接近
5月に入っても尚、桜吹雪が止まない桜の木の下、僕は一人の女の子と対面していた。
「……」
彼女は緊張してるのか、険しい顔をしている。
淡い赤色の唇を締め、意を決してその唇を開く。
「……好きです。私と、付き合ってくださいっ」
桜吹雪が頬を染める彼女を祝うかのように舞った。
※
4月。進級して2年になり、それを祝福するかのように桜が散在する。
僕の席は安定の窓側の一番後ろ。
名字がわ行だからこれは仕方ない。
だけど季節の恩恵を受けることが出来るようで、内心嬉しい。
「では、HRはこれまで。次は転校生を紹介する」
待ってましたと言わんばかりにクラスがざわめく。
こういうのは大抵情報通の奴がリークするんだ。だから情報がクラスに浸透するのは時間の問題だ。
僕としては、あまり騒いでほしくないし然して興味もない。
僕は静寂が好きだから。
「入って来い」
クラスのみんなは気にして前扉を凝視しているが、僕は興味も湧かないので外の桜の花びらが散ってゆく様を見る。
そっちの方が風流だ。
――ざわ、ざわ……
扉の開く音がしたと思ったら今度はクラスの連中がざわめき出した。
これだからこういうイベント的なのはいやなんだ。
僕は外を眺めるのに厭きて机の上に突っ伏した。
1
少し頭がボーッとする中、顔上げたらそこには見知らぬ顔があった。
「……」
その顔は興味あり気に僕の顔を覗き込む。
寝惚け眼で見詰めるが、数秒して頬を赤らめ照れたように目を反らした。
意味がわからない。
「……?」
僕はもう一度突っ伏す。
馴れ合いが嫌いとかではないが、気安いのもなんとなくいやだ。
これまで自分から話掛けるのは頼まれ事などの用事がある時だけにして来た。
今年もまた、そんな風に過ごすことになるだろう。
「……ねえ」
……。
声がする。だが僕には関係ない。
「……ねぇったら。君っ」
うるさい……。僕の安眠を妨害するな。
「……起きてよ、君」
僕の耳にツンツンと響く声に耐え切れず、僕は顔を上げた。
「……僕の安眠を邪魔する不届き者は誰だよ」
そして僕が見たのは、
「……」
すっごくにこにこしてる数学教師の笑顔だった。
「私だが何か?」
「……なんだ、夢か」
僕は再度突っ伏す。
「いや夢じゃねぇよ。そんなに私の授業詰まらんのか、あぁっ?」
そして僕はドスの効いた声と共に課題の提供を余儀なくされた。
……神は我を見捨てたか。
2
「むぐむぐ。どう?終わりそう?」
昼休み。僕が僅かな精神をギリギリと削る目の前で、堂々と昼食を取る奴が一人。
「……」
「あれ、私もしかして……無視されてる?」
呑気に首を傾げる転校生。
「人聞きのわるい……。僕は真面目にしてるんだから、もう少し静かにしててくれ」
「あ、そっか。ごめんごめん。静かにしてるね」
「……」
最初からそうしてほしい。
心の中でごちりながら続きをする。
「……」
「……あ、トマト……残そう」
「……」
「ポテトは美味しいね。でも食べ過ぎ注意かな」
「…………」
「漬け物はなんでも美味しいよぉ」
ピキッ。
僕の堪忍袋はもう持たなかった。
「……いい加減にしてよ」
「お、この白菜やるね。……ん?どうしたの?」
頭の上にハテナマークを浮かべキョトンとする転校生。
「いい加減しろって言ってんだっ!」
「――っ」
僕は机を叩き立ち上がる。
そして静寂に包まれ、僕は道具を片付ける。
「……ど、どこ行くの?」
「もう僕に関わらないでくれ」
僕はそれだけ言い残し、教室を出た。
3
――コンコン
「はいはい。どうぞ~」
扉をノックをし、返事が来たので中に入る。
「失礼します」
「あら、桜君。私とあなたの仲じゃない。勝手知ったる学校の保健室よ♪」
「それでも礼儀は必要ですから」
僕は軽く笑い返し、テーブルのある空白スペースへ移る。
「相変わらず堅いのね。でもそこもあなたらしくてかわいいわよ」
先生は妖艶に微笑み、僕の前の席へと着く。
先生はちゃんと空気は読む人なので、放って置いても平気な人だ。
「あら、その量……またあの子が罰したのね。あとで言っといてあげましょうか?」
「いえ、大丈夫です。僕が寝てたのが原因ですから。ちゃんと全部やります」
「真面目ねぇ~。授業中に寝るのは仕方ないと思うけどね。桜君にもいろいろあるわけだし。それに、ちゃんとテストも合格ラインは越えるくらいには家庭学習してるわけでしょ?なら問題ないように思えるのだけど」
数学教師の江戸前先生とは幼なじみである先生は、江戸前先生のことをあの子と呼ぶことがある。その時は大抵姉貴分としての性格を出した時だ。
「ありがとうございます。先生」
「いいのよ。私はいつでも生徒の味方よ」
「はい。でもあまり贔屓はよくないかと。僕の“体質”が問題あっても、授業中に寝るのは原則ダメなんですから。それは江戸前先生が正しいです」
「でもこの量はひどくない?」
「ええ……まぁ」
そこは同意する。でもまぁ、僕も僕だ。誰の授業なのかも確認しないで寝た僕にも非がある。
いくら特異体質でも、ルールはルール、例外は認められない。
あくまで僕はそう思っている。
「今日はそれなりに調子よさそうね」
「……ええ、まぁ」
「もうすぐ授業ね。私は少し出るけど、体調わるくなったら、ベット使っていいから」
「ありがとうございます」
「うん。じゃね」
先生は手を降り出て行った。
静寂で落ち着ける環境が整い、僕は残りの課題の片付けを始めた。
数字の割り振りは文の分かれ目を分かりやすくする為のものです




