表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蜂木トケンのファンタジー〜暴食〜  作者: 蜂木トケン
第一章 それを突き動かすは、衝動 
21/25

門番と訪ね人


 貴族街の跳ね橋を突っ切った。

 背中を追う男の声と、町ゆく人々の好奇の視線を振り切り、学園を目指してひた走る。

 砦のような正門が見えた。

 門番の姿は、ない。これは好機だ。魔力を両足に流して、俺、突貫す――


「はい、止まってー規則を守らない悪い子は、お姉さんがイタ――オシオキしちゃうぞ?」


 門を抜け一歩踏み出した、と思った瞬間。視界が包まれ、甘い振動の中、頭を軸に振り回される。

 宙を蹴る足が地面に着けば、事態を把握していた思考が、空気を求め、肉壁の中で暴れる。


「――ぁ。ライさん放してッオっぼくっ、急いでいるんだ!」

「ダーメ。潤んだ瞳も、垣間見える素の口調も大変素晴らしいけど、ダメなものはダメ。お姉さんの仕事、分かってるでしょう? 今のヴァシルちゃんみたいなヒトは、余計に。全身、くまなく、ちゃぁんと調べないといけないの。分かった?」

「――ッ」


 紫紺の瞳に見据えられて、唇を噛む。逃れる術はないと諦めれば、自然と身体から力が抜けた。

 その様を見て、ライさんの眼が弓を引いた後に、怪訝な色を浮かべた。


「ヴァシルちゃん、お堀の詰め所はちゃんと通った?」


 唐突な疑問に応える前に、答えが二つ、背後から派手な金属音を鳴らして駆けてきた。


「すばしっこいガキめ、やっと追いついたぞ! なんで無理矢理押しとおったか、ひっ捕らえて泣き喚くまで折檻――おっと、ご婦人。捕縛の協力感謝いたしまッ――」

「うちのお客に何の用かしら、兵隊さん?」

「「コンビィアス従士長!?」」


 話の内容が分からず、ライさんを見上げる。彼女は両目を細めて、唇を引き締めた。


「話は大方察しが付くわ。この子は問題ありません、私がそれを知っている」

「ですが……」

「私が、問題ないと言っているの。理解出来ないのかしら?」

「「は、ハッ!」」

「復唱。あなたたちは何も見てない。詰め所はいつも通り、何の問題も起きていない」

「「復唱いたしますッ私達は何も見ておらず、詰め所は通常通り、業務に異常はありません!」」

「……よろしい。戻りなさい」

「「失礼いたします!」」


 金属が擦れる音が遠ざかり、ライさんの胸元から解放される。

 大きく息をする俺を舐めるように見ていた彼女と視線を合わせ、転がり込んできた手がかりを手繰りよせて、言う。


「僕には何の問題もないんですよね。ここを通してくれませんか?」


 ライさんは俺の言葉を聞いて、瞳をキョトンと瞬かせると、それを妖艶に歪めて、唇を波打たせた。


「それとこれとは、話が別。はい、まっすぐ立ってー。今から身体検査をしますよー」


 反抗は無駄だと悟り、こめていた肩の力を抜く。

 魔力を帯びた彼女の手が、身体の各所を触れていく中、ふと思い浮かんだ疑問が口をついた。


「ライさんは騎士団のヒトなんですか?」

「元、ね……」


 無遠慮だった両手が戸惑ったように止まる。彼女の反応が、好奇心に点いた火へ拍車をかけた。

 なぜ、そんな顔をするんだ……話したくないのか? どうして? 元騎士団の従士長が門番をしているのは、そんなにおかしなことか? いや、そんなことじゃないはず。ライさんが言いたくないのは、きっと――


「なんで門番に? 騎士団のほうがお給料もいいし、なにかと便利ですよね?」

「ど、どうしたのヴァシルちゃん? 突然、そんなこと――」

「なんでですか?」


 同じ高さまで下ろされていた瞳が答えを求めるように、揃って左へ泳ぐ。暫しの間、ぎこちなく動いていた彼女の両目は、何かを見つけて一つ震えると、伏せられていた瞼が跳ね上がった。


「――そ、そうよ。引き抜かれたの。お姉さん強いから、そこに目を付けられて……そういういうことなの」

「強い?」

「強い。ものっっっすっごく。どんな相手でも一発なんだから!」


 ライさんが満足げに力こぶを作る。それとともに胸元のボタンが上下に大きく揺れた。

 話を逸らされた。聞きたいことはそういうことじゃない。


「誰に? 学園長に引き抜かれたんですか?」

「む……」


 彼女の顔が途端に曇った。

 誰にでも他人に聞かれたくないことが一つや二つある。

 だが、今はそんなことを気にすることが出来るほど冷静ではない。

 そもそも急ぐ俺を邪魔するライさんが悪――


「――おふぅっ!?」


 股下から脳天にかけて未だ感じたことのない痛みが突き抜けた。

 見開いた右目に俺の股座を掴むライさんの、嗜虐的な笑みが映る。


「ら、い?」

「ダメじゃないヴァシルちゃーん? 女性に意地悪するのは。お姉さん感心しないなー」


 強弱をつけて動く温もりに、太腿だけではなく、全身が戦慄く。

 俺の声にならない声を聴いた彼女は、頬を更に吊り上げた。


「んー? こういう時はなんて言うのかなー?」

「う、あ、ご――ごめ、なさ」 

「はい、よくできました」


 ライさんが晴れ渡る空のような笑顔を見せる。

 痛みから解放された俺は、立っていることが出来ず、その場に膝をついた。


「それで、急いでいたんじゃないの? ヴァシルちゃん?」


 ライさんがそれを言うの? そう口にしないまでも、ついつい眉間に力が入ってしまう。

 彼女はあくまでも知らぬ風を貫くようで、俺の咎める視線を受けてもなお、不思議そうに小首を傾げている。


「そもそも訪問の理由すら聞いてなかったや。今日はどうしたの、お姉さんに教えて?」

「……アイリが、忘れ物をしたんです。それを届けに来……ました」


 言葉とともに差し出された手を掴む。助けを施されたにも関わらず、すぐに立つことが出来なかった。

 震える両足が言うことを聞かない。

 見るに見かねたライさんに抱き上げられ、ようやく地に足をつける。

 親指で地面を掴むようにしないと立っていることもままならない。

 これでいいかと見上げると、彼女は何か言いたげな顔をしていた。


「……確か、今は二限。紋章学を受けてるのは…………」

「……ライさん?」

「ん? あ、あぁ気にしないで、ちょっと考えごとしてただけだから」

「はぁ……」


 どうぞ、と道を開けられ、学び舎に向けて一歩を踏み出す。

 アイリは講義中みたいだから、どこかで時間を潰さないといけない。

 勢い殺されて、もはや急ぐ気力も湧いてこなかった。

 内股気味に一歩一歩地面を踏みしめていると、背中から声がかかる。


「ヴァシルちゃーん。真っ直ぐ研究室に行くのよー! 寄り道はいけないからねー迷子になったらお姉さんを呼んでーすぐに駆け付けるからぁ!」


 振り向かずに右手だけを上げて応える。

 いつまでたっても、子ども扱いを止めてくれない女性は、お姉さんとの約束よー、と更に言葉を続けた。

 もう数えて15になるのにな……早く、ワンやトゥーヤのように大きくなりたいよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