃない」

「関係なくないだろう…俺ら、友だちだろう?」

「そうだけど…」

 梓の顔が陰る。

 気を遣っているのだろうが、今は身体は同級生だが大人として頼ってほしいと思ってしまう。

「お金がいるのは分かっているけど、自分を大切にしないといけないと思うんだ!」

「は?」

 俺の言葉に何故か、意味が分からないという顔をされる。

「ど…どういうこと?」

 彼女が混乱しながら聞いてくる。

 あれ? 俺の予想は間違い?

「いや、お前…夜の店でバイトしているんじゃ…」

「え…」

「違うの?」

「う…うん」

 何故か梓が申し訳なさそうに頷く。

 こっちが早合点して恥ずかしいことを口走っていただけなのに、こんなふうに申し訳なさそうにされると、もっと恥ずかしくなる。

「ば、バイト先って…」

「ゲームショップなんだ…深夜までやってる」

 あああああああああああ!

 同級生の女の子に、なんて失礼な誤解をしていたんだ。

 俺は今にも地面に転がって、のたうち回りたくなる。

 それから、数分間は俺が混乱し続けてしまう。

 落ち着いた俺は梓の隣に座って、項垂れてしまう。

「ははは、私が変な誤解をさせてしまったみたいね」

「いや、俺の早とちりだっただけだよ」

「でも、心配してくれてありがとう」

 そういって、俺が顔を上げると笑顔が飛び込んでくる。

 梓ってこうやって笑うんだって思わされる。

 目を奪われてしまい、一瞬硬直する。

「どうしたの?」

「な、何でもない」

 気を取り直して、事情を聞かないと涼風先生に文句言われそうだ。

「何でゲームショップにバイト先を変えたんだ?」

「んっとね…ゲームが好きだから…かな」

 意外な回答だった。

 しかし、ゲームショップでバイトをするのだから当たり前の回答だったのかもしれない。

 でも、梓がゲーム好きなんて設定は一度も聞いたことがなかった。

「今日、和彦がゲームの話をしていたときに、私ももっと話したかったんだ」

「そ、そうだったのか」

「うん、私はシナリオ重視も好きだけど、ゲーム性も大切にしたいな」

「それはそうだけど、シナリオが面白くないと入り込めないだろう?」

「でも、ゲーム性がないと、アニメとかラノベでよくない?」

「う…たしかに」

 正論すぎる。

 自分でもシナリオ重視も大好きなのだが、ゲームとして成立しているものがシナリオが微妙でも最後までプレイできるものが多い。

「でも、神シナリオはゲーム性がなくても、神なのでずっとプレイできる」

「それは分かる」

 梓がここまでゲーム談義できるとは思わなかった。

 今までネットの中以外で、こうやってリアルでゲームの話に夢中になれるのはいつ以来だろう。

 俺らはそこから時間を忘れてゲームの話をしながら家まで歩いた。

 家の前でも一時間以上話してしまった…。

 体調不良だったのに悪いことしたと、家に帰ってから反省した。


 ◇


 翌日、上機嫌で廊下を休み時間に歩いていた。

「機嫌良さそうね」

 声の方向を向くと、秋瀬が俺を見上げていた。

「おお、えっと…秋瀬先輩」

「今、名前出てこなかったでしょ?」

「ソンナコトナイヨ」

 名前は出てきたのだが、呼び方に迷っただけだが誤魔化そう。

「はあ…もう少し、あなたは先輩を敬いなさいよ」

「はーい」

「あなたね…」

