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39話『作戦開始』

 突然倒れ始めたゾンビが、また立ち上がる光景を、古沢達は隠れて見ていた。


「壮観だな」


 それはちょっとした皮肉を含んでいたが、それをやってのけた相手に嫌味を言おうという物ではなかった。


「作戦が進行している、各自事前のブリーフィング通り行動せよ!」


 指示を飛ばすと、それをまた数人の人間が自分の部下達に伝え、即座に行動を開始した。

 今まで敵対視していたゾンビの間に潜り込んでゆく。


「信用していただいて助かります」


 古沢の隣でそれを見ていた一桜は、古沢に頭を下げた。


「信用っていうか、俺の常識では計れない領域の話だからな、従う他なかったってのが現状だ」


 ゾンビの知識を持って帰った古沢の3人は、即座にここの前線を希望した。

 もちろん優遇されたというのもあるのだが、手探りで指示を出していた現場の人間に対して意見できるように、特例で2階級特進を受けることになった。


 ある程度の指揮権を行使し、ゾンビに対して攻勢を仕掛けた矢先に、一桜がやってきたという流れだ。


 彼女から語られる、ゾンビ以外の存在。

 異世界勇者パーティーの脅威の高さに、作戦を変更せざるを得なくなっていた。


「こういったことに慣れたクエス君の作戦でなければ、俺たちは異世界の化け物と戦う方法など思い付かないさ」


 古沢は苦笑しながらも、彼女を信頼しているのか、前線で指揮を執る古沢に、一桜は頼もしさすら感じる。


「ゾンビ先輩、各員配置完了しましたよ」


 そこに藤代が報告にやってきた。


「おい、先輩は止めろ!」


「ゾンビは良いんだ……」


「先輩は他の隊員にしめしがつかんだろ、せめて班長か隊長と呼べ」


「ゾンビは良いんだ……」


「報告は以上か? では引き続き滝隊員と敵新勢力の動向を注視するようにしてくれ」


 古沢は事務的にそういうと、藤代をシッシッと手で追い払った。


「あ、私も滝さんのところ見張ります」


 一桜も不貞腐れる藤代について行く。

 その背中に「作戦の成功を祈る」と一声掛けると、古沢はゾンビ溢れる戦場に視線を戻した。



「昨日から先輩さ、みんなにゾンビ隊長って呼ばれてるんだよね」

 自分の後ろを追いかけてくる一桜に、さっき不発だった話を振る藤代。


「先輩、一気に二階級上がったんだけど、それってだいたい職務中に死んじゃったりしたときに、特例で二階級上がる事があるんだよね」


 確かに海外のドラマなどで、警察官が亡くなったりするシーンでそういう言葉を聞いた気がするなぁと、一桜は思う程度だったが、藤代は可笑しくて堪らないという雰囲気で続きを話す。


「で、死んだのに命令してくるから、ゾンビみたいだっていう話になってるんだよね」


「っていうか、その話最初に言ったのって藤代さんでしょ?」


 昨日の今日で、そんな不遜な噂が広まる訳もない。

 上手いなぁとは思うけど、関係性からここが出所だと見抜いたのだろう。


「ちぇっ、バレたか」


 古沢さんも過剰に反応すれば面白がると思って、無視を決め込んだのだろうと予想できたが、言っても仕方がなさそうだったので愛想笑いで誤魔化していると、目的地である滝隊員の隠れている茂みに到着した。


「昨日ぶりです」


 すぐにみんなの安否が確認できた嬉しさもあったが、今生の別れをした翌日には顔を合わせるという気恥ずかしさもあった。

 しかし、滝はこちらを一瞥し、ゆっくりと頷いただけで、すぐに戦場を見据えた。


「クエスちゃんの魔法でゾンビはゆっくりと発電所へ向かっているみたい」


 変わりに藤代が現状を報告しはじめ、一桜がは少し顔色を明るくさせた。クエスの作戦通りに事が運んでいる第一段階に満足したように返す。


「きっと敵もこの状況に焦って居ると思いますし、何らかのアクションを起こす筈です、今はもう少しゾンビ達がこの場を移動してくれる事を願いましょう」


 その時、小規模ではあったが中腹で爆発が起きた。


「来た、早い!」


 瞬間、滝と一桜は草むらを飛び出し、走り出す。


「私も!」


 後を追おうとする藤代。


「藤代さんは隊長の所に報告してください、作戦が次の段階に移ります!」


 その言葉の最後を聞き取る頃には、藤代の足で追い付ける場所に二人は居なかった。


「うわぁ、人間離れしてるなぁこっちのメンバーも」


 自衛隊とはいえ、一般人である藤代は、自分の任された事を遂行するために、前線へと戻って行くのだった。




 ゾンビが続々と倒れる瞬間。

 彼らはよく知った魔力の波動を感じていた。


「クエスだ!」


 神官ミラックが、肺に溜まった憎悪を吐き捨てるかのように言葉にした。

 その意味は他の2人にも理解できる。


「やはり、騒ぎを起こせば収拾に訪れると思っていました」


 聖騎士ライザックが腰を上げながら言う。

 この山が魔法使いエリンの魔法の一撃で吹き飛んでいないのは、彼女を誘き寄せるためにわざと戦場を作っていたからだ。

 まんまとその罠に引っ掛かったという形だろう。


「でも、全部ゾンビとられちゃって、こっちに向かってきたら……殺しちゃって良いんだよね?」


 その最大火力であるエリンにとっては、ゾンビの大群が、自分に向けられているクエスの敵意そのものに見えているのだろうか。

 怯えながらも好戦的な発言をする。


「まだよ! あの真っ黒女が姿を見せないと……今度こそあいつの首を取って、自分の世界に帰るんだからね!」


 神官ミラックは、ここによく知った2人しか居ないからだろうか、表の顔を取り繕う気はないらしい。

 殺意の籠った視線を、どこかに隠れているであろうクエスに向けている。


「君の魔法で山ごと吹き飛ばせば話は早いのですが、それだと国王へ証明するものがありませんからね、まずは彼女の姿を確認するのが先ですよ」


 ライザックは剣士長ノズルと似た金属鎧を纏ってはいるが、こちらの方がより軽装に思える。あちらの世界ではこのまま乗馬し、槍を構えることもあったからかもしれない。

 話し方も丁寧な秀麗眉目の好青年に見えるが、その声色に暖かみを感じることはなかった。


「宣戦布告と行きましょうか……エリンさん」


 その言葉に、おずおずと辺りを見回しながら、彼女にとっては小さな魔力で森を焼いた。

 それはテニスコート一面程度の広さで一気に燃え上がると、一瞬で辺りを照らした。


「出てこいよ、クソ黒女!」


 地面に転がる岩に片足を乗せながら、悪態をつくミラックと共に勇者パーティの直接対決が幕を開けようとして居た。

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