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33話『作戦会議』

 さすがに光ひとつ無い中を行軍するのは危険だ。

 懐中電灯などはあるが、これだけ暗いと目立ってしまい、ゾンビの格好の的になってしまうだろう。

 仕方なく彼らは固まり、朝の光が射すのを待った。


「集合地点まではもう2時間程度だが……」

 暗闇のなか古沢が切り出す。

 ただ震えて待つのは時間の無駄だ。


 テントは無かったので、藤代と滝を除いた3人はくっつくほどに頭を寄せ合い、上から自衛隊用の毛布を被せられた。

 真ん中に地図を置き、懐中電灯で照らしながら今後の方針を決めるのだ。


 このやり方はゲリラ戦等を行う際に、敵に明かりが見えないようにしながらも、現在地などの正確な把握や、方針を話し合う方法だ。


「集合場所には私たちは行かないのだ、姿を見せれば保護されるのがオチなのだ」


 クエスの言い分はもっともだ。

 他の自衛隊からすれば、か弱い一般市民にしか見えないだろう。特にクエスに至っては小学生高学年と間違えられてもおかしくない。


「私達だけはそこに行こうと思う、もちろんその後の君達への支援は確約できないが……」


「この停電はどういう事なんでしょう?」

 一桜も話に積極的に参加する。


「街のライフラインに関しては、自衛隊や警察が守っていた筈なんだが……送電線がやられた可能性もある」


 もし直接攻められていたら、同胞が守る施設が落ちたという事になる。古沢にとっては考えたくないシチュエーションだろう。

 

「電気という技術はトランドールには無かったものだ、送電線を狙う発想はないのだ」


「じゃぁどうして発電所を狙ったの?」


「きっと、あいつの考えは単純なのだ。破壊と蹂躙。そのために、兵士が多い施設を襲ったのだろうな」


 クエスの考えでは、それが運悪く発電施設だったということなのだ。


「クソッ、では全滅と言うことか!」


 声は抑えていたが、怒りを抑えきれないように古沢が口に出す。


「事はそう簡単ではないかもしれないのだ」


 しかし、怒りよりも焦りを感じている声色でクエスが言うものだから、一桜は怖くなってしまった。


「どういう事?」


「夜に弱いゾンビを使って、武器を持つ自衛隊に勝てるわけがない。それなのに発電所は落ちたのだぞ?」


 その言葉の意味を古沢が理解した頃には、クエスと同じく怒りよりも焦りを感じていた。


「もしかしたら、一桜君のお父さんと同じような個体が数人……もしくは、他の方法で施設を制圧したと言うことか」


「それだけではない、あそこには訓練された兵士が多数いたのだろう? その死体はどうなっていると思う」


 敵の領地の拡大は、そのまま敵の戦力の拡大だ。

 しかもライフラインのひとつが落とされたことで、人類側は更に苦境に立たされたと言える。

 今まで避難していた者達も、電気の通っている場所まで移動せざるおえないだろうし、そうして前線を下げることは、敵にとって敵地を拡大させるに等しい。


「それにだ、スケルトンの身体能力は、生前の体の持ち主の能力に依存する。剣を持って戦う者は、スケルトンでも剣を振ることがある」


「だったら、自衛隊は自衛隊の強さのままこっちに向かってくるってこと?」


 青ざめて言う一桜にクエスは返す。


「通常なら骨の状態で掛ける魔法だ、肉が付いていればそれだけ動きは鈍くなるとは思うが……」


「だが、ゆっくりしていれば体は腐り落ち、本来の彼らの動きを始めるのではないのか?」


 敵戦力の拡大も、強化も、古沢は出来るだけさせたくない。そのためにはもちろん出来るだけ早い対応が必要なのだと改めて感じる。


「銃を使うゾンビも出てくるってこと?」

 一桜の懸念は全くその通り、自衛隊がゾンビに優勢だったのは、武器があるからだ。それが相手にも渡ってしまえば、もうなす術がないのではないかとさえ思う。


「銃を撃つ個体は現れるかわからん、見たところ複雑な手順が必要そうなのだ。古沢達の動きを見るに、引き金を引くくらいなら可能だろうが、安全装置をはずす、手入れをする、弾を装填する等の細かい作業は出来ないのだ」


 ホッと安堵する二人。

 しかし、状況が好転する程の情報ではない。

 彼らがゾンビになることが脅威であることは確かなのだ。


「そのノーライフキングってのも、スケルトンなんでしょ?」


 一桜が疑問を投げ掛ける。


「そうだろう、彼はきっと英雄と言われるほどの実力の持ち主だった筈なのだ。自我を持つ程に強い魔力で作られておるところを見ると、魔神が直々に殺してスケルトンにしたのだろうな、可愛そうな事なのだ」


 その犠牲者が誰かを知っていれば、その実力をおもんばかる事も出来たのだろうが、英雄と呼ばれる程の実力の持ち主に、ネクロマンサーの秘術を使う者を知らなかった。

 もし、あれがクエスの時代に作られたものでないなら、実際に戦うまで慢心することは出来ないだろうが……クエスは敢えて自信げに口を開いた。


「しかし、こちらには水晶がある。以前の杖よりも格段に質が良い。単純なゾンビ退治であれば私一人でも可能かもしれんのだ」


 クエスのそのはっきりとした口調に、少し胸が軽くなる二人。

 その顔を見てクエスもニヤリと不敵に笑って見せた。


「自衛隊は、合流地点に行って欲しいのだ。重要拠点が落ちたことで、きっと加勢に行く話をしている筈なのだ。私達は直接発電所とやらに行ってみるとする」


「危険じゃないのか?」


「危険は承知なのだ。強いものを蹂躙するための戦場に、ノーライフキングが留守な訳がないのだ」



 確かに、今居るとすればそこだろう。

 きっと自衛隊が増援、もしくは奪還を企てるのを、見越して待ち構えて居るに違いない。


「むしろ、自衛隊の方が危険なのだ、古沢達は一人でも多くの兵士に、敵の情報を伝えた方がいいのだ」


 古沢は頷き、懐中電灯の明かりを消した。

 毛布を剥いで、暗闇に目を慣らす。

 夜明けまでは2時間と言ったところだろうか。


 少しの間だが、別行動を取る二人は、それぞれに検討を約束すると、支度を始めた。


 山の輪郭がうっすら色づき始めた頃。

 朝露を蹴散らしながら、足早に移動を開始する。


 待つは決戦の舞台か、それとも死地か……

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