13話『告白と回復』
魔法が使える見た目が小学生の女子を囲んで、真剣な眼差しのアラサー男性が二人。
しかし、まっすぐにそれを受け、なお負けない気迫を放つクエス。
その板挟みになっている通訳の一桜だけが、あわあわと所在なさげにしている構図。
「本当はあの時で、詮索はよそうと思ってたんだが」
芦原は自室での質問の答えに納得したわけじゃなかったが、こんなご時世、隠し事のひとつやふたつはあって当然だと、寛容に受け止めていた。
しかし、完全に人智を離れた力に対して、ゾンビと同じものを感じても仕方がないことだった。
だから、あの質問をもう一度言った。
「クエスちゃん、君は何者なんだい?」
だがその言葉に咎めるような響きは一切ない。その力で一人の命が助かったのだから。
本来感謝してもしきれない程の気持ちが生まれていた。
クエスのほうも、前と同じ状況では無いことくらいわかっている。
最悪のパターンを想定するなら、口封じにこの二人をゾンビに変えてしまえば済むことだった。
しかしそれでは、一桜まで殺さなければならない。
もし、彼女一人を残しても、もう二度とあの笑顔を自分に向けてはくれないだろう……それだけは避けたかった。
クエスはもう残された道をただ進んでみると決意をした。
「私は、異世界から来た、ネクロマンサーだ」
その言葉を理解したのは一桜だけ。
真っ白になってしまった自分の頭で、打開策を考える事はできなかった。
クエスがどういう方針なのかを待っている状態だったが。
「いいの? 話しちゃって」
「いい、伝えるのだ」
一桜はクエスの言葉を代弁し、ゾンビとは少なからず因縁があること、それに対する方法を模索している途中だということ、ある程度の魔法でゾンビに対抗しうることを話した。
男性二人は寝物語を聞くように、現実感のない話を熱心に聞いた。
「────と言うわけで、信じられないと思いますけど……」
「信じられないな……と言いたいところだが、ゾンビだって信じてなかったが、実際に出てきてしまった。魔法もこの目で見ちまった。信じるしかないだろう」
頭を抱えながら、下を向く芦原。
きっと頭でわかった上でいまは心を納得させているのだろう。
「何で豊田さん生てきるですカ?」
ハオランはゾンビになったはずの豊田が、回復したことを疑問に思っているようだ。
「たぶん、ゾンビになり立てだったというのが理由なんだと思うが、細かいことはまだわからん」
クエスが訳すと、ハオランは納得した顔でいう。
「豊田さん、賞味期限切れてなかったからネ切れてたら戻ってこれなかたっかもネ」
「ううっ、私はまだ賞味期限切れじゃなーい! 婚期は逃してな……い?」
呻き声を上げながら、勢いよく豊田が飛び起きた。
「豊田さん!」
「豊田君!」
芦原は顔を上げ立ち上がると、そのまま豊田に抱きついた。
「ちょっ、と、店長、店……」
真っ赤になって暴れるが、芦原は強い力で抱き締める。
ようやく豊田を解放すると。
「よく戻ってきてくれたな、ありがとう」
とそれだけを伝えて椅子に戻っていった。
豊田の方はというと、突然のハグにパニック状態になっており、俯いたまま何も発さなかったが。
「指は痛まないか?」
という、芦原の発言にハッとすると、先ほど一桜が巻いた包帯をくるくるとはずし始めた。
「あ、まだとっちゃ駄目、指……」
包帯から現れた豊田の手にあ然となる一桜。
「おぅ、完全に戻てっますネ」
ハオランの言う通り、豊田の手には噛まれた傷が無かった。
「傷が出来てすぐだった事、噛みちぎられて無かったこと、あと若かったからな。うまく治ってよかったのだ」
クエスの言葉を一桜が伝えると、一同安心して椅子に深く腰かけた。
「私、ゾンビに襲われて……でもあれは夢だったのかな?」
手に怪我をしたことを思い出した豊田は、連鎖的にゾンビに襲われた記憶も甦ってきた様子だ。
「豊田君、それは夢じゃないよ」
怖がらせないように慎重に芦原がそう伝えたが。
「……じゃぁ、私が店長に噛みつこうとしたのも……夢じゃないの?」
みるみる豊田の目に涙がうかぶ。
そして泣きはじめてしまった。
男達はどう接していいかわからずおどおどするばかり、一桜が寄り添ってその背中を撫でている。
そしてクエスは苛立ちはじめていた。
クエスはこういった女が嫌いだった。
男受けする服を着て、感情の抑制が効かない女。
実際、昨日の晩も自分勝手に行動し、芦原を道連れに死ぬところだったし。今回もこれだけの人数の手を煩わせている。
まるで、自分を封じた腹黒女の神官ミラックのようだと感じ、さらにイライラしていた。
「この女は何故泣いているのだ」
無為に過ぎる時間に、当たるように一桜に訪ねる。
「自分が芦原さんを襲ってしまったことを悔いている、かな」
それを聞いたクエスは、いままでのイライラが吹っ飛ぶほど驚いた。
泣いている豊田に詰めより、肩を掴むと前後に振り回しながら叫んだ。
「ゾンビになっている間の記憶があるだと!? 詳しく話すのだ女!」
もちろん、異世界語が通じるわけもなく、目をぱちくりしながら混乱する豊田。
「まぁまぁまぁ」
なんとか一桜が間に割り込みそれを制する。
あまりの事に、豊田も涙が止まったらしい。
一呼吸おいて、今のクエスの言葉を一桜が訳して聞かせる。
「記憶……ですか? 残念だけどあります……」
豊田はゾンビに噛まれた事、その後体が麻痺したように動かなくなってしまったこと。
そして、自分の意思とは関係なく体が動き、芦原に噛みつこうとした事、それを一桜に木刀で阻止された事まで、鮮明に覚えていたのだ。
「ゾンビになったものが記憶を有することはあり得ない……つまり生きたままゾンビになったということか」
ぶつぶつと呪文のように繰り返すクエスは独特のオーラを出していて、そこに質問で切り込むものはいなかった。
「そうか、ようやく正体がわかったのだ!」
それが、この世界でのゾンビとの戦いに際して、大事な閃きだったのは言うまでもなかった。