「笹倉くん、あまり美穂をからかわないでね」

 後ろから現れた神宮寺に注意されてしまった。

「す、すいません」

「美穂もカリカリしないでね」

 イラついている秋瀬も宥める。

 神宮寺はゲームでの彼女にとても近く、むしろ穏やかな感じがする。

 俺の前では、もう人見知りもしなくなったので親しみやすい。

「奏慧は甘すぎるのよ」

「まあ、美穂と笹倉くんは仲良しだから、私が口を出すことではなかったわね」

「ちょっと、こんなのと仲良くないわ!」

 秋瀬が真っ赤になりながら否定するが、神宮寺は「はいはい」と分かっていない様子だ。

 しかし、この誤解は解いておかないと俺のゲームクリアにも関わる。

「先輩、それは違います」

「というと?」

「秋瀬先輩とは仲が良いのではなく、あくまで目的が同じだったので協力関係にあっただけです」

「目的が同じ?」

「ええ、神宮寺先輩を幸せにする会として」

「わ、私を幸せにする会!?」

 驚いて、今後は神宮寺が真っ赤になる。

「あんた、何言っているの、バカなの!?」

 秋瀬が般若みたいな形相で俺に殴りかかってくる。

 おかしいな…俺らで神宮寺を笑顔にしようみたいな話だった気がする。

「ははは、やっぱり二人は一緒にいて楽しそうね」

「え?」

「ちょっと! 何を勘違いしているの?」

「勘違いじゃないわよ、私や生徒会のメンバーには見せない表情で楽しそうよ」

 神宮寺に秋瀬が必死に誤解を解くとしているが、どうも聞く耳を持ってもらえないみたいだ。

 秋瀬で無理なら、俺でも無理かもしれない。

 下手に否定すると、さらなら誤解を生むかもしれない。

「はあ…はあ…もういいわ…」

 気づけば、息を切らした秋瀬は神宮寺に説明するのを諦めていた。

 ふと、周囲を見ると目立っていることにも気づく。

 それもそうだ。

 今自分がいる場所に二人がいることが珍しい。

「二階は一年の教室しかないのに、ここらへんに先輩たちが来るのは珍しいですね」

 今は校舎の二階、二年生のフロアは三階なので用事がない限り下りてくることはない。

 職員室や移動教室は三階か一階に集中している。

「あなたに会いにきたのよ」

「え、俺ですか?」

 秋瀬の口から、俺に会いにきたという言葉が出てくるとは思わなかった。

「そうよ…」

 彼女はそのまま続けるのを少し躊躇いながら、振り絞るように用件を口にする。

「あなた、生徒会に興味ない?」

「へ?」

 生徒会?

 神宮寺ルートでも生徒会役員になることはなかったのだが…。

「ちょっと、考えたことがなかったですね」

「それもそうね」

 急な話で答えに迷ってしまう。

「まだ選挙も終わってないのに、急な誘いでごめんなさい」

 珍しく秋瀬が礼儀正しく謝ってくる。

 そういう意味でも、彼女の言葉は真剣に俺を勧誘してくれているのだろう。

 だからこそ、簡単に判断できない。

「私たちがもし当選ができていたら、一度考えてみてほしいの」

 と、神宮寺からも後押しされる。

 神宮寺ルートに入るためにも、生徒会に入る方が賢明だろう。

 しかし、それだと星音ルートや他のヒロインに時間が割けなくなる。

「分かりました」

「まあ、決心するのが遅かったら他のメンバーで埋まっているかもしれないけどね」

 秋瀬は急に偉そうになる。

 最後まで礼儀正しくできないのか?

