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14話『推測と希望』

 クエスはようやくこの不可解なゾンビについてひとつの仮説をたてることが出来た。


 結論。これはゾンビではない!


 ゾンビの魔法は水属性、体液に入り込んだ呪いが全身に回ることで発症する病気のようなものだ。


 脳の中枢を残して、本能以外の思考を死滅させてしまう。


 もちろん記憶が残ることなどない。


 万が一復活をさせたとしても、死滅させられた脳が回復することは考えられない。


 だとしたらこれは完全に別物だろう。



 クエスの脳裏には、あるひとつのネクロマンサーの秘術があった。


 それは新鮮な死体などがない戦場で、もっと古い死体を使うための術。


 つまり『スケルトン』を作り出す魔法だ。



 スケルトンの魔法は土属性の魔法に分類され、骨を呪いで動かせる。

 ゾンビと違い簡単な命令であれば遂行することが出来る。




「────つまり、あれはゾンビではなく、肉の付いたスケルトンだ」


 一連の説明から、情報を共有した5人はその事実を反芻(はんすう)していく。


「だったらその辺のゾンビの魔法をクエスちゃんが解いて回れば、みんな生き返るんじゃ……」


「賞味期限残てないゾンビは無理なのではないですカ?」


「生き返りはしないだろうな。きっと噛まれた傷からの出血やショック死で既に死体になっているものは、骨の呪いを解除しても戻っては来ない、そこの女は運が良かったのだ」


「生き返らせる魔法はないの?」


「バカを言うな、そんな便利な魔法があるはずないのだ!」


「クエス君の力でどんどん浄化していくというのは無理なのか? その人は救えなくても、新たな被害を押さえることはできるだろ?」


「それも難しいのだ。私の魔法は本来魔法の杖を媒介として増幅させて使うものだ、10倍近い魔力を消費している今の状況では、一気に10体程度相手にするのが限界なのだ」


「あまり、無理はさせれないようだね」


「私に出来ることはやる、だが、あまりあてにされても期待に添えるとは限らんのだ」


「スケルトンの感染はどうやって起こってるんですか?」


「それも今はわからん、中村という医者紛いも、そこの女も噛まれているのに、中村は感染しなかった。そこに差があると思うのだが……これはやつのオリジナルの呪いなのだ」


「ゾビンと同じで脳を潰せば死ぬですカ?」


「いや、骨に呪いが掛かっているのだ、脳は弱点じゃないのだ」


 一桜が通訳になりながら、新たな情報と憶測で、ある程度の状況が掴めてきた。

 しかし、感染経路も弱点もわからないでいる現状に、皆少し疲弊してきてもいた。


「とにかく、一旦避難場所に戻りましょう」


 現状を見かねて一桜がそう提案すると、皆素直に従い立ち上がった。


「あ痛てっ」

 玄関に向かう芦原が何かにつまづく。

 ビールの空き缶だ。


 豊田は改めて部屋の惨状を思い出して赤面した。

 もとはといえば、芦原をこの部屋に入れまいと、不用意に玄関を飛び出したのが原因だった。


「あ、あの、散らかってて、見苦しいものを……」


 しどろもどろになりながら、消え入るような声で弁明をしようとするが。


「ゾンビが襲ってきたんだろ? 綺麗な部屋が台無しだね」


 芦原は彼女が噛まれたのが玄関を出たところだとは知らなかったので、きっと部屋に入ってきたゾンビと揉み合っているうちに、部屋が散らかったのだろうと勘違いしてくれたようだ。


「そ、そうなんです、落ち着いたら片付けに来なきゃあははー」


 豊田は難を逃れたと安心して帰路に着くことが出来たが。

 芦原以外のメンバーは呆れた顔をしていた。




 来る際に道を確保するため、あらかた近くのゾンビは制圧していたので、帰りはスムーズだ。


 新しい個体がいても、もう隠す必要のないクエスの魔法と、一桜のコンビネーションで、危なげなく進むことが出来る。



 そうそう。

 ゾンビはゾンビではなかったのだが、定義上「ゾンビ」と呼ぶ事になった。

 その方がこの、事実を知らない者とも話が通じるからだ。



 車に乗ると、あっという間にボーリング場に着いた。


 その音に引きよせられたゾンビも、駐車場の入り口で無力化され、柵は閉じられた。


「魔法とは凄いものだな」

 感心する芦原に対して、多少の疲労が見えるクエス。


「でも、無理をさせると肝心な時に魔力切れを起こす可能性があるらしいです」


 一桜がそう伝えると。


「秘密兵器と言うことか」


 共通認識として。

 このメンバー以外は、クエスの魔法を知られてはいけない。


 仲間を助けてもらった恩義から、芦原達は彼女を憎む気持ちは芽生えなかったが、知る人数が増えれば危険も増える。


 出来るだけ魔法は使わない。

 そうクエスも釘を刺されたのだ。


「大丈夫だよ、クエスちゃんは私が守って見せるから!」


 とびきりの笑顔で一桜が宣言する。


 それは口だけではない、実力もそうだが、心からそう思っていると感じられた。



 かくして豊田救出は無事完遂された。



 ボーリング場に戻ると、歓喜と共に迎え入れられたが、そもそものテンションがおかしかった。


「何かあったのか?」


 留守を任されていた野田は、今にも泣きそうな顔をしながらこういった。


「緊急避難掲示板に、自衛隊から返信がありました、明後日救助に来るそうです!」


 豊田が帰ってきて、全てのメンバーにそれが伝わったのを実感すると、嬉しさから野田は号泣をはじめた。


「どうしたのだ、この浮かれっぷりは」


「なんか救助が決まったんだって」


「ほう、それでこの状況か」


 興味なさげに、部屋に戻るクエス。


「あっちょっと待ってよ!」


 一桜もあとに続いた。



 そんなことはお構いなしに、テンションが上がる避難民達。


「みんな良く頑張ってくれましたね、嬉しいことに誰一人被害もなく、無事に安全な場所へと移動することが出来そうです」


 芦原はみんなに感謝と、喜びの声を伝えた。


「こうなるとわかってた訳じゃないんですが……」


 勿体振りながら、今日コンビニで手に入れてきた戦利品をリュックから取り出すと、それはお酒だった。


 フロア全体が一段高い歓喜の声に包まれる。



 実際には誰も口にしなかったが、恐怖、緊張、不安……押し潰されそうな感情でこの数日を過ごしてきたのだろう。

 そのタガが外れても誰も文句は言えないはずだ。


「飲なめい方にハ、ジュースもあまりすヨ」


 ハオランも笑顔で戦利品を掲げて見せる。


 実際には50人分以上必要だ。

 みんなで飲めば一杯程度かもしれないが……



 彼らにとっては一時の、安らぐ時間になったのは言うまでもなかった。


 ここで第二章が終わり、第三章に入ります。


 第三章では自衛隊を巻き込み、一桜因縁の対決へと運命が回り始めます。

 果たして、一桜は勝つことができるのか!?


 一桜に頑張って欲しい方は、下方の☆を黒く染めて頂けると励みになります!

 現在毎日更新しておりますので、ブックマークして頂ければ、続きから読めますのでご利用ください☆

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