番外編『愛すべき馬鹿二人』
とある日の特設新鋭軍宿舎前。
普段は殺風景な演習場へと続く道が、その日に限っては異様なテントがいくつか立ち並んでいた。
「……へいらっしゃい! おぉ! お嬢さんべっぴんさんだねぇ。セットで買ってくれるんならめーっちゃ、お安くしとくよ〜! あっ。お兄さんは超絶イケメンじゃん! どうどう? お兄さんにピッタリな良いもの売ってるよ。ちょっとだけ寄ってかない?」
通りすがる特設新鋭軍の兵たちに対して、片っ端から声をかけているのは、艶やかな青髪を揺らすある種の問題児。
クリミア商会を立ち上げた商会長の娘であり、騎竜を乗りこなす俺たちの友人──ミアだった。
「おいアル。あそこにいる馬鹿娘は一体何してると思う?」
困惑する兵士たちを他所に彼女は止まることなく呼び込みを続ける。
俺の横を歩くスティアーノは冷めた視線でその奇行を訝しげに見ていた。
「……そうだな。俺には露店を出しているように見えるが」
「だよな。そう見えるよな」
「……意味が分からない」
天真爛漫な彼女には驚かせられることが多々あるが、まさか軍の私有地に露店を出し始めるのは予想していなかった。
「なあ。良いのかアレ」
「まあ。ルーネ様の許可があるんだったら、合法……にはなるかもしれない」
「あの無鉄砲なのがわざわさ皇女様に根回ししてると思うか?」
「思わない。スティアーノ、無許可で露店を出していると分かったら、すぐ撤去作業に取り掛かろう」
「りょーかい」
二人でミアが開いた露店の方に歩いて行くと、こちらに気付いたミアが嬉しそうに駆け寄ってきた。
……両手に大量の魔道具を持って。
「二人とも! もしかしてこの店の評判を聞きつけて買いに来てくれたの!? へへ〜二人は特別にお友達価格にしといてあげよっか?」
「おいお前。なんでこんなところで店開いてんだよ」
「えーここなら特設新鋭軍の人が絶対に行き交ってくれるから、物が売りやすいんだよね」
「そーゆーことを聞いてんじゃねーんだよ!」
「ほへ?」
「ほへ? ……じゃない! だいたいヴァルトルーネ様に許可は取ったのか?」
お説教モードに入ったスティアーノの小言を聞き流すかのごとくひらりと回転し、ミアは得意げな顔で腕を組む。
「ふふん! もちろん無許可に決まってるじゃん!」
……その場は沈黙に包まれた。
「……よしアル。ここの店は全部撤去しようか」
「ああ。そうしよう」
「あっ、やっ。ちょっと待ってよ〜」
やっぱり無許可で営業していたか。
ミアは情けない声で「今回だけ見逃して」と懇願してくるが、無許可であることが彼女の口から語られた以上、慈悲はない。
「このことはヴァルトルーネ様にも、お前の上官にも報告するからな」
「あースティアーノの意地悪!」
「おい。服の裾をを引っ張るな。お気に入りが伸びちゃうだろうが!」
「ちょっとくらいいいじゃん! 私は儲けれて、ここの店を利用する人たちは欲しい物が手に入る。悪いことはないんだって〜!」
「そんなことは知らん!」
ギャーギャーと騒ぎ立てるスティアーノとミア。
いつの間に周囲には特設新鋭軍の兵たちが集まってきていた。
「なんだなんだ?」
「若いの二人が喧嘩してるっぽいよ」
「はは。微笑ましいな!」
兵たちはほとんどが年上である。
士官学校を卒業したばかりの俺たちなど、まだまだ子供みたいなものなのだろう。
……加えて今もなお言い争いを続ける二人は周囲に人が集まっていることにも気付かず、不毛な罵倒合戦を続けている。
「スティアーノの馬鹿ばーか」
「はあ? 馬鹿っていう方が馬鹿なんだが!?」
「私は士官学校時代スティアーノよりも成績優秀だったし! 馬鹿じゃないもん!」
「赤点取った回数は俺と一回しか変わらんくせに!」
「へへ〜一回もだし! テスト一回分の重さを知った方がいいんじゃないの? お・馬・鹿・さん♪」
「はぁ〜〜!? おいアル。この問題児を泣かせて良いか!? 剣でぶった斬ってやる!」
「へー上等だよ。まあ私は愛竜と一緒に戦うけど?」
「あ、おい! 騎竜に乗るのは反則だろ!」
「そんなルールはありませ〜んだ!」
本当に子供の喧嘩そのものである。
クスクスと周りから笑われているのが二人なのは理解しているが……そんな二人の友人であるこっちも恥ずかしくなってくる。
「二人とも、その辺でもう勘弁してくれ……」
しかし、嘆願の声は届くことなく……。
「そっちがその気なら、お前が士官学校時代にペトラの寝顔に落書きしてたの告発してやる!」
「へーそう。なら私はスティアーノがペトラちゃんのこと五年前から好ッ……もごごッ!?」
「こ、こいつは超えてはいけない一線を越えようとしている! その話を持ち出すのは一番反則だろ!」
「んぐごっ!」
スティアーノはミアの口を押さえ、ミアはスティアーノの髪の毛を両手で鷲掴みにするというなんとも間抜けな構図が出来上がってしまったのだった。
こちらは顔を手で覆い隠すしかない。
「うちの馬鹿二人が……本当に申し訳ない」
周囲に集まった兵たちは微笑ましい光景を見ているような和やかな雰囲気でいるが、こちらは生きた心地がしなかった。
その後、二人の喧嘩は通りかかった保護者こと、ペトラによって鎮圧。
両者はこっぴどく彼女に叱られ、痛み分けという結果に落ち着くのだった。
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