ネルト視点・2
最終話です。
あとがきを修正しました。(7/13・6:50)
「もう少し我儘になっても良かろうよ」
「ありがとうございます、ネルト前王弟殿下。ですが、全て私の我儘ですわ。私はサーベル殿下の婚約者に選出される前から国のための教育を受けて参りました。此度の一件、友好国を含めた他国の耳にも入っておりましょう。となれば、友好ではない国に付け入られる隙にも成りかねません。付け入られないために、今の状況から最善を尽くすのみですわ」
「だから男爵家を潰さずに助けるのか」
「……はい。此処であの男爵家2家を潰してしまえば、あの領地の領民が危ないですわ。何しろあの2家の領地は海に面していますから一見すると安全ですが、海の向こうは我が国とは友好を築いていない国。今回の件で男爵家2家を潰した混乱に乗じて、あの国が海路から争いを仕掛けてくれば忽ちあの領地が蹂躙される事でしょう。隙を見せないためにも、お父様には我慢して頂きます」
「……済まぬ」
甥が頭を下げる事はしないものの謝罪を口にする。メルフィー嬢は、目を丸くして首を振った。
「陛下、臣下に謝ってはなりませんわ。私とて王家の血を引く娘。国と王家と民のために、と育ちましたのよ?」
「そう、だな。感謝する」
「光栄にございます」
「我が国は小国ではないが大国でもない。このような事で他国に付け入る隙を与えるわけにはいかぬ」
「はい、陛下。臣下の務めを全う出来ず、お側を辞す事をお許し下さい」
「そなたは良くやった。サーベルがどうするかはサーベルの判断に委ねる。余はまだまだ働ける。サーベルから第二王子に王太子が替わっても問題ないくらいには働くから心配するな」
「御意」
「他に何か有るか?」
「……では、もう一つだけ。サーベル様にどうか、お幸せに、と」
「そなたは本当に……サーベルには勿体ない娘であったよ」
「いいえ。私はサーベル様の婚約者で幸せでしたわ。陛下、縁を結んで下さりありがとうございました」
「……済まなかった」
それを機にワシは陛下の執務室を退き、甥と可愛い生徒は、彼女が迎える最期の部屋へと足を向けた。その部屋は国の為に死にいく者に、陛下の恩情により使用される。陛下直々に栄誉の杯として死をお与えになる。
それしか、相手に報えない時にのみ使われる部屋。
彼女が生きたい、と願うならば。
どれだけ後ろ指さされることになろうとも、ワシが全力で守るつもりだった。
彼女はワシのその気持ちも解っていた上で、「疲れた」と笑った。ならばワシが出来る事はもう無い。穏やかに最期のひとときを迎えられるよう、願うだけ。
「叔父上」
「うむ」
「穏やかに微笑んで、逝きました」
「そうか」
サーベル、ゾネス、ブルトン、ゴレット、デイル、そしてウィリティナよ。お前達がどんな風に生きるにしても、彼女の死を忘れる事は、陛下だけでなくワシも許さぬよ。
それはきっと、彼女の悪口を言わなかった、彼女を心から尊敬していた者達全てが、そう思うだろう。
およそ2週間後、彼女が突然の病でこの世を去った事を彼女の父が公表した。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
そろそろ別新作を執筆したい、と思いつつエブリスタで書いていたのをこちらでも公開しました。エブリスタでも新作を執筆予定ですが、こちらでも新作を執筆予定です。あくまでも予定。
色々とメルフィーのハッピーエンドも考えてみたのですが、どうしてもハッピーエンドにならず、結果当初の予定通り悲恋エンドです。




