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パターン3(先輩ルート)

 手放したはずの怪しいハンカチが再び目の前に現れる。これを悲劇と言わず何と呼ぼう、怪談かいだんだ!


ゾッとした私、ソフィー=スカーレットは職員室に向かっていた。ちなみに今は放課後、日頃一緒の幼馴染は不在のため。もちろん全力疾走だ。自分の身は自分で守らねば。夕焼け色の髪を振り乱し、走る。廊下は走っちゃいけません、とか今はどーでもいい。私はあの忌まわしきハンカチから逃げるんじゃ。


たどり着いた先には、かなりの数の学生がいる。これはもしや、先輩方、進路相談中?とりあえず、ここなら人の目があるし、いかに私の”キスしたら能力が上がる”なんて馬鹿馬鹿しい力を知っていても、襲ってこないだろう。


ちょうど、扉が開いて見知った先輩が出てきた。

「ラダン先輩!」

呼びかける。彼は短い黒髪をガリガリ掻きながら、黒い瞳はどこか遠いところを見ているようだった。

「ソフィーか」

浮かない顔をカラッと切り替えて応対してくれる。こうゆうあたり先輩ってすごいなって思う。


「どうかしたんですか?」

「あー、お前と俺の専攻似てたよな。実は研究室にこもって卒業研究をしてたんだが、俺の魔力供給量じゃ、このままだと打ち止めになるって言われたんだ」


 先輩は黒持ちだ。精霊に祝福されることで、髪や瞳の色が決まると言われているこの世界で、黒い色素を持つ人は一般的に、体内の魔力含有量が少ない。一説には精霊に均等に好かれ、すべての属性の魔力を一度に授かってしまったからだとも言われる。


先輩は、その器用貧乏オールラウンダーを生かして、魔道具の研究をしていた。

「どんな研究なんですか?」

「俺みたいな黒持ちにしかできない研究だ。俺の器用貧乏を生かして、小さな魔法なら魔力を扱えない人にも使えるようにする」


「今は魔石が主流だろう?」

私は頷く。魔石は魔術師が属性の力を込めたもので、一般家庭に普及してはいるものの、高値で取引されている。

「魔石は高価だし、消耗品だ。だが、俺は目立った属性があるにせよ、ないにせよ、全ての人はわずかながら、全属性の精霊の加護を受けていると仮定した」


「そして、その潜在的な力を高めることで、火を起こしたり、光を灯したり、日常に必要な魔法を使える魔道具を造ろうとした」

「夢があります!すごいです」


なんだそれ、めちゃめちゃすごい。世界の常識ひっくり返しちゃうくらいの研究じゃんか。


「でも……俺の属性魔法と付与魔法じゃ、だめだったんだ」

所詮、黒持ちは黒持ちさ。と続け、先輩は唇を噛んでいる。

ん?