 そう思っていると、神宮寺が耳打ちしてくる。

「美穂が笹倉くんを誘いに行こうって言い出したのよ」

「え?」

「美穂は美穂で、あなたのことを信頼しているのよ」

 そう言われて、秋瀬が俺に悪態をつきながらも信頼してくれているという事実に、何故か嬉しくなってしまった。


 ◇


 昼休みには職員室に向かう。

 社会人として報連相は大事だ。

「先生、報告に来ました」

「おお、笹倉か…早いな」

 嬉しそうに涼風先生は弁当を口に放り込みながら話してくる。

「昼ごはん、ゆっくり食べられないんですか?」

「それはそうだろう…午後の授業の準備もしないといけないし、細かい業務もする時間でもあるからな」

 休憩時間をしっかり取れない辛い職場なんだなと、改めて教師という職業の過酷さを理解する。

「で、どうだった?」

「もうすぐ再申請が来ますよ」

「さ、再申請って…ちゃんとした店なんだろうな?」

「もちろんです」

 この人の思考回路は割と俺に似ている。

「梓がそんなことするわけないじゃないですか」

「いや、加納って割と中年受け良さそうだしな」

 教師として問題発言だと思うがスルーしておこう。

「真っ当なバイト先でしたが、夜遅くまでやっていたので、ちゃんとした勤務時間にして申請するように促しました」

「そうか…」

「十八歳は労働基準法で午後十時以降の勤務が無理なのは店も理解していたみたいなので、十時まで勤務してから店舗にずっと滞在していただけみたいですけど」

 あの後、詳しくメッセージでやり取りしたが、彼女も勤務自体が夜遅くなるのがダメなのは知っていたらしい。

 どうも、勤務後にゲーム売り場を散策するのが楽しくて帰るのが遅くなっていたらしい。

「それでは、俺の任務は完了ですね」

「ははは、ちょっと待て」

 スムーズに立ち去ろうとするが、先生に肩を掴まれて逃げられなくされる。

「先生ともう少し話していこうじゃないか?」

「お忙しそうなので、ここで失礼します」

「大丈夫だ、君と話すことも業務内だ」

 確かに生徒とコミュニケーションを取ることで、各自の思考や認識を合わせたり情報収集したりするのも教師として必要なんだろうが…。

「いえ、先生の貴重なお時間をいただくのも申し訳ないので」

「何だ? 君は私とお話をしたくないのか?」

 右腕の関節を鳴らしながら、先生は笑顔で俺に質問してくる。

 この世界のキャラクターはみんな笑顔でプレッシャーを与えてくるのか?

「いいですけど…俺と話しても有意義な情報は得られませんよ」

「いや、笹倉のことが聞きたいんだ」

「え、俺ですか?」

「ああ、笹倉は何か悩んでいるみたいだからな」

「そ、そうですか?」

「授業中とか悩ましそうな表情をしていたり、上の空でスマホを見ていたり、ボーッと考え事をしているので気になってね」

 そういえば、この先生はゲーム中でもかなり生徒思いで、色々と主人公のメンタルサポートをしてくれたのを思い出した。

 悩んで見えていたのは、毎日のようにゲームをクリアするために過去のゲームプレイを思い出したりイベントや行動をどうするかなど計算していたからだろう。

 しかし、それで先生に心配かけてしまうとは思わなかった。

「授業中は授業に集中してほしいと思っていてね」

「す、すいません」

「君は大人ぶっているところがあって、本心を隠そうとするところがあるからね」

 命がかかっているとはいえ、学校生活を疎かにしていると、どんなシナリオに進むか予測がつかない。

 ここは先生にも心配をかけないようにしないといけない。

「ご心配おかけして申し訳ないです。 入学して色々考えていただけで、先生にご相談するようなことはないです」

「ほら、そういうところだ」

 そう言って、先生は俺の一生懸命の作り笑いを否定してくる。

 流石に大人には無理に繕っても見透かされてしまうのか。

「いや、別に…」

 俺の悩みを話せるわけがない。

 しかし、ここで何も言わないのも不自然だ。

「言いづらいことなのだろう?」

 俺の表情から察してか、先生は詮索をやめる合図のように優しく微笑む。

「これ以上、聞かないのですか?」

「無理に聞き出しても意味がないことも多いからね…それに、それを話しても君の悩みは解決もしないし、軽くもならないのだろう?」

 的確な意見で驚く。

 それに、この人は俺よりも年下のはずなのに、俺よりも遥かに大人だと思わされる。

「まあ、何か悩みがあったら気軽に相談したまえ」

 ゲームでは全然分からなかったが、こうやって生徒のことをしっかり考えられる。

「どんな悩みでも聞きたまえ…私が答えられる範囲は狭いけどな」

「じゃあ、先生は恋愛って何だと思います?」

「何だ、哲学の話か?」

「いえ、普通に恋愛とは何かを知りたいだけです」

「国語なら私ではなく…」

「感情の話です」

 俺の言葉で彼女は顔つきが変わる。

 真剣な表情は教師として、生徒の悩みに本気で向き合おうとしてくれている感情の現れかもしれない。

「笹倉、これは自分で見つけるものだと思う」

「それができれば…」

「でも、それが恋を知る方法なんだよ」

 先生は俺の方に体を向けて話す。

「恋が何かなんて答えは人それぞれなんだから、君は君なりの答えを見つけるべきなんだ。 こればかりは教科書に載ってはいないって何かの歌の歌詞にもなっていたな」

 この人は大人として本気で俺の質問に向き合い、あえて答えを伝えないようにしている。

 そんなふうに感じた。

「しかし、そんな小恥ずかしい質問を教師にしてくるとは…青春だな」

 改めて、自分が先生相手に真剣に恋愛相談に乗ってもらっているのに気づいて恥ずかしくなる。

 追い詰められすぎだろ…俺。

「も、もういいです」

 俺がその場を離れようとすると、先生が後ろから声をかけてくる。

「いつでも相談に乗るぞ! 初体験にどうすればいいとか、親にバレないエッチな動画の保存方法とか…」

 前言撤回、中学生みたいな人だ。


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