「あの、よかったら私手伝いましょうか?」

思わず声をかけていた。

「ん?」

私は先輩の手を握る。

ぎょっとして身を引こうとするが、逃がさない。


「どうですか?何か感じませんか?」

「これは……魔力が高まってる?お前の力か?」


「放課後私の力をお貸します。その代わり、幼馴染の代わりに、私を家まで送って欲しいんです」

「そういやお前、狙われてるんだったか。手を握っただけでこれか。男どもがお前を襲おうとするのがわかる気がするよ」


「言っときますけど、キスはしませんよ?」

「わかってる。十分だ__ありがとう」

「お礼は、魔道具ができた時でいいですよ」



 それから、先輩と私の試行錯誤の日々が続いた。私は詳しい理論は全くわからないので、先輩の優秀な頭に任せて、ただ、力を送る。主に腕に手を添えて。


「毎日付き合わせて悪いな」

「先輩ちゃんと寝てますか?顔色悪いですよ?」

「……最近あんまり寝られないんだ。そんなにわかるほどクマでも出来てるか?」


ここ最近ずっと放課後一緒にいるせいか、先輩の些細ささいな変化がわかるようになった。嬉しいことがあった時、悔しがっている時、体調が良くないことも。


「少し休憩しましょう。背中貸しますから、寝ちゃってください」

私は、床に座るよう促すと、彼と背中合わせに膝を抱える。


「……ソフィー」

「なんです?」

「ありがとうな」


彼のあたたかな体温を感じる。しばらくすると、背中にかかる重みが増した。

「先輩、良い夢を」

すっかり眠りに落ちたことを確認して、小声で内緒話をするみたいに続ける。

「私、先輩に秘密ができちゃいました。今起きたら、キスしませんよっていったの撤回しますよ?」

でも__あなたはそれを喜ばないだろうから

「研究が成功したら、覚悟しておいて下さいね」



しばらくして、彼は目覚めるといきなり立ち上がった。

私が反応する前に魔道具に向かい、何やら複雑そうな術式を組んでいる。

そして、目をカッと開いて言った。

「ソフィー、成功だ!お前のおかげだ」

「おめでとうございます!」


手を握られぶんぶんと振られる。

「お前の背から暖かい魔力が流れてきていた。俺は魔力が尽きる恐怖におびえることなく夢の中で術式を組んでいたんだ。そうしたら最後の欠片ピースを見つけた」

__本当に、ありがとう。


「先輩。先輩の魔道具、どんなことができるか見せてもらえませんか?」

「ああ」


もう、日が落ちて、薄暗くなった研究室で先輩は手のひらに収まるくらいの丸い円柱形のものを構える。それにはスイッチがついていて__

カチッという音とともに、それに明かりが灯る。これは__

蝋燭キャンドル?」

「を、模したものだな。どうだ。期待外れだったか?」


私は首を振る。

「きれいです。すごく」


もう真っ暗になった室内に私と彼だけが照らし出されている。

まるで、この世に二人以外の人間が消えてしまったかのよう。


「先輩。私、この研究がうまく行ったら言おうと思ってたことがあるんです」

「ん?」

「ずっと、傍で一生懸命研究に取り組んでる姿を見て、私、先輩が好きになっちゃいました」

私は精一杯の勇気を振り絞って告白する。


「ソフィー。俺がなんでこの蝋燭キャンドルみたいな魔道具を選んで造ったか教えてやろうか」

てっきり告白の返事が来ると思って、バッサリ斬られる覚悟をしていた私は肩透かしをくらう。

「この蝋燭キャンドルの光、何かに似ていると思わないか?」

「何か?」

首をかしげる。

「この光、どんな感じがする?」

「暖かくて、包み込むような感じ、でしょうか」


「これは、お前の髪と瞳の色だ」

ヒュッと息を飲む。彼は何という爆弾を投下してくれるんだ。心臓がバクバクいって壊れてしまいそうだ。


「俺とお前の関係は利用し、利用されるというものでしかなかった。俺には打算しかなかったのに、毎日、お前はそれに付き合い、暖かい優しさで包んでくれた」


「告白の返事だったな。俺もお前が好きだ。愛している」


「お前に触れてもいいか?」

「私、先輩を好きになって、たとえ先輩が私の力しか興味なくても、キスしてもいいかなって思ってました」


「もしかしたら、私とキスしていたら先輩の研究はもっと早い段階で成功していたのかもしれません」

私はうつむく。なんだか騙していたみたいで嫌だったからだ。


「それでも、私はそんなことをしても、先輩は喜ばないんじゃないかって勝手に……」

「ああ。その通りだ。お前は俺のことをよくわかっているよ」

「自分を責める必要はない。……もう、黙って」

先輩の腕が私を囲い、そっと唇が降って来る。私は静かに目を閉じて受け入れた。

「ソフィー、俺の希望の光。これからも俺を照らしてくれるか?」

「共に歩んでくれるか?」


「はい」


私は、今ならこの忌まわしい、自分の触れた相手を強化する力を好きになれそうだった。

この力が誰かの、他ならない大好きな人の役に立っている。

こんなに幸せなことってない。


「私、今までより少し自分が好きになれそうです」

笑ってみせた。


彼は今後の世界を変える偉大な研究者になるかもしれない。

私は、それを支えてみせる。

この忌まわしくも、愛しい力で。


ハンカチを捨てますか?

○Yes /  No

図書室に入りますか?

 Yes / ○ No

どこに向かいますか?

 中庭 / 教室 / ○職員室


この作品はここまでとなります。

主人公が、守られる、力を封じる、力を受け入れる、の3パターンを書かせて頂きました。

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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